月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第120話 とりあえず勘違いということで

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ コルテル・コルレオーネ ◇◆◇

 

 光が見えた気がした。貴族でありながら他家から蔑まれ続けているコルレオーネ家。コルレオーネ家は爵位の為であれば、なんでもやる。殺しでも何でも。闇貴族、暗殺貴族なんて呼ばれて蔑まれるのも当然なところはある。だから変えたかった。闇に生きるのではなく、光の中で生きたかった。それが出来る力を求め、王国騎士養成学校に入学した。
 だが入学してすぐに、それは叶わない夢だと気づかされた。周囲の目がそれを思い知らせた。俺もコルレオーネ子爵家。そうであることからは逃れられない。まだ何もしていないのに軽蔑の目を向けられた。ただ一人を除いて。
 俺が何者か、カイトは知らなかった。だから、普通に話が出来た。それは分かっていた。分かっていたけど、正直に話すことにした。自分が話さなくても、いずれ知られる。そう考えると自分で話すべきだと思った。カイトの友達と思っているなら。

 

「えっと……それの何が問題?」

 

 これが俺がコルレオーネ子爵家の人間だと知った時のカイトの反応。一瞬で涙が零れそうになった。誤魔化すのが大変だった。誤魔化せたのかは分からないが。そのすぐ後にカイトは「友達か?」と確認してきた。「親友だ」と答えたら感激していた。また泣きそうになった。本当の友を得られた。諦めていた友に出会えた。そう思えた。
 クリスティーナ様もそうだ。あの人はまた違う意味で俺を、コルレオーネ子爵家を受け入れてくれた。

 

「血で汚れた仕事で爵位をかすめ取ったコルレオーネ家など貴族ではない!」

 

 良くある侮辱。だがそれを公然と口にすることが出来るのはウォーリック侯爵家の人間だから。国王陛下も臨席しているその場で、あの男は俺を、コルレオーネ子爵家を侮辱した。

 

「盗みに殺し、なんでもやる野盗同然の奴と同じ建物で息をしているのも――っ! な、何をする!?」

 

「お黙りなさい! 貴方の無礼な物言いは王国貴族の一員として許すわけにはまいりませんわ!」

 

 そのアントンをクリスティーナ様はこれも公衆の面前で引っ叩いた。俺の代わりに、俺以上に怒ってくれた。こんな人もいる。そう思えた。

 

「……コルレオーネ家は血で汚れている! それを知らないわけではあるまい!」

 

「貴方の言う、その汚れは誰の為ですか!? 王国の為、王国の平和の為、王国の民の為ではないのですか!?」

 

「なんだって……?」

 

「ウォーリック侯爵家は陽の当たる場所を歩いている! 確かにそうでしょう! でも、そうでいられるのは何故ですか!? ウォーリック侯爵家の代わりに影の中を歩む方たちがいるからではないのですか!?」

 

 涙が止まらなくなった。こんな人がミネラウヴァ王国貴族にもいた。そういう人と俺は出会えた。その奇跡に感謝した。この人は俺に、コルレオーネ子爵家に光をあててくれる存在。この人の輝きは俺たちを闇の中から救ってくれる。そう思った。
 父上も聞いていたはずだ。あの場にいたのだ。クリスティーナ様の言葉を聞いて、何も思わなかったというのか?

 

「どうしてですか? どうしてクリスティーナ様を陥れるような真似をしたのですか?」

 

 実家に戻ったら、最初にこれを聞こうと思った。俺はクリスティーナ様の秘密を王国に話していない。そうであれば誰が密告したのか? コルレオーネ子爵家が潜ませていた密偵だ。その密偵にマイルズとの会話を聞かれたに違いない。

 

「……陥れようなんて意図はない。我らは事実を伝えるだけ。その事実からどのような判断が下されるかは我らに関りがないことだ」

 

「クリスティーナ様は王国に捕らわれた。父上も聞かれたはずだ! あの人の言葉を! あの人だけがコルレオーネ子爵家を認めてくれていた!」

 

 それなのにコルレオーネ子爵家はクリスティーナ様を裏切った。そんな真似をしていれば、蔑まれて当然だ。誰も俺たちのことなんて信用しない。

 

「コルテス……それは違う。我らを認めているのは彼女だけではない。国王陛下も我らを認めてくださっている」

 

「そうだとしても!」

 

「我らが情報を選別してはどうなる!? 我らが自分たちに都合の良い情報だけを伝えるような真似をすればどうなる!? 我らは存在価値を失い、王国に切り捨てられるだろう!」

 

「それは……」

 

 自分たちに都合の良い情報だけを王国に伝える。それは不正だ。王国への裏切りだ。これは分かる。情報を集めるコルレオーネ子爵家は、ただ見聞きした情報を、何の主観も交えずに、そのまま伝えるだけ。そうでなければ信用を失うだけでなく、疑いの目を向けられる。そうなれば終わりだ。取り潰しになっても、一族郎党死を賜ることになっても誰も、同情するどころか、当然の報いと思うだろう。

