月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第88話 頑張ったとは思うけど

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 

◇◆◇ パトリオット ◇◆◇

 どうしてこのようなことになるのか。「狙う相手を間違えていませんか?」と言いたいところだが、これを言っても事態の解決にならないことは分かっている。実際に間違いであっても、「そうでした。では失礼」なんて言って、相手が去ってくれるはずがない。襲ってきたのは魔族なのだから。
 よりにもよってどうしてカイトのいない今なのか。それともカイトがいないことが分かっていて、襲ってきたのか。この可能性はある。
 僕だってまったくの馬鹿じゃない。妹の周りで次々と大変な事件が起きる。それをただ偶然が重なっただけなんて思わない。妹に悪意を持つ何者かの仕業だ。しかもその何者かは、かなりの力を持つ人物だ。最悪の可能性も、考えたくないけど、考えている。もし考えている通りであれば、僕はどうすれば良いのだろう。どうするだろう。ただ今はこれを考えている余裕はない。

 

「マイルズ! 時間を稼いでくれ!」

 

「承知!」

 

 魔族を倒す、倒すまではいかなくても、撤退させなくてはならない。誰かの思い通りにはさせない。カイトがいないのであれば、僕が妹を守るのだ。

 

「愚かな! そのようなものが効くか!」

 

 マイルズの魔法剣を弾き飛ばす魔族。これだけでかなり強い敵であることが分かる。魔族だから当然だとはいえ、魔法剣を手で弾き飛ばすなんて異常だ。

 

「まだまだ!」

 

 まったくダメージを与えられなくてもマイルズは諦めない。彼に頼んだのは時間稼ぎだ。それを理解してくれているのだろう。次々と魔族に向かって放たれる魔法剣。
 魔族のほうは相変わらず余裕だ。それで良い。こちらをなめていてくれれば、それだけ時間が出来る。そしてその時間はもう充分だ。

 

「――敵を討て! 炎嵐(ファイアストーム)!」

 

 僕の最大攻撃魔法。風属性魔法と炎息の複合魔法<炎嵐>だ。炎の竜巻がその勢いを増しながら、敵に向かう。騎士学校の倉庫を全焼させるという大失敗のあとも、懲りずに練習を繰り返してきた魔法だ。
 これを受けて無傷とはいかないはず。無傷だったらどうしよう。

 

「……なるほどな。真竜を倒したというのは間違いではなかった」

 

 無傷ではなかった、ダメージは与えられた、だが、倒すにはほど遠いダメージのようだ。

 

「まだだ! もう一度だ!」

 

 一度で駄目なら何度でも繰り返す。カイトもそうやって竜にダメージを与え続け、倒したのだ。最後は僕が横取りしたけど。

 

「させるか!」

 

 だが、当たり前だけど魔族は待ってくれなかった。少しは本気にさせたということだ。喜ぶ気にはまったくなれない。油断し続けてくれたほうがありがたかった。

 

「……マイルズ!?」

 

 魔族の攻撃を受けて、マイルズが大きく吹き飛ばされた。あれでは時間稼ぎを行う役目が果たせない。

 

「むっ?」

 

 だがまだ終わりじゃない。マイルズが動けなければ、コルテスが代わってくれる。

 

「……我が目を欺くとは、なかなかの者だ。だが残念なことに、その攻撃では我を止めることは出来ない」

 

 コルテスが得意とするのは不意打ち。気配を消して、存在さえ消し去って、敵が攻撃圏内に入るのを待つ、ここまでは上手く行ったのに、敵の動きを止めることは出来なかったみたいだ。

 

「うわぁああああっ!」

 

「諦めが速いな!? 丸見えの攻撃が通用すると思ったか!?」

 

 コルテスは一か八かの全力攻撃に切り替えた。だが、それでも魔族には通用しない。振るった剣は片手で止められ、そのまま投げ飛ばされた。

 

「――敵を討て! 炎嵐!」

 

 それでも時間は作られた。仲間が頑張って作ってくれたこの時間を無駄にするわけにはいかない。

 

「今度こそ! 行けぇええええっ!」

 

 二発目の炎嵐。これで更なるダメージを。出来ることなら敵が動けなくなるくらいの、逃げようと思うくらいのダメージを与えて欲しい。

 

「……無駄だ」

 

「そ、そんな……」

 

 だが期待は裏切られた。魔族は二発目も耐えてみせた。二発目は耐えたという様子もない。僕の魔法はこの魔族には通用しないのか。

 

「悪くはないが、まだまだ使いこなしていない。我と戦うのは早かったな」

 

「……お前が待ってくれないからだろ!?」

 

 泣き言だ。それは分かっている。だが諦めたわけじゃない。諦めないことの強さを、僕はカイトから教わったつもりだ。最後の最後まで足掻けば、何かが起きるかもしれない。淡い期待であっても、それにすがって足掻くのだ。

 

「弱い! 鍛え方が足りないぞ!」

 

「余計なお世話だ!」

 

「う、うぉおおおおっ!」

 

