月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第117話 出てきた、出てきた

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ ウイリアム ◇◆◇

 

 王国の重臣たちは慌ただしい毎日を送っている。兄上の死がその原因だが、それだけではない。退魔兵団は解散した。今、その拠点はもぬけの殻。速やかに新しい部隊で守りを固めなければならない。正規の王国騎士団、王国兵団の騎士、兵士で編成された部隊だ。
 対魔族戦に特化した退魔兵団とは異なり、普通の部隊。普通なんて言い方をしては、王国騎士団の将たちは不快に思うだろうが、魔族との実戦経験が乏しい騎士や兵士が多いことは事実。その戦力が退魔兵団を上回るとは、私には思えない。カイトが率いる退魔兵団に優るはずがない。
 今この状況でカンバリア魔王国に攻め込まれては、王国は完全に後手を踏むことになる。そうならない為の退魔兵団だったのだ。今の私とは違い、その戦力の評価は低かったが、それでも魔王国の初撃を食い止める役割は期待されていた。先に侵攻されたという事実を作った上で、それへの対応を行う時間を稼げるはずだった。だが今、その防壁は失われている。魔王国はいきなり北部領に踏み入ることが出来るのだ。
 北部貴族への動員令はすでに発せられたと聞いた。アッシュビー公爵となったパトリオットもその命令を受けている。もっとも、動員できる兵力などないアッシュビー公爵家だ。領地に向かうのは先延ばしになっている。当然の措置だ。率いる兵もいないのに戦場に向えなんて命令は、パトリオットに死ねと言っているのと同じだ。
 退魔兵団に代わる部隊の編制と、北部領の防衛計画の見直し、さらに見直し後の計画に基づく、貴族軍の配置、物資の調達などなど。王国騎士団は今もっとも忙しい組織。カイトの行方の捜索など、まったく進んでいないだろう。責められないが、残念ではある。
 イーサンの行方も分からない。イーサンが兄上殺害の犯人であることを示す新たな証拠も見つからない。自宅は綺麗に整理されていて、内通の証拠となるようなものは何もなかった。それでも、もっとも疑わしいことに変わりはない。宰相は謹慎処分となった。
 これも国政を混乱させている原因のひとつだ。文官のトップが更迭となれば、今まで当たり前に出来ていたことも出来なくなる。それだけ宰相の権限は大きかったということだ。ウォーリック侯爵が代行を努めているが、慣れない仕事に苦戦していると聞いている。
 私自身はまだ国政に関わる立場ではない。立太子の儀はまだ先だ。それどころではないというのが実情。結果、鍛錬の毎日を過ごすことになった。クリスティーナは今もまだ心を開いてくれない。パトリオットは王都にいても領主としての仕事はあって、それなりに忙しい。アントンとは、こちらが話す気になれない。エミリーとは、たまに話をするが、なんとなくぎこちない。転生話が二人の間をぎこちなくさせている。鍛錬以外にやれることがなかった。
 今日は久しぶりの公務だ。ザニア王国から使節団が到着したので、その接待だ。兄上の喪中ではあるが、ザニア王国は事件の前に国を発っていた。王都に到着して初めて事件を知ったのだ。喪中だからと追い返すわけにはいかない。それに魔王国との戦いは、本当にいよいよ始まるという今、ザニア王国との関係を強固にしておかなければならない。元々、その目的での来訪なのだ。
 接待といっても正式な使者の相手は、当たり前だが、父上らが行っている。私が相手するのは同行してきた若手騎士たち。同世代の交流を深めようというのものだ。アントンとエミリー、そしてパトリオットも出席している。少し不安だが、少なくとも聖女と認定されたエミリーを外すわけにはいかない。私とエミリーの二人だけというわけにもいかない。アントンとパトリオットは数合わせだ。

 

「貴国の宰相殿のご子息がいないようですが?」

 

「申し訳ない。イーサンはこの頃、体調が優れなくて。このような場に出られる状態ではない」

 

 兄上を殺害した犯人はイーサンであることは、確実になっても、公表されないことになっている。宰相の息子が犯人、さらに利敵行為を行っていたなどという事実を公表出来るはずがない。ミネラウヴァ王国は他国の信用を失ってしまう。

 

「それは心配です。戦力として頼りになる存在とも聞いておりました」

 

 ザニア王国にはこちらの情報が渡っている。渡したのか、勝手に集めたのかは分からないが驚くことではない。我が国に魔王国と戦う力があるかは、他国にとって重要なことだ。

 

「その通りです。ですが、新しい戦力も増えました。今日同席しているパトリオットは<竜殺し>の称号を持つ戦士です」

 

 ザニア王国を不安にさせてはならない。その為に<竜殺し>の称号を使うことはあらかじめパトリオットに伝えてある。いきなり話して、おかしな反応を見せられても困るからだ。

 

「ほう。<竜殺し>ですか? それは見事」

 

