月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第99話 らしくあり、らしくない

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ クリスティーナ ◇◆◇

 退魔兵団の拠点までの道のりはかなり厳しいものとなった。王都を出てすぐに全力での移動。そうは言っても全力なのは私と兄上だけ。他の人たちには余裕があった。私たちは完全な足手まといだった。
 急ぎたいという思いは私にもあった。でも、さすがに急ぎ過ぎ。こう思っていたけど、急ぐのにはきちんとした理由があった。彼らは追っ手を警戒していた。私には分からなかったけど、追跡者は確かにいたみたいだった。恐らくは王国の諜報組織の人。その追跡を振り切りのはかなり難しいと思った。
 でも、それを易々とやってのけるのが彼ら退魔兵団。追跡者を大きく引き離したところで、街道から離れて、森の中に入った。そこには、いつの間に用意していたのか、転移魔法陣があった。夢魔さんに聞いてみたら、「知らない。カイトくんだもの」と言われた。夢魔さんはカイトを「カイトくん」と呼ぶ。呼び捨てよりも親しそうに聞こえるのは私だけだろうか。嫉妬していると思われるのが嫌で、誰にも聞けなかった。
 転移魔法陣は拠点に直接行けるものではなかった。誰に見つかるか分からないので、そうしなかったのだろうと、これは断空さんの考え。それでも一度、飛んでしまえば追跡者が追ってくるのは、ほぼ不可能。警戒を緩めることはしなかったけど、少し落ち着いた移動になった。私と兄にとっては救いだった。
 それでも王都を出て、わずか三日。あり得ない速さで退魔兵団の拠点に到着した。左右に広がる防壁はいかにも最前線の拠点。入口の門のところに立っていたのは、カイトだった。

 

「……えっと……無事で良かった、です」

 

 もう少し気の利いた台詞はないのかしら。内心ではこう思ったけど、こういうカイトが嬉しかった。以前と変わらぬカイトでいてくれた。

 

「えっ……」

 

 嬉しくて嬉しくて、思わずカイトの胸に飛び込んでしまった。周囲から「おおお」というどよめきが聞こえた。少し恥ずかしくなったけど、カイトの温もりが心地よかった。躊躇いがちに背中に回されたカイトの腕。それはしっかりと私を抱きしめてくれた。
 再会出来た。喜びが溢れている。涙が出そうになったけど、それはなんとか堪えた。再会の時は笑顔でいたかったから。

 

「カイトも無事で良かったわ」

 

「まあ、なんとか。拠点に連れて来られたのは焦りましたけど、結果としては良かったようで」

 

「皆、解放されたと聞いたわ。カイトのおかげだって」

 

 もう退魔兵団の人たちは魔法で縛られていない。カイトが彼らを解放した。自由にしてくれたカイトに皆、感謝していると教わった。そして私も、兄も自由にしてもらえた。カイトの言う通り、「結果として良かった」だと思う。ただ監禁から解放されただけでなく、こうして感情のままにカイトの胸に飛び込める自由を私は手に入れた。

 

「でも、自由になったのは良いのですけど、じゃあ、解散というわけにもいかなくて」

 

「そうなの? どうしてかしら?」

 

 ずっと嫌な思いをさせられていた。やりたくない仕事を強いられてきた。自由になれば、すぐにここを離れようとする人ばかりだと私は思っていた。でもそれは間違いのようだった。
 
「皆、幼い頃にここに連れて来られています。退魔兵団の兵士としての生き方しか知らないので、ここを離れて、どう暮らして良いか分からないそうです。それに連れられて来たばかりの子供もいて」

 

「生まれ故郷に……いえ、そうね」

 

 生まれ故郷に、家族の元に帰る。この選択があると思ったけど、それは間違い。自分を捨てた、売った親を恨んでいる人は多いのでしょう。故郷がどこか知らない人もきっといる。カイトもそう。彼は故郷も家族も知らない。

 

「それに、俺たちが解散して喜ぶのはカンバリア魔王国です。変な話ですけど、解散する時は解散しますと王国に伝えるべきかなと思っています」

 

「そうね。北部の人たちが困ることになるわ」

 

 退魔兵団は魔王国の侵攻を防ぐ最初の壁。防ぎきるのは不可能と思われているみたいだけど、時間稼ぎは出来る。北部に暮らす人たちが逃げる時間を稼げる。そういう大切な役割が退魔兵団にはある。
 解散を知らないままでは、魔王国に不意打ちを許すことになる。カイトの判断は正しいと私も思う。

 

「そういうことですので、それぞれがどう暮らしていくのかを考え、道筋が見えたら解散宣言することにしました」

 

「でも解散を宣言すると言っても」

 

 すぐに王国は対処出来ないでしょう。結局は魔王国に隙を与えることになる。

 

「そう。タイミングが難しいです。早過ぎれば魔王国に長く機会を与えることになりますが、遅すぎれば今度は王国と戦う羽目になるかもしれない」

 

