月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第75話 同居人が出来ました

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 運が良かった。こう思うべきかもしれない。あるはずのない魔族の里にたどり着いてしまい、さらにそこは竜に襲われていた。竜との戦いになってしまったことは、とんでもない不運。だがそんな不運に襲われて、生き残ることが出来た。これはやはり幸運だ。
 竜との戦いのあとも危険が去ったわけではなかった。魔族に殺される可能性もあった。その可能性のほうが、普通に考えれば、高かった。だけど、あの場所で暮らしていた魔族たちは、とんでもなくお人好しだった。
 自分が魔族の立場であればどうしていたか。殺していただろう。いつかは戦うことになるかもしれない相手。戦って自分を殺すことになる相手だ。生かしておく理由はない。生への執着は薄いほうである自覚はあるけど、自殺願望はないのだ。
 魔族の側はいつでも殺せる相手と考えたのかもしれない。戦いの前に借りを返しておく。それで心置きなく殺せる。自分とは違い、心に余裕があるのだ。羨ましいことだ。
 先に不安は残るけど、とりあえずは生き延びた。今回のことはこれで良しとしよう。それに得られたものもある。加護、ではなく称号だ。パトリオットと同じ≪竜殺し(ドラゴンスレイヤー)≫ではない。≪竜の庇護者≫だ。
 なんのことか分からない。心当たりがあるとすれば、ひとつだけ。それを確かめてみることにした。

 

「……あれ? ない?」

 

 収納魔法から取り出そうとしたけど、目的の物が出てこない。心に念じるだけで勝手に手の中に来るはずなのに、なんの手応えもない。どこかで落としたのか。そんなはずがない。収納魔法に格納していた物がなくなったことなんて、これまで一度もなかった。

 

「あっ……痛っ!」

 

 手応えがあったと思ったら、すぐに痛みに変わった。慌てて収納魔法から手を抜く。

 

「……きゅう」

 

「えっ? 何?」

 

 可愛らしい鳴き声。ただその姿は、可愛らしいと言えなくもないけど、竜だ。小さな竜が自分の人差し指に噛みついていた。

 

「竜の核……じゃなくて、竜の卵だったってこと?」

 

 誰もいない場所で確かめて良かった。他には誰もいないところで独り言を呟く羽目になったけど。

 

「……なんか……ありがちな設定のような気もするけど……竜なんてどうやって飼えば良い? こいつどれだけの速さで成長する?」

 

 あんな大きさの竜を隠しておけるはずがない。学院が飼うことを許してくれるわけもない。どうすれば良いのか。こっそりどこかに捨てて、なんて真似をして竜が暴れたらどうするか。

 

「自分が捨てたと知られなければ大丈夫か?」

 

(……お前……まあまあ駄目な奴だな?)

 

「おっ? 念話。まあ、当然か」

 

 自分の家族も念話を使えた。恐らくは竜のほうが魔獣としての格は上。念話くらい使えて当然だろう。

 

(驚かないのか……つまらないけど、時間は無駄にしなくて済んだ)

 

「とりあえず、確認させてくれ。お前は死んだ竜の子供で間違いないな?」

 

(いや、間違いだ。僕は死んだ竜本人だ)

 

「……どういうこと?」

 

 倒した竜が小さくなって生き返った。どういうことか分からない。そもそも竜についての知識は、前世のフィクションでの知識以外に、ない。

 

(僕たち真竜は子孫を残すのではなく、再生を繰り返す。死んで、生き返って、また死んで。延々と繰り返す)

 

「……良く分からない。どうしてわざわざ死ぬ必要がある?」

 

 何度も生き返るのであれば、それは不死。竜が言う「死ぬ」の意味が分からない。解りやすく「死ぬ」という言葉を使っているだけで、実際は違うのだろうと思った。

 

(長い生の中で、体も心も老いて損耗していくから。だから核となる部分だけを残して肉体を滅ぼす。その時に心、精神も若返る)

 

「……だから僕」

 

(これはお前のせいだ)

 

「はっ? 俺が何をした?」

 

 軽い冗談のつもりで口にした言葉に竜は真剣に反応した。念話では普通の会話よりも、より感情が伝わりやすいのだ。

 

(お前の魔法で精神を削られた。強制的なので、必要以上に幼児化が進んでいる)

 

「ああ……いや、それを責められても」

 

 戦いの結果だ。文句を言われる筋合いはない。そもそも襲ってきたのは竜のほう。悪いのは竜だ。

 

(責めてはいない。むしろ感謝している)

 

「感謝? それもおかしいけど?」

 

 感謝されて嬉しい、とはならない。どうして殺したことを感謝されるのか、まったく理解出来ない。理解出来ないことは喜べない。

 

