月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第113話 真実は妄想の中にある

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ ウイリアム ◇◆◇

 

 兄上が亡くなった。あまりに突然で、信じがたい話。だが近衛騎士が嘘の報告で我々を驚かそうとするはずがない。これは事実なのだ。兄上は亡くなった。でも、何故?

 

「死因は?」

 

「恐らくは……殺されたものと」

 

 騎士団長の問いに、これもまたまさかの、答えを近衛騎士は返した。

 

「誰によるものだ? もしかして、カイトか?」

 

 カイトである可能性。それを王国騎士団長は考えた。これは私も同じだ。真っ先に浮かんだ名はカイトだった。今、王国に反逆する者がいるとすればカイトしかいない。いや、魔王国の可能性があった。真っ先に考える犯人を私は間違えた。

 

「それが……最後に殿下に会っていたのは……イーサン殿です」

 

「ば、馬鹿な? それは、ただ会っていただけで……そんなことはあり得ない!」

 

 まさかの名前、宰相の狼狽ぶりは当然だろう。事実だと信じていない。信じたくない。これは私も同じだ。イーサンが兄上を殺すなんてあり得ない。

 

「どうしてイーサン殿が疑われる?」

 

「直接の死因は毒と思われます。まだ調査中ですが、紅茶に入れられていた可能性が高く、それもアーサー殿下が飲まれたもののみ。さらに転移魔法を使って、逃走した可能性が」

 

「それこそ、カイトが疑われるのではないのか? ……いや……カイトはアーサー殿下と面識がありましたか?」

 

「ないはずだ」

 

 カイトと兄上には面識がない。交流のない相手と、しかも、直前に大騒ぎを起こしたばかりの人物と、自室で二人きりで会うなど考えづらい。その場にいたのがカイトである可能性は極めて低い。そしてイーサンがその場にいたのは間違いない。

 

「転移魔法でカイトが侵入した可能性だってあります!」

 

「いつどのようにしてカイトが兄上の部屋に転移魔法を? 転移してきたのではなく、転移したのだ」

 

「殿下のお考えの通りです。魔法の痕跡があるだけで、魔法陣そのものは見つかっておりません。部屋から出る時に使ったというのが魔法士団の見解です」

 

 私の考えを近衛騎士が証明してくれた。これでカイトが犯人である可能性はほとんどなくなった。カイトは部屋に入ることが出来ず、そこにイーサンがいたことは証言者がいる。兄上とイーサンだけが部屋にいたのだ、

 

「そんな……どうして、イーサンがそんな……あり得ない」

 

 あり得ない。だが状況証拠は犯人がイーサンであることを示している。新たな証拠が見つからない限り、彼が犯人で間違いない。だが動機は? 何故、イーサンは兄上を?

 

「魔王国に通じていたから」

 

「何だって?」

 

 クリスティーナの呟き。近頃の彼女は口数が少ない。意味が良く分からないことが時々ある。これは、今は気にすることではないか。原因も分かっている。

 

「カイトは宰相が魔王国の内通者だと言ったわ。でもあれは本当の内通者を炙り出す為。実際に炙り出された。それがイーサン」 

 

 見逃していた。いや、そこまで考えが回らなかった。確かにカイトは宰相を内通者だと疑う発言をしていた。だが、それに反応したのはイーサンだった。

 

「ああ、もうあの男は! どうして肝心なことを話さないで消えるのよ!?」

 

「エ、エミリー?」

 

「少し無礼をお許しください。前世の私で考えます、そのほうが思いつくことがきっとある」

 

「前世って……」

 

 どうしても異世界からの転生者でありたいようだ。ここまでくると何と言うか……正気を疑ってしまう。

 

「何かある……あいつは何を言った? 実はヒントを残している。そんな感じだった……何か、何か、何か……」

 

 本気で考えてはいるようだ。私が知るエミリーとも確かに雰囲気が違う。転生者になりきっているのだろうか?

 

「イーサンとの最後のやり取り」

 

「それだ! クリスティーナさん、ナイス!」

 

「……ナイス?」

 

 訳の分からない言葉まで口にした。

 

「陛下、私はアーサーの元に」

 

「ああ、そうだな。私もこれが終わったらすぐに行く……大丈夫か?」

 

「……大丈夫ではありませんが……陛下の妃としての振る舞いは忘れません」

 

「すまない」

 

 臣下を動揺させない為に毅然とした態度であらねばならない。息子が亡くなっても取り乱すことも出来ない。王家の人間というのは、私もそうだが、人としての感情を捨てなければ務まらない。頭では分かっている。だが私に出来るのだろうか?

 

「勇者を無効化……無効化……駄目だ。クリスティーナさん、他にヒントない? カイトは何か言っていなかった?」

 

「……あっ」

 

「あるのね!? それは何?」

 

「以前、殿下が魔族に襲われた時の話を聞いて、狙う相手が違うって……でも独り言のような呟きで、具体的なことは何も」

 

 狙う相手が違う。その狙うべき相手が兄上。だがどうしてカイトはそう考えたのか? 結局、分からないままだ。

 

「……無効化とは恐らく、ウイリアムを戦場に出せなくすることだ」

 

「父上?」

 

「悪魔に狙われていると分かっていて、お前を野外授業に行かせられたのは、アーサーがいたからだ。アーサーが国を統べて、お前は勇者としての力を戦場で振るう。お前には少し冷たい考えだ」

 

