月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第146話 グッドエンド、なのかな?

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ 魔王=呪王 ◇◆◇

 

 大船を使って、大軍をいきなり、魔王国の都近くに送り込む。ザイズ王国の者共は考えたものだ。夜王に騙されたな。夜王はミネラウヴァ王国の勇者が、がら空きになった魔王国に精鋭部隊と共に侵入、我を討つと言っていた。だが、攻めてきたのはザイズ王国。それも陸からではなく、海を渡ってだ。こんな話は聞いていない。備えてもいない。
 本当の意味で夜王に騙されたのかもしれないな。ミネラウヴァ王国との決戦に臨むという口実で、夜王は多くの戦力を魔王国から連れ出した。その結果、がら空きになったところを、ザイズ王国は攻めてきた。裏で繋がっていると疑いたくなる状況だ。
 異世界人などを信じた我が愚かだった。こう考えて、諦めるしかないか。都を焼く炎は、炎王のそれではなく、敵の攻撃。こうして城から見下ろしていると、戦場となった都の様子が良く分かる。都で暮らす、戦場に出る力のない者たちも、あの炎に焼かれているのだろう。人族は子供にも容赦がない。我らを殺すことは正義だと考えている。そのような生き物と共存など出来るはずがない。この世界から消し去るしかないのだ。先代の愚かさを、最後にまた認識することになった。
 ただ愚かなのは先代だけではなく、我も同じ。炎王はどうやら討たれた。都を守る戦力はもうほとんど残っていない。今日、魔王国は滅びることになる。我が魔王の時に、魔王国は滅びるのだ。愚かな王だと蔑まれることだろう。別にかまわない。蔑まれる時に、我はこの世にはいない。我の死後に、勝手にあざ笑うがいい。死んだ我はそれを屈辱と思うことも出来ないのだ。

 

「……あれは?」

 

 空を飛ぶ竜。黒一色のあの竜は、黒竜なのか? 死んだはずの黒竜が生きていたというのか? だとしたら、どうだというのだ。黒竜だけでザイズ王国の軍勢を追い払えるとは思えない。犠牲を強いることは出来るだろう。だが、そこまでだ。炎王を討つ力のあるザイズ王国に、黒竜が勝てるはずがないのだ。

 

「…………」

 

 それでも黒竜はザイズ王国軍に攻撃を仕掛けた。口から吐き出された炎がザイズ王国軍の騎士や兵士を焼いている。だが、それが何だと言うのだ? ザイズ王国軍は何千という数がいる。一度に四、五人、焼き殺したからといって、敵の勢いは止まらない。

 

「…………」

 

 一度に四、五人では。だが、一度に百人が焼死するとなれば、どうか?

 

「……何だ、あれは?」

 

 魔法であることは分かる。空中に展開された魔法陣は次々と数を増していく。一斉に放たれた黒い炎。ザイズ王国軍の勢いはそれで止まった。止まらずを得ないだろう。あれだけの魔法を同時に放たれるとなれば、まとまって動くのは悪手。一度の攻撃で多くの犠牲者を出すだけだ。
 ザイズ王国軍は隊列を崩して、分散。だが今度は分散した集団に向かって、黒竜が襲い掛かる。炎王の部隊は、黒竜と協力して戦っているのか? それが出来ているのか?

 

「…………」

 

 違う。炎王の部隊ではない。部隊などと呼べない数。二人……この場所から確認出来るのは二人くらいだ。二人と黒竜で、数千のザイズ王国軍と戦っているのか?

 

「空を……いや、あれは……<立体跳躍>だったか……」

 

 片方の動きは驚くべきものだ。空を駆けている。言葉の通り、空中を走っている。おそらくは<立体跳躍>というスキル。高位魔獣が持つスキルだ。それを持つあの男は何者だ?

 

『ジークフリート殿下、戦死!』

 

 まさかの声。これは事実なのか?

 

『クズミーーーー! 貴様、よくも殿下――!』

 

『ウイルゴ隊長も討たれた!』

 

『撤退だ! 撤退しろ!』

 

 城下で何が起きている? ザイズ王国軍が引こうとしている。何者の仕業だ?
 答えはすぐに分かるかもしれない。黒竜がこちらに向かっている。何者かを背中に乗せているのが見える。

 

「えっと……魔王?」

 

「……まず、貴様が名乗れ」

 

「プライド高っ。さすがは魔王。俺はカイト」

 

「……何者だ?」

 

 カイト。聞き覚えがあるような気がするが、具体的なことは頭に浮かんでこない。どうして知らない? これほどの強者の情報が我の耳に届かなかった?

