月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第139話 これが噂のご都合主義か

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れしまえば良い

 

◇◆◇ クリスティーナ ◇◆◇

 

 アッシュビー公爵領を守る。こう心に誓ってこの地にやってきた。でも、心に思うことは簡単に出来ても、それを実現することは容易ではない。分かっていたことだけど、それを思い知らされて、心が沈んでしまう。
 ミネラウヴァ王国軍は後退を続けながら防衛線を維持してきた。でも、それは魔王国軍の攻勢がそれほどでもないから出来たこと。王国軍の騎士の人たちはそう判断していた。実際にそうだった。
 アッシュビー公爵領は防衛線の一部となった。アッシュビー公爵家そのものの軍事力は無に等しくても、土地は守りに適した形状をしている。そういう重要な土地なので公爵家の領地とされていたのだから、そうなるのは必然。王国軍の計画にも最初から防衛地点として定められていたそう。
 ただこちらの守りが固くなると魔王国軍の攻勢も強まることになる。私とパトリオット兄上は激戦地に飛び込むことになった。望むところと言いたいところだけど、戦況はかなり厳しい。笑顔で前線に向かった騎士が、数時間後には死体となって帰ってくる。そんな毎日が続いている。
 私も前線に出るべきか。こう思ったけど、それは王国軍の指揮官に拒否された。私一人が前線に出たくらいで戦況は打開できない。それよりも後方支援に徹して欲しいということだった。助けられる命を助けて欲しいと言われた。それが私がもっとも役に立てることであるならと思って、納得した。
 でも前線は日々、確実に近づいてくる。魔王国軍の前進を止められない。王国軍の人たちには申し訳ないけど、戦力の質が違い過ぎる。どうしてウイリアム殿下はここにいないのか? イーサンとアントンは国を裏切ったのか? こんな泣き言が頭から離れない。

 

「マグニス七星将、戦死!」

 

 また悲報が告げられた。しかも七星将であり、この部隊の指揮官であったマグニス殿の戦死。これはほぼ、この戦場での敗北決定を意味する。

 

「魔王軍の前進を止めろ!」

 

「負傷者の搬送を急げ! 時間がない!」

 

 私のいる後方も安全ではなくなった。魔王軍がいよいよやってくる。

 

「動ける人は急いで! 治療がまだの人はいますか!?」

 

 負傷者を急いで逃がさなければならない。動けない人がいるなら動けるようにしなければならない。これが後方支援を任された私の責任。

 

「クリスティーナ殿! 貴女も早く下がって!」

 

「私はまだ大丈夫! それよりも動けない人はいませんか!?」

 

「治療の時間はない! 急いで逃げて!」

 

 状況はひっ迫している。魔王軍は今この瞬間にもここに押し寄せてくるのかもしれない。でも、怪我をした人たちを残して逃げることは出来ない。一人でも多くの人を助けたい。助けなければならない。それが私の役目だから。

 

「クリスティーナ! もう無理だ! 逃げろ!」

 

「兄上!?」

 

「八芒星王がいる! 誰も防げない!」

 

「…………」

 

 魔王国の重臣、八芒星王が戦場にいる。驚くことではないわ。魔王国の指揮官として重臣がいるのは当然のこと。こちらは七星将のマグナス殿を討たれた。そうであれば、敵の将である八芒星王を討てば良い。
 でも、私にそれが出来るのか?

 

「クリスティーナ! 無理するな!」

 

 パトリオット兄上の制止の声。私だって無理をしたくない。ここで死にたくない。でも、多くの人を見捨てたら、私は私でなくなる。味方を見捨てて生き延びた私にカイトの隣にいる資格はない。この想いが私の足を進ませる。 
 兄上の詠唱の声が聞こえてきた。最大魔法、というか通用するのはこれしかない魔法。<炎息>が敵に向かっていく。

 

「……うっとおしい魔法だな」

 

 <炎息>をまともに受けて無傷でいる魔族。この魔族が八芒星王の一人に違いない。そうでなければ、お話にならないわ。これ以上、強い敵がいるとなると勝てると思えなくなる。今も思えていないけど。

 

「貴方が八芒星王?」

 

「そうだ。俺が岩王だ」

 

 岩王。土属性系の魔族ということなのかしら? そうであれば兄上の<炎息>がダメージを与えないのも分かる。岩は燃えないという単純な考えだけど。

 

