月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第77話 色々と思うところはあるようだ

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 この世界にはやはり特別な力が働いている。活躍するのは主要キャラだけでモブにはその機会は与えられない、というものではない。そうであれば、もっと楽に生きられる。モブにとっては、もっと理不尽な世界だ。
 竜との戦いはまったく話題に上らない。自慢したいわけではないけど、竜と戦ったという事実はそれなりに驚かれてもおかしくない出来事のはずだ。そうであるのに周囲はそれを無視。知らない人のほうが多いだろう。
 そうなった原因は主要キャラたちの活躍と被ってしまったから。勇者御一行様は魔族と戦って勝ったらしい。それも自分が何度も戦っている悪魔と呼ばれている下位の魔族ではなく魔王国の重臣、八芒星将と呼ばれている中の一人、それも第三位だという話だ。魔王国にもミネルヴァ王国の七星将と並ぶ厨二な奴らがいた。そういう世界という証だろう。
 その八芒星将がどれほどの強さかは知らない。八芒星というくらいだから八人。その中に魔王も含まれているのかは分からない。それでも魔王の次の次、もしくは次の次の次に強い奴。それを倒したのだから話題をかっさらうのは当然といえば当然。それと重なったのがモブの不運、というかモブがモブである所以だ。物語の裏でモブが何をしていたかなんて誰も知らないのが普通なのだ。

 

「……強いことは強い……でも鍛錬だけじゃな」

 

 勇者御一行様が強いのは当たり前。だが同行していた七星将も八芒星将と戦ったらしい。ミネルヴァ王国の七星将というのは魔族の上位者と互角に戦えるだけの力がある。本当にそうなのか確かめに来たのだけど、鍛錬の様子を見ているだけでは実力は分からない。
 全力を出しているはずがない。自分も鍛錬と実戦では戦い方が違う。そうせざるを得ないからだけど。

 

「驚くほどの強さではないか?」

 

 声を掛けてきたのはウイリアム王子。近づいてきているのは気配で分かっていた。クリスティーナが一緒であることも。

 

「そういう意味ではありません。鍛錬を見ていても本当の実力は分からないと思っただけです」

 

 クリスティーナの気持ちも分からない。婚約者と一緒に自分のところに来る。これはどういう意味なのか。あの夜のことは気の迷いだから忘れて。こう伝えたいのだろうか。
 忘れられるものなら忘れたい。意識してぎこちなくなっているのが自分でも分かる。そうであることを周囲に悟られないように、接触を避けてもいた。

 

「立ち合いを申し込んでみるか?」

 

「そこまでして確かめるほどではありません。あの人が強いか弱いかで何か変わるわけではありませんから」

 

 自分には関りのないことだ。退魔兵団が王国騎士団と共に戦うことはまずない。退魔兵団の兵士は部隊訓練なんてしていない。足手まといになるだけで、それは王国も分かっているはずだ。

 

「カイトにとってはそうかもしれないが、王国にとっては重要な問題だ」

 

「問題?」

 

 ミネルヴァ王国の戦力評価としては七星将の実力が、魔王国と比較して、どれほどのものかを知ることは重要なことだろう。ただ「問題」という言葉を使ったことに引っかかりを覚えた。王子様は何を問題だと考えているのか分からない。

 

「七星将が魔王国の八芒星王と互角に戦えるかどうか。個で打ち破れるかどうかで戦略は大きく違ってくる」

 

「ああ、そういうことですか……八芒星、王?」

 

 自分は八芒星将と聞いている。そうであるのに王子様は「王」と呼んだ。

 

「相手が八芒星王と名乗った。将ではなく王だと」

 

「……魔族とひとくくりに呼んでいても種族は様々。それぞれの種族の王ということでしょうか? でも八人では数が少なすぎますか……」

 

 鬼人族に転生した瀬名も仕える主を「姫」と呼んでいた。種族にはそれぞれ王が、呼び方はそれぞれかもしれないけど、いる。これは恐らくは合っている。でも種族が八つしかないはずがないので、選ばれた八人であることに変わりはないのだろう。

 

「なるほど……魔王国は連合王国ということか……いや、今更だな」

 

「いくつもの種族をひとつにまとめているのが魔王。だから魔王を倒せば勝ち……単純すぎるけど、大きくは間違っていないはずです」

 

 まとめる存在がいなくなれば。、種族それぞれの考えで動くことになる。よほどの愚か者でなければ自分の種族だけで戦いを挑もうなんて考えないはずだ。

 

「新たな魔王が立つだけだ」

 

「ですが、その魔王が戦いを望まない魔王であれば平和は訪れます」

 

