月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第111話 まあ、こういう展開だろうとは思っていた

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ ウイリアム ◇◆◇

 

 大広間に多くの人が集まっている。少し多すぎだと私は思う。和解の場にするのであれば、もっと気安く、寛げる場を設けるべき。今のこの場は仰々しい。緊張感まで漂っている。
 対応をまったく理解出来ないわけではない。退魔兵団は敵か味方か。味方に決まっていると言いたいところだが、周りに信じさせる何かがあるわけではない。父上が、国王が対面する場で警戒を強めるのは仕方がない。
 そうだとしても王国騎士団長と七星将が四人もいたのでは、カイトのほうも警戒するだろう。その警戒を解くことから始めなくてはならない。父上は、宰相は考えられているのか。

 

「カルス男爵、退魔兵団兵団長、カイト・カルス! 入場!」

 

 大仰だ。儀式であるのだから仕方がない。だがやはり、もっと寛げる場にするべきだった。
 大扉が開き、カイトが入場してきた。わずかなどよめきは何が理由か? 前に近づいてきたことで理由かもしれないことが分かった。カイトの髪は真っ白になっていた。病気か、それともあの日のことが原因か?

 

「止まれ!」

 

 指示を受けて、カイトが足を止めた。ここまで案内してきた近衛騎士たちは彼のやや後ろ、左右に並ぶ。

 

「カルス男爵、退魔兵団兵団長、カイト・カルス! 汝はミネラウヴァ王国、そしてミネラウヴァ王国そのものである国王陛下に忠誠を誓うか!?」

 

 いきなり忠誠を求めてきた。これも儀式の段取りというものか。形式ばったやり方をカイトが好むとは思えない。配慮がなさ過ぎる。

 

「私は生まれ落ちた時からミネラウヴァ王国の民であり、国王陛下の臣民。今更問われることではないと思いますが、お求めとあれば」

 

 カイトは素直に従う姿勢を見せた。いきなり決裂とはならなかった。それはそうか。そのつもりであれば、この場に来ることもない。

 

「では、その場に跪き」

 

「恐れながら、その前にひとつ確認したいことがございます」

 

「陛下への忠誠を拒否すると?」

 

「そうは言っておりません。順番に片づけるべきことを片付けて頂きたいまで。アッシュビー公爵の件です。公爵の処分はいかがなりましょう? 罰を受けることが決まっているのであれば、跡継ぎはどなたに決まりましたか?」

 

 パトリオットの地位を確定させようという考えか。気持ちは分かる。だが、先に話すべきことかとなると、間違いだ。王国側から見れば。

 

「忠誠を誓う代わりに、要求を呑めと?」

 

 こう受け取られる。カイトに良い感情に持っていそうもない宰相であれば尚更だ。

 

「そんなつもりはございません。我が本部での一件の前にこちらから書状を送っております。先に動いた件を先に確認したいまで。それと私はさきほど、カルス男爵、そして退魔兵団兵団長と呼ばれました。前兵団長であるガレス・カルスの罪をお認めになられたことが分かりましたので、もう一人はどうなのだろうと」

 

 意外に雄弁だ。養成学校でアントンたちを言い負かしている場面を何度か見ていて、分かっていたつもりだったが、このような場でも同じことが出来るとは思わなった。退魔兵団ではなく、王国騎士団長でも務まるのでははないか。こう思えるくらいだ。

 

「良い。宰相、伝えてやれ」

 

「御意。訴えにあったアッシュビー公爵の罪も事実と認め、処分が決まっている。当主の地位ははく奪、当然、爵位もはく奪。後継者には……パトリオットを任命する」

 

 これでパトリオットの地位は確定。パトリオットはアッシュビー家の当主となり、公爵位も受け継ぐことになる。最高の決定だ。

 

「我が訴えをお認め頂き、ありがとうございます。陛下のご英断に敬意を表します。いえ、英主であらせられる陛下には今の言葉は侮辱ですか。どうかお許しを」

 

「……良い。気にしておらん」

 

 カイトの態度に父上も戸惑っている。それはそうだろう。退魔兵団の兵士にこのような振る舞いが出来るはずがない、私でもこう思っていた。

 

「偉大なる国王陛下に改めて、忠誠を誓います。退魔兵団はその身を盾として、陛下を、ミネラウヴァ王国をお守りします。これは退魔兵団全団員の誓いとお受け取り下さい」

 

「……うむ、その言葉嬉しく思う。皆の働きに期待している」

 

 父上は戸惑っている? カイトの態度に対する戸惑いか、それともこんなはずではなかったとでも思っているのか。何だ? 私の知らないところで何かが動いているのか?

 

「カルス男爵。良い言葉だ。それが詭弁でなければ」

 

「詭弁? 宰相閣下は何をおっしゃっているのですか?」

 

 やはり何かある。宰相はカイトの言葉を詭弁と断じている。忠誠を受け取るつもりがないのだ。どうして愚かな真似をするのか? 宰相は自分がしていることが分かっているのか?

 

「宰相、カルス男爵は納得していないようだが?」

 

「納得できない振りをしているだけです、陛下。カルス男爵は退魔兵団全団員の誓いと申しました。ですが、その退魔兵団はすでに存在しておりません」

 

「なんと? 宰相の言葉は事実なのか、カルス男爵?」

 

 父上も組している。白々しい演技だ。見ているこちらが恥ずかしくなる。何故だ? 何故、王国はカイトを、退魔兵団を認めないのだ? 重要性は分かっているはずなのに、こうして自ら裏切るような真似をするのだ?

 

「はて? 宰相閣下はいつそれをお知りになったのでしょう?」

 

「三日ほど前です。危なかった。この情報を得ていなければ、まんまと騙されるところでした」

 

「……なるほどな。お前だったか、魔王国と通じているのは。やっと分かった」

 

 カイトは何を言った? 耳を疑う言葉。周囲にもざわめきが広がっていく。

 

「戯言を! そのような虚言で誤魔化せると思っているのですか!?」

 

「でも宰相、退魔兵団を解散したのがその三日前だ。どうして遠く離れた場所での出来事をその日の内に知ることが出来た?」

 

「何ですって……? 馬鹿な。それも嘘に決まっている!」

 

 もしかして、嵌められたのは宰相のほうなのか? カイトは裏切り者の正体を暴く為に召喚に応じたのか? カイトの新たな訴えは、事実なのか?

 

「では、誰がその情報を? ちなみに時間はかかるでしょうけど、私の証言は近くの村に住む人たちが証明してくれます。ここに来る前に危険だからと伝えておきました」

 

「……貴様こそ、三日前に出発してどうしてここにいられるのです? これがもう嘘である証拠です」

 

「移動出来ます。証明しても良い。まあ、それはそれで罪に問われますけど、国を裏切ることに比べればねえ?」

 

 転移魔法を使ったのだ。それであれば三日で移動出来る。転移魔法の使用はカイトが言っている通り、罪に問われるが、そんなことは気にしていないだろう。

 

「証明なんて出来るはずがない」

 

「じゃあ、ネタばらしを。転移魔法を使いました。どこかの誰かが……クリスティーナ様を殺そうとして使ったのと同じものです」

 

「……言いがかりは止めなさい。私はそんなことをしていない」

 

 クリスティーナの暗殺を試みたのも宰相。それが事実であれば許せない。間違いなくカイトはそれを疑っている。だからだ。だから危険を犯しても内通者を暴こうとしているのだ。クリスティーナに二度と手出しさせない為に。

 

「ではもう一度聞きます。誰が退魔兵団解散の情報を貴方に伝えたのですか?」

 

「それは……」

 

 何故、宰相は答えを躊躇うのか。後ろめたいことがないのであれば、すぐに答えれば良い。答えられないのは、真実はカイトの側にある証ではないか。

 

「詭弁もここまで行くと立派だ。意外と頭が良いのだな?」

 

「息子の登場。予想通りで笑ってしまう」

 

 イーサンがここで割り込んできた。いくら息子とはいえ、明らかな越権行為。イーサンには、父上の許しがない限り、この場で発言する権利もない。

 

「……あらかじめ退団は決まっていただけのこと。父上はその情報を入手しただけだ」

 

「いつからお前が宰相に? まあ、良い。それでその退団が前から決まっていたことは誰から? 知っていたのは退魔兵団の団員。あとは俺たちを常に監視している魔王国だけだ」

 

「……辞めた退魔兵団の兵士だ」

 

「おお……退魔兵団の兵士が兵団長である俺の命令に逆らったとお前は言うのか? 逆らえると? 頭、大丈夫か? それともただの無知か?」

 

「…………」

 

 あっという間にイーサンはカイトに追い詰められた。どう聞いてもカイトの理屈のほうが正しい。情報を知っていて、それを漏らすことが出来たのは魔王国だけ。実際には他にもいるだろう。だがイーサンは退魔兵団の兵士から聞いたと言ってしまった。それが嘘となれば、魔王国から情報を入手したことになる。

 

「宰相……これはどういうことだ?」

 

 父上も疑念を抱いた。それはそうだろう、普通に聞いていれば宰相とイーサンのほうが間違ったことを言っているのは分かる。カイトと、退魔兵団を追い詰める為に少しくらいの嘘は許容するつもりだった父上も、魔王国に通じているとなるとそうはいかないのだ。

 

「ご安心を。この者が申していることは全て嘘。自らを守る為に陛下を騙そうとしているだけです」

 

「そうであれば良いが」

 

「はっきりさせます。この者にもう一度、従属魔法を。さらに逃げた他の兵士も全て捕らえ、従属すべき主を書き換えます。それで王国は退魔兵団の裏切りに怯える必要はなくなるのです」

 

 これが宰相の、いや、父上と宰相の考え。従属魔法を我が物として、それによって王国に忠実な、無理やり忠実にさせた兵団を作るつもりだ。はたしてそれは退魔兵団の者たちだけに限った話なのか。そうだとしても許せる考えではない。

 

「そう。それを聞きたかった。王国の、いや、国王と宰相の本音ってやつ? お前らは自分たちは安全な場所にいて、騎士や兵士を死地に送り込もうとしている、強制的に」

 

「元々、退魔兵団はそういう兵団。その兵団長である貴方に批判する権利はありません」

 

「退魔兵団の兵士だけで終わる保証は? 俺の周りにいる金ぴかな騎士の人たちに同じ真似をしないという保証はどこにある?」

 

 カイトはそれを口にしてしまった。全ての騎士、兵士が従属魔法で縛られ、本人がどう思おうと、それがたとえ勝ち目のない戦場であろうと向かわざるを得ない状態にさせられる可能性を皆に聞かせてしまった。
 ざわめきが、声にならないざわめきが広がっていく。カイトの言葉で周囲が動揺しているのだ。

 

「……妄言もいい加減にしろ! もう良い。この男を捕らえよ! 殺してもかまいません!」

 

「馬鹿な真似は止めろ、宰相!」

 

「殿下! これは王国の為です! 皆も忠誠を疑われたくなければ命令に従いなさい!」

 

「止めろ! 皆、動くな!」

 

 私の命令では止まらない。これは父上の、国王陛下の意向なのだ。自分も退魔兵団の兵士のようにされてしまうかもしれない。その恐怖があっても、その恐怖があるからこそ、忠誠を示さなければならないと思ってしまうのかもしれない。

 

「……あれ?」

 

「貴様の魔法は封じた。魔法が使えない貴様に勝ち目はない」

 

 封魔結界。父上との謁見の場であれば当然の備え。だがそういうことではない。始めからカイトを捕らえるつもりで、準備をしていた。王国騎士団長だけでなく七星将を四人も参加させたのも、その為だ。

 

「止めろ! 動くな!」

 

「魔法がなければ勝ち目はない……情報不足かな? でも、ピンチはピンチか」

 

「大人しくしろ!」

 

「自由を奪われるのが分かっていて、大人しくする奴がいるか!」

 

「なっ――!」

 

 愚かな。カイトについて何を調べたのだ。迷宮でカイトはわずかな時間に七星将を二人倒した。それは魔法によるものではない。そうであるのに一人でカイトに向き合った七星将。同じように一瞬で倒された。ただ生きてはいるようだ。わざと生かしたのだろうか?

 

「騎士団長! 動け!」

 

「御意!」

 

「止めろ! 動くな!」

 

 だがさすがに騎士団長が動けば、カイトは厳しい。王国騎士団長は七星将の筆頭というだけでなく、その実力は一段も、二段も上だと聞いている。

 

「カイト! 逃げろ!」

 

 最善の選択は逃げること。カイトも分かっているはずだ。この場での戦いは、あまりにも不利。迷宮の時の何倍もの戦力を王国は揃えているのだ。


 
「死ねぇええええ! クズ!」

 

 アントンまで戦いに加わろうとしている。どうしてこうなのか? 何故、懲りないのか?

 

「止めろ、アントン! 動くな!」

 

「ウイリアム、離せ!」

 

 幸いにもアントンは私のすぐ隣にいた、その動きを止めることが出来た。

 

「王子様! 邪魔するな! そいつを殺すチャンスだったのに」

 

「……何だって?」

 

 カイトにはもう一つの目的があった。アントンを殺すこと。この状況でもそれを諦めない。二人に間には何があったのだ。

 

「何が……何があった、アントン!? カイトに何をした!?」

 

「な、何もしていない」

 

「何もしていないはずがない! どうしてここまでカイトに恨まれている!?」

 

 少し分かった。カイトはアントンを強く憎んでいる。だから殺すとしている。一方でアントンは、憎んでいるのではなく、後ろめたいことがあるからそれを知るカイトを殺そうとしているのだ。つまり、悪いのはアントンだ。

 

「周囲を囲め! 逃げ場を封じろ! それだけで良い! あとは私がやる!」

 

 こうしている間に騎士団長はカイトと向かい合っている。今の言葉を聞く限り、一対一での戦いを挑むつもりだ。そのほうが戦いやすいという判断なのだろう。恐らくは正しい。
 アントンに構っている場合ではない。私もカイトのところに行かなければならない。なんとしても戦いを止めるのだ。

 

「クリスティーナを止めろ! 王子!」

 

「なっ!?」

 

 だが、それどころではなくなった。クリスティーナがカイトに駆け寄ろうとしていた。その彼女の腕を慌てて掴む。

 

「離して!」

 

 嫌がる彼女。その様子に胸が痛む。だが戦いのど真ん中に彼女を行かせるわけにはいかない。離してあげるわけにはいかないのだ。
 カイトと王国騎士団長の戦いが始まる。それも止めなくてはならないのに、動くことが出来ない。どうにも出来ない。どうして王国はこうなのか? このような愚かな選択をしてしまうのか?

 

「お止めください! その御方を殺してはなりません! 絶対になりません!」

 

 まさに戦いが始まる、そのタイミングで、いきなり割り込んできた女性の声。

 

「……どういうことだ?」

 

 叫んでいるのは侍女だった。私も顔を知る、長く勤めている侍女。どうして彼女が戦いを止めようとするのか。どうして戦いの場に飛び込むなんて無茶な真似をしてまで、それを行うのか。

 

「ここは危険だ! 下がれ!」

 

「なりません! その御方を殺めてはなりません! 陛下! 奥方様が、王妃様がお越しになります! 戦いを止めてください! その御方を王妃様に会わせなければならないのです!」

 

 侍女は何を言っている? どうしてここで母上が出てくる。どうしてカイトを母上に会わせなければならない。二人の間に何がある? あるはずはないのに。

 

「……ま、まさか……生きて……いたのか?」

 

 父上は今、何と言った? 声が小さくて良く聞こえなかった。だが、動揺しているのは間違いない。父上も事情を知っている何かがあるのだ。

 

「父上! 戦いを止めてください! 早く!」

 

「……や、止めよ」

 

「陛下のご命令だ! 戦いを止めよ! 皆、剣を下ろせ! 国王陛下のご命令に従え!」

 

 これで止まるのか? 止まらなければならない。父上は確かに「止めよ」と命じた。国王の命令に背くことなど許されない。

 

「カイト!」

 

「いや、とっくに止めているけど?」

 

 カイトも命令に従ってくれた。意外と冷静なのか? それともカイトは事情を分かっているのか。

 

「……お、お前は」

 

「陛下、危険です!」

 

 父上はおぼつかない足取りで、カイトに近づいて行った。当然というべきか、周囲がそれを止めようとする。これは批判出来ない。国王の安全は何よりも優先すべきことだ。カイトにその気がなくても。

 

「……仕方がない。これで引くか」

 

「お待ちください! 王妃様のご到着まで! どうか一目だけでも王妃様に……!」

 

 この場を去ろうとするカイトを侍女が必死で引き留めようとしている。あの態度は異常だ。あそこまで執着……違う、侍女が執着しているのではない、あれは母上に代わっての叫びなのだ。

 

「……王子様にひとつご忠告を」

 

「何だろう?」

 

 このタイミングで私に忠告。カイトの考えも分からない。

 

「王国には弱点がある。王子様を、勇者を無効化してしまうかもしれない弱点だ」

 

「黙れ! この期に及んで、まだ妄言で殿下を惑わすつもりか!?」

 

 またイーサンだ。何なのだ? カイトだけでなく、イーサンも、アントンも皆、隠していることがある。どうして反目しているくせに、どちらも秘密を守ろうとするのだ?

 

「はい、確定。面白いこと考えたな、三城」

 

「黙れ! 皆、何をしている!? さっさとそいつを殺せ!」

 

 イーサンには何の権限もない。だが、動きだす者がいた。イーサンの命令に従ったのではなく、元からの命令を遂行しようとしているのか。父上が「止めよ」と命じたのは忘れたのか。その父上を、カイトに近づいた父上を守る為かもしれない。

 

「さて忠告はした。それを無視しようとしているのはそっちだ。後で文句を言うなよ? あと、アントン。お前の命はここでは取らないでおいてやる。そのほうが面白そうだ」

 

「ふざけるな!」

 

 どうにもならない。彼らの関係は、殺し合う以外を考えられないくらいに破綻しているのだ。

 

「さて……もう良いか、無影?」

 

「ごめん、ごめん。黒炎はすぐに見つかるって言ったけど、結構難しかったよ?」

 

 カイトの仲間がいた。どこにどのようにして隠れていたのか、いきなりカイトの隣に現れた。これまでまったく気配も感じられなかった。この仲間は何をしていたのか?

 

「四隅だろ?」

 

「その四隅のどれか見つけるのが大変だった。それに高いところにあったし」

 

「ああ……竜と鷲、壊したのは何の飾り?」

 

 四隅にある竜と鷲。それは何だか分かる。大広間の四隅の柱には竜と鷲、それと虎と鹿の彫刻が飾られていた。その彫刻が何だと言うのか?

 

「封魔結界が破られた! 陛下をお守りしろ!」

 

 誰かの怒鳴り声。そういうことか、カイトの仲間は封魔結界を壊していた。あらかじめ、そういうものがあることをカイトは予想していた。

 

「では、これで……もう会うことはないと思います。お元気で」

 

「カイト! 待って、カイト!」


「お待ちを! どうか王妃様に!」

 

 転移魔法陣の輝きがカイト、そして仲間の体を包み込んだ。どこでもカイトは転移魔法を使える。封魔結界がなければ。その封魔結果は仲間が壊した。その備えが、出来る自信があったからカイトはここに来た。危険を犯したつもりなどなかったのだろう。
 最後の言葉はクリスティーナに向けられたもの。実はこれが本当の目的か? そうだとすれば、敵わない。

 

「クリスティーナ」

 

「…………」

 

 クリスティーナを守るためであれば、カイトはどこにでも行く。これは今も変わらない。この先、あってはならないことだが、クリスティーナに何かあれば、カイトは必ずまた現れる。彼女を守る為に。最後に残した「もう会うことはない」はカイトの望みなのだ。クリスティーナに平穏な人生を送って欲しいという。
 結局、多くの疑問が残っただけで終わった。さらに増えたと言っても良い。だが、多くはそう時間がかからず解けることになる。カイトがそのけっかけを作ってくれたのだ。

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