 

「誠実であらねばならない。その為には私情を捨てなければならない。それは……今のお前には辛いことだろう。だが、それが出来なければコルレオーネ子爵家は王国から消える。多くの者が道連れにされるかもしれない」

 

「…………」

 

 私情を優先して家臣を犠牲にする。こんなことは許されない。コルレオーネ子爵家は小さな家だが、関わる者は多い。ありとあらゆる場所に密偵がいる。全てを人に投資しているのだ。そこまでして王国に尽くしている。正しいことだと思うが、王国は分かってくれているのかという思いも湧いてくる。

 

「貴方は納得できないかもしれませんが、我が家はこういう家なのです」

 

「えっ?」

 

 父上は誰に向かって話しているのか。周囲に人の気配はない、はずだった。

 

「まったく納得出来ないわけでもない。クリスティーナ様が無事だからこう思えるのだろうけど」

 

「カイト……どうして、ここに?」

 

 カイトがいた。ここにいるはずのないカイトが立っていた。どうして? どうやって? この場所にどうやって侵入出来た? 様々な情報が集まるコルレオーネ子爵家だ。侵入者への備えはそれなりに自信がある。侵入の専門家がその対策を考えたのだから。

 

「お前を殺しておこうと思って」

 

「…………」

 

「ああ、もうその気はない。コルテス君が告げ口したわけではないのは分かった。それに、コルレオーネ子爵家のあり方ってやつもお前の父親が教えてくれた」

 

「無事だったのだな? 良かった」

 

「クリスティーナ様は無事。王都のウイリアム殿下のところにいるはずだ。俺は無事とは言えないかな? きっとお前の父親は事情を知っているはずだ」

 

 クリスティーナ様は無事。ただどうしてウイリアム殿下のところにいるのかが分からない。納得出来ない。あの方はクリスティーナ様を助けようとしなかった。カイトだけがそれを行ったのだ。

 

「父上?」

 

「……無事と言っても良いはずだ。貴方様の捜索は続いております。ですが、それは罰する為ではなく、貴方様の力を必要としてのこと。私の立場では、王国にお戻りいただきたいと伝えさせて頂きます」

 

 カイトに対して、父上は慇懃な態度。カイトの気持ちを落ち着かせる為なのか。そうだとしても、「貴方様」というのはどうなのだろう?

 

「歓迎されるとは思えません。それに、しばらくは揉め事から遠ざかりたいので」

 

「……この先は何を?」

 

「ここでの用事はなくなりましたが、もう一つやることが残っています。それが終わったら、名所巡りでもしてのんびりと過ごす予定です」

 

 名所巡り。そんなことが許されるのだろうか? のんびりと過ごしたくても、揉め事のほうから近づいてくる。それがカイトだ。

 

「なるほど、見聞を広めることは貴方様の為になります」

 

「見聞って……そんなものでは」

 

「貴方様は知るでしょう。人々の営みを。貴方様は目の当たりにするでしょう。人々の苦しみを、悲しみを。それを知った時、自分が何をするべきかお分かりになるでしょう」

 

 父上は何を言っているのだ? 何をカイトに伝えようとしているのだ? どうしてそれが必要だと思うのか? カイトには何かある。俺の知らない何かが。

 

「……預言者? どうしてそんなことを言うのかは、なんとなく分かりますけど……でも、だったら知っているでしょう? 俺はいらない人間です」

 

「それは……」

 

「ここでの用は済んだので帰ります。コルテス君も元気で。王国はこれから大変だけど、頑張って。頑張るって言っても、命が一番なのは忘れないように」

 

「もう帰るのか?」

 

 再会の時はこれで終わってしまうのか? あまりに呆気ない。話したいことは沢山ある。もっとカイトのことを俺は知りたい。俺のことをもっと知ってもらいたい。俺たちは、親友なのだから。

 

「……帰る。じゃあな」

 

「カイト!」

 

 追いかけようとした。だが、カイトは一瞬で姿を消した。どうやって? 俺には見えなかった。父上には見えたのか?

 

「……父上」

 

「早く追いかけろ。追いついたら決して離れるな」

 

「えっ?」

 

「今は知らなくて良い。だがこれだけは伝えておく。あの方は王国に必要な御方だ。今はそうでなくても近い将来、必ずあの方の力が必要になる。お前は王国とあの方を繋ぐ鎖になるのだ。どれだけ離れていても、決して切れてはならない鎖だ」

 

「……父上……カイトは……いえ、分かりました。では、失礼します」

 

 カイトは何者なのか? 父上が「あの方」と呼ぶのは何故なのか? 俺も馬鹿じゃない。思いつくことはある。そんなことはあり得ないとは思う。だが父上にはそう思う証拠がある。情報を手に入れているのだ。主観を交えずに、そう判断する情報が。
 この考えが正しかった時、俺はカイトの親友でいられるのだろうか?

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