 あくまでも魔族との関係に限っての話だ。魔族の脅威が薄れれば人族同士の争いが始まるかもしれない。この世界のストーリーを知らなくてもこれは分かる。

 

「そのような魔王がいるとカイトは思うのか?」

 

「それは分かりません。ですけど……すべての魔族が戦争を求めているわけではないことは知りました。攻撃されなければ、放っておいてくれれば、静かに生きることを選ぶ魔族もいます」

 

「……魔族の里に行ったのだったな。その話もしたかった」

 

 ウイリアム王子は、当たり前だろうけど、自分たちの身に起こったことを知っている。王国から知らされたのか、クリスティーナから聞いたのかは分からない。両方かもしれない。

 

「偶然だと思いますか?」

 

「……今回もまた何者かの策だと?」

 

「分かりません。結果、魔族とは戦いになりませんでした。共通の脅威がいたおかげ……おかげはおかしいですね?」

 

 竜は感謝する相手ではない。本当に殺されると思った。何度も何度も人生を諦めたほど辛い戦いだった。後でルナに文句を言っておこう。

 

「カイトの考えが正しいとすると……どうして、ここまでのことを……」

 

 ウイリアム王子の視線がクリスティーナに向いた。その意味は分からない。同情、罪悪感、怒りの感情も、クリスティーナに向けたものではないけど、あるだろう。

 

「そろそろ真剣に調べたほうが良いと思います」

 

「もちろん、そのつもりだ」

 

「いえ、恐らく殿下は分かっていません。この件は王国が総力をあげて調べるべき問題です」

 

 ウイリアム王子が考えている黒幕の範囲は狭い。動機をクリスティーナを妃にさせない為だけだと思っている。でも、そうじゃない。証拠は何もないけど、この推測は正しいはずだ。

 

「私は何を分かっていない?」

 

 素直に聞けるところがウイリアム王子の良いところ。これがアントンあたりだと侮辱と受け取って、怒り出すところだろう。

 

「策を弄している奴は魔王国と繋がっている可能性があります」

 

「……なんだって?」

 

 予想通り、ウイリアム王子は脅威を小さく考えていた。クリスティーナに危害を加えようという策略は「小さい」とは言えないかもしれないけど。

 

「あくまでも可能性です。でも、まったく根拠がないわけでもありません」

 

「聞かせてくれ」

 

「もちろんです。何故、あの場所に魔族の里があったのか。大規模な悪魔掃討作戦が実行された後なのに」

 

 隠れ里といっても課外授業に選ばれるくらいの場所。前人未到の、決して人族が近づけないなんて場所ではない。運良く王国騎士団の探索の目を逃れることが出来た。そうだとしても作戦が行われていることを知っていて、そのまま里にいるだろうか。あの里には子供も暮らしていたのだ。

 

「わざと見逃されていたと思っているのか?」

 

「それも否定出来ませんけど。それだと裏切りの規模が大き過ぎるような……あそこで暮らしていた魔族は、ここは大丈夫と聞いていた。その情報を信じる理由があった。これでも成り立ちます」

 

「……分からない。どういうことだ?」

 

「私も全てを分かっているわけではないので、これはという説明出来ません。ただ、ひとつだけ確実に分かっていることがあります」

 

 魔族の里で聞いておけば良かった。でもあの時は、相手の気が変わらないうちに、里を離れることしか考える余裕がなかったのだ。
 魔族と通じている人族が王国にいる。分かっているのはこれだけだ。具体的に誰が怪しいというのは、なくはないけど、他人に話せる根拠はない。自分の中だけでもそうだと思える自信を持てない。

 

「それは何だ?」

 

「悪魔と呼ばれる魔族は簡単に王都内に潜入してきます。それをたいして危険な行為だとも思っていない」

 

 これは間違いのない情報だ。実際にその悪魔、瀬名に、直接聞いたわけではないけど、確かめたことだ。

 

「手引きしている者がいる……そういうことか?」

 

「これは間違いないと思います。ただそいつ等と策略がどう結びつくかが分かりません」

 

 ミネルヴァ王国を裏切って、魔王国に通じている奴がいる。これは、自分にとっては、それほど驚くことじゃない。いつ戦争になってもおかしくない敵国に内通者を作ろうというのは当たり前の試みだ。
 だが、その内通者がどうしてクリスティーナを殺す策略を実行、黒幕は別にいるとした場合は協力、するのか。これが分からない。クリスティーナには自分が知らない、魔王国にとって都合の悪い何かがあるのか。

 

