
◇◆◇ 夜王=金井力 ◇◆◇
あり得ない。あり得ない。あり得ない。どうしてこんなことになっている? クズミまでこの世界に転生している。これは仕方ない。同じクラスの奴らが何人も転生しているのだとすれば、その中にクズミがいてもおかしくない。でもどうして、あいつが新たな「魔王」と見られている? そんな力は奴にはない。あるはずがない。
僕の知らないストーリー、設定。その中心に、よりにもよってクズミがいる。ストーリー改変にしても、あり得ない。退魔兵団の兵士なんて、ただのモブ。ナレーションで、それも一、二行で魔王国に滅ぼされたことが説明されていただけ。兵士はゲーム内で登場してもいない。そんな存在がどうしてこんな状況を作れる?
もう、どうでも良い。今ここで叩き潰してやる。それで、クズミの物語は終わりだ。物語は僕の物になる。
「おや、ザグブルもいるな」
「ザグブル?」
クズミの仲間に嵐王が知っている奴がいたようだ。
「夜王は知らないのか? 悪魔にしては、そこそこな奴だ。だから名を与えてやった」
魔族の表現では本当の強さは分からない。「そこそこ」というのはどの程度だ? ただ、名を与えたということは嵐王よりは格下。それであれば問題ない。それに僕が戦う相手でもない。
クズミの仲間は三人。そのザグブルと鬼人族の男、そして人族の女だ。岩王はいない。
「おい、ザグブル。お前、そこで何をしている?」
「おや、過去の人ではないですか? 貴方がくれた名はドブに捨てました。今の私はアレクサンダーです」
「……何だと?」
ザグブル、今の名はアレクサンダーのようだが、が嵐王を挑発している。勝手にやってくれ。僕はクズミを殺すことに専念する。
「クズミ」
「……はあ……あのさ、もういい加減にしてくれないか?」
「何の話だ?」
わざとらしくため息をつき、呆れ顔を見せるクズミ。この反応は僕には読めない。油断させようとでもしているのか? そうだとしても、そんなものに引っかかる僕じゃない。
「この台詞、もう何度、口にしたか……俺の名はヒ・サ・ズ・ミ。久住海斗だ。今はカイトだけどな」
「…………」
クズミではなく、ヒサズミ。そんなはずはない。先生だって、クズミと呼んでいたはずだ。いや、そうか。榊にそう呼ばされていたのだ。学校も、あの男に逆らえなかった。誰もあの男を止められなかった。学校の中で、榊は絶対者だった。
「そういう顔も見飽きた。えっと、金井力で合っているのかな?」
「……そうだ」
クズミは、いや、ヒサズミか。とにかく、こいつは僕が誰だが知っていた。いつ知られた? <鑑定>をかけられた感覚はなかった。そうなると以前から知っていたのか?
「俺は皆の名前を憶えていたのに……どいつもこいつも」
「……名前なんてどうでも良い。お前は僕が殺す」
こいつの名がクズミだろうとヒサズミだろうと、どうでも良いことだ。どうせ、こいつはここで死ぬ。僕が殺す。
「んん? 聞き捨てならない台詞。カイト君はミユウが守る!」
「……誰だ、お前? 雑魚は引っ込んでいろ」
割り込んできた女。この女は前に会ったことがある。退魔兵団の夢魔、クズミの仲間だ。いや、仲間じゃなくて、女か。クズミのやつ、こんな女を彼女にしている。クズミのくせに。
「ミユウは雑魚じゃないもん。<魔王の柱>だから」
「何、それ? くだらない」
本当にくだらない。生意気な女。ちょっと可愛いところがムカつく。クズミなんかの彼女になったことを後悔させてやる。いや、そうだ。僕が奴よりも、ずっと楽しませてやろう。この女をクズミから奪ってやる。
「夜の帳が下りて、世界は僕のものになる」
僕のスキル<結界魔法>。結界の中では僕が絶対者だ。誰も僕には逆らえない。この女も、僕のいいなりだ。
「僕にひざまずけ」
「……はい。ご主人様」
あっさりと女は僕の術にはまった。簡単な女だ。クズミが見ている前で、辱めてやる。
「跪くだけで僕が許すと思うのか?」
「…………」
「靴を舐めろ」
「はい。ご主人様」
這いつくばったまま、僕に近づいてくる女。ああ、先に裸に剥いたほうが良かったかな? まあ、それはあとでも良い。見ていろ、クズミ。自分の女が僕に奉仕する姿を。
「靴はもう良い。舐めるのはもっと上だ」
「ご主人様の命じるままに」
馬鹿な女だ。自分が今、何をしているか分かっていないだろう。どこかで正気に戻してやろう。その時、この女がどんな反応を見せるか楽しみだ。でもそれは、もっともっと辱めてから。もっともっと楽しんでからだ。
「服を脱げ」
「はい。ご主人様」
「全身を舐めろ」
「はい。ご主人様」
もっとだ。もっともっと! もっと恥ずかしいことをしろ!
