
◇◆◇ カイト ◇◆◇
もしかすると<成長補正>なんてスキルが勇者様とその仲間たちには与えられているのだろうか。それとも勇者様とその仲間たちは特別に敵を倒すと経験値が得られ、そのおかげで戦う度に確実に、結果びっくりするような速さで、成長出来るのか。経験値システムはズルいと思うけど、この世界がゲーム世界であればあり得る話だ。主人公とその仲間たちだけが成長して、敵やモブはまったく成長しないのがゲームというものだから。
勇者様とその仲間たちは迷宮で戦い続け、確実に強くなっている。接待ばかりでどうするのかと思っていたけど、最後の最後で成果は得られたようだ。こういう感じで強くなれるのだとすれば、勝利の鍵はこの先、いかに実戦を多く積み重ねられるかになるのだろう。それも強さが丁度良い敵と戦えるかが重要だ。レベルが低いのにボスキャラ魔王が現れては、そこでゲームオーバー、バッドエンドだ。戦う敵は選ばなければならない。都合良く選べるとは思えないけど、そこは勇者様の強運に期待。あり得ない運の良さも勇者のスキルのひとつ、のはずだ。
(クズ男が前衛で中衛に勇者様。後衛がもう一人のクズ男と性悪女……性悪女は中衛か。前衛にクズと勇者様かな?)
勇者パーティーの陣形を考えてみた。アントンの前衛は固いはず。エミリーは回復役として後衛を考えたけど、あの女は攻撃力もある。一つ前に出して中衛。王子様も前に出して、前衛を二人にする。これが良いのかと考えた。
(いや、攻撃力があるからこそ、後衛か? 小さいほうのクズを守ることが出来る)
イーサンは魔法士系なのだと思う。それも攻撃ではなく支援系。ここまで見てきた限りではそうだ。近接戦闘が苦手となると、護衛役が必要になる。それは誰が適任かとなるとエミリーだ。最初の案が正解ということになる。
(……そもそも数が足りないのか。役回りとして足りないのは……盾役かな?)
四人という数に問題がある可能性を考えた。役回りとして不足していそうなのは盾役。タンクとか呼ばれることもある、守りに強いメンバーが足りないのかもしれない。そのメンバーが加われば、クズとペアで前衛。勇者様が中衛で、性悪女と小クズの二人が後衛。安定する気がする。
そうなるとまだ登場していない主要キャラがいるのか。こういう考えはゲーム世界だと決めつけているようだけど、別に本気で考えているわけじゃない。勇者パーティーの戦いが終わるのを待っている間の暇つぶしだ。
(そうだな。数が足りないから時々、不安定になるのか)
連携は、王子様との間には割と深い溝が出来ていたと思っていたけど、悪くない。戦闘を重ねて、どんどん良くなっている。組むべくして組んだパーティーなのだろうと思った。
ただ時々乱れが見えるのは数が足りないからのようだ。目立ちたがりの性悪女が前に出たがっているというのもあるけど、まあ、それは仕方がない。前衛の負担が大きくなれば後ろが前に出るしかない。勇者様が前衛に出れば、性悪女は中衛を埋めることになる。目立ちたがりは悪意があり過ぎか。きちんと考えての動きだ。ただそれをすると後衛が手薄になる。これは課題だ。
奴等は迷宮での戦い方を分かっていないようだ。前にばかり気を取られて、後ろが疎かになっている。経験が少ないのだろうか。性悪女は小さい頃から鍛錬を、レベルアップ作業にしか聞こえなかったけど、続けてきたと言っていた。それにしては経験不足に思える。
(まあ、怒られれば気が付くか)
勇者パーティーの隙を埋めているのは護衛の騎士。さすがの彼らは前方の戦いばかりに気を取られることなく、左右後方にも目を配っている。敵が現れるとさりげなく対処している。護衛なのだから当然とは思わない。戦い慣れしている。それに強い。一人前の騎士とはこうなのかと感心した。
(そうなると、やっぱり王子様以外は一から選んだ方が良くないか?)
性悪女とクズ二人は勇者パーティー確定のような顔をしているが、奴等よりも優れた騎士はきっといる。選考試験のようなものをやるべきだと思う。それともそこは、宰相様と侯爵様の威光を利用してのことか。そうだとしたら、この国は終わっている。本気で魔王国に勝つ気があるとは思えない。
(……ああ、嫌な感じ。こういうのもゲームっぽい)
どうしてそんな行動を、そんな判断をするのかという場面がアニメなどでは良くある。そうしないと主人公たちに都合が悪いから、もしくはストーリーが面白くならないからだ。
主要キャラの為に世界が動いている。そういうのは真っ平ごめんだ。自分がモブだからではなく、主要キャラがあいつ等だからだ。
(……今なら気付かれないかな? いや、止めておこう)
<鑑定>を使ってみようかと思ったけど、すぐに気が変わった。おおよそ誰が誰かは分かっているつもりだ。今回同行することになり、多くの時間を一緒に過ごしたことで、確度はあがったと思う。もっとも嫌いで、恨んでいる二人とその取り巻きの一人。取り巻きもアントンとイーサンのやり取りを盗み聞きして、ある程度、候補は絞られた。元の世界の関係性はこの世界でも同じ。少なくとも当人たちはそのつもりなのだろう。
(いや、そうなのか? あれがあれだとすると……俺なら嫌だな)
そう思うのはヒエラルキーの上位にいた奴等。その下でこき使われていた奴らは元の世界での関係などなかったものにしたいはずだ。俺はそうだ。殺したいという思いはあるが、それ以上に関わり合いになりたくないという気持ちが強い。自分の知らないところで勝手に生きるか死ぬかして欲しいと思う。こうして、会話こそ避けているが、ずっと一緒にいる羽目に陥っているのは実に不本意なのだ。
三人のうちの一人もそういう奴なはず。奴は今の状況をどう思っているのだろう。もう諦めているのか。悪い転生先ではないので、これで良しと思っている可能性もある。この可能性のほうが高いか。宰相の息子で、多分、跡継ぎ。さらには勇者パーティーのメンバーになれて、いずれ名声を手に入れられるはずの立場なのだ。この世界のヒエラルキーではかなりの上位者になれる。
(……あれはそうだとしても……)
自分が転生しているくらいだ。他にも転生した奴がいる。目の前の三人と鬼人族に転生した瀬名だけでなく、もっと多くの奴らがこの世界に転生してきている可能性があるのだ。そいつらはどこで何をしているのだろうか。
もし、この世界がゲーム世界で、元の世界にそのゲームはあって、そいつがそのゲームをやったことがあるとしたら。自分がゲームの主要キャラではないと知った、そいつらはどうするだろう。
(……これって……もしストーリーがある世界だとしても、その通りになるのか?)
自分のように物語には関係のないところで穏やかに暮らしたいと思うのであれば、影響はない。でもそうでなければどうか。瀬名なんてそうだろう。あいつは敗者になる側に転生してしまった。滅ぼされる運命を背負わされているだろう側だ。生き残ろうと思えば、それを実現する方法を必死に考え、それを実行する。そういうやつが他にも大勢いたら、皆が定められたストーリーを変えようと行動したら、それは実現するのだろうか。
もし、この世界にストーリーがあるのであればの話だけど、そうであってもそれは意味のないものになるのかもしれない。この可能性を考えたのは、これが初めてだ。