「ここから先は行かせません」

 

「はあ? お前、ふざけているのか?」

 

「ふざけてなんていませんわ。貴方をこれ以上、先に進ませるわけにはいきません」

 

 ふざけてはいない。ただ勝てるとも思っていない。私が出来ることは、せいぜい足止め。一人でも多くの人が逃げる時間を作ること。それしか出来ない、

 

「ほんとにうっとおしい! この魔法もお前も!」

 

 兄上の魔法がまた敵に当たった。でも、やはりダメージは与えられない。それでも時間稼ぎにはなるかもしれない。

 

「邪魔だ!」

 

「えっ」

 

 気が緩んでいたつもりはない。でも完全に不意を突かれた。岩王という名乗りから土属性を予想していた。その通りだった、その通りだったのに、攻撃を避けることが出来なかった。
 何十ではない。何百という石つぶてが一斉に飛んできた。避けようにも避けられなかった。

 

「……くっ」

 

「まだ立ち上がるつもりか? せっかく情けをかけてやったのに。そんなに死にたいのなら、次で確実に殺してやる」

 

 彼の言う通り、次で私は死ぬのでしょう。最初の攻撃で生きているのが不思議なくらい。頭に受けなかった幸運が私を生きながらえさせてくれた。でも次はない。私はここで死ぬ。死にたくない。せめてもう一度、カイトに会いたかった。

 

「死ね!」

 

 でもそれは叶わない。と思った時。

 

「何だ……?」

 

 光が私を包んでいる。何が起きたのか?

 

「……首飾り?」

 

 光は首飾りが放つものだった。リーコ殿から頂いた、カイトからの贈り物の首飾り。それが光を放っていた。これは何の光か? すぐに分かった。この光には見覚えがあった。私は以前にも、この光に包まれたことがあった。
 そして、魔法陣が地に描かれた。

 

「……カイト」

 

 転移魔法陣の光。魔法陣の中にカイトが跪いている。会いたかったカイトが目の前にいる。本当に会えた。

 

「何だ、お前?」

 

「ターミネーター」

 

「ターミネーター。それはお前の名か?」

 

 名前ではない。では何かと聞かれても、私にも分からないわ。きっと私が知らない異世界の言葉。

 

「……このネタはこの世界では通じないか。当たり前だな」

 

「お前、その特徴は知っている。確か、黒炎だ。お前、黒炎だな?」

 

「…………」

 

 八芒星王の岩王はカイトを知っていた。特徴と言っているから情報だけを知っていたということね。

 

「黙っていないで答えろ! お前、黒炎なのだろ!?」

 

「失敗した。転移魔法陣だけじゃなくて、魔法防御も組み込んでもらえば良かった」

 

「何を言っている? 俺を無視するな!」

 

「無視はしない。お前だな? クリスティーナ様を傷つけたのは? 可愛い顔に傷つけた。お前、どうやって償うつもりだ?」

 

 カイトは怒っている。私を傷つけたことに対して、ひどく怒っているみたい。こんな時なのに、それを嬉しく思ってしまう。私は愚かだ。カイトに対しては愚かな女性になってしまう。

 

「償う必要などない。その女もお前もどうせ死ぬ」

 

「……どうやって?」

 

「何だ……な、何だと?」

 

 岩王の腕が地面に落ちた。斬られたことにも気づかないくらい一瞬で、カイトは腕を切り落とした。私にもまったく見えなかった。カイトが手に剣を持っているので、そうだろうと思えるだけ。

 

「カスのくせに偉そうだな、お前」

 

「カスとは何だ?! 俺は岩王! 八芒星王の一人だ!」

 

「岩……だから斬られても痛くないのか?」

 

「な、何だ、お前!? どうして俺の体を斬れる!? 俺は岩王……ま、まさか、その剣は……いや、その刀は……」

 

 岩王がひどく動揺している。カイトが持つ剣に怯えている。岩王は体の硬さが自慢みたい。でもカイトの剣はあっさりと腕を斬り落とした。天敵のような存在なのかもしれないわ。

 

「ムラサメを知っているのか?」

 

「……どうやって、その刀を?」

 

「師匠に貰った。こう言ったほうが納得するか。先代魔王のヤマトに貰った」

 

 またカイトはとんでもないことを言いだした。どうしてここで先代魔王が出てくるの? カイトの師匠って魔王だったの? そんな話、私は聞いていない。

 

