月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第118話 意外と上手くやれるものだ

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ マイルズ・マコウ ◇◆◇

 

 悪いことに限って重なると言われるが、その通りだ。全てがおかしな方向に進んでいる。こんなはずではなかった。私は進むべき道を見つけたはずだった。だが今その道は閉ざされている。私は為すべきことを見失った。
 クリスティーナ様とパトリオット様が捕らわれた。カイトまで一緒に。残された私とコルテスには為す術がなかった。三人を助ける方法が見つからないだけでなく、養成学校にいる意味も見失った。
 鍛錬は続けた。だが明らかに熱が冷めている。自分は何のために強くなりたいのか。それが分からなくなった。入学時に持っていたそれは、かつてほどの輝きを失っていた。それを遥かに超える輝きを知ったあとでは。
 クリスティーナ様、そしてカイトは私の光だった、進む道を照らしてくれるはずの存在だった。進むに厳しい道であることは分かっていた。だが、それを乗り越える情熱を二人は与えてくれていた。こんな存在がいるのかと思わせてくれた。
 どうして王国にはそれが分からないのか。二人は光だ。だが王国はその光を閉じ込めてしまった。光がなければ闇が広がる。それが何故分からなかったのか。ウイリアム殿下は何をしていたのか。
 王国は闇に包まれる。戦争が始まる。ついに動員令が発せられた。学校にいる意味を失った私は実家に戻った。それで良かった。領地、領民を守る。目的を、元から持っていたものだが、また見つけた。もっと鍛えようと思えた。鍛錬の意欲が戻ってきた。そうであるのに。

 

「現れました」

 

「本当に来たのか……」

 

 現れたのは魔族、鬼人族だ。鍛錬の為に、父上の許しを得て、近くの迷宮に通っていた。まさか、そこに魔族がいるなんて夢にも思っていなかった。
 不幸中の幸いというべきか、何故か相手には戦意がなかった。話し合いを求めてきた。信じられなかった。だが、戦いになれば、こちらは全滅してもおかしくない。助かりたければ応じるしかない。
 その場ではなく、街の防壁の前で話し合いを行うことになり、待っていたら本当に現れた。

 

「待たせたかな?」

 

「二人か?」

 

 相手は二人。それも一人は子供にしか見えない。

 

「大勢で来ては話し合いにならないかもしれないと思った」

 

 本当に話し合う意思があるのか……どうにも分からない。魔族との話し合い。こんなことが現実にあるとは思えないのだ。

 

「……その、子供は?」

 

「子供に見えるが姫は……女王だ」

 

「女王自ら?」

 

「俺はまだ若く、一族での立場は高くない。決断出来ることは少ないので、姫が同行した。どうしてもと言うので……」

 

 望んで連れてきたわけではないのは分かる。それでも連れてきた。彼が従わなければならない立場の相手ということか。女王というのは本当なのかもしれない。

 

「……話し合いたいというのは?」

 

「我々はあの迷宮の奥で暮らしている。安全とは言えないが、それなりに平和に」

 

「ひとつ聞きたい。以前、迷宮の魔物がここを襲った。それはお前たちがやったことか?」

 

 争いにはしたくない。だがこれははっきりしておきたい。本当に交渉になるのであれば、こちらを有利に出来る材料になるかもしれない。

 

「それは違う。我々があの場所で暮らし始めたのはその後だ。迷宮の中は昼夜が分からないので、月日の経過はあいまいだが、二年くらいになるのだろうか?」

 

「……どうしてあの迷宮で暮らそうと思った?」

 

「この国との争いを避ける為に隠れる場所を探していて、ある人に教えてもらった。それが誰かは、その人物に迷惑がかかるので言えない」

 

 つまり、人族ということだ。人族が魔族に協力。内通者の存在は聞いたことがある。カイトが確か、そのようなことを匂わせていた。その内通者か……いや、待て。その内通者がどうしてこの迷宮を勧めた? しかも迷宮の奥。いや、これはたまたまなのか? そうだとしても。

 

「……カイトという人物を?」

 

「……知らない」

 

 いや、知っている。交渉を得意とする相手ではないようだ。今明らかに動揺が顔に出た。

 

「カイトというのは、この迷宮にクリスティーナ様と共に飛ばされて、二人だけでダンジョンサチュレーション状態の迷宮から脱出。さらにその後、この街を襲った魔物を仲間と共に撃退した人物だ」

 

「そうか。そういう人物がいるのか」

 

「私の友だ」

 

「えっ?」

 

 これも素の反応。ほぼ確定だろうか? この魔族はカイトを知っている。迷宮を教えたのはカイトだ。

 

「私が友と思っているだけで、向こうは認めていないだろう。だが、私は友でありたいと願っている」

 

「……その思いは少し分かる。あいつは人の好意を認めない。好意を向けられると思っていないんだ」

 

「やはり、知り合いか」

 

「カイトとは……そちらと同じだ。俺はやり直したい、友人になりたいと思っているが、あいつは絶対に認めないだろう。迷宮を教えてはくれたが、その後は一度も訪れてくれない」

