
◇◆◇ 断空=デニス ◇◆◇
<魔王の柱>なんて、とんでもない称号を得てしまった。何がどうしてこうなったのか。答えはすぐに得られた。同じ称号を夢魔、暴威、無影の三人も与えられていたことが分かった。そうであれば魔王が誰かはすぐに分かる。思い当たる人物はただ一人、黒炎しかいない。
黒炎が魔王。魔族を敵として戦ってきた俺たちが魔王の側近になる。黒炎も我々も魔族になったわけではないはずなので、これまでの敵が味方になったわけではない。立場はそう変わらない。黒炎が本物の魔王にならない限りは。
何故、黒炎が魔王なのかも分かった。分かったと言うには疑問がいくつも残っているが、それでも<魔王の器>なんて加護を与えられた理由は分かった。<悪魔の迷宮>で我々を助けてくれた存在。カイトとは違って滅多に会うことはなかったが、それでも助けられたことはいくつもある。特に強くなるということに関しては、多くの助言を与えてくれて一番助けられた。我々にとっても師匠と呼べる存在だ。
あの人が先代の魔王だった。だからその義理の息子である黒炎も魔王、と呼ぶと黒炎は全力で否定するが、加護に「魔王」という言葉があるのがその関係であることは否定出来ない。先代魔王の後継者と見られることも、絶対にないとは言えないことだ。
カンバリア魔王国は変わらず我々の敵。これは良い。問題は、ミネラウヴァ王国を離れた我々、しかも兵団を解散した我々に魔王国と戦う力があるか。あるとは絶対に言えない。称号を得ただけで力が増した感覚はある。だがそれだけで魔王国に勝てるなんてことは、絶対に思えない。今のままでは、簡単に踏みつぶされてしまう。
ではどうするか? 単純な話だ。今の力では足りないのであれば、もっと力を得る。強くなる。最低でも八芒星王と呼ばれる奴等に一対一でも負けないくらいに。
八芒星王の実力は良く分からない。ここまで強くなれば大丈夫なんて基準はない。いつまでにも分からない。だから、何も考えずに、ただひたすらに強くなる為の努力をするしかない。
「ということで、それぞれ迷宮を選んで、そこで鍛える」
「一人一迷宮ってこと? それはなかなか厳しいね?」
無影の言う通り、迷宮にもよるが、かなり危険な鍛え方だ。我々は長く居た<悪魔の迷宮>でも攻略と言えるような活動はしなかった。生きることだけで精一杯で、わざわざ危険な場所に足を踏み入れるなんてことは、まったく考えなかった。
だが、それでは駄目なのだ。柱将と呼ばれるに相応しい実力を、黒炎の支えとなるに相応しい実力を得るには、思い切ったことをしなければならない。
「厳しくてもやるしかない。それにただ潜るだけでなく、完全攻略を目指さなくてはならない」
単独で迷宮の奥深くまで戦いながら進む。戦いを避けては鍛錬にならない。どれだけ危険な敵が出て来ようとも、勝てるまで戦うのだ。
「完全攻略? 迷宮の主になるってことだね? 頑張るぞっ!」
「住み着いてどうする? そうではなくて、その迷宮で一番強い敵を倒すことで目的達成だ」
夢魔は大丈夫だろうか? 実力はある。精神干渉魔法はかなり強力で、危険な武器。だが迷宮攻略で有効かは分からない。俺のように剣で、暴威のように拳と足で戦うほうが良いように思える。そういう意味では無影も心配だ。
「主を倒して、新たな主になるのは違うの?」
「……主を倒したらそれでその迷宮は終わりだ。別の迷宮に行く」
次に行けるほど時間があれば。これは分からない。魔王が黒炎の存在に気が付くか。気付くとすれば、それはいつか?
