月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第58話 女の戦い、とは違うけど

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 勇者ギルドの会議を終えたアークとミラの二人は、軽食をとりながら食堂で打ち合わせ。サークル王国から帰国して、すぐに誘拐事件の依頼を引き受けさせられた二人。次の依頼が未定で自由な時間が得られそうなので、これからのことについて、ゆっくりと話し合う時間を作ることにしたのだ。
 Sランクを目指していたアークだが、それはADUについての、行方不明になった姉の情報を手に入れる為。今のままでもそれは、ある程度、入手出来そうであり、Sランクになったからといって特別、何か情報を得られるわけではないこともホープから聞いて知った。ランク上げを急ぐ理由、それどころかそもそもランクを上げなければならない理由もなくなったので、以前からそうであるが、実力をつけることをより優先することにしたのだ。その為に何をしていくか。これを二人で話し合っている。

「剣術の鍛錬は、しっかりと時間を取ろう。ミラもそうしたいだろ?」

「そうだね。もっと剣を使えるようにならないと」

「ミラがある程度、剣で戦えるようになったら、二人だけでも立ち合いが出来るようになるからな」

 二人だけで行動している時、アークは一人で素振りをしたり、型の動きを繰り返すくらいしか出来なかった。だがミラも剣術を学べば立ち合い稽古も出来るようになる。当面は、アークにとっては物足りない相手だとしても、まったく出来ないよりは良い。

「待っていて。すぐに追いつくから」

「いやいや。無理だから。俺の努力を舐めるな」

「アークこそ、私の才能を舐めないで」

 毎度のやり取り。二人の戦い方はまったく違っている。アークは剣で戦い、ミラはアークを魔法で支援する役目だ。役割が違う二人だがお互いに相手をライバル視してきた。相手に負けないようにと頑張ってきたのだ。

「ああ、そうだ。ミラの剣を買わないと」

「ええ? いいよ。アークに貰ったので充分。それにまだ実戦で使えるレベルじゃない」

「自分の剣を持つと、鍛錬もやる気が出ると思うけど?」

「貰った物は私の物。私の剣だから」

 アークからの初めての贈り物。アークの側にそういう意識がないのは、ミラも分かっているが、それでも大切にしたいのだ。すぐに別の剣に替えるようなことはしたくない。

「じゃあ、防具か……ミラも、もう少し物理防御力が高い防具を揃えようか?」

「アークのほうこそ、魔法防御力も考えた装備にしたら?」

「俺はミラの魔法があるから良い。ていうか剣も防具もかなり良い物を貰っているから、買い替える必要はない」

 アークは剣を二本と軽鎧一式を共闘した勇者候補や依頼主から貰っている。どれも良い品で不満はない。一方でミラは祖母からのお下がりのマント、はかなりの上等品だが、と依頼主から靴を貰っただけ。新しく買うならミラの装備だとアークは考えているのだ。

「お前らさ、先に備えるならメンバーの追加だろ?」

 この場にはホープもいる。二人は誘っていないのに、勝手に付いてきたのだ。付いてきたことに二人も文句はないが。

「ああ、それは良いです」

 メンバーを増やすつもりは二人にはない。ミラは人には知られたくない魔法が使える。アークと一緒の時にそれを使ったのは初めての依頼の時だけだが、それでもこの先、何があるか分からない。
 それだけではない。アークが戦い、ミラがそれを魔法で支援する。この形を崩したくないという理由もある。

「いや、良くない。回復役はいたほうが良いだろ?」

 二人の戦い方についてはホープも良く知っている。下手な者をそこに混ぜると出来上がった形が壊れてしまうかもしれないことも理解している。だから回復役。ミラは治癒系魔法を使えない。ブレイブハートに欠けている役割だ。

「回復役……でも回復役を加えるとその人を守る役も必要になります。クッキーに二人も任せるのは不安なので」

 回復役がいないことを指摘されると反論は難しい。これか、あとは治癒系魔法の使い手は数が少ないので適任者が見つからないくらいしか言い訳として思いつかない。

「その役も加えれば良い」

「ええ……四人になるじゃないですか?」

「はあ? パーティーは普通五人。それでも一人足りない」

 アークが頑なに新メンバー加入を拒む理由がホープには分からない。生き残る為にはパーティーの欠点をなくす必要がある。五人パーティーであっても、犠牲者を出して、解散するパーティーは多くあるのだ。ホープもそれを経験している。

「……もしかして……ブレイブハートに加入したいのですか?」

「誰が?」

「ホープさんが、痛っ!?」

 ホープがアークの頭を引っぱたいた音が食堂に響いた。手加減のない、といっても実際は加減されているのだが、日常モードとしては思いっきり、引っぱたいたのだ。

「叩くことないでしょう?」

「お前がおかしなことを言うからだ。俺は誰かと組むつもりはない。一人で気楽にやっているのが好きだ」

「それを言うなら俺たちも二人だけのほうが気楽です」

「……ははあ、なるほどな。さては二人きりの時間を邪魔、イタッ!! 痛いだろっ!?」

 今度はホープが引っぱたかれる番、引っぱたいたのはアークではなく、ミラだが。

「変なことを言うからです」

「なんだよ。アークに大