「四つん這いになれ」
「はい。ご主人様」
「もっと尻をあげろ」
「はい」
「もっとだ! もっともっとだ!」
この女は僕の物だ。この世界も僕の物だ。全てが僕の物だ。誰にも渡さない。渡さない。この世界では僕が支配者だ。誰も僕には逆らえない。もっともっと、恥ずかしことをしろ。全てが僕に従え。欲望が止まらない。僕の欲望はどこまでも肥大していく。僕の……僕の欲望は、どうして止まらない?
「夜王! 正気に戻れ!」
「えっ……?」
剛拳王の声。彼は何を言っている? 正気に戻れって、どういう……ことだ?
「良い夢、見れた?」
「なっ……あっ……ああああああっ!」
痛い。熱い。これは何? 剣が、剣が僕の体に刺さっている。どうして? どうして、こうなった? 僕は、僕は死ぬのか?
「……げ、幻夢夜姫なのか?」
それは誰? 剛拳王は何を知っている? この女は何者だ? ゲンムヤキって、何のことだ?
「大きなオジサンは、どうしてミユウの新しい称号を知っているの?」
「……やはり……本物の<魔王の柱>なのか……」
どういうことだ? 剛拳王、教えろ。これはどういうことだ? 僕はどうして、どうして僕は刺されている? 僕の結界で僕は絶対者なのに。
「金井力くん。君、変態だったのだね? 一人で卑猥な言葉を叫んで。それも素っ裸になって」
「……そ、そんな……ぼ、僕は……」
クズミは何を言っている? 僕はそんなことはしていない。一人で……僕は……げ、幻影……僕は幻を見せられていたのか。
「ああ、分かった。榊を裸にしていたのは自分の趣味か。何、榊も喜ぶと思ったの? 金井君は、榊を喜ばそうとしていたのか?」
「そんな、はず、ないだろ?」
「そうかな……? 女の子を辱めて喜ぶ。やっていることは榊と同じだけどな」
「……ち……違う……ぼ、僕は……」
違う。違う、違う。僕はあんな男と同じじゃない。僕は、僕は彼女の為に復讐をするはずだった……のに、どこで僕は、僕は間違った?
「ど、どうして、け、怪我……が……」
どうして治らない? 僕のスキルには<治癒>がある。胸を刺されたのはちょっとだけど、それでも治せるはず。何度もスキルを発動しているはずなのに。
「ミユウが駄目って言ったから」
「そ、そんな……」
そんな馬鹿な。僕はこの女に支配されているのか? 夜王の称号を持つ、幻影魔法では最高峰の力を持つ僕が、どうしてこんな女に支配される? あり得ない。
「……た、助けて……久住くん……お願いだから、僕を……助けて。昔のことは……あ、謝るから……」
「謝罪するのは昔のことじゃないし、俺に対してでもない。お前は、この世界の人々を苦しめた。よそ者の俺たちに、そんな真似は許されない」
「……お、お前……だって……」
「ああ、俺にもいつか裁かれる時が来るかもしれない。その時は受け入れるしかない」
どうして、そんな風に……お、思える……い、異世界に転生……した……僕たちは……特別な……存在。僕たちには……この世界を……支配する……権利が……あった、はず…………