月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第147話 エピローグ

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ エミリー ◇◆◇

 

 カイトが魔族の軍勢だけを連れて、魔王国に向かってから三年。世界から争いが消えた。これが永遠でないことくらいは分かっているつもり。元の世界でも永遠の平和なんてものは実現していない。この先も、いつか誰かが、また争いを引き起こす。私の知識にある歴史は、それを証明している。
 それでも五年ほど続いた大戦が終わりを告げたことは喜ぶべきこと。この三年、ミネラウヴァ王国が平和で、復興に力を注げたことは、それ以前に喜ばしいことだった。
 この三年間、世界で起きた詳しいことは、私には分からない。聖女の称号を外され、ただの男爵家の令嬢になった私には、国の重要情報は届かなかった。カイトが、カイトを追って魔王国に向かったクリスティーナさん、パトリオットさんたちが何をしているのかも分からなかった。
 いきなり世界に独りぼっちで置き去りにされた気分。平和だけど、そんな寂しい三年間だった。
 その日々に驚くべき変化が訪れた。ミネラウヴァ王国とカンバリア魔王国は、正式に終戦。さらに不可侵条約が結ばれることになった。その交渉団に私も選ばれた。この意味を考えると期待してしまう。カイトに会えるかもしれないと。

 

「エミリーには、これまでのことを説明しておこう」

 

 交渉団の団長はウイリアム殿下。今やウイリアム王太子。王太子自らが交渉団の団長を務め、しかも魔王国に赴くことになっている。ミネラウヴァ王国にしてみれば、大幅な譲歩となるのか。良く陛下と宰相が受け入れたものだと思う。

 

「我が国とカンバリア魔王国の間では、この三年間も途絶えることなく、外交が続いていた」

 

 王太子殿下とは、退魔兵団の拠点だった場所で合流。今は交易所のようになっていた。実際に交易所だということは、王太子殿下が教えてくれた。そこで合流してすぐに私たち交渉団は魔王国との国境に向かっている。

 

「その前に、カンバリア魔王国の王、魔王は?」

 

 魔王は誰なのか。答えは分かっているけど、きちんと確かめたいと思った。

 

「ああ、分かっているだろうと思って。カイトだ……カイト王か」

 

「その呼び方、絶対に嫌がると思います」

 

 カイトが今も私が知るままのカイトであれば、「カイト王」なんて呼ばれ方は絶対に嫌がるはず。嫌がって欲しい。カイトと会えるのは楽しみだけど、三年という年月は不安も感じさせてしまう。魔王となったカイトは、以前のままの彼なのだろうか?

 

「私もそう思うけど、礼儀として最初はね。まあ、これは会った時の話だ」

 

「そうですね。続きを教えてください」

 

「軍勢と共に魔王国にカイトは向かった。そこで魔王国の都を攻めていたザイズ王国軍と交戦。総大将だったジークフリート王子を討ったところで、ザイズ王国軍は撤退に移ったのだけど、船を焼かれて、逃げられなくなった。そこで殲滅」

 

「殲滅……ですか」

 

 どれだけの数の軍勢が攻め入っていたのかは分からないけど、百や二百では済まないのは間違いないわ。カイトはそんな苛烈な戦い方が出来る。これは少しショックだった。

 

「ザイズ王国に二度と船を使った奇襲なんて考えさせない為だ。ザイズ王国は軍事大国だから、それくらいしないと諦めないだろうからね?」

 

「王子も討たれているから、ですか?」

 

「そう。実際にはその後、何度も魔王国とザイズ王国は戦っている。半分は魔王国から仕掛けたかな? ザイズ王国を徹底的に叩いて、魔王国に限らず、他国への侵略など考えられなくする為だ」

 

 おかげでミネラウヴァ王国は平和な三年間を過ごせた。ザイズ王国は魔王国との戦いだけで精一杯で、ミネラウヴァ王国に兵を向ける余裕なんてなかった。こういうことね。

 

「ただ、ザイズ王国が弱体化し過ぎると、他の国に野心が生まれる。そういう国を順番に叩いていたのが、この三年間。まあ、途中からは転生者探しが主だったと聞いている」

 

「……何人の転生者が見つかったのですか?」

 

 カイトは復讐を続けていた。何人の同級生が復讐の対象となったのか。カイトは悪くないと思っている。でも、やっぱり、胸が痛む。

 

「そこまでは聞いていないな。穏やかに暮らしたがっていた転生者は、魔王国に集めたらしいけど」

 

「殺さなかったのですか?」

 

「君は生きているよね?」

 

 王太子殿下の言う通りだわ。私は生きている。カイトにもっとも恨まれている一人の私が生かされていて、他の同級生が全員殺されているはずがない。

 