(事情を説明する。僕はある男に心を支配されていた。逆らえないように縛られていた)

 

「ああ……俺たちと同じか」

 

 自分たち、退魔兵団の兵士たちも魔法で従属させられている。命令に逆らえないようにされている。

 

(そうなのか? そうは思えないけど……まあ、良い。僕たち真竜は本来、その手の精神に干渉する魔法への耐性がある。魔法を使われても、自力で跳ね除けられる)

 

「でも魔法で支配されていた?」

 

(その男の魔法は長い年月をかけて仕掛けられた。じわじわと、僕が気付かないくらい、ゆっくりと僕の心に浸透していた。それに気付いた時はもう遅かった。守ってくれるはずの相棒を失ったせいもある)

 

 そういう魔法もある。今初めて知ったことだ。魔法というより呪い。この世界には呪術の類もあるのかもしれない。

 

(お前の魔法はその浸透された僕の心を削り取った。僕が完全に、本当の意味で死んでしまうぎりぎりまで削った。結果、僕は解放された)

 

「まさか……わざと俺の魔法を受けていた?」

 

(そう。正しくは途中から。戦っているうちに僕の意識は徐々にはっきりしていった。本来の僕に近づいていった。それがお前の魔法のせいだと気が付いた)

 

「そういうことか……そうだよな? 俺に竜を倒せるはずがない」

 

 おかしいと思った、いくら幸運が味方してくれたとはいえ、竜を倒せるはずがない。倒したのはパトリオットだとしても、自分が生き延びられたはずがない。この世界の竜の知識は乏しいけど、まず間違いなく最強生物のひとつ。人族が一人で対抗できる存在じゃないはずだ。

 

(いや、かなり手強かったと思う。攻撃は手加減していない。魔法の影響で出来なかった)

 

「慰めは良い。話を続けてくれ」

 

(もう話した。お前は僕を解放してくれた。だから感謝している)

 

 そういうことか。殺した恨みはない。そもそも自分は殺していない。恩だけを感じているのなら、「このまま大人しくどこかに行ってくれ」と頼めば、言うことを聞いてくれるだろうか。

 

(それは無理)

 

「心読むの禁止」

 

(お前が念話の為に心を開放しているからだ。さっきも言った通り、僕は真の死を迎える直前の状態になった。自分の身を守る力がない)

 

「だから俺に力がつくまで守れと? あっ……称号はそういうことか?」

 

 得た称号≪竜の庇護者≫の意味。そのままの意味だ。この竜を独り立ちできるようになるまで守れということなのだ。こういうことって強制されることなのだろうか。自分の了承なしに庇護者に指名し、だから守れ。ちょっと違う気がする。

 

(それは僕のせいじゃない。今の僕にその力はない。称号を得たようだけど、それは偶然。いや、必然か。お前にその資質があったからだ)

 

「そう言われても……」

 

 どうしろというのか。巨大な竜を飼う場所なんて自分は持たない。養成学校を離れるわけにもいかない。

 

(その心配は当面いらない。大きくなるにはかなりの月日が必要。ここまで小さくなった経験はないけど、感覚で一年、二年では無理なのは分かる)

 

「ああ、それは良かった……って、その後は?」

 

 養成学校にいる間は大丈夫。でもその後はどうなるのか。ここでの任務が終われば、退魔兵団の拠点に戻ることになる。また別の仕事が与えられることになる。それは今のような自由は与えられない仕事のはずだ。

 

(いつもの状態に戻れば庇護者は必要ない。お前に頼らないで生きていく)

 

「なるほど。そういうことか……とりあえずは解決かな?」

 

(まあ、そうだ)

 

 竜が見つかる心配は、油断していると危ないけど、あまりない。二年くらい経って大きくなる時は、自分の庇護は必要なくなっている。どこかで勝手に生きていくはずだ……あれ……逃がして良いのか?

 

(暴れないから。僕があの場所を襲ったのはそれを強制されたから)

 

「それを信じろと?」

 

(僕の他にも真竜はいる。彼らが暴れているか?)

 

「俺は聞いたことはない」

 

 自分は聞いたことがないだけで、実際には暴れているかもしれない。ただ、知らない以上は嘘をついているとは言えない。暴れる理由がなければ大人しく暮らしている。これも否定は出来ない。

 

「……ん? お前って何を食べる?」

 

 目的なく暴れることはない。では目的があれば、どうか。食を得る為に人を襲うことはあるのではないか。そうであれば問題だ。庇護するにしても食事を調達するのは難しくなる。

 

(お前な、僕を何だと思っている? 真竜は人を食べたりしない)

 

「じゃあ、食事は?」

 

(お前と一緒にいる間はお前の魔力を頂く)

 

「はい?」

 

(それが一番早く成長するはずだ。それにお前も楽だろ? 狩りに出る必要がない)

 

 竜の言う通りではある。食料調達の手間は省ける。ただ魔力を奪われる。どれほどの魔力なのか。全て吸い取られてしまったらどうするか。

 

(だ・か・ら・失礼なことを考えるな。お前を殺したら庇護する者がいなくなるだろ?)

