月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第97話 積年の恨み晴らします

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ カイト ◇◆◇

 こちらの計画はまさかのクズ団長の介入で台無しになった。クズ団長のことを過小評価し過ぎていたのだろうか。ただ、あまりにも対応が早過ぎる。自分が捕まったことを知って、送還役が送られてくるまで、たった一週間。クズ団長がいる退魔兵団の拠点まで往復するだけで二週間近くは必要になるはず。計算がまったく合わない。しかも送還役は実に面倒な奴等。断空、暴威の二人まで加わっていた。おかげで逃げ出す隙を見つけられなかった。
 実に用意周到。二人がたまたま拠点に戻っていたなんて偶然があったとしても、捕らわれた事実を知る前に手配していたとしか思えない。
 どうしてそれが出来たのか。実は退魔兵団も転移魔法を陰では利用しているのか。こういうことは後で聞くしかない。わざわざ聞かなくてもクズ団長が勝手に話してくれる可能性もある。目の前に立っているクズは実に嬉しそうだ。舞い上がっているクズは、より頭が回らなくなるものだ。

 

「まったく、どうしてお前はこうなのだ? 役に立たないだけでなく、団に迷惑をかけることしかしない」

 

 この質問に何の意味があるのか。退魔兵団の役になんて立ちたくない。出来れば潰してしまいたい。こう思っているのは自分だけではないはずだ。他の人はそうしたくても出来ないだけ。自分だってこれまで意識してそうしたことはない。

 

「罰としてお前には一か月間の独房入りを命じる」

 

 意外と軽い罰。そんなはずはない。クズ団長がこの程度で終わらすはずがない。いつもの醜悪な笑みがそれを示している。

 

「本来であれば、今すぐ首を落とされてもおかしくない大罪だ。この程度で許されたことを感謝しろ」

 

「……それはどうも」

 

「何だ、その口の利き方は!?」

 

 この先の展開は読める。また「土下座して詫びろ」と命じるのだろう。どうしようか。大人しく言うことを聞いておくか。周囲には、よくもまあ、わざわざこれだけの人数を揃えたものだと呆れるくらいに大勢の兵士たちがいる。ここまで俺を連行してきた断空、暴威はもちろん、夢魔まで。おそらく無影もいるのだろう。
 クズ団長にとって俺を貶めるのは一大イベントのようだ。分かっていたけど、ずいぶんと嫌われたものだ。こちらも同じか、殺してやりたいほど嫌っている。

 

「……まあ、良い」

 

 ここで予想外の反応。許す理由が何かある。まだクズ団長はお楽しみを残しているようだ。

 

「独房から出た後、お前にはしばらく召使いをしてもらう」

 

 ここで「召使い」なんて言葉が出てきた。どういう意味があるのか、まだ分からない。クズとクズの取り巻き共がニヤニヤ笑っているので、ろくでもないことなのだろう。

 

「これにも感謝しろよ? 召使いは罰ではない。お前も喜ぶことだ。近々、アッシュビー公爵家のご令嬢がここにくる」

 

「……なんだと?」

 

 どうしてここでクリスティーナが話に出てくるのか。どうして彼女が退魔兵団の拠点にやってくるのか。

 

「お前には、そのご令嬢に仕えてもらう。私の婚約者、すぐに妻になる女性だ。名誉なことだろう?」

 

「…………」

 

 こいつは今何と言ったのか。クリスティーナを自分の婚約者、妻と言ったのか。俺の聞き間違えではないのか。聞き間違いでないとすれば、俺がそんなことを許すはずがない。

 

「心を尽くして仕えるのだ。一時も側を離れることは許さん。私がベッドの上で彼女の体を弄んでいる時も、お前は側で見ていろ」

 

「…………」

 

 ああ、こいつは本当にクズなんだな。前から殺してやりたいと思っていた。でも今ほど、強くそれを思ったことはなかっただろう。本当の殺意というものがどういうものか、俺は今初めて知ったのかもしれない。

 

「兵団長。こうしたらどうですか? こいつも裸にさせて」

 

 取り巻きまで調子に乗って、言わなくて良いことを口にしてきた。別に良い。後悔するのはこいつだ。

 

「はあ? 抱かせてやれというのか?」

 

「まさか。素っ裸で部屋の隅に正座させて、兵団長が楽しむ様子を指をくわえて――っ! ぎやぁああああっ!!」

 

「お、おい!? 何だ、何が起きた!?」

 

 魔法で焼き殺そうとしているだけだ。クズ団長をおだてる才能だけで取り巻きになった奴だ。ろくな抵抗力はない、焼き尽くすのにそんなに時間はかからないだろう。炭になって、この世界から消えてしまえば良い。

 

「死にたいみたいだから、殺してやっただけだ」

 

「お、お前……ふざけるな! そんな真似が出来る――っ」

 

「う、うわぁああああっ! ひ、火が、た、助けてぇええええっ!」

 