 マイルズも痛めた体に構うことなく、また参戦してきた。コルテスも同じ。攻撃が通用しないからといって諦めることはしない。諦めたらそれで終わり。死を実感すると人は案外、強くなれるみたいだ。諦めたら死ぬのだから当然か。
 僕たちが頑張れているのはクリスティーナのおかげでもある。怪我をしてもクリスティーナが治癒魔法で治してくれる。ダメージが蓄積していることは感じているけど、それでも動ける。カイトが竜とどう戦ったのか、どれほど苦しかったか。今初めて分かった。

 

「しぶといな。あの女を先に片づけるか」

 

「クリスティーナを守れ!」

 

 魔族に気付かれた。クリスティーナを殺されては戦闘継続は不可能。そんなことは関係なく、妹を殺させるわけにはいかない。命を捨てることになっても守らなくてはならない。妹はこんなところで殺されて良い存在じゃない。僕とは違うのだ。

 

「邪魔だ! どけ、雑魚どもが!」

 

「守れ! 守るんだぁああああっ!」

 

 三人がかりでも魔族を止められない。分かっていたことだ。それでも守る、絶対に守る。

 

「ま、守る……妹は……ぼ、僕が……」

 

 守れない。僕に力がないせいで妹が殺されてしまう。自分の命よりも大切な妹を。そう思える唯一無二の存在を、僕は守れない。

 

「クリスティーナ!」

 

 魔族の腕がクリスティーナに向かって振るわれた。それを防ぐ力は妹にはない。僕は、ただ叫ぶしか出来ない。

 

「……き、貴様……どうして貴様がここにいる!?」

 

「何が……?」

 

 魔族が叫んでいる、焦っているようにも聞こえる。何が起きているのか。

 

「薄汚い手でクリスティーナ様に触れることは私が許さない」

 

 突然現れた男。あれは誰だ。味方なのか。

 

「ザグブル……裏切ったのか?」

 

「私の名はザグブルではない。アレクサンダーです。クリスティーナ様に頂いた素敵な名です」

 

「何だと……? そんな馬鹿な……この女が上書きしたというのか!?」

 

 何を話しているのか。魔族の口ぶりでは二人は知り合い、つまり現れた男もまた魔族ということだ。だがその魔族、アレクサンダーと名乗った魔族はクリスティーナを守ろうとしているみたいだ。

 

「馬鹿な、とは何です? クリスティーナ様であれば出来て当然のこと。驚くのはクリスティーナ様に無礼だと思いませんか?」

 

「……敵に回るというなら容赦しない。自分の選択を後悔――ぎぁああああっ!」

 

 これまでずっと余裕を見せ続けていた魔族が絶叫した。僕たちの攻撃を軽く跳ね返していた腕が、一瞬で失われていた。何が起きたのか。僕の目はそれを見極めることが出来なかった。

 

「魔族も緩くなったものです。長々と話している余裕があるなら、敵を殺すべきです」

 

「き、貴様……」

 

「口の利き方も知らない。どう考えても私のほうが格上。その態度は改めるべきですね?」

 

「ぐわぁああああっ!」

 

 また絶叫。今度は足だ。両足が切断され、そのまま地面に倒れていく。今度はわずかに見えた。見えたといっても黒く細い影が伸びたというだけ。それが攻撃であることは見て分かったのではなく、想像だ。

 

「まだ頭が高いですね? 私に対してはそれくらいで許してあげても良いのですけど、クリスティーナ様には。後頭部はいりませんね?」

 

「わ、分かった! 俺の負けだ! 負けを認めるから……命は……どうか……」

 

「……誇りまで失っている。もう良いです。貴方は死になさい」

 

 これを言い切るのとほぼ同時に細い影がまた伸びた。今度ははっきりと視認出来た。その影が地面に倒れている魔族の首を切断した様子も。

 

「さて、残るは……」

 

 僕に視線が向けられた。「残るは」の言葉の意味を考えた瞬間、背筋が凍った。

 

「アレク。私の兄なの。マイルズとコルテスも私の大切な仲間なの」

 

「ご家族とお仲間ですか……しかし、あの男は私の存在を知られることはクリスティーナ様の害になると」

 

「カイトも殺す必要はないと言うわ。絶対に」

 

 カイトの名が出てきた。カイトも知っていること。知っていて、これまで隠してきたことなのだ。

 

「……クリスティーナ様のお言葉を信じます。では、私は下がります」

 

 男は一瞬、黒猫になった。目の錯覚ではない。間違いなく猫だった。ただその猫も消えた。どうやって消えたのか、僕にはまったく分からない。

 

「……ク、クリスティーナ……あの男は?」

 

「アレクは私を守ってくれる人。信頼出来る人だわ」

 

「……その言葉を信じよう」

 

 消えた魔族と同じ台詞を口にすることになった。こう言うしかない。クリスティーナに対しては忠実だ。それはもう分かった。だが彼女以外には容赦がないことも分かった。殺すことをまったく躊躇わない。それが魔族ということか。
 命を助けてもらったのだから感謝すべき。実際に感謝の心はある。だがそれ以上に、とんでもない秘密を抱えてしまった恐怖のほうが強い。この秘密は絶対に守らなければいけない。これを考えた時、ほんの少しだけど、男の気持ちが分かった。マイルズとコルテスは生かしておいて大丈夫か。こんなとんでもない思いが頭をよぎってしまったのだ。

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