「ご心配なく。貴国の竜騎士団の竜を殺してしまったわけではない」

 

「はは、殿下はご冗談も上手だ」

 

 なんとか場を和ませなければならない。話し相手になっている若手騎士の代表らしいフィリップ殿は社交的な面を見せてくれているが、それ以外の騎士たちは、なにやら不満そうな様子。思うところがあるようだ。

 

「彼の妹、クリスティーナは本日同席出来ていないが、彼女も優れた支援魔法の使い手。イーサンの病は心配だが、幸い大きな問題にはなりそうもない。彼には焦らず療養してもらうつもりだ」

 

「クリスティーナ殿……失礼ですが、殿下の元婚約者であったクリスティーナ・アッシュビー殿で?」

 

「……そうだ。幼馴染でもある。婚約については私の意思でどうにか出来ることではなかったが、幼馴染としての関係に変わりはない」

 

 クリスティーナの名を出したのは失敗だったか。彼女についての事実とは異なる悪評が、ザニア王国にも伝わっているのかもしれない。

 

「是非、お会いしたかった。その後、クリスティーナ殿には新しいお話があるのでしょうか? ないようであれば、立候補させていただきたい」

 

「立候補、というのは?」

 

「婚約者に立候補という意味です。クリスティーナ殿のお噂は我が国にも届いております。才色兼備、お美しい御方であり、先ほど殿下がお話になられた通り、優れた支援魔法の使い手でもある」

 

「……申し訳ないが、今はそのような話が出来る状況ではなくて。魔王国との戦いに我々は皆、意識を向けているので」

 

 何故このような話を持ち出してきた? どうしてクリスティーナとの婚約を望む? 冗談であっても受け入れられない。この話はこれで終わりだ。そうしなければ私が我慢できなくなる。

 

「ああ、殿下は勘違いをなされているようです。私ではなく、我が国の第三王子、ジークフリート様の妃として迎え入れたいのです」

 

「……誰が相手でも、話が出来ない状況に変わりはないので」

 

 相手はザニア王国の第三王子。どうしてそこまでのことを考えるのか? ザニア王国は何を知っているのだ?

 

「ご本人の気持ちはどうなのですか?」

 

「彼女も同じだ」

 

 初めて別の騎士が口を開いた。この話題になって、どうして会話に加わる気になったのだろう?

 

「ご本人の口から直接お聞きしたい。クリスティーナ殿は納得されていないのではないですか? 皆さんと一緒に戦うことを受け入れるとは思えない」

 

「失礼だが、貴殿らに分かるはずがない。勝手な想像で彼女の気持ちを代弁するような真似をするのは止めてもらおう」

 

「想像ですか……皆さん、騎士養成学校で学ばれている。そこでの関係はどのようですか? クリスティーナ殿と皆さんは仲良くやれていますか? 我々は違うと思っているのですが?」

 

 騎士養成学校での出来事までザイル王国は知っている。これは計算外だ。そこまでこちらの動向を調べ上げている。だがどうやって?

 

「先ほど伝えた通り、クリスティーナは幼馴染。私だけでなくアントンもイーサンもそうだ。時には喧嘩もあるが、それで一緒に戦えないなんてことにはならない」

 

 どこまで把握されているかは分からない。だが、ここは惚けるしかない。

 

「そういう……何……?」

 

 何かの感覚。魔法であることは間違いない。だがどのような魔法なのか。どうしてこの場で魔法が使われたのか、誰が何の目的で。

 

「誰だ、今、<鑑定>を使ったのは!?」

 

 どのような魔法かはアントンが教えてくれた。<鑑定>を使われた、それが誰かはもう分かる。

 

「無礼ではないか?」

 

「申し訳ございません。どうしても知りたいことがありまして」

 

「我々の実力を知りたいにしても、いきなり<鑑定>はない。一言、断りがあってしかるべきだ」

 

 無断で<鑑定>を使うなどあり得ない。ましてこの場は、正式なものではないとはいえ、外交の場。相手国に対して、無礼が過ぎる。

 

「聞いているのか?」

 

 相手は何やらメモを見ている。同席している仲間が書いて渡したもの。まず間違いなく<鑑定>の結果だろう。

 

「失礼しました。意外な結果に驚いていまして」

 

「……この場は両国の友好関係を固める為の場。そうであるのにこの振る舞いはどういうことだ?」

 

 あまり強いことは言いたくない。だが相手の振る舞いはあまりに酷い。

 

「友好関係を固める……こちらはそうは思っておりません」

 

「何だと……?」

 

「それは無理です。どうして自分たちの国を滅ぼそうとしている相手と仲良く出来ると思うのですか? 私には理解出来ません」

 

「何を言っている? 我が国はそんなことはしない。共に魔王国と戦おうと言っているだけだ」

 