 そんな真似ができることを証明してやった。クズ団長は最後だ。取り巻き共を一人ずつ、恐怖を与えながら殺し、最後の最後にクズ団長を殺す。一気に焼き殺すなんて優しい真似はしない。じっくりと焼き上げてやる。

 

「カ、カイト……き、貴様……まさか……?」

 

「従属魔法のことか? それならとっくに解除している。さすがは無能なお前でも使える術式だ。実に簡単だった」

 

「そ、そんな……馬鹿な……」

 

 従属魔法があれば、どんな仕打ちをしても許される。実際にこいつらはそうしてきた。それが大きな勘違いであることを、今日思い知らせてやる。

 

「カイトくん。それは私のも出来るのかな?」

 

「ん? ああ、出来ると思うけど?」

 

「だったら、さっさと解除しろ! この馬鹿!」

 

「えっ、ええ?」

 

 夢魔に怒鳴られた。出会って初めてだと思う。彼女も怒るのか、なんてことを考えている場合じゃないか。

 

「体に触るけど?」

 

「良いよ。なんなら裸になる?」

 

「必要ないから」

 

 すぐにいつもの夢魔に戻った。女心となんとかの空、とかいう言葉があったような。これも今考えることじゃないか。

 

「出来た」

 

「速っ……ああ、確かに。なんか頭が軽くなったかも?」

 

 そういう感覚なのか。自分の時はそんな風には思わなかった。魔法を解除する前から魔法の影響を受けなくなっているとルナが言っていたから、そういうことなのだろう。

 

「殺せ! カイトを殺せ! 命令だ!」

 

 失敗。クズ団長に命令する時間を与えてしまった。夢魔のせいだ。

 

「やばっ!」

 

 真っ先に届いた攻撃は断空の剣。分かってはいたけど速い。

 

「カイト! さっさと俺のもなんとかしろ!」

 

「そうして欲しいなら攻撃を止めろ!」

 

「出来ないのは知っているだろ!?」

 

 面倒くさい。心では拒否しているのに、体は命令に従っている。面倒くさいは悪いか。こういう状況は本人にとってかなり辛い。辛いので心でも非道な命令を受け入れようとする。そうして心が麻痺していくのだ。

 

「はい、終わり!」

 

「暴威と無影も! クズ共を殺すのは任せろ!」

 

「クズ団長は生かせ!」

 

 真っ先に殺してやりたい相手。それでもじっくりと苦しめながら殺すと決めた相手。でも感情のままに動くのは止めた。これは夢魔のおかげか。少し冷静になれたからだ。

 

「はあ!? どうしてだ!?」

 

「使い道がある!」

 

 質問してくるな。その暴威の攻撃を躱すので、こちらは精一杯なのだから。

 

「なんだか分からないけど、分かった!」

 

「この、少しは手加減しろ!」

 

「悪い!」

 

「気合いで止めろ! 少しで良い!」

 

 我ながら無茶を言っている。気合いで従属魔法に抵抗出来るのであれば、誰も苦労しない。

 

「うおおおおおっ!! ……出来たっ!!」

 

「脳筋すご……」

 

 本当に止めやがった。脳みそまで筋肉な奴は魔法のかかりが浅いのだろうか。まあ、良い。とにかく暴威はやってくれた。

 

「こっちも出来た! っと、今度はお前か!?」

 

 我ながら良く躱せたと思う。無影の攻撃はどこから来るか分からない。攻撃力は低いけど、数を受ければ動きが鈍る、動きが鈍れば、ますます攻撃を躱せなくなる。少しずつでも確実に相手にダメージを与え、弱らせたところで止めをさす。こういう戦い方なのだ。
 そうなるとこちらはどう対応するか。

 

「えっ?」

 

「痛っ……でも捕まえた」

 

 あえて攻撃を受けて、その瞬間に無影を捕まえる。これだ。

 

「カイト……」

 

「ほい、完了。断空と暴威を手伝え」

 

「大丈夫?」

 

「いや痛い。でも死ぬほどじゃない。少し休めば……ああ、夢魔か……どれだけに通じるかな?」

 

 周囲に数えきれないほどの蝶が舞っている。本物ではない。夢魔が作り出した幻影だ。集団に作用する精神干渉魔法。こういう時には夢魔の力はありがたい。ただ問題はどれだけの兵士に通用するか。退魔兵団の兵士は皆、耐性が強いのだ。

 

「一度でかかるのは、せいぜい半分くらいかな? それも動きを鈍らせるまで」

 

「一度って……」

 

 二度、三度重ねると誰もがやられるのか。そうだとすれば、やっぱり、とんでもない女だ。

 

「カイトくん、ちゃんと働いて。全員の魔法を解除するの、それなりに時間がかかるよね?」

 

「そういうことね……」

 

 兵士は全員助けろということ。意外と夢魔はまともだ。一番いかれているようでいて、一番大切なところを失っていないのかもしれない。そういえば出会ったばかりの頃はどんなだっただろうか。普通の女の子だったような気が、いや、違う。普通の女の子は無理やり、人のファーストキスを奪ったりしない。夢魔は、ミユウは出会った頃からいかれていた。

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