 

「そうだけど……」

 

 殺し合いをした相手を信用しろと言われても、すぐには信じられないのが普通だ。自分の場合は殺し合いをした相手でなくても信用しないけど。

 

(面倒な男だな……じゃあ、信用される為に情報をひとつ。お前は自分も同じだと言ったけど、確かに魔道は施されているみたいだけど、まったく効いていないな)

 

「はい……?」

 

(お前、誰にも支配されていない。まあ、僕のおかげもあるけどな)

 

 この竜は、本来は精神支配系の魔法に強い耐性があると言った。庇護者となったことで、その耐性が自分にも影響しているということか。

 

「それだと、お前がいなくなったら……あっ、そうか。解析すれば良いのか」

 

 支配されていないのであれば、施されている魔法の術式を解析し、解除することが出来るかもしれない。以前試みた時には術式を覗くことも出来なかった。禁止事項として術式に組み込まれているのだろう。だけど、竜の言うことが本当であれば、今は出来るはずだ。

 

(どうであっても僕が側にいる必要があるだろ?)

 

「……なんか、まんまと嵌められている気がする」

 

 竜の思う通りに進もうとしている。策に嵌められている気分だ。

 

(嵌めていない。魔法を施したのは僕じゃない。庇護者になったのも、必然とは言ったけど、僕が決めたことじゃない)

 

「確かに……」

 

(ただお前は僕が……まあ、良い。そういうことだから、よろしくな)

 

「ああ……よろしく」

 

 腑に落ちない。そんな気分だ。でも、竜の言う通り、一緒にいる理由が自分にも出来た。二年くらい一緒に暮らすことは、大きな問題ではない。本当にそうなのか。

 

(それで名前は?)

 

「はっ? それ俺が決めることか? それに生まれ変わりならすでに名はあるだろ?」

 

(生まれ変わったら新しい名前になる。これも老いた精神を若返らせることになる。だから、名前を寄越せ)

 

「急に言われても……」

 

 名前を考えろと言われても、すぐに思いつけるはずがない。竜に関係する名前……八岐大蛇、ヤマタ。

 

(却下)

 

「ええ……」

 

 却下ってありなのか。選ぶ権利が竜にあるのか。それはあるか。自分の名前だ。自分だってヤマタは嫌だ。

 

(もっとあるだろ? お前の心の中で印象に残っている)

 

「そういうけど、俺とお前は殺し合いをしたのだからな。それからの印象なんて良いものじゃない」

 

(確かに……じゃあ、出会ったあとで印象的な何かなかったか? それで良い)

 

「それで良いって……気に入らなかったら却下するくせに……」

 

 印象的な出来事、はある。でも竜とはまったく関係ない。まったく、ではないかもしれない。それでも、あの出来事からって。

 

「……じゃあ、ルナ。月の意味だ」

 

(月……ああ、あの女と抱き合っていた時か? 月明りが綺麗だったな)

 

「お、お前! どうして知っている!?」

 

(どうしてって、すぐ側にいた。それに見学者は僕だけじゃないだろ?)

 

「あっ……」

 

 また忘れていた。アレクもあの場にいたはずだ。あの男が見ているところで自分はクリスティーナと。

 

(気に入った。じゃあ、僕はルナを名乗る)

 

「あっ、えっ? これって、まさか?」

 

 アレクもクリスティーナに名付けられた。名付けると魔力を持って行かれると聞いている。この竜に名を付けた自分はどれほどの魔力を持って行かれるのか。

 

(心配するな。僕は、僕たち真竜はそんな未熟じゃない。魔力を奪うことはしない。繋げるだけだ)

 

「そうなのか?」

 

(そう。魔力奪われていないだろ?)

 

「ああ、そうかも?」

 

 竜の言う通り、魔力を奪われた感覚はない。繋げる、というのは良く分からないけど、その感覚もない。何も変わっていないということだ。

 

(よし。じゃあ、改めて、よろしくな、カイト)

 

「ああ、よろしく……ルナ」

 

 同居人が出来た。何がどうしてこうなったのか。自分の意思ではない。流されるままでいたら、今の状況になったということだ。どう考えれば良いのか。いや、考えるべきではない。自分は特別な存在ではない。特別だと思いあがってはいけない。

 

(いや、特別だろ? 普通の人は浮気はしない。いや、浮気したのは女のほうか)

 

「心読むの禁止! って、どうしてそこまで知っている!?」

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