 

「何者……どれからにするかな……まずは……元退魔兵団の兵士」

 

「退魔兵団? ミネラウヴァ王国の兵士か?」

 

「元だから。あとは……大事なのはこれかな? 先代ヤマトの弟子で、義理の息子。ちなみに先代を<悪魔の迷宮>に閉じ込めたのは?」

 

「……我だ」

 

 先代の弟子で義理の息子。先代など、とっくに消滅していると思っていたのに、まだ存在していたのか? 

 

「御礼を言うべきなのかな?」

 

「礼だと?」

 

「あそこに先代がいたから、俺はこうして生きている。だから礼……いや、先代がいたから、あそこは<悪魔の迷宮>になって、俺は捨てられたのだとすれば……いやいや、他の場所に捨てられていても死んでいた。やっぱり、御礼だな」

 

「貴様は何を言っている?」

 

 この男は我を愚弄しているのか? どうして礼など言われなければならない。我は先代を騙して封印した。この男が先代の義理の息子だというなら、恨んでいるはずだ。

 

「話すと長いいきさつがあって。これを話す機会があるかどうかは、そちら次第」

 

「意味が分からん」

 

「降伏しろ。嫌なら殺す。ただ、この先のことを考えると、出来れば降伏が望ましい」

 

「……どうして我を生かそうと思う?」

 

 この男も先代と同じか。我のことなど眼中にない。そうであっても当然だ。こうして間近で向かい合っているだけで、心に敗北感が広がる。この男は強い。我とは格が違う絶対的な強者だ。

 

「お前が死んでも、変わらず忠誠を誓う人たちと、俺に従うと約束した人たちの間で争いになったら困るから」

 

「……すでに裏切り者が出たか」

 

 忠誠心など信じていなかったが、寝返りの早さには呆れるな。

 

「八芒星王からは三人。他は死んだ。あとここに一人いるはずなのだけど?」

 

「……炎王は戦死した」

 

 八芒星王まで裏切った。重臣に取り立ててやったのに、その恩義も忘れて、あの者たちは裏切った。

 

「彼らの為に言い訳しておくと、魔王国を守る為。ザイズ王国に攻め込まれているのを知って、俺たちとの戦いを終わらせたかったからだ」

 

「……貴様はその約束を守った」

 

「なんとか。でも、お前次第でまた魔王国に争いが起こる」

 

「……我がここで膝を折ったとして、お前は信じられるのか?」

 

 この男もヤマトと同じで、お人好し。ここで従う振りをするのも悪くはないかもしれない。そうしてまた時間をかけて、この男も封印する。それでまた魔王国は我の物になる。

 

「信じるわけないだろ?」

 

「何?」

 

「残念ながら、他人を信じられるような幸せな人生を歩めていない。前の人生では周りにいる全てが敵だった。この世界は少しマシだけど、生まれてすぐに親に裏切られたのは前世と同じ。家族でさえ平気で裏切るのに、どうして他人を信じられる?」

 

 この男も異世界人。だが、同じ異世界人でもヤマトとは違う。誰一人、信じることなく生きてきた。これは事実なのか? 事実だとしたら、どうしてこの男は私に降伏を許す? 殺すことを選ばない? その気になれば、すぐに私を殺せるはずなのに。

 

「他人を信じられないのに……どうして?」

 

「はあ? 信じられないからって他人を殺していたら、この世界で生きているのは俺だけになるだろ? いや、さすがに何人かは信じられると思える人はいる。でも両手があれば足りそうな数だけで、この世界を生きるっておかしいだろ?」

 

「それはそうだが……」

 

 どうしてこの男の話はこんな極端なのだ。当たり前の話だ。他人を皆殺し、十人を残して、皆殺しなんて狂った真似が許されるはずがない。

 

「お前が降伏しても、俺はお前を疑い続ける。常に近くに置いて、お前のことをずっと見ている」

 

「……ずっと……見ている?」

 

「そうだ。お前が裏切ろうとしていないか、変なことを考えていないか。俺はずっと見ている。怪しい真似をしたら、容赦なくバンだ」

 

「…………降伏する。魔王国の王はお前だ」

 

 お前がそこまで言うなら、我もまたお前を見続けよう。本当にお前は我を見続けてくれるのか。我の存在を気にし続けてくれるのか。お前の言葉が本当であるかを、我は確かめ続けよう。
 我は常にお前の脅威で有り続ける。お前が我との約束を守り続けるように、守り続けられるように、我はお前に我の存在を示し続けよう。

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