月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第80話 誰かさんのせいで呼び出し

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 パトリオットが燃やしてしまったのは鍛錬道具が保管されていた倉庫。幸いにも貴重な品はなく、怪我人も出なかったけど、建物を全焼させてしまったことで騎士養成学校から呼び出しをくらうことになった。当たり前といえば当たり前だけど、どうしてパトリオットだけではないのかという点には不満は残る。
 呼び出された会議室では学長が待っていた。ふざけていて窓ガラスを割ったなんてこととはレベルが違う大問題。学長がいるのはまだ分かる。分からないのは王国騎士団長まで同席していること。騎士養成学校は王国騎士団の下部組織であるからなのか。王国の組織についての知識は自分にはないので、勝手な想像だ。
 さらに、これは事件とは関係ないことだけど、気になる人物もいる。

 

「新たに得たスキルを試していたら建物が燃えてしまった。これに間違いはないですか?」

 

「はい。そうです。どの程度の威力か分からなくて、失敗してしまいました」

 

 パトリオットは過失を主張するつもりのようだ。嘘じゃない。燃やそうと思っていたわけではないのは事実だ。ただ、過失であっても罪は軽くないだろう。

 

「……それは竜を倒して得たスキルですか?」

 

「はい。皆で倒しました」

 

 自分たちが同席しているので手柄を独り占めにするのは避けたみたいだ。未だに納得していないけど、怒りはない。パトリオットを許したというのではなく、自分も称号を得たから怒る理由が薄れただけだ。

 

「その倒した竜なのですが、どういう竜でしたか?」

 

「どういう竜でしたか?」

 

 学長の質問の意味がパトリオットには分からないようだ。自分も分からない。「どういう」というのは、どういう答えを求めているのだろうか。

 

「ザニア王国の竜騎士団は知っていますか? 竜に乗った空飛ぶ騎士団です」

 

「ああ、話に聞いたことがあるような……えっ!? 竜騎士団というのは、あの竜に乗っているのですか!?」

 

 ザニア王国はミネルヴァ王国の隣国。スピカ大陸における最大の軍事国家、カンバリア魔王国を除くという前提がつくかもしれないけど、と言われている国だ。そのザニア王国には竜騎士団というものが存在する。馬ではなく翼竜に乗る騎士団だ。見たことはないけど、自分も知っている。間違いなく、パトリオットに比べれば、詳しいほうだ。

 

「あの竜というのは?」

 

「竜騎士団というのはどれくらいの数なのですか?」

 

 学長の問いをスルーして、問いで返すパトリオット。そうしてしまうほど驚いているようだ。

 

「それほど多くはないと聞いています。二十か三十か……詳しくは分かりません。軍事機密でしょうから」

 

「さ、三十……あれが三十……」

 

 自分たちが戦った竜、生まれ変わり前のルナに乗る騎士が三十騎もいれば、ミネルヴァ王国は簡単に滅ぼされてしまうだろう。カンバリア魔王国とも単独で戦えるのだろうか。魔王国の戦力が分からないので何とも言えない。
 ただこれを考えることに意味はない。パトリオットは勘違いをしているのだ。

 

「学長。遠回りは止めてもらえるか?」

 

 王国騎士団長が口を挟んできた。無意味な会話に焦れているのだろう。

 

「申し訳ございません。パトリオット殿。君が倒したのは翼竜ではないのですか?」

 

「さあ? 竜を見たのはあれが初めてですので」

 

「……えっと、大きさはどれくらいでしたか?」

 

 どうして学長は回りくどいを話し方をするのだろう。自分たちが戦った竜は翼竜じゃない。翼竜はせいぜい人が二人乗れるかどうかの大きさ。まったく比べものにならない。

 

「パトリオット様が全焼にした建物よりは少し小さいくらいです」

 

「カイト……そのたとえは……」

 

 無意味な会話に焦れているのは自分も同じ。さっさと話を先に進めてもらいたい。騎士養成学校は自分たちが倒した竜は翼竜だと思っていたようだ。それは注目されないはずだ。翼竜相手であれば、自分も死にそうな目に遭うことはなかった。

 

「つまり、真竜ということですか?」

 

「翼竜を倒して≪竜殺し(ドラゴンスレイヤー)≫の称号を得られるのでしたら、この世界には大勢の≪竜殺し≫がいるのでしょう」

 

「やはり、そういうことか……」

 

 ちょっと嫌味っぽい言い方をしてしまったけど、学長は気にしていないみたいだ。それどころではないということなのかもしれないけど、そんなに動揺することなのかとも思ってしまう。倒したのが翼竜であろうと真竜であろうと、騎士養成学校に何か影響を与えることはないはず。良い点数をつけて成績をあげてくれればそれで良い。それさえ、退魔兵団の兵士である自分にはどうでも良いことだ。

 

「どうやって倒したのだ?」

 

「皆で協力して倒しました」

 

 王国騎士団長の問いにもパトリオットは、学長の問いへの答えと同じ言葉で返した。質問内容は違うのに。

 

「そうではなく……君に聞いたほうが良いのか?」

 

 王国騎士団長は自分が何者かを知っている。この問いはそれを示しているのか。それとも、パトリオットに竜を倒す力はないと決めつけているからか。

 

「パトリオット様が答えをお持ちです」

 

 どちらであっても素直に答えを返す気にはなれない。退魔兵団のクソ団長とは格が違う存在だと分かっていても、団長と呼ばれる人への悪印象は変わらない。これも決めつけだ。

 

