月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第100話 家族は家族でも

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ ミユウ ◇◆◇

 自分はどうして不幸なのだろうって、ずっと思っていた。生まれた家は貧乏だった。でも、これはどうでも良い。出来れば裕福な家に生まれたかったとは思っていたけど、周りも皆、貧乏だったから自分だけが不幸だなんて思わなかった。
 私が自分を不幸だと思ったのは母親に愛されなかったから。同い年の子たちは、同じ貧乏でも、家族といると笑っていた。とても楽しそうだった。一緒に遊んでいても、家族が迎えに来ると喜んで帰っていた。
 いつも私は一人、残っていた。家に帰りたくなかった。帰っても、いつも家にいるけど誰だか分からない男に殴られたり、蹴られたりするだけ。痛い思いをするのが分かっていて、帰りたいと思うわけがない。だからといって、いつまでも帰らないでいると、今度は母親に「家の手伝いをサボった」と言われて暴力を振るわれることになる。だけど痛い思いをして、それで家の手伝いをさせられるよりはマシだと思っていた。
 そんな毎日が嫌で嫌で、死のうと思った時もあった。でも私が死んだからといって誰も悲しんでくれない。母親は自分がしてきたことを後悔なんてしない。ただ私の人生が終わるだけ。損をするのは私だけ。それが嫌で、悔しくて、死ぬことは止めた。
 いつまでこの苦しみが続くのか。大人になれば逃げだせるのか。その日までの我慢だと思っていた。でもその日は意外と早く訪れた。私は売られた。親から離れることが出来た。
 何も分かっていなかったその時は嬉しかった。暴力から解放されると思っていた。

 

「何だよ、ここ? 俺たち捨てられたのか?」

 

「ここに来る前から捨てられていただろ?」

 

 この男の子の言う通りだと思った。私たちは家族に捨てられた、売られた。売られた先でまた捨てられただけだ。

 

「そうじゃなくて、ここは何処だって話」

 

「聞いていないのか? ここは<悪魔の迷宮>ってところだ。俺たちはここで迎えが来るまで生活することになる」

 

 そういうことらしい。私も聞いていなかった。これからこの暗い洞窟が私の家になるみたいだ。暮らしやすいと言えそうもない場所。暴力を振るってくる相手がいないのが救いか。この男の子たちは大丈夫だろうか。

 

「ここで? ここって……食べ物とかあるのか?」

 

「お前、何も知らないのだな? 食べ物ならそこにあるだろ?」

 

 食べ物はここに連れてきた大人たちから渡されている。地面に置かれている箱。その中にあるはず。だから心配する必要はない。

 

「いや、お前のほうは何も考えていないだろ? 迎えが来るのはいつだ? それまで渡された食べ物で足りるのか?」

 

 泣き言ばかりの男の子は、意外と考えていたみたい。確かに今ある食べ物で充分かは分からない。

 

「なくなりそうになったら届けてくれるのだろ?」

 

「そうなのか?」

 

「……違うよ。そんな親切な大人たちじゃない」

 

 これまでずっと黙っていた男の子が口を開いた。話した内容はろくなものじゃないので、黙っていたままでいてくれれば良かったのに。でも、期待なんて持てるはずがないのは分かる。私には、きっと彼らにも明るい未来なんて訪れないのだから。

 

「どういうこと?」

 

「ここに入れられて、生きて出られるのは百人に一人だって。この話が本当なら、四人しかいない僕たちは一人も生き残れないね?」

 

「嘘……?」「どういうこと……?」「…………」

 

 わざわざ金を払って買っておいて、殺す。あの大人たちは何をしたいのだろう。そんな金があるなら、私にくれれば良いのに。

 

「でも、生きて出られる人もいる。どうすれば良いのだろう?」

 

 この男の子は諦めていなかった。生き残れる可能性を信じている。私はどうだろう。どうでも良い。死ねば楽になれる。悔しさは残るかもしれないけど、それも死ねば消える。

 

「……この先に何かあるのか?」

 

 洞窟にはまだ先がある。問題はそこにどうやって行くか。

 

「暗くて良く見えないな」

 

 すぐ先は崖になっているみたい。底は暗くて見えない。ここから飛び降りたら、それで全てを終わりに出来るかもしれない。

 

「…………」

 