 どうしてこうなる? 相手に同盟を結ぶ気はないのか。ここにいる若い騎士だけがそう考えているのか? そうだとしても、このようなやり方が許されるのか? 許されるはずがない。

 

「なるほど、殿下にはその自覚はない。ですが仲間のお二人はどうですか? アントン殿とエミリー殿の二人は、どう思っているのでしょう?」

 

 アントンとエミリーを名指し。パトリオットを外した理由は何だ? たまたまか。そうでなければ、どういう理由だ? この展開は……悪い予感、予感では済まない不安が心に広がっていく。二人が事の中心になって、これまで良いことなど一度もなかったのだ。

 

「そちらの無礼は許せない。だが、それで国を亡ぼすなんて話になるはずがない」

 

「そうです。私たちは協力し合って、魔王を倒せなければなりません。仲違いしている場合ではないわ」

 

 アントンもエミリーも否定する。それはそうだ。ここで「そのつもりだ」なんて言えるはずがない。

 

「では、その言葉を信じましょう……なんて言えるはずがない。君たちのことは絶対に信用できない」

 

「どうして? どうしてそんな風に私たちを嫌うのですか?」

 

「胸に手を当てて考えてみてください。自分たちの過去の行いを。君たち二人が、もしかするとイーサン殿もかな? 三人がどれほど周りに酷いことをしてきたか」

 

 また三人だ。三人と彼らの間には何かある。三人が恨まれる何かが。

 

「……貴方たち……誰?」

 

「それに答えても君たちは分からないでしょう? その他大勢の我々のことなど。特に君は、我々のことなんて眼中になかった」

 

「委員長のことは分かるのでは?」

 

 委員長というのはフィリップ殿のことなのか? そうだとして、委員長とはどういう役職で、どうしてエミリーたちと関りがあるのか?

 

「委員長としてはそうかもしれませんね。でも名前は知らない」

 

「……ご、ごめんなさい。過去のことは謝るわ。納得するまで謝罪する。だから私、いえ、殿下に協力して」

 

 エミリーは謝罪した。そうしなければならない心当たりがあるということ。彼らに恨まれることをしているのだ。

 

「……協力した結果、我々の国は滅ぼされ、君たちはまた我々を奴隷のように扱う。それが分かっていて、協力する馬鹿はいない。我々を舐めるな」

 

「……魔族に支配されても良いの?」

 

「魔王国は我々が倒す。その為の力は蓄えてきた。元の世界では出来なかった、血を吐くほどの努力をしてきた。君たちへの恨みがそうさせてくれた」

 

 元の世界と彼は言った。彼らもまた自分たちを転生者だと言うのか? これはどういうことだ? エミリーが言っていたことは、本当のことだったのか?

 

「せいぜい足掻け。その様子を我々はのんびり見物している」

 

 フィリップ以外の騎士も同じ恨みを抱いている。だが、そうだとしても。

 

「待ってくれ。それはザニア王国の考えではないだろう? 君たちの恨みは、申し訳ないが私には理解出来ないが、そういう事実があったのだろう。だが個人の恨みで外交を壊すというのは」

 

「問題ない。私の名はジークフリート・キャプリナス。ザニア王国の第三王子だ」

 

「なっ……」

 

 代表はフィリップではなかった、そうこちらに思わせていただけ。ジークフリート第三王子がこの場にいるなんて話は、私は聞いていない。

 

「我が国はもう何年も戦いの準備をしてきた。ミネラウヴァ王国とカンバリア魔王国の両方を相手に戦う準備だ。この世界のストーリーを変える為の準備だ。その準備は整った」

 

「……ジークフリート殿下、貴方は転生の話を信じて……違う。貴方も自分は転生者だと言うのか?」

 

 ジークフリート殿下は周りの話を信じているのではない。彼自身が転生者。そうだと思っているのだ。

 

「ウイリアム殿下には信じられないことだろう。だが、事実だ。だから我が国は戦う備えが出来た」

 

「真実……なのか……?」

 

「貴方には恨みはないが、我が国を、他国も滅ぼすのは勇者である貴方だ。だから二人、いや三人か。三人と共に死んでくれ。それでこの世界は平和になる」

 

「我が国は……」

 

 そんな真似はしない、とは言い切れない。父上と宰相に大陸制覇の野望があることは事実。イーサンに騙されたような話になっているが、二人にその気がなければ踊らされることはなかったはずだ。

 

「我々にも計算違いはある。クリスティーナ殿は味方にしたかった。出来ると思っていた。だがそれはそちらに阻止されたようだ。それでも、我々は負けない。絶対にエンディングを変えてみせる」

 

 どうしてクリスティーナを味方に出来ると思っていたのか。彼に聞かなくてもエミリーに教えてもらえば分かるのだろう。転生が事実かどうかは今もまだ分からない。理解出来ない。だが彼らは、別の国にいても彼らは同じ知識を共有している。これは間違いないことだ。この世界には私が知らない、何かがあるのだ。

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