月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第84話 思惑が空回り

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 ウイリアムとの間に出来た溝が一向に埋まらない。騎士学校の二年目になってからは、誰よりも共に過ごす時間が長くなっているというのに、それは関係改善にまったく役立っていない。「なにを意地になっているのか」と怒りを覚えていた時期もあった。だが、こちらまでそんな風に子供じみた考えにとらわれている場合ではない。時は迫っているのだ。
 八芒星王と名乗る魔族と遭遇した。その魔族に対して、我々は何も出来なかった。ミネルヴァ王国騎士団七星将の一人であるマントルは、私たちが相手していたのとは別の魔族を倒した、となっているが、そんなはずはない。私たちが為す術もなく終わった相手と同じ魔王国の幹部が、七星将ごときに敗れるはずはないのだ。
 魔族は何をしたかったのか。今もまったく分からない。だが、何をしようとしていたかに関係なく、大事なのは魔族が動いたという事実。宿敵である我々の前に現れたのだ。思っていたよりも物語は加速しているのではないか。あの時から、この思いが心から離れない。不安が消えない。
 また騎士養成学校の野外授業という名目の巡行。前回はあちこちでもてなしを受けて浮かれていたが、今回はそのような気持ちにはなれない。また意味のない巡行で時を費やすことになる。強くなるための時間が奪われる。
 これに関してはウイリアムも同じ思いのようだ。

 

「カイト。もう一度だ」

 

「……はい」

 

 毎日、空き時間があればカイト・メルと立ち合いを行うウイリアム。今回はこの男も我々に同行している。理由は聞いた。納得もした。この男は魔族が人族に化けていても見破れる。そういうスキルがあるということだ。
 この話も私が焦りを覚える理由だ。王国騎士団の騎士に魔族は化けていた。いつからかは分からないそうだ。今隣にいる誰かが魔族かもしれない。この可能性はまったく考えていなかったのだ。

 

「今のはどう思う?」

 

「それ、私に聞くことですか?」

 

 ウイリアムとカイトであれば当然、ウイリアムが圧倒的に強い。そうであるのにウイリアムはカイトに助言を求める。これも最初は納得がいかなかった。だが今は違う。

 

「カイトから見て、どうだったかを聞きたいのだ」

 

「殿下と同じ。反応は半拍遅れたと見ています」

 

「そうだな……では、もう一度だ」

 

 カイトは「半拍」という言い方をしたが、時間にすれば、十分の一秒程度の時間。測りようがないので時間は私の感覚だが、とにかく一瞬の出来事であることに違いはない。その遅れにカイトは気付くことが出来る。その力があるということだ。
 実際に立ち合いで見る彼は速い。動きの速さだけであればウイリアムと互角、それ以上かもしれない。そうであるのに反応出来るのはウイリアムが持つスキルのおかげだ。
 分からない。彼は加護を持たないとイーサンは言った。<鑑定>のスキルを使った結果だ。間違いではないはずだった。それでどうしてここまで戦えるのか。彼はこの世界の常識から外れている。
 自分たちと同じ転生者。この可能性を考えた。だが、我々はこの世界の常識通りの存在だ。優れた加護を持ち、その力で世界を救うのだ。ではイーサンの<鑑定>が間違っているのか。この可能性はまだ消えていない。だがスキルが間違うなんてことがあるのだろうか。

 

「イーサン、あの男を<鑑定>してみろ」

 

「……殿下に気付かれたら責任取ってもらえる?」

 

「ウイリアムには気付かれない。<鑑定>はあの男に使うのだ」

 

 他人のステータスを覗き見するべきではない。人づてだが、ウイリアムにこう言われている。イーサンが躊躇うのもしようがない。ただカイトの秘密を知る必要がある。何者か分からなければ対処しようがない。
 今は仲間に出来る相手であれば、そうしても良いと思うようになった。この男を敵に回し、クリスティーナの側に押しやった。これが今の状況を作ってしまった原因と考えていることも、仲間にすることを考える理由のひとつだ。

 

「……それでも気付かれたら責任をとって」

 

「分かっている。さっさとやれ」

 

 こういう言い方をされると腹が立つ。元の世界での感覚がまだ残っているのだ。元の世界でイーサン、三城(みき)は私の言いなりだった。何でも、逆らわずに、言うことを聞いた。転生した私は元の世界の私そのままではない。この世界のアントンという意識のほうが強いのに、感情が反応してしまうのだ。