 崖の近くに立って、下を覗いてみる。男の子が言った通り、暗くて良く見えない。私の未来と同じ。先が見えないのではなくて、真っ暗な底辺を這いずり回るのが私の人生だ。
 そう思ったのだけど、崖下に光が見えた。見間違い。きっとそうだと思うけど、でも……闇の中の光らしき何かが気になって、さらに覗き込んでみた。

 

「おい、危ないぞ」

 

「えっ……あっ……」

 

 体がふらついた。こう思ってすぐに地面を踏む感触が消えた。

 

「げっ!」「おい!?」「うわっ!」

 

 崖下に向かって転がり落ちている。上下左右、自分がどんな体勢なのか分からないけど、落ちていることは間違いない。これで死ぬのか。

 

「……痛っ」

 

 そう思ったのだけど、思っていたよりも底は近かった。体中が痛いけど、私は生きていた。

 

「大丈夫か?」

 

「えっ……」

 

 声をかけられた。一緒にいた男の子たちが先回り、なんて出来るはずがない。じゃあ、彼は誰なのか。薄暗い中でも髪の色が真っ白であるのは分かる。でも年寄りじゃない。髪の色以外の見た目は私とそう変わらない年齢に見える。

 

「痛いところはあるか?」

 

「……そこらじゅうが痛い」

 

「それはそうか……回復魔法は使えないから治してやれない。とりあえず冷やしてみるか?」

 

「……どうやって?」

 

 痛いところを冷やすのは良いと思ったけど、方法が気になった。この男の子は魔法を使えるわけじゃない。それで、こんな場所でどうやって冷やすなんてことが出来るのだろう。

 

「少し先に水が流れている場所があるから、そこで。歩けるか?」

 

「……歩ける」

 

 歩くことは出来る。これくらいの痛みであれば、何度も経験している。地面に手をついて体を起こし、ゆっくりと立ち上がってみる。

 

「…………」

 

 かなり痛い。でもなんとか歩けそう。

 

「のんびりしていられる場所じゃないのだけど……悪い。体に触る」

 

「えっ? ち、ちょっと……」

 

 男の子は私の体を担いで歩き出した。ちょっと、いえ、かなり驚いたけど、正直助かる。痛みに耐えて歩かなくて済んだ。

 

「降ろすから気を付けて」

 

「う、うん」

 

 ゆっくりと私を地面に降ろそうとする男の子。私は、バランスを崩さないように彼の首に手を回した。顔と顔が近づいた。少し恥ずかしかった。

 

「……冷たい」

 

 小川の中に足をつけてみた。とても冷たい水。痛みが和らいだ気がした。

 

「湧き水だと思う。一年中、温度が変わらないから」

 

「一年以上、ここにいるの?」

 

 生き残れるのは百人に一人と言われているこの場所で、男の子は一年以上暮らしている。そういう言い方だった。

 

「まあ。俺、何歳に見える?」

 

「私と変わらないくらいだから、七歳」

 

「そんな感じか……そうだよな。背も伸びたし……」

 

 男の子は少し落ち込んだ様子。七歳と言われて、どうして落ち込むのだろう。

 

「……仲間がいたのか?」

 

「仲間というか、一緒に来た人はいる」

 

 出会ったばかりで、すぐにここに入れられたので、彼らは仲間と呼べる関係じゃない。そうだけど、彼はそこまで考えて「仲間か?」なんて聞いていない。分かっているのに、こんな答え方をしてしまった。

 

「一緒に来た人……それは死んだら困る人?」

 

「えっ?」

 

「困りそうだな。じゃあ、ちょっと行ってくる。お前は俺の家族が守ってくれるから心配しないで」

 

「家族って……家族がいるの?」

 

 この男の子は家族でここに暮らしている。ここはどういうところなのか。危険なのか、安全なのか、分からなくなった。

 

「俺の兄貴と姉貴。じゃあ、後は任せた」

 

「ち、ちょっと!? 待って! 行かないで!」

 

 魔獣が現れた。それなのに男の子は去って行こうとする。逃げるつもりなのか。きっとそうに違いない。

 

「だから兄貴と姉貴が……あっ、そうか……悪い。人に会ったのは久しぶりで。魔獣に見えるこの二人が、いや、この二匹が……とにかく俺の家族。襲ったりしない。襲う敵から守ってくれるから安心して」

 

「魔獣が……家族……君は魔獣、違う、魔族なの?」

 

「へっ? ああ、義理の家族ね。赤ん坊の時にここに捨てられた俺を助けて、育ててくれたのがこの二人の母親。詳しいことはまた後で。とにかく大丈夫だから!」

 