「……称号を得たのは彼か……もしかするとウイリアム殿下に同行してもらうことになるかもしれない」

 

「えっ? 私たちが殿下の騎士団員ということですか?」

 

「そうではない。パトリオット、君だけが勇者である殿下の仲間に加わるということだ」

 

 実力があると分かった途端に引き抜き。引き抜きというか、パトリオットは自分の騎士団を作ろうとしている。それを諦めろということだ。やはり、団長と呼ばれる人間にはロクな奴がいない。

 

「それはお断りします」

 

「何故だ? 勇者である殿下と共に戦えるというのは名誉なことだ。こう思わないのか?」

 

 呼び出され理由はこれだった。パトリオットは建物を全焼させるほどの火属性魔法の使い手。これを聞き、事実かを確かめ、事実であれば王子様、勇者様の戦力増強につなげようという考え。王国騎士団長が出張ってきた理由が分かった。

 

「名誉なことだとは思いますが、私では力不足です。それに私は自家の領地で生きる民の為に働きたいと思っています」

 

 パトリオットは拒否した。領民の為に自分の力を費やすことを選んだ。驚きはない。パトリオット、そしてクリスティーナはその為に王立騎士養成学校に来たのだ。

 

「……そうか」

 

 王国騎士団長はあっさりと引き下がってくれるか。恐らく騎士団長個人の考えでここにいるのではないだろう。王子様の同行者を決める権限は王国騎士団長にはない、とは言わないけど、独断で決められることではないはずだ。

 

「こちらかもお聞きしたいことがあるのですけど、よろしいですか?」

 

「……何かな?」

 

 質問があるという自分の発言に王国騎士団長は少し戸惑った様子だ。それともそういう振りをしているのか。

 

「ウイリアム殿下にはお伝えしたはずなのですが、調査の件は進んでいるのでしょうか?」

 

「調査というのは? 殿下からそのような話を聞いた覚えはない」

 

「ああ……だからですか」

 

 とぼけているのか、実際にまだ聞いていないのか。これだけでは分からない。では、どうするか。

 

「調査というのは何のことだ?」

 

「……悪魔の協力者を調べる件です」

 

 少し考えて、はっきりと言葉にすることにした。そうしないと事が進まないと思った。

 

「なんだって……?」

 

「悪魔に協力している、恐らくは人族がいるはずです。こう考える根拠も殿下には説明済みです」

 

「……我が国に内通者がいると言うのか?」

 

「はい。そう考えていたのですけど……内通どころか悪魔そのものが王国に入り込んでいるようです」

 

 言い切った途端、閃光が走った。王国騎士団長の剣であることは、事が終わってから分かった。さすがというべきか。椅子に座っている状態から、殺意が発せられた瞬間にあれを繰り出せる王国騎士団長は、当たり前かもしれないけど、かなりの実力だ。

 

「……どうして分かった?」

 

 王国騎士団長の剣は後ろに控えていた自分の部下の首を飛ばした。即死、とはならなかった。その部下は人族ではなく、魔族。恐らくはサキュパス族か。斬り飛ばされた顔は、顔に見えるけど、顔ではない。顔に見えるように形作っているだけだ。それも、恐らくは実在した、王国騎士団長の部下の顔を。
 剣では殺せないので黒炎魔法で焼き殺した。王国騎士団長が先に手を出したとなれば、遠慮することはない。魔族であることを王国騎士団長が認めたのだ。

 

「これだけの距離で人族かそうでないかが分からないようでは、生きてこの場にはいられませんから」

 

 魔族は明らかに魔族と分かる姿をしている種族だけではない。人族とは見分けがつかない種族もいる。サキュパス族のように自由自在に姿を変えられる種族もいる。それを見極められないようでは退魔兵団の兵士なんてやっていられない。誰にやられたかも分からないうちに死んでしまうことになる。
 この能力は退魔兵団の兵士全員が持っているものだ。どうやったら身に付くかは分からない。分かっているのは悪魔の迷宮にいる間に得られることくらいだ。

 

「……王国騎士団に悪魔がいるとは」

 

 だから、きちんと調査するように伝えたのだ。伝えたのは王子様にだけど。

 

「しかし、結界をどのように突破したのですか? 侵入があれば検知されたはずです」

 

 今目の前に悪魔がいたという事実の前には、まったく無意味な問いを発する学長。この人はどうして学長になれたのだろう。

 

「だから内通者です」

 

 アレクもあっさりと騎士養成学校の敷地内に入れた。貴族家の馬車には魔法による襲撃に備えて、防御結界が施されている。それが結界による検知を妨げるのだ。ここまで詳しいことは、この場では話さない。見直しがされて、アレクが見つかってしまうような事態になっては困る。
 実際に見つかるのだろうか。アレクからの応えはない。念話などを使うことで存在を気付かれるのを恐れているのだろうと判断した。

 

「……後ほど詳しい話を聞くことになるだろう」

 

「承知しました」

 

 騎士養成学校の倉庫をひとつ全焼させてしまったなんてことは些事。元々の目的はこれに対する説教ではなく、パトリオットを王子様の同行者にすることだとしても、これもまた王国騎士団内に悪魔が入り込んでいるという事実に比べれば、些事だ。王国騎士団長は急ぎ足で会議室を出て行った。
 パトリオットはこのまま罪を問われずに済むのだろうか。これはまだ分からない。

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