「カイトくんはどこに行くのかな?」
「いや、黒炎は行かない。お前、話を聞いていなかったのか?」
そんなはずはない。黒炎は皆を集めて話をした。自分と行動を共にしていると危険であること。だから早く自分から離れろと。すぐに受け入れられなかった。黒炎を見捨てるような真似は出来ないと思った。だが、アレクの言葉が俺たちに、黒炎の言う通りにすることを選択させた。「足手まといになる」。今の我々であれば「いない方が黒炎は戦いやすい」。こう言われたのだ。
頭にきた。だが、反論出来なかった。魔王国の重臣たちと、場合によっては魔王と、戦って勝てる自信はなかった。
「聞いていたよ。強くなればカイトくんの側に戻れるのでしょ? ミユウはすぐに戻るから、カイトくんがどこにいるか知っておかないと」
「……そうだな」
夢魔は俺のようには考えない。カイトの側にいることが彼女の望み。その為には強くならなければいけないとなれば、強くなる。なれるかどうかなんて考えないのだろう。迷いのない夢魔が羨ましい。迷いなく突き進む彼女はきっと強くなる。
「でも、カイトくんがどこに行くかは聞いていなかったの」
「あいつは話さなかった。あちこち行くとしか」
目的地はない。言葉通り、行く宛てなく「あちこち」に行くつもりなのだろう。黒炎は大切な家族を失った。家族になるはずだった女性を失った。きっと心の傷を癒す時間が必要なのだ。
「あちこち……それだと分からないよ?」
「彼がどこにいるかは、私たちが教えてあげる」
「おっ? ライバル登場」
いきなり、気配もなく、現れた女性。無影も驚いている。ただ夢魔は何者か知っているようだ。「ライバル」は確か、競争相手のこと。夢魔の競争相手……分からん。魔族であることだけは分かる。
「それと、この地図もあげる」
「……これは何の地図? その前に貴女は?」
「えっ、聞いていないの? 私はモリガン。これはカイトに貰った名ね。サキュパス族よ」
「いや、聞いていた。ただ貴女がそのモリガンだとは分からなくて」
分かるはずがない。会うのは初めてなのだ。
「ああ……この姿で覚えても意味ないから。魔力の匂いで覚えて」
「簡単に言われても……」
そんな真似は出来ない。まったく出来ないわけではないが、特定出来るようになるまでになるには、相当な時間がかかるだろう。
「面倒くさいわね。じゃあ、良いわ。話を進めるわね? この地図に書かれている印は迷宮のあるところ。丸が夢魔、三角が断空、四角が暴威、バツが無影が行く場所」
「……どういうこと?」
どうしてサキュパス族のモリガンが、我々が行く迷宮を決めるのか。そもそもどうして我々が迷宮に行くことを知っているのか?
「貴方たちには強くなってもらわなければいけない。最低でも柱将を名乗るのに恥ずかしくないくらいには」
「それは……分かっている」
我々と同じことをモリガンも考えていたということか。それだけ今の我々では実力不足ということだ。
「貴方たちにはそれぞれ二カ所の迷宮に行ってもらうわ。私たちが知る情報から考えた、得意を伸ばせる獲物がいる迷宮と、苦手とする獲物がいる迷宮。先に得意を伸ばせる迷宮に行くことをお勧めするわ」
「それは助かる……が、この地図は……」
良く知る地図ではない。ミネラウヴァ王国の領土も含まれている。だが、大部分はその北だろう場所。つまり、カンバリア魔王国の領土だ。
「すでに人族が入っている生温い迷宮では意味ないでしょ? あっ、一応、貴方たちのことを考えて、比較的見つかりにくい場所を選んではいるから」
「……分かった」
いきなり魔王国に乗り込むことになる。見つかりにくい場所という話はどこまで信用出来るのか分からない。だが、今のままではどうせ死ぬ。だったらやるしかない。
「良い覚悟ね。第一歩としては合格よ。でも、まだほんの一歩。柱将の称号は、先代魔王様がもっとも信頼していた仲間に与えていたもの。半端な貴方たちが名乗ることは、魔族である私たちが許さない。だから死ぬ気でやって。それで駄目なら、死になさい」
「……死なない。必ずやり遂げる」
「俺も」
「当然、僕も」
「ミユウに不可能の文字はない」
魔族の期待に応える。どこまで期待されているか分からないが、そんな感じだ。おかしな話だ。魔族を敵として、命を捨てて戦わされるはずだった俺たちが、こうして魔族の協力を得ている。魔王と戦うつもりの俺たちに魔族が協力している。
黒炎は、カイトは嫌がるだろうな。これはあいつへの期待だ。俺たちは、魔族であるモリガンも、もしかすると他の魔族も、カイトに期待している。何を期待するのか? あいつが立ち上がることを、立ち上がって何かをやらかしてくれることを期待しているのだ。