 

「……変わらず……あっ、違う。これは以前はなかったはずだ」

 

 やはり何か間違いがあった。イーサンの<鑑定>も完璧ではないのだ。

 

「どういう加護だ?」

 

「加護ではなく、称号」

 

「称号だと? 何の称号だ?」

 

 加護は生まれた時に与えられるが、称号は違う。経験によって得られるものだ。加護には劣るが、ステータスに影響を与え、新たなスキルを得られる場合もある。ゲームでは最上位クラスの加護を持たない仲間に称号を渡すように行動することで、パーティー全体の能力を高めることが出来る。そう上手く狙った相手に渡らないので、私はほとんど使わなかった成長手段だ。

 

「<竜の庇護者>」

 

「竜……良い称号みたいだな? 効果は?」

 

「……知らない。僕が知らない称号だ」

 

「なんだって?」

 

 イーサンが知らない称号。元の世界でゲームをやり込んでいたイーサンは私よりも遥かに多くの知識を持っている。知らないことはないくらいだと思っていた。だがカイトの得た称号については知らないようだ。それだけレアな称号と考えても良いはずだ。

 

「詳しく覚えていないけど……新しいスキルはないと思う」

 

「どうして覚えていない?」

 

 そんなはずはない。新たな称号を得たのであれば、なんらかのスキルも同時に得たはず。イーサンが元のステータスを覚えていないだけだ。

 

「覚えなければならないと思うようなステータスではなかった」

 

「だからといって……まあ、そうだったか」

 

 私も覚えていない。加護を持たないという時点で、意識する相手ではないと判断した。人間関係に影響を与えるだけの存在だと、その時は、思っていた。

 

「でも<竜の庇護者>ということは、どこかに竜がいるってことだ」

 

「当たり前のことをそれらしく言うな」

 

 竜はいる。イーサンに言われなくても知っている。ゲームにおいては、あり得ない理不尽な存在だった。勝てる可能性がゼロのレベルでも遭遇してしまう最悪な敵だ。出現条件は不明だが、恐らくは、絶対NGな行動をしてしまうこと。強制終了と同じだと私は思っている。

 

「そうではなくて、彼の近くに竜がいるはずという意味。そうでないと庇護出来ない」

 

「……お前の<鑑定>がバグっている可能性はないのか?」

 

 竜が近くにいればすぐに分かる。だがそんな気配はまったくない。やはり、イーサンの<鑑定>が間違っているのではないかと思った。

 

「あるはずない……と言いたいところだけど……彼に関してはね」

 

 イーサンも自信を失っているようだ。<鑑定>だけでなくカイトの存在そのものが分かっていない。イーサンが示した可能性は、どれも該当しなかった。超隠しキャラ、アナザールートへのきっかけを作るキャラクターという可能性はまだ残っているが、これも証明しようがない。証明出来た時はストーリーが変わってしまった後。それでは手遅れなのだ。

 

「どうにかしないと」

 

「僕たちに出来ることがあるかな? 第一印象から今までずっと最悪。取り付く島もないというのはこういうことか、ってくらい無視されている」

 

「エミリーは……不発か」

 

 エミリーにカイトとの関係修復を任せたのは、ずっと前のこと。その結果は今の状況が示している。失敗だ。この際、色仕掛けでも何でも使えば良いと思うが、これを彼女に言うと反発を食らう。近頃はエミリーとの関係も微妙なのだ。

 

「恐らくは、なんとかしなくてはならないのは彼女、ここにいない彼女。そういうことだと僕は思っている」

 

 イーサンの言う「彼女」。クリスティーナのことだろう。ここで名を出して、ウイリアムに聞かれてしまっては、また我々が何か企んでいると誤解されてしまう。それを警戒しているのだ。
 誤解ではないか。カイトを味方に引き込むことを邪魔しているのはクリスティーナの存在。この可能性は大いにあり得る。それをどうにかしようと思えば、企みの類が必要になる。
 ここまではことごとく悪役令嬢の排除に失敗してきた、次はなんとしてでも成功させなければならない。それもウイリアムとカイトの恨みを買わずにという条件付きで。難題だ。でもなんとかしなくてはならないのだ。

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