 

 話を聞いても、カイトと鬼人族の関係は良く分からない。私と似た思いを抱いていることは分かった。カイトのほうが心の壁を作っている。誰に対してもそうだ。唯一、彼が扉を開いたのがクリスティーナ様なのだろう。

 

「知らないのか? カイトは王国に捕えられた。先に捕えられそうになっていたクリスティーナ様を庇って、ウイリアム殿下を罵ったせいだ。それほど重い罪にはならないはずだが……私もそれ以降、会えていない」

 

 たとえすでに解放されていても会いに来てはくれないだろう。クリスティーナ様の秘密を漏らしたのは我々だとカイトは思っている。他に知る者はいないはずなのだ。

 

「捕らわれた……そんな……」

 

 かなり心配している様子。演技には見えない。カイトとの関係は話した通りなのだろう。

 

「言った通り、重い罪にはならないと思う。ウイリアム殿下も口添えしてくださるはずだ」

 

「だが、あいつは退魔兵団の兵士だ」

 

「えっ……それは知っているが?」

 

 カイトが退魔兵団に所属していることはコルテスから聞いた。彼の強さが少し理解出来た。この鬼人はどうして今、この話をしてきたのか? 退魔兵団であることに何か問題があるのか?

 

「退魔兵団の兵士は従属魔法で自由を奪われていると聞いている。奴隷契約と同じだ。魔法で強制されている分、紙の契約書だけの奴隷よりも質が悪いと俺は思う」

 

「そんな……」

 

「どんな目に遭わされているか分からない」

 

「……だ、だが、退魔兵団は解散した」

 

 カイトがそのような酷い扱いを受けているとは知らなかった。そんな風には見えなかった。私は彼のことを何も知らなかった。それで「友になりたい」などと……自分が恥ずかしい。

 

「退魔兵団が解散? それでは、もう戦争が始まるのか?」

 

「まず間違いなく……そうか……結局、敵として戦うのか……」

 

 魔族にも同じ思いを共有出来る相手がいる。それを今日知った。だが、結局は敵であることは変わらない。戦争が始まれば戦うことになる。

 

「戦わない」

 

「えっ?」「姫?」

 

「我らは戦争には参加しない。今の魔王の為に命を捨てるなど馬鹿げている」

 

 これは本気で言っているのだろうか? 本気で魔王国に背くつもりなのか? 本気であれば助かる。だが、どうして?

 

「……よろしいのですか?」

 

「魔王国は我らが平穏に暮らす為にある。だが今の魔王はその地を我らから奪った。平穏を奪った。一方で今の暮らしはどうか? 皆、平穏に暮らしている。少しは苦労はあるが、それでも笑顔で暮らせている」

 

「はい。その通りです」

 

 魔族にも苦労がある。平和を求める気持ちがある。そうであるのに戦争が始まる。苦しむ人たちの想いを考えることをしない者たちが、戦争を始める。

 

「同じ命を捨てるのであれば、平穏な暮らしを守る為であるほうが良い」

 

「……はい……その通りです。俺は守る為に戦います」

 

「そういうことだ。同盟を結ぼうとまでは言わない。ただお互いの暮らしを邪魔しないだけで良い。これが妾がそちらに求めることだ」

 

「……お話は分かりました。父上に話し、すぐにお応えします。良い返事を必ず届けます」

 

 彼女たちは覚悟を決めた。そうであればこちらも覚悟を決めなければならない。領内に鬼人族を抱える。この覚悟を。父上は納得してくれるか。納得してもらわなければならない。同席してもらえば良かった。二人の覚悟をその目で見てもらえていれば。父上も分かってくれたはずだ。

 

「マイルズ様」

 

「父上の元に向かう」

 

「それは……分かりましたが、その前にお伝えすることが」

 

「……何だ?」

 

 この状況で何を伝えなければならないと言うのか。そういえば、この騎士は最初からこの場にいたわけではない。連れてきた覚えがない。父上からの伝言だろうか?

 

「カイト殿と思われる者がこの街に」

 

「……はっ?」「なんだって?」

 

「顔を知っている者に確かめさせましたので、まず間違いなく本人だと思います。ご当主様がマイルズ様に急ぎ知らせるようにと」

 

「すぐに向かう。カイトはどこにいる?」

 

 こんなことがあるのか? 今この時にカイトは現れた。こんな偶然があって良いのだろうか? どうでも良い、とにかく彼に会わなければならない。この機会を逃すわけにはいかない。

 

「食堂に」

 

「はっ? 食堂で何を?」

 

「それは……食事を……」

 

 当たり前の答え。なんだか良く分からないが、とにかく向かうしかない。

 

「同行しても?」

 

「もちろんだ。カイトがいる食堂に案内してくれ」

 

 鬼人も同行を求めてきた。それはそうだろう。会いたがっていた相手がすぐ近くにいるのだから。魔族を街の中にいることに抵抗も感じなかった。これはカイトのせいだ。彼がこちらを驚かせるから。
 どうしてここに来たのか? 何の為か? 聞きたいことは他にも色々ある。