 退魔兵団の解散を王国は認めない。認めるはずがない。解散を裏切りと受け取る可能性もある。そうなった場合、退魔兵団の人たちはミネラウヴァ王国から逃げる、そこまででなくても王国に見つからない場所に隠れなければならなくなる。
 自由を得たといっても、まだ彼らは安心して暮らせる状態にはない。ミネラウヴァ王国は彼らに対して、非情で有り続ける。

 

「まあ、自分たちで決められるかも分からないというのが実際のところです」

 

「それは、どうしてかしら?」

 

「魔王国は明日にも攻めてくるかもしれない。そうなれば否が応でも戦うしかありません。もしくは戦わずに逃げるか。あと王国がどう出てくるかも分かりません。いきなり攻めてくる可能性もある」

 

 退魔兵団の異常を王国は知ることが出来るのか。不可能と考えるのは浅はかだわ。知られる可能性を考え、それに備えておかないと。

 

「……カルス男爵はどうしたの?」

 

 断空さんは兵団長、カルス男爵以外の幹部は皆、殺したと言っていた。凄惨なことをすると思ったけど、そうしないと皆の怒りが収まらないと教えられた。それだけのことを彼らはしてきたのだと。
 唯一生かしたのは兵団長。もっとも怒りを向けられているはずの相手。生かしたのはカイトの指示だと聞いた。生かしたことに意味があるとすれば、それはきっと王国に関りがあること。私はそう思った。

 

「前カルス男爵のことでしたら、まだ生かしています」

 

「そう……前、カルス男爵?」

 

 あえて「前」をつけた意味。それが気になる。

 

「あれ、来る途中で聞いていませんか? カルス男爵は私が継ぎました。王国対策ってやつです。無理やりですけど、それを知られなければ、公式に継承したってことになります。それで交渉窓口として認められれば、王国の出方が分かる。決裂するにしても時間稼ぎは出来るでしょう」

 

 つまり、退魔兵団の兵団長もカイトってこと。これを知ったら王国はどうするつもりかしら。カイトの継承を認めない可能性は高い。でも、それには何の意味もない。カイトは解散するまでの繋ぎのつもり、時間稼ぎの為ですもの。
 そう。きっとカイトはそれしか考えていない。そういう人だから。

 

「では私はカイトと婚約したことになるのね?」

 

「えっ……ええっ!?」

 

 やっぱり気付いていなかった。カイトらしいといえばらしいけど、ちょっと不満だわ。こういうカイトが憎らしい。憎らしいと思うほど私は彼を愛している。愛している人と結ばれる機会を与えてもらえたことに感謝している。

 

「お前、そこで驚くか? 俺たちはその為に男爵を継いだのだと思っていたのに」

 

「カイトくん、そこは君の為に男爵になった、で良いところだから」

 

「まあ、カイトだから」

 

「だね?」

 

 周りの人たちのほうが私の気持ちを分かってくれている。でも、暴威さんの言う通り。カイトだから。こういう人を私は好きになったのだから。

 

「婚約……結婚で良いのよね?」

 

「それは、そうなると俺は凄く嬉しいのですけど……良いのですか?」

 

 ここでもこんな台詞。でも「嬉しい」とカイトは言ってくれた。それが私も嬉しい。

 

「鈍感。私はずっとこうなることを望んでいたわ」

 

「……俺は、俺は無理だと思っていました。でも、ずっと貴女が好きでした。だから、俺と結婚してください」

 

「「「うおおおおおおっ!!」」」

 

 大勢が見ている前でのプロポーズ。これはカイトらしくない。でも嬉しい。嬉しくて嬉しくて、涙が出る。

 

「はい。私は貴方の妻になります」

 

「「「うわぁあああああっ!! おめでとうっ!!」」」

 

 ずっと望んでいた。でもカイトと同じ。無理だと諦めていた。こんな日が来るとは思っていなかった。これは奇跡なのか。これこそ運命なのか。どちらでも良い。私はカイトの妻になる。夢見ていた幸せが現実になった。
 ごめんなさい、慈愛の神ミレー様。これまでの不信心をお許しください。私は今初めて、心の底から貴女の加護に感謝しています。

 

(……予定と違うけど、まあ良いわ)

 

「えっ……? 今、何……?」

 

 声が聞こえた。私の心の声に応えた声は誰の声なのか。

 

「どうかしました?」

 

「……何でもないわ。慈愛の神に感謝を伝えていたの」

 

 空耳。そうとは思えない、はっきりとした声だった。でもカイトに話して信じてもらえることでもない。少なくとも今、話すことではない。

 

「ああ……俺は感謝を伝える神様はいない……慈愛の神ミレー様か……そういえば神殿で会いましたね?」

 

「そうね。そうだったわ」

 

 カイトが唯一の存在と言った女性。亡くなられているその人はどういう方だったのかしら。ヤキモチとかではなく、気になる。いつか話してくれるかしら。その日を待とう。その時は私がカイトの唯一の女性でありたい。こう思う私は、やはり嫉妬深いのかしら。

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