月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第102話 これは誰が望んでいること?

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ ミネラウヴァ国王 ◇◆◇

 多くの課題を抱えている中で、更なる難題。まだ難題となるかは分からないが、アッシュビー公爵家の一件は放置出来ない状況だ。そこに退魔兵団が絡んでいるとなれば、尚更。退魔兵団はカンバリア魔王国との戦いの最前線に立つはずの戦力。もっとも最初に戦う兵団なのだ。そこに異常があるとすれば、速やかに解決しなければならない。

 

「追跡に失敗したですって? 何をしているのですか?」

 

 退魔兵団の拠点に向かうクリスティーナたちの追跡に失敗した。この報告を聞いて、宰相は呆れ顔だ。怒らないのは、ある程度、この結果を予想していたからか。退魔兵団相手では、諜報部もいつものようにはいかないだろうことは私にも分かっていた。

 

「申し訳ございません。決して油断していたわけではないのですが」

 

「関所からの報告は?」

 

 北の拠点までの道のりにはいくつも関所がある。追跡を振り切られても、足取りは掴めるはずだ。といっても、関所を通ればの話だ。意図して追跡を振りきったのであれば、所在が知られるルートを使うとは思えない。

 

「今のところはございません」

 

「それではどこに向かったのかも分かりませんね?」

 

 本当に退魔兵団の拠点に向かったかも分からない。アッシュビー公爵領の可能性も出てきた。ただ個人的にはこの可能性は低いと見ている。少なくとも一度は退魔兵団の拠点に行くはずだ。パトリオットとクリスティーナの二人に従属魔法を施す為に。

 

「アッシュビー公爵は未だ王都に留まっております。公爵領に向かう可能性は低いかと」

 

「可能性が低いだけで、否定出来るわけではないのでしょう?」

 

「そうですが……」

 

「しかし、公爵はまだ王都ですか……何か動きはあるのですか?」

 

 宰相はアッシュビー公爵が王都に留まったままであることが気になるようだ。確かにおかしい。何をするにしても領地に戻ったほうが都合が良いはず。退魔兵団の拠点とも領地のほうが近いのだ。

 

「まだ確証はありませんが、退魔兵団からの連絡を待っているのではないかと」

 

「……何故、そう思うのですか?」

 

「連絡手段と思われるものを見つけました」

 

「説明を」

 

 パトリオットとクリスティーナの件では、完全にアッシュビー公爵に先回りをされた。どうしてそれが可能だったのかは疑問に思っていた。この説明がその謎を解明してくれるのか。

 

「王都に知る人ぞ知るというような高級食堂がございます。実際は食堂ではなく、風俗店です。アッシュビー公爵はそこを頻繁に訪れておりますが、そこが退魔兵団との連絡窓口となっているようです」

 

「王都にそのような場所があったとは……」

 

「貴族の方々はよくご存じのようです。それが隠蔽出来た理由になっているものと」

 

 貴族が使う高級風俗店。それがそこを調査の手を入れづらい場所にした。これは諜報部長の嫌味だろうか。考えすぎか。

 

「どうしてそこが連絡窓口だと考えたのですか?」

 

「アッシュビー公爵が訪れて、そう時間が経つことなく建物から出てきた者がおりました。その者は、そのまま王都を出て、北に向かっております。退魔兵団という証拠はございませんが、我らの追跡を振りきれる者となると」

 

 退魔兵団の兵士くらいしかいない。これは少し絞り過ぎだ。諜報部としては対象が多くいることを認めたくないのであろう。だからといって間違った考えだとも言えない。アッシュビー公爵との繋がりを考えれば、退魔兵団である可能性はかなり高い。

 

「……ですが、公爵領は王都よりも退魔兵団の拠点に近い。どうして王都で連絡を取り合う必要があるのでしょう?」

 

「その点については我らも疑問に思っております。王都に留まらなければならない何らかの理由があるものと考え、調査を進めておりますが、現時点ではまだ」

 

 まだ何か企んでいるのか。そうだとすれば、それはどのようなことか。これまでアッシュビー公爵家の動向など気にすることがなかった。これが失敗だとすると、その影響はどれほどのものになるのか。今はまだ分からない。

 

「引き続き監視を続けてください」

 

「承知しました」

 

 情報が少なすぎる。これでは判断のしようがない。宰相も同じ考えなのだろう。監視の継続を命じて、諜報部の報告を終わらせた。

 

「退魔兵団については、まだ何の情報も届いておりません」

 

「そうだろうな」

 

 退魔兵団本部の調査に向かわせた者たちは、まだ到着してもいないはずだ。

 

「ウイリアム殿下から少しお話を伺いました。パトリオットとクリスティーナの二人を迎えに来た兵士は断空、暴威、夢魔と呼ばれている兵士です」

 

「聞いたことがあるな」

 

「退魔兵団の中でも実力が抜きんでていると言われている五人がおります。その内の三人です。ちなみに養成学校にいたカイトという者もその一人となります」

 

「確か、黒炎と呼ばれているのだったな?」

 

 彼については知っている。騎士養成学校での潜入任務を任せるにあたって、退魔兵団から報告を受けた。他の三人も情報としては知っていたのだが、顔を見るのは初めてだったので、何者かは分からなかった。

 

「はい。四人は、正確にはもう一人いて、五人は特別な関係だろうと殿下はおっしゃっていました」

 

「特別というのは?」

 

「親しくあるように見えるのですが、内二人は自分たちはカイトに恨まれていると言っていたそうです」

 

「……分からんな。その五人の関係性は重要なのか?」

 

 その五人の仲が良いのか悪いのかなど、どうでも良いこと。宰相がわざわざ説明しようとする理由が分からない。

 

「カイトに頼まれて迎えにきたと言った者がおります。これが事実であれば、アッシュビー公爵の謀り事に関係なく迎えに来たことになります。また悪意を持って、嘘を告げた可能性も否定出来ません」

 

 仲良しであれば、公爵のあずかり知らぬところで動いていた可能性がある。カイトという者への悪意がクリスティーナに向かったのであれば「頼まれた」は嘘。アッシュビー公爵が関わっていることになる。
 だが何故、クリスティーナに悪意が向くのか。

 

「クリスティーナとその男の関係は? 何かあるのか?」

 

「カイトはパトリオットの騎士候補となっておりました。共に過ごす時間は多かったと思われます」

 

「……それだけか?」

 

「分かっている範囲では。ですが、彼女が捕らえられる時に反抗的な態度を取ったことから、それだけではない関係が疑われます」

 

 この宰相の言葉をどう受け取れば良いのか。クリスティーナのことになると宰相はおかしくなる。これもただ彼女を貶めたいだけかもしれない。

 

「仮定の話だな。そうだとしてもその男に出来ることは何もない」

 

 宰相が無視している前提がある。その男が退魔兵団の兵士であることだ。個人の感情で動くことには制限がかけられているはず。カレス男爵がアッシュビー公爵の謀り事に協力しているのであれば、それを邪魔することは出来ない。
 ただ、騎士団長はこの点に疑念を抱いていた。

 

「はい、そのはずです。ですので、その男のことは考慮から外すことに致します。その上で、ウイリアム殿下が退魔兵団本部に赴くことをお許しになられますか?」

 

 宰相は騎士団長の疑念を無視。

 

「その件か……カレス男爵が何を企てているのかは調べるべきだとは思う」

 

 騎士団長の疑念も含めて、調べる必要はある。ただ、それにウイリアムが適任であるかは分からない。普通に考えれば、もっと適任者はいるはずだ。

 

「では、ウイリアム殿下と我が家のイーサン、ウォーリック公爵家のアントン、それにエミリーの四人で向かわせることを考えたいと思います」

 

「本気か?」

 

 意外なことに宰相はウイリアムを行かせるつもりだ。しかも魔王国と共に戦う三人を連れて。これが正しい選択なのか。これまでとは違い目的地は北の国境近く。カンバリア魔王国のすぐ近くなのだ。

 

「もちろん護衛も同行させます。七星将から二人を選抜し、小部隊を二つ編成する予定です」

 

「魔王国を刺激することになるのではないか?」

 

 そのまま戦争に突入なんて事態は、今はまだ困る。もうすぐザニア王国から使者が訪れる。これへの対応も難しい問題だが、交渉が上手く行き、支援の約束を取り付けることが出来れば、それで戦争準備はほぼ整うことになる。それまでは開戦は避けたいのだ。

 

「それで八芒星王とやらをもう一人、二人、減らすことが出来れば、戦いを有利に進めることが出来るようになります」

 

「まさか、誘うつもりか?」

 

「いえ、そこまでの冒険は致しません。護衛部隊は少数精鋭で、さらに目立たないように距離を取って移動させるつもりです。ウイリアム殿下たちにも素性が知られないように、身なりにも気を付けて頂くつもりです」

 

 お忍びで城外に出る時のような備えというところか。はたしてそれで魔王国の目を欺くことが出来るのか。絶対に大丈夫なんて保証はないはずだ。

 

「そうまでしてウイリアムたちを行かせなければならない理由は?」

 

「殿下にはまだまだ経験が必要です。仲間との繋がりももっと強める必要がございます。これが最後の仕上げ。そうなってくれることを私は願っております」

 

 つまり、まだまだ実力不足ということだ。これについては驚きはない。騎士団からも報告を受けている。急成長を見せているが、もう一段実力を高めるのが望ましいという意見だ。
 今のままでは魔王国との戦争で期待する戦果をあげられない。そうであれば、大切に温存しておく意味はないだろう。実戦の場に出して、経験を積ませて強くなれば良し。それで何かあっても、その程度の実力だったのだと諦めるしかない。
 これは非情な考えだろう。だが魔王国との戦いに勝つ為には必要なこと。こう考えるべきなのか。少なくとも宰相はこう考えたようだ。自分の息子も同行するのだから。私も決断しなければならない。

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