 

「何の為? 見て分からないか? 腹が減ったから、それを満たす為だ」

 

 本人の答えはこんな感じだ。調子が狂う。

 

「それについては分かる。どうしてこの街に来たのかを聞いているのだ」

 

「ああ、それな。少し気になったから様子を見に。そしたら領主との交渉に行ったと教えられたので、さすがに心配になって」

 

「……それでどうして食堂に? 話し合いの場に来なかった?」

 

 心配になった男がどうして食事をしているのか。まったく理解出来ない。鬼人の二人も呆れた様子だ。

 

「争いになるようだったら仲裁しないと駄目かなとは思っていた。でも普通に話していたから。それでルナが腹が減ったというので」

 

「ルナ……彼女か。この女の子は?」

 

 知らない女の子がカイトと一緒にいる。我々の話にはまったく興味がないようで、目の前の食事を次々と口の中に放り込んでいる。かなりの大食いだな。

 

「いや、それがいきなり女の子の姿になった。びっくりだ。しかも裸。とりあえず俺のマントを貸したけど、それだけじゃと思って、服を買いにこの街に……あっ、そうか。服を買うのに急いだのだった。腹が減ったのはその後」

 

「まったく分からない。いきなり女の子の姿になったというのは?」

 

「ルナは竜……じゃなくて、普通の女の子だ。俺、何か言ったか?」

 

 明らかに惚けている。ルナは竜。誤魔化そうとしているのは、これだ。女の子は竜? そういうことなのか?

 

「……竜というとお前が倒した竜のことか?」

 

「えっ、何の話? 確かに竜は倒した。パトリオット様が。倒しただろ? しかも、バラバラにした」

 

「確かにそうだが……」

 

 カイトの言う通り、竜は倒し、その死体は部材を得る為に解体された。確実に死んでいる。あの竜が目の前の女の子であるはずがない。

 

「真竜であれば再生出来るな。死と再生を繰り返す真竜は、妾が知る限り、この世界に五竜しかおらん。白竜、光竜とも呼ばれる真竜は天界におるとなっているので、残るは四竜。赤竜、青竜、黄竜、そして黒竜。どれだ?」

 

「……さあ、何の話?」

 

 まだ惚けるか。理由は分からないが、これには無理がある。この鬼人の女王の話を聞くと、女の子は真竜で、四竜のいずれか。そのどれかとなると。

 

「あの竜は漆黒の体だったな」

 

「マイルズ……お前、余計なことを……」

 

「なるほど、黒竜か。これは黒竜殿、お久しぶりですな? 鬼人族のシエラでございます」

 

「んん? あっ、久しぶり。元気そうだ」

 

 女王は黒竜とも知り合い。どういう繋がりなのだ? 私にはまったく分からない。何であれ、カイトには困った状況のようだ。頭を抱えている。

 

「ゆっくり話をするべきだな?」

 

「ああ……それは止めたほうが良い。今の俺はお尋ね者だから。関わるとマイルズも王国から罰を受けることになる」

 

「……何をした? もしかして脱獄か?」

 

 思っていたよりも問題は大きくなっている。王国に追われる身になんて、どうしてなっているのだ? カイトは何をした?

 

「脱獄なんてしてない。退魔兵団に送り返されて、そこで解放。成り行きで兵団長になったら国王に呼び出され、素直に応じて城に行ったら、殺されそうになった。死にたくないから軽く反撃した。誰も殺していないはずだけど、王国は自分が悪いとは認めない。だから俺は犯罪者」

 

「…………」

 

 言葉が出ない。色々と突っ込むところはありそうなのだが、どこから突っ込めば良いか分からない。

 

「それでは妾たちと迷宮で暮らすか?」

 

「それがどれだけ危険なことか分かって言っているのか?」

 

「それは……」

 

 女王も黙らされた。周囲を圧する何か。カイトの中で何かあったのか? 先ほどまでとは、周囲の空気まで変わってしまったように感じる。これほどの圧を感じさせる力をカイトは持っていたのか。

 

「まだ少しやることが残っている。それが終わったら、各地の名所巡りをする予定」

 

「戦争が始まるというのに、観光だと?」

 

 少し雰囲気が緩んだ。名所巡りなんて言い出したのだ。緩んで当然だろう。カイトが何を考えているのか分からない。これから戦争が始まる。それなのに観光を楽しむつもり。そんな場合ではない。

 

「王国は俺を敵と見ている。魔王国もそうだろう。俺の選択肢は両方と戦うか、どちらとも戦わないかの二つ。平和なほうを選んだだけだ」

 

「それは……そうか……」

 

 何を考えているのか分からないのは、カイトではなく、王国か。どうして貴重な戦力を自ら手放したのか。それで大変な目に遭うのは誰だと思っているのか。北部防衛は想定されていたよりも、遥かに厳しいものになる。それは誰のせいなのか? それで命を落とすのは誰なのか?
 戦争とは関係のない生き方をしたい。こう思うカイトの気持ちが、少しだけだが、分かった気がした。

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