月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第115話 往生際が良過ぎるのでは?

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ イーサン ◇◆◇

 

 ずっとこの日を待ち望んでいた。前世の記憶が戻り、この世界がゲーム世界で、自分がその登場人物だと分かった時は胸が踊った。主人公ではないことに、少しはがっかりしたけど、それでも勇者パーティーの一人。重要キャラであり、前世の記憶がある自分なら色々とやりようはあると思った。ゲーム転生のアニメで、主人公がストーリーを変えていくなんていうのは珍しくないことだ。自分にもそれが出来ると思っていた。
 その期待が絶望に変わったのは、アントンもまた転生者であること、しかもよりにもよって榊礼音であることが分かった時だ。最初から最悪だった。転生者であることに気付いた時点で、すぐに<鑑定>を行えば良かった。だが驚きの感情を素直に言葉にしてしまった。相手に自分も転生者であることが知られてしまった。アントンが榊であると分かった時はすでに手遅れ。僕が僕でなくても榊には関係ない。同級生の誰であっても自分に従うのが当然。この世界の榊も、王国貴族の中でもっとも力があるウォーリック侯爵家の嫡男。元の世界と同じで実家の力は、僕のそれよりも上だった。
 また以前と同じ力関係。それでは僕は主人公にはなれない。人に活躍を称えられることはない。蔑まれることはあっても。元の世界と同じだ。
 よく陰口を叩かれた。「虎の威を借る狐」というのが定番。実際にそういう立場だったけど、それは僕が望んだことではない。周囲が勝手に榊に怯え、その彼に良いように使われている僕にも、文句を言えなくなっただけだ。
 少しは偉そうにしていたかもしれない。でもそれだって榊にそうするように命じられたから。あいつは自分だけでなく、自分の周りにいる人が舐められることも許せない。だから僕が舐められることも許さなかった。僕が舐められそうな態度を見せることも許さなかった。だからだ。
 榊の近くにいない奴等には僕の苦労は分からない。だから、僕のほうから榊に取り入ったのだと思われていた。美味しい思いなんてしていない。唯一、金払いは良かった。榊に文句を言わずに従っていれば、美味しいものをタダで食べることが出来た。遊びは全てタダだった。
 でもそれは普段、自分のプライドを捨てて、あらゆる我が儘、無茶ぶりに耐えてきたことへの報酬。羨む奴らは僕と同じ目に遭ってみろと思っていた。
 もう同じ思いはしたくなかった。榊の呪縛から抜け出したかった。その為にはどうすれば良いかを考えた。
 幸いだったのは榊は僕ほどこの世界に詳しくなかったこと。この世界の知識を武器にすれば、榊を上回ることが出来る。こう考え、実行に移した。
 元の世界と同じで榊は、面倒なことを全て人任せ。この世界では全て僕に頼りっきりだ。だから、榊が知るこの世界の知識とは大きくずれない程度の嘘を重ね、榊を動かした。この世界では僕のほうが榊を操れた。
 でも、その程度では満足しない。榊には、あと元の世界で彼の彼女だった金城にも、栄光なんて与えてやらない。この世界で英雄になることなんて許さない。二人には夢を見させるだけ見させてから、どん底に突き落としてやる。こう決めた。
 その為の力は、復讐を誓う前から手に入れていた。父親はこの国の宰相。多くの権限を持っている。後を継ぐ前にこの権力を手に入れるにはどうすれば良いかを考え、思いついたのは<未来視>のスキルを持っているように装うこと。王国の未来はこう、その為にはこうしなければならない。こう言って、父親に言うことを聞いてもらう。榊以上の自分の操り人形にするのだ。
 ゲーム知識を使って、近い将来に起こることを予言してみせた。これには結構、苦労した。ゲームが始まる前の知識なんて、たかが知れている。どこの誰が将来こうなるくらい。エミリー・セイが聖女であると予言することなんて、その代表だ。エミリーが金城であったことは予想出来なかったが。
 それはそうだ。僕には<未来視>のスキルなんてないのだから。
 こうしたことを積み重ね、父上の信頼を勝ち得ていった。僕の言う通りにすれば、王国の未来は栄光に輝く。父上はこう信じて、言う通りにしてくれた。僕の頼みは栄光どころか、滅亡に繋がるなんて思いもしないで。
 この世界の歴史をゲームとは異なるものにすること、カンバリア魔王国を勝たせることが二人への最高の復讐だ。ミネラウヴァ王国を滅ぼす必要はない。二人が惨敗すれば良いだけなのだけど、これは実現が難しい。カンバリア魔王国を勝たせるしかない。
 ただ、カンバリア魔王国を勝たせるだけで終わりにしては、復讐はなっても、僕の人生も終わってしまう。一国の宰相の息子。のちには自分も宰相になる。この立場を捨てるのは惜しい。この点をどうするかが課題だった。
 だがこの課題も解決した。何もしなくても解決策のほうがやってきた。魔王国からの誘いだ。魔王国に協力する見返りに重臣の地位を得る。ミネラウヴァ王国を滅ぼした後は、領土の一部が自分の物になる。魔王国の場合は、重臣も王と呼ばれ、領地については好き放題出来ると聞いた。完全自治が許されるのだ。そうなれば宰相よりも地位は上。得られるものも大きい。
 問題は魔王国を信用出来るか。ただ約束が成立してしまえば、人族よりも魔族のほうが信用出来る。魔族は約束を破らないことを僕は知っている。
 そして今日が訪れた。予定よりも早まったのはいくつもの誤算が積み重なったせい。特に久住海斗の存在は誤算だった。警戒はしていた。<鑑定>で調べてもいる。そういえば、どうして<鑑定>では分からなかったのか? 何か誤魔化す方法があるのか? これは聞きたかった。
 もっと早く分かっていれば、久住と協力することも考えられたのに。退魔兵団を味方につけられれば、それも手柄になった。でも、これは無理か。久住は僕とは組まない。そういう段階ではなくなっていた。それで後悔するのは久住のほうだ。僕はかまわない。

 

「連れてきました」

 

 廊下を延々と歩かされて、ようやくたどり着いた部屋。円卓に魔族たちが座っている。どれが魔王なのか? 入口から一番遠い奴が恐らくそうだろう。それ以外の魔族はカンバリア魔王国の重臣たち。八芒星王という。僕も今日からその一員だ。

 

「……お前がイーサンか?」

 

「はい。魔王様、でよろしいですか?」

 

 思っていたのとは異なる風貌。魔王というのはもっと厳つい、強面を想像していた。目の前のこの男は細身で、魔王というより、父上と同じ宰相といった感じだ。

 

「そうだ。ミネラウヴァ王国のアーサー第一王子を殺したと聞いた。これに間違いはないか?」

 

「はい。アーサー第一王子はこの手で殺しました」

 

「そうか……ご苦労だったな。下がって良い」

 

「下がって……? ちょっと待ってください。これで終わりですか?」

 

 与えられたのはアーサー第一王子を殺したことへの労いだけ。これで終わりのはずがない。それでは約束が違う。

 

「他に何がある?」

 

「八芒星王の地位を頂くことを約束しております。ミネラウヴァ王国を滅ぼしたあとは、その領土の一部を頂くこと。家族の身の安全と、父には魔王国において、しかるべき地位を与えてくれることも」

 

 他にも金銭的な褒賞に魔王国での屋敷、使用人などなど、いくつもの約束がある。

 

「……知らん」

 

「知らんって……そんな馬鹿な? 魔族が約束を破るのですか!?」

 

「約束は破らない。だが私はいつお前とそんな約束をした? していないはずだ。していれば、約束を反故にしたとなって、私は苦しみを与えられるはずだ」

 

「そんな……確かに魔王様と直接、約束したわけではありません。ですが、魔王国の使者と約束を。その者は間違いなく魔王国の使者でした」

 

 魔王と会うのは初めてだ。でも約束した相手は間違いなく、魔王国の使者だった。それは念入りに確かめた。この城に来たのだって初めてではない。魔王国の使者に、魔王には会えなかったが、連れてきてもらっている。

 

「偽物に騙されたのではないか?」

 

「いいえ、違います。確かに本物の使者です。その使者は、そこに座っているのですから」

 

 本人がこの場にいる。円卓に座っている。八芒星王の一人。その約束を反故にすることなんて出来ないはずだ。

 

「夜王か……心当たりは?」

 

「この者は勘違いしているようです。確かに私はこの者が約束をしているのを側で聞いておりました。騙されていることに同情しながら」

 

「ふざけるな! お前は約束の場に同席していた! この城に連れてきたのもお前だ!」

 

 この魔族は何を言っているのか? こんな詭弁が許されるのか。魔族は嘘をつけない。これに間違いはないはず。さきほど魔王もそれを認めるようなことを言っている。

 

「確かに同席していた。この城に連れてきてもいる。でも僕は何も約束していない。君が交渉し、約束したのは僕ではなく、僕のすぐ近くにいた人族だ」

 

「……だ、騙したな!?」

 

「騙したのではなく、そっちが勝手に勘違いした。勘違いするように仕向けたことは認める。でも、悪いのは騙されたお前だ」

 

「そんな馬鹿な? こんな真似が許されるのですか、魔王様!?」

 

 夜王と呼ばれた魔族に私は騙された。そんなはずがない。このような卑怯な真似が許されるはずがない。魔族は、悪ではあっても、ある面では無駄に誠実。それが弱点にもなり、人族につけ入る隙を与えてしまう。そうであるはずだ。

 

「……約束を破ったわけではない。愚か者を騙しただけのこと。問題は騙される愚か者の側にあるのだ。夜王に非はない」

 

「そんな……そんな馬鹿な!?」

 

 私はどうなる? 私の家族はどうなる? 戦争は魔王国の勝利で終わる。私の裏切りの結果、そうなる。そんなエンディングはあってはならない。私は、この世界で英雄になることが決まっているはずだ。

 

「愚かな野心を抱くからだ。正に自業自得」

 

 この魔族だ。夜王と呼ばれるこの魔族が私の計画を台無しにした。いや、計画は上手く行ったのだ。魔王国は勝利する。これは全て私のおかげだ。

 

「……魔王国の勝利は私の功績があってのこと。その点を認めてもらいたい。私はこの夜王などという者よりも、遥かに役に立つ。私をこそ、八芒星王にするべきです!」

 

「ふむ……夜王、どうか?」

 

「……私のパシリとして使うことも考えましたが、役に立たないと判断しました」

 

「何だって?」

 

 ふざけたことを言っている。どうして私がこんな奴のパシリに……パシリだって?

 

「自分の功績などと誇っていますが、この者は私に操られていただけ。私の思う通りに動くことしか出来ない無能ですから」

 

「なるほど。無能な愚か者か。では、不要だ」

 

「……待て……夜王とかいう奴。お前は……」

 

 酷い言われようだ。だが今はそれにいちいち文句を返していられない。そんなことよりも、先に確かめなければならないことがある。この夜王という奴は何者なのかを。

 

「文句があるか? 人の言いなりになるしかないお前は無能だろ? さらに、虎の威を借りる狐が後ろ盾の虎を裏切った。これが無能でなくて何だ?」

 

「お前は誰だ!? 元の世界の名を名乗れ!」

 

 こいつも転生者だ。私のことを、こんな風に言うのは元の世界を知っているから。間違いない。

 

「それを知ってどうなる? どうにもならない。お前がやったことを僕は忘れない。絶対に許さない」

 

「……誰だ?」

 

「心当たりが多すぎて、分からないだろうな。この質問に答えたら、教えても良い。お前の他に誰がいる? 榊もいるのだろ? 勇者がそうか?」

 

 榊に虐められた誰か。こんなことは、すぐに分かった。その中の誰だかが分からない。こいつの言う通り、心当たりが多すぎる。

 

「……復讐のつもりか?」

 

「ああ、そうだ。お前たちは絶対に許さない。この世界でまで良い思いをするなんてことが許せるはずがない。僕が味わった苦しみの何倍もの苦痛を与えて、殺してやる」

 

「……軽いな」

 

 何が苦しみだ。こいつは私の苦しみを知らない。私の苦しみが、自分のそれとそう変わらないことが分かっていない。そうであるのに「復讐」なんて言葉を使う。こいつにそれを言う資格があるのか? そう、私にもない。私には復讐を語る資格なんてなかった。だからこうなった。バッドエンドだ。

 

「何が軽い?」

 

「君の復讐だ」

 

「……ふざけるな」

 

「ふざけてなんていない。アントン・ウォーリック、ウォーリック侯爵家の嫡男が榊だ。金城もいる。エミリー、聖女だ。せいぜい頑張れ。君が頑張れば、私の目的も果たせる」

 

 榊と金城も殺されれば、それで私の復讐は達成だ。その結果を見られないのは悔しいが……そう、悔しい、悔しい、悔しい。どうして私は死ななければならない? 私は罰せられて、こいつは許される? そんな不公平が許されるのか? 許されるはずがない。世の中は平等でなければならない。

 

「……負け惜しみか?」

 

「今はどうとでも受け取れば良い。でも、君もいずれ知ることになるはずだ。私が今どう思っているかを」

 

「意味の分からないことを言うな」

 

「意味はいずれ分かると言っている。その時を待て」

 

 名前を聞かなくても分かる、同じクラスであることは決まっている。そうであれば、被害者ぶっているが、こいつも加害者だ。復讐される側の人間だ。それを思い知る時が、いずれくる。必ず来る。そうだよな、久住? お前も許せないよな? 私たちのことを、同じクラスだった全員を。

 

「お、おい!? 何を――?」

 

 この世界はお前の復讐の舞台だ。好きなようにすれば良い。私は……ここで退場だ。自ら降りる。そう決めた。ああ、痛い。痛みなく死ねるスキルがあれば良かったのに……だが、意外と怖くない。一度死んでいるからか……そういえば、私は……元の世界では……どのように……死んだの……だろう……

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