「……推測が正しいとすれば、我々も嵌められたのかもしれないな」

 

「我々というのは?」

 

 ここまでも嵌められた可能性を話している。ウイリアム王子の「我々」は自分たち、クリスティーナのことではない。クリスティーナも少し戸惑ったような顔をしている。彼女も今初めて聞いた話なのだろう。

 

「マントルが、ああ、マントルは七星将の一人、あそこで鍛錬している男だ。彼が八芒星王の一人を倒した」

 

「殿下たちではない?」

 

 自分が聞いた話では王子様たち、勇者御一行様が倒したことになっている。自分の問いに王子様は苦い顔、王国が話を変えたことがその反応で分かる。

 

「そうだ。ただ……珍しくアントンが否定してきた」

 

「あの自己顕示欲の塊がですか……」

 

「辛口だな。アントンが否定したのはマントルが倒したことだ。八芒星王は七星将一人でなんとかなる相手じゃないと言ってきた。相変わらず根拠のない話だが……私も違和感を覚えていた」

 

「どういうことでしょうか?」

 

 アントンの主張にはウイリアム王子も納得できる点がある。そうであれば、いつもの戯言ということではないのだろう。八芒星王の強さをアントンがどうして知っているか。これは疑問には思わない。まず間違いなく転生前の知識、この世界はゲーム世界で、奴はそのゲームを知っているのだ。

 

「もう一人の八芒星王と我々は戦いにならなかった。効果不明の結界を張られ、その中で会話しているうちにマントルの戦いは終わったのだ。相手が何をしたかったのか、考えても分からない」

 

「結界ですか……効果はまったく分からない?」

 

「イーサンは魔法を使えないと言っていた。ただエミリーは使おうと思えば使えたと言っている。実際に使っていないのでイーサンのほうが正しいと思うべきなのだろうが……」

 

 そうは思っていない。エミリーのほうが、もしくは両方が正しいとウイリアム王子は考えているようだ。

 

「だから何というわけではない。ただもしかしたら分かっている人がいるかもしれない。これがカイトに会いに来た本題だ。現場で夢魔と呼ばれている彼女に会った」

 

「はっ?」

 

「何も起こらなかったのは彼女のおかげかもしれない。いきなり現れた彼女に相手は焦っていた。何かを邪魔されたのかもしれない」

 

「……そういうことですか。夢魔は何かしましたか?」

 

 何かはしたのだろう。ただそれが何かは自分にも分からない。ウイリアム王子から話を聞いても、きっと分からない。理解不能な女なのだ。色々な意味で。

 

「……蝶が飛んでいた」

 

「ああ……相手の邪魔をしたのは確かですけど、何をしたかは私にも分かりませんね」

 

 何らかの精神干渉を試みた。分かるのはこれだけだ。現場にいて、側で見ていても分からない。分かるのは本人と干渉された相手だけ。相手の多くも分からないまま死んでいくのだけど。

 

「そうか……彼女に聞けないか?」

 

 これが本題。この話になるまでかなり回り道をしたようだ。興味深い話ではあったので、別に良いけど。

 

「急ぎであれば無理です。夢魔の居場所を掴めませんので、いつ会えるか分かりません」

 

「退魔兵団を通せばなんとかなるか?」

 

「……出来ればそれは止めて欲しいです。夢魔は拠点に戻ることを望んでいません」

 

「しかし、兵団の拠点であれば戻らないわけにはいかないのではないか?」

 

 その通り。命じられれば戻るしかない。それに逆らうことは出来ない。だから夢魔は王国内を常に移動し続けている。報告はしても命令は出来るだけ受け取らないように。

 

「命じられれば従うしかありません。それがどのような命令であっても……」

 

 それが出来るなら逃げることも出来るのではないかと思ったけど、無理らしい。ミネルヴァ王国を出ることは許されない。恐らくはこの制約がかかっている。国外に出られないとなると、いつか退魔兵団に見つかる。しかも、その追っ手は親しい者たちかもしれないのだ。

 

「それは……知っている」

 

「こう言わなければ分かりませんか? あんなでも夢魔は女の子です。今はもう成人した女性です」

 

「……そんな……そんなことが……すまない……」

 

 ようやく理解してもらえた。出来れば言葉にする前に理解して欲しかった。ウイリアム王子は知らないのだ。退魔兵団の団長、それと幹部とされている奴らがどれほど外道かを。
 いつか皆殺しにしてやる。不可能と思われたことだったけど、可能性が生まれた。この可能性は絶対に可能性のままでは終わらせない。この世界に来て、生きるという以外に、初めてやるべきことが出来たのだ。

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