「馬鹿な? お前にその刀を譲られる資格があるはずがない」

 

「どうしてそう思う? ヤマトは師匠で俺が弟子。ああ、義理の父親でもある。父親から息子に譲られたのだから、俺の物だ」

 

 師匠だけでなく、義理の父親でもある。魔王が義理の父親で魔獣が義理の母親。私の義理の父と母でもある。魔王を義理の父に持つのは私も同じということね。

 

「……先代が義理の父……お前が息子?」

 

「そう。証明するものは何もない。いや、この刀が証のひとつか。あとは……使っていない装備もある。見てみるか?」

 

「見てみる」

 

「えっと……ああ、これ」

 

 カイトは空間から兜を取り出した。<収納>の魔法であることは知っているわ。漆黒の兜。形もそれほど珍しいものではない。ただ一点、額のところについている大きな飾りを除けば。あれは何だろう?

 

「直江兼続の兜のパクリ……って言っても分からないか」

 

「その兜は確かに……参りました」

 

「えっ?」「はっ?」

 

 いきなり魔族は地面に座って、頭を下げた。

 

「大変申し訳ございません。無礼はいくらでもお詫びいたしますので、どうか命だけは助けてください。その女、いえ、その素敵な女性にも心を尽くして、お詫びさせて頂きます」

 

「……何を企んでいる?」

 

 カイトがこう思うのも当然。ダメージがあるようには見えないけど、腕を斬り落とされて、これ以上戦えないのかもしれない。そうだとしても降参するものでしょうか? 退却するという選択をどうして選ばないのでしょう?

 

「何も企んでない。その刀は俺にとって天敵。俺の武器である体の硬さが通用しない武器だ。勝てるはずのない相手と戦うほど俺は愚かではない」

 

「……魔王を裏切ることになるのでは?」

 

「それについてはお前に頑張ってもらう。我らは強き者に従う。お前が魔王を倒せば良いだけだ」

 

 魔族は強さが全て。良く聞く話だわ。でも、ここまでそれが徹底されることには驚いた。それにやはり、強ければ誰でも良いというのは違うと思う。

 

「なんというか……魔族らしいということだろうけど……ご都合主義っぽいのは嫌いだ」

 

「どうして勝ったのに不満なのだ? ああ、分かった。お前はもっと強者と戦いたかっただな? 俺もその刀がなければ満足させる自信はあるのだけどな」

 

「違うから。俺を戦闘狂のように言うな。まあ、でも勝ったのか……お前、ここでの戦闘を完全に止められるか?」

 

 岩王という魔族は降参した。でも戦闘はまだ続いている。魔王国軍に味方は殺され続けている。

 

「任せろ。言うことを聞かないやつは殺せば良いのだろ?」

 

「……任せる」

 

 岩王は戦っている魔族のところに向かった。一応、命令するところから始めるみたい。「戦いを止めろ」という声、そして「新たな魔王様に仕えろ」という声も聞こえてきた。

 

「……魔王?」

 

「いや、魔王だと宣言したつもりはありません。ただ……加護がそんな感じで」

 

「加護って?」

 

 カイトは完全に否定しなかった。魔王と見られる理由がある。先代魔王が義理の父ある以外に、魔王と見られても仕方のない加護を持っている。それはどういうものなのかしら?

 

「<魔王の器>という加護を……与えられていたりして……」

 

「……でもカイトは加護を持たないって」

 

「なんか、封印されていたみたいで……家族が殺された時にその封印が解けて……」

 

「……馬鹿」

 

 カイトが私を遠ざけた理由が分かった。加護のせい。自分は魔王になる運命かもしれない。それを知って、私の側にいてはいけないと思ったのに違いない。私の為にそうしたに違いない。

 

「えっ? 馬鹿? ここで馬鹿?」

 

「カイト、私は貴方が何者であろうと貴方の妻です。貴方を愛し続けます」

 

 この私の気持ちが分からないカイトは馬鹿だわ。私がどれほど貴方を愛しているか、貴方を必要としているか、どうして分からないのかしら?

 

「……だから、馬鹿」

 

「あっ……」

 

 カイトの温もり。これを感じるのはいつ以来か。ずっと昔のようであり、つい昨日のようでもある。触れ合う唇の感触。少し荒々しいそれは、私に愛されている実感を与えてくれた。

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