月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第104話 望まない因縁

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ ウイリアム ◇◆◇

 想定よりも遥かに早く退魔兵団本部行きが許可された。下手すれば許されない可能性も考えていたくらいなので、嬉しい誤算だ。それでも逸る気持ちは抑えられない。クリスティーナたちを追跡していた者たちは、王都を出てすぐにその行方を見失ったとのこと。どういう手段を使ったのかは分からない。どのルートでどこに向かっているかも定かではない。だからこそ、一分一秒でも速く、カレス男爵と会わなければならない。クリスティーナが退魔兵団の兵士にされる前に、従属魔法に縛られる前に。カレス男爵の妻にされる前に。考えるだけでおぞましい。そんなことは絶対に許してはならないのだ。
 同行者はアントンたち。よりにもよってどうして彼らなのかと思ったが、拒絶して許可が取り消されては困る。取り消されないまでも、新たな同行者の選任に時間が費やされることも耐えられない。文句は言わず、決定に従った。
 王都を出てからは、ただひたすらに馬を駆けさせた。魔王国に気付かれないように距離を取って、前後にそれぞれ七星将が率いる護衛部隊がいることは聞いている。だが、そんなものを気にしていられない。前を進む護衛部隊を追い越して、さらに馬を駆けさせた。
 苦痛は、馬はずっと駆け続けることが出来ないこと。必ず休ませなければならない。その休憩時間が、必要だと分かっているが、苛立ちを募らせる。
 そんな私を見かねてか、これはあらかじめ知らされていなかったが、密かに同行していた諜報部の者が情報を伝えてくれた。先行している諜報部の者は、追跡に失敗した者たちだが、カルス男爵に使者を送ることを伝え、その到着までクリスティーナたちを賓客として遇するようにという父上の命令を預かっていることを。
 父上もクリスティーナとパトリオットが退魔兵団の支配下に置かれることを阻止したいのだろう。二人の力を王国の為に使う為に。
 それを聞いて焦りは消えた、なんてことにはならない。先触れが間に合うという保証はない。アッシュビー公爵と共謀しているであろうカレス男爵が素直に父上の命令に従うかも分からない。
 大きな街では新しい馬を、替え馬も合わせて、買い、ひたすら目的地を目指した。アントンたちが文句を言い続けていても、それは無視。それでもしつこく文句を行言ってくるので、「付いて来られないのなら付いて来なければ良い。そのほうが交渉が上手く行く」と伝えると、ようやく黙った。
 気持ちが少し落ち着いたのは先行していた諜報部の者たちがもたらした情報によって。確かに父上の命令を伝えたこと。カレス男爵は謹んでそれを受けたこと、さらには男爵からアッシュビー公爵を告発する内容の書状を受け取ったこと。最後の情報には少し混乱したが、カレス男爵が思っていたのとは異なり、アッシュビー公爵と深く組しているわけではないというのは望ましい状態だ。クリスティーナを守れるのだ。
 だからといって、のんびりとすることはなく、それなりに急いでようやく退魔兵団本部近くの村にたどり着いた。何もない小さな村だ。魔王国との国境近くに望んで暮らす民などいるはずがないのだから、小さくて当たり前だ。
 あとは到着を伝える先触れを出し、翌日の訪問時間を待つだけ、のはずだったのだが。

 

「……なんだか嫌な感じだ」

 

「それだけ強い魔物がいる迷宮だってことでしょ?」

 

 イーサンの余計な提案のせいで迷宮に潜ることになった。強く拒否出来なかったのは、恐らくはここがカイトが育ったという迷宮だから。彼の強さの秘密が分かるかもしれないという思いに負けたのだ。

 

「ここは<悪魔の迷宮>と呼ばれているそうです。意外と本当に悪魔がいるのかもしれません」

 

「イーサン、そういう情報は先に伝えるべきだ。本当に悪魔がいるのであれば、思いつきで来て良い場所ではない」

 

「申し訳ございません。冗談です。退魔兵団の本部に近い洞窟。仮に元々は悪魔が住み着いていたとしても、討伐は済んでいることでしょう」

 

 悪い冗談だ。イーサンにはこういうところもあったのか。見直すどころかさらに見下す材料になるだけだが。

 

「冗談を言っている場合ではない」

 

 アントンもイーサンの冗談をたしなめてきた。これは珍しいことだと思ったのだが。

 

「敵よ!」

 

 魔獣が現れたのだから、当然だ。

 

「陣形を整えよ! ただし、手出し無用だ!」

 

 七星将のリンスが護衛の騎士たちに指示を出す。彼らは不意の事態に備えるだけで待機。参戦されては我々の鍛錬にならないからだ。

 

「……襲ってこない?」

 

 ただ現れた魔獣はすぐに襲ってこなかった。こちらの人数を見て、攻撃を躊躇っているのか。そうだとしたら、通常の魔獣とは異なる知性があるということだ。ますます油断は出来ない。

 

「くらえ、ファイアスラッシュ!」

 

 アントンが先手を打った。魔法剣の炎が魔獣に襲い掛かる。だが、その攻撃は軽く躱された。この結果に焦りはない、アントンも魔獣の動きを見極めようという考えだったはずだ。

 

「グルァアアアアッ!!」

 

「来るぞ!」

 

 唸り声をあげて魔獣が襲い掛かってきた。かなりの速さ。それだけで、これまで戦ってきた魔獣とはレベルが違うのが分かる。隊列を整えて迎え撃つ。連携はこれまでの経験で、声に出して確認する必要がないくらいに出来ている。油断がなければ大丈夫、そのはずだった。

 

「うわぁああああっ!」

 

 右翼の守りを固めていた騎士が叫び声をあげた。
 
「もう一匹いる! 右だ!」

 

 新たな魔獣が現れたのだ。

 

「さらにもう一匹! 左です!」

 

 さらにもう一匹。少数精鋭と聞いている騎士たちの声に焦りが感じられる。易々と魔獣に接近を許した。それに驚いているのだろう。私自身の感覚も鈍い。魔獣の能力か、それともこの迷宮はそういう場所なのか。

 

「守りを固めろ! エミリー、魔法を急げ!」

 

「分かっている!」

 

 エミリーの詠唱の声。<聖女の祈り>という強化魔法だ。鍛錬のつもりで戦って良い相手ではない。全力で対処すべき魔獣。いきなりそういう敵に出会ったのだ。やはり思いつきで来るような場所ではなかった。今更、後悔しても遅いのは分かっているが、湧き上がるこの思いを抑えられない。イーサンたちへの不信感がそうさせているのかもしれない。

 

「両翼の魔獣を倒せ! 陣形を崩させるな!」

 

 騎士たちも同じ考え。参戦を決めた。当然の決断だ。すでに負傷者が出ているのだから。

 

「マジックウォール!」

 

 左右に魔法の壁が立ち上がる。イーサンの防御魔法だ。これで我々への魔獣からの攻撃は正面からに限定される。

 

「行く!」

 

 魔獣との間合いを詰めて、接近戦を挑む。魔獣の動きは速い。しかも四方八方から襲い掛かってくる。驚きの動き。だが反応出来ないほどではない。

 

「うおおおおおっ!!」

 

 襲い掛かってきた魔獣の前足を剣で受け止める。魔獣の動きがわずかに止まる一瞬。

 

「レイフラッシュ!」

 

 エミリーの魔法剣が魔獣を切り裂いた。

 

「とどめだ!」

 

 さらにアントンが動きの鈍った魔獣に襲い掛かる。

 

「グァアアアアアアアアアアッ!!」

 

「な、何だ!?」

 

「アントン、逃げろ!」

 

「がっ――」

 

 警告は間に合わなかった。アントンの体が大きく吹き飛ぶ。そのアントンがいた場所には新たな魔獣、さらに一回り大きな体の魔獣がいた。

 

「周囲を囲め! 一斉攻撃だ!」

 

 騎士たちが新手の魔獣を囲もうと動き出す。それが出来る状態になったということか。残る魔獣は一匹か二匹か。それを確かめる余裕はない。目の前の魔獣に集中しなければならない。

 

「放てぇえええええっ!!」

 

 全方位からの魔法剣の一斉攻撃。普通であればこの一撃で終わる。それどころか魔獣相手には過剰と思える攻撃だ。

 

「グワァアアアアッ!!」

 

 だが魔獣はその一撃に耐えてみせた。あり得ない頑丈さだ。魔族に匹敵する耐性なのではないか。こんな思いが頭によぎる。

 

「ウイリアム、手を休めるな!」

 

「アントン!」

 

 叫びながらアントンは魔獣に向かっていく。動きに鈍さはない。エミリーの治癒魔法のおかげか。これを考えている時間もない。

 

「うおぉおおおおおっ!!」

 

 気合を込めて、剣を強く握りしめる。魔力の輝きが剣身を輝かせている。まだだ。もっともっと魔力を込めて、さらにそれを凝縮させる。魔力の輝きは剣身を覆う新たな刃となった。

 

「ブレイブソードアタ―――クッ!!」

 

 今自分が使える最大級の技。対魔王戦を想定して磨いてきた技だ。完全とは言えないかもしれない。だが、今はこれ以上の技はない。眩い光が魔獣を包み込む。宙に舞い散るのは魔獣の血しぶき。確かな手応えを感じた。

 

「やった!」

 

「まだだ! とどめを刺せ!」

 

 四匹の魔獣は全て地面に倒れている。それでもまだ絶命したわけではないようだ。完全に息の根を止めるには核を破壊しなければならない。騎士たちが、慎重に魔獣を取り囲んで、次々と剣を突き立てていく。

 

「更なる襲撃に備えよ!」

 

 なんとか倒した。だがこれで迷宮の魔獣を全て倒したわけではない。更なる襲撃に備えなければならない。

 

「……強い。カイトはこんな場所で生きていたのか」

 

 最初の遭遇で、これまでのどれよりも強い魔獣に出会った。この迷宮の魔獣は桁違いの強さ。こんな場所でどうやってカイトは生き残れたのか。

 

「何者だ!?」

 

 騎士の誰何の声。この状況で何故このような声が聞こえるのか。何者かが現れたというのか。

 

「カイト……貴方……?」

 

「えっ?」

 

 現れたのはカイト。エミリーはそう言っている。思いがけずカイトに会うことが出来た。もしかして、クリスティーナも一緒だろうか。こう思ったが人影はひとつだった。

 

「……お前らか?」

 

「えっ……何のことだ?」

 

 いきなりの問い。何を聞かれているのか分からなかった。分かるのは彼は再会を喜んではいないこと。喜ぶどころか怒りを向けられているようだ。

 

「俺の家族を殺したのはお前らかと聞いている! 答えろっ!!」

 

「なっ……?」

 

 一瞬で頭が麻痺した。カイトは今、なんと言ったのか。聞き間違えか。そうでなければ家族とは誰のことか。私は誰を殺してしまったのか。また歯車が狂った。きしむ音が聞こえた気がした――

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