「戦いが終わり、カイトが言うところの、どこまで信用出来るか分からない不可侵条約を順番に結ぼうとしているところ。それで今回がある」

 

「ミネラウヴァ王国が最初ということですか?」

 

「そう。我々がどのような内容で条約を締結するかを他国は注目している。我が国が勝利したと勘違いしている国もあるから、こうしてこちらから交渉団を送ることになった。まあ、陛下は、魔王国の様子を調べてこいって言っていたけど」

 

 この三年間、カンバリア魔王国内で何が起きているのか、ミネラウヴァ王国も把握していないということ。カイトは伝えて良い情報だけを選んでいたに違いない。

 

「……なるほど。あれが噂の壁か」

 

「えっ……あ、あれって? 万里の長城じゃないですよね?」

 

 少し先に見えてきた壁。その壁は左右にどこまでも伸びている。長いだけでなく、ここから見ても、それなりの高さであることが分かる。もしかすると国境全てに、この壁を作っているのかもしれない。

 

「そのバンリのなんとかは分からないけど、国境には長大な壁が作られている。あれを見れば、馬鹿な好戦派も黙るかな?」

 

「魔王国と戦おうなんて人がいるのですか?」

 

「さっき言った、勘違いしている者は我が国にもいるってことだ」

 

 どうして人は愚かなのだろう。魔王国と戦って滅亡寸前まで行ったことをもう忘れている。しかも、その状況を救ったカイトたちは今は魔王国側にいるというのに。戦っても勝てるはずがない。この子供でも分かるようなことが、国の偉い人は何故か分からない。

 

「カイトがいるからというのもある」

 

「その人たちは馬鹿なのですか?」

 

「ようやく調子が戻ってきたかな? 馬鹿だね。でも完全に否定出来ない主張でもある。彼らは、カイトはミネラウヴァ王国の王子なのだから、魔王国を併合するべきだと言っている」

 

 誰が言っているのか知らないけど、きっとカイトと話したこともない人たち。カイトは自分がミネラウヴァ王国の王子だなんて認めない。捨てられたことを完全に許すことなんて、きっとない。カイトを知っていれば、分かることだわ。

 

「馬鹿なのは、自分たちが併合される側になることを考えていないこと。ちなみに交渉団の中にはその馬鹿、ではなく併合を主張する側の者が大勢いる」

 

「どうしてそんな人たちを交渉団に入れたのですか?」

 

「現実を知ってもらう為だ。君にはこれも教えておこう。今、王家の力は弱まっている。陛下は数々の失敗を犯した。その結果、ミネラウヴァ王国は亡国の危機に瀕した。こう主張する者たちがいる」

 

「それはイーサンとアントンが……私もですけど」

 

 確かに陛下は誤った決断を何度か下した。でもそれはイーサンが父親である宰相を騙していたから。アントン、そして私の前世での行いが恨みを買っていたから。陛下の責任ではないわ。

 

「決断したのは陛下だ。亡国の危機を招いたのも事実。言い訳は出来ない。ただ私は、それを権力争いに利用しようとする者たちを認めるつもりはない」

 

「……そうですね」

 

 復興は途上。地方はまだまだ戦争の傷跡が残っている。それを無視して、権力争いをしようなんて人たちは私も許せない。ただ、今の私には何の力もない。殿下を助ける力がない。

 

「魔王国がどうなっているかは私も知らない。でも、交渉団を国内に入れることを受け入れたということは、そういうことだと思っている」

 

「そういうこと、というのは?」

 

「二度と魔王国と戦おうなんて気は起こさせない。これはミネラウヴァ王国に対しても同じだということだ。残念ながらカイトには、ミネラウヴァ王国を優遇しようなんて気持ちはないと思う」

 

「……外交……カイトは王なのですね?」

 

 そんなことまで考えている。一国の王であれば当然のことかもしれないけど、同じ高校生だった彼が、この世界でも政治とは関わりのない世界で生きていた彼が、王としての仕事をしているのは、少し不思議。

 

「さあ、いよいよ、その国内だ」

 

 いつの間にか長城の壁が目の前に迫っていた。高い壁、これを三年でどうやって作ったのだろう? こんなことを考えていると、壁の扉が開いた。ゆっくりと動く扉。途中でその厚さが見えた。私の身長くらいあるように見える。どうやって作って、どうやって動かしているのだろう?
 扉の中に入ると、壁はさらに厚いことが分かった。奥にはさらにもうひとつの扉。それがゆっくりと開いていく。いよいよカンバリア魔王国。魔族の、カイトの国だわ。

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