「……私に万一があっても兄上がいれば国は安泰、ですか……いえ、その通りです。私も兄上がいるから戦場に出ることに不安はありませんでした」

 

 だがその兄上が亡くなったとなれば、王国の王位継承権保持者は私だけになる。私に万一があれば王国は後継者を失う。その危険を覚悟で私は戦場に出られるのか。父上は出してくれるのか。戦争となれば、気にしていられないはずだが、迷いは生まれるかもしれない。

 

「そしてもう一人の王家継承権保持者も王国は失った」

 

「エミリー?」

 

「自ら手放した。どうしてですか? どうして宰相はカイトを……まさかこれもイーサンの差し金?」

 

「王国の為です。イーサンも王国の為をいつも思っていた。こんな真似をするはずがなかった。これもまた王国の未来の為だとしても……アーサー殿下を弑逆なんて……」

 

 王国の為、それが理由であれば何でも許されるものではない。そもそも兄上を殺すことが王国の為になるはずがない。宰相は何故、こんな言い方をする?

 

「王国ではなく魔王国の為ですから。ただ問題はどうしてイーサンが魔王国に協力なんて……私と一緒に……嘘、まさか?」

 

「何か分かったのか?」

 

「……これは絶対に信じてもらえません」

 

「何でも良い。とにかく話してくれ。何が真実に近づくきっかけになるかは分からない」

 

 異世界からの転生者話は平気で話すエミリーが、信じてもらえないと考える話。それはどういう内容なのか。ここまでくると少し興味が湧いてきた。

 

「……私たちはこの世界はゲーム、いえ、物語の世界だと思っていました」

 

「はっ?」

 

「そういう反応ですよね? もう良いです。とにかく話します。国の名前も出会う人たちも自分の名も、その物語に出てくるものと同じ。その物語と同じように世界は進むと考えていました。今も少し」

 

 想像上の妄想。いや本気で話しているのかもしれない。いつもこの妄想をエミリーは考え、それが現実だと思い込んでしまった。こういうことなのかもしれない。

 

「イーサンは宰相に、こう言いませんでしたか? ミネラウヴァ王国は魔王国に勝つだけでなく、この亜大陸を統べる覇者になる。全ての国を支配する帝国になる。その為にはウイリアム殿下を王に、私を王妃にしなければならないと」

 

「……言った。だがそれは王国の未来がそうあることを望んで」

 

「でも宰相はそれを信じて、イーサンの言うがままに動いた。クリスティーナさんのことも、カイトのことも。他にも色々と。違いますか?」

 

「それは……イーサンには<未来視>のスキルがあって、その通りに実際に事が起こり……」

 

 宰相までおかしなことを言いだした。<未来視>とは恐らく未来が分かるスキル。そんなものがあったら、確かに覇者になれるかもしれない。だがそんなスキルがあるはずがない。少なくとも私は聞いたことがない。

 

「それはスキルではありません。さっき私が言った物語を話していただけ。私が聖女であることも、その物語にそう書かれているから」

 

「……あり得ない。そんなことはあり得ない! そんな世界があるはずがない! では我々は何の為に生きている!? 私は何だ!?」

 

「はい。私も今はそう思っています。記憶にある物語に酷似しているけど、ここは違う世界。私たちが知る物語通りには事は進まない。でもイーサンはこう思わず、自ら物語を変えようとした」

 

「…………」

 

 魔王国を勝たせる為に。理解出来ない考えだが、イーサンが魔王国の為に動いたのは事実だ。兄上を失った影響は戦争にまで波及する。国王である父上がそう思っているのだから間違いない。

 

「カイトは? カイトはその物語ではどういう役割なのかしら?」

 

 クリスティーナまで。いや、これはただの興味か。

 

「カイトはその物語には登場しません。でも、そのカイトを中心に、少なくとも王国は動いている。だからこの世界は物語の世界と違う。こう思えました」

 

 カイトを中心にとエミリーは言う。そんなことはない、カイトが与える影響は王国全体から見れば、わずかだ。それでもそう思う何かが……これも妄想か?

 

「もう良い。これ以上、話しても結論は出ない」

 

「少なくともカイトを探す決断はすべきではないですか? 王国はカイトを必要としているはずです」

 

「……彼に王位継承権は渡せない。誰も認めない」

 

「でも……」

 

 証拠は何もない。いきなりカイトは私の双子の弟だと、たとえ父上が認めても臣民が認めない。そんな単純なものではない。下手すれば王国内で争いが起きる可能性もある。双子では序列が曖昧になってしまう。だから双子は忌み嫌われるのだ。
 だが、カイトは探さねければならない。

 

「彼が本気を出していれば、あの場にいた全員が殺されていたかもしれません」

 

「騎士団長? 何を言い出す?」

 

「そう思わせるものがありました。少なくとも彼は全力を出していない。あの力は王国の為になります」

 

 王国騎士団長も同じ考え。いや、戦力としてだけの評価か。それではカイトは動かない。彼は戦場に出る気はない。クリスティーナに危険が迫らない限り。そしてその危険は、彼女に近づく前に私が防ぐ。こう誓ったのだ。

 

「探せと?」

 

「いえ、あのようなことがあったからには行方を捜索することは決まっております。ただ、罪を問う為の捜索では。そこは、ご英断を」

 

「……分かった。これまでの行いは全て許す、罪は問わない。その上で行方を捜せ」

 

「御意」

 

 決まったのはこれだけ。この先、王国はどうなるのか。不安ばかりだ。

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