「ちょっと!?」

 

 説明を途中で止めて彼は走り去ってしまった。残された私は、彼が家族という魔獣二匹と一緒。大丈夫と言われても落ち着かない。

 

「……様子を見に行こうかな?」

 

 恐る恐る立ち上がって、彼が走って行ったほうに向かって歩き出す。魔獣二匹は……私の前と後ろについた。本当に守ってくれているのだろうか。彼はどうやって魔獣と話をしているのだろう。

 

「……あっ」

 

 少し歩くと、彼が急いでいた理由が分かった。一緒にここに連れて来られた男の子たちが魔物に襲われていた。襲われそうになっていた、だ。襲おうとしている魔物は今は彼と戦っている。
 影のように黒く、炎のように揺らめく何かが魔物の体を包む。魔法なのだと思う。魔法を見るのは初めてなので分からないけど。

 

「凄い……」

 

 魔法だけじゃない。彼の動きは人とは思えないくらいに速い。魔獣のような速さで動き、魔物の攻撃を避け、相手を攻撃していく。敵は三匹。三匹の魔物を相手に一人で、それも男の子たちを守りながら、彼は戦っている。

 

「グルルルル」

 

「な、何!?」

 

 いきなり唸り声をあげた魔獣、彼に家族と言われた魔獣。何が起きたのか驚いて、声をあげてしまった。

 

「……あっ……えっと……君もあの子の家族?」

 

 もう一頭、魔獣が現れた。正確にはもう二頭。一頭は、もう一頭に嚙み殺されている。生き残った魔獣は敵なのか、味方なのか。私の前後を守っている味方が何もしないので、きっと味方だと思った。

 

「……助けてくれたの? ……ありがとう」

 

「ぐるっ♪」

 

「笑った?」

 

 ように見えた。目の錯覚に違いない。そう見たいから、そう見えただけ。

 

「動いて大丈夫か?」

 

 彼が私のところに戻ってきた。戦いはいつの間にか終わっていた。

 

「……君も……ありがとう」

 

「えっ……あっ、いや、俺は別に……そ、その……」

 

 近づいて来た彼が眩しかった。闇の中の光は彼だったのだと思った。暗く、どん底の私の人生に彼という光が現れた。何故かそう思って、気が付いた時には彼に抱きついていた。人の温もりを感じたのは、これが初めてだと思った。

 

「……私はミユウ。君は?」

 

「俺はカイト」

 

「……カイトくん……あのさ……私も……君の家族にしてくれる?」

 

「えっ……ああ、良いよ。家族なしでここで生きるのは難しいからな」

 

 カイトくんは私の運命の人。出会ったその日に私はそう感じた。家族になりたいとお願いして、彼はそれを受け入れてくれた――

 

(……そういう意味じゃなかったけどね?)

 

 でも彼の運命の人は私じゃなかった。彼には他に大切な人がいる。私との約束なんて、忘れている。

 

「……だから俺と結婚してください」

 

「はい。私は貴方の妻になります」

 

 彼は他の女性にプロポーズをして、その女性、クリスティーナちゃんはそれを受け入れた。二人は愛し合っている。

 

「「「うわぁあああああっ!! おめでとうっ!!」」」

 

 周囲から歓声があがる。皆、二人の結婚を祝福している。私も祝福していないわけじゃない。カイトくんが幸せならそれで良いと思う。カイトくんも私と同じで人から愛されたことがない。義理の家族には愛されているけど、それは私も同じ。カイトくんよりは短い間だったけど、カイトくんのように念話で話は出来なかったけど、皆、優しくしてくれた。

 

「おい、夢魔? どこに行く?」

 

 この場を去ろうとした私に断空が声をかけてきた。気にしてくれているってことだけど、今は少し煩わしい。無影みたいに気配を消せるようになりたい。

 

「カイトくんのことだから、家族に相談もしていないでしょ? だから報告してくる」

 

「ああ、俺も行こうか?」

 

「良い。皆で行く時があるだろうから、その時に」

 

「……そうだな」

 

 その時はあるのだろか。カイトくんはクリスティーナちゃんを連れて挨拶に行く。これは間違いない。でも、その時に私は家族としてその場に同席出来るのだろうか。私は同席したいのだろうか。
 カイトくんの家族になりたかった。でも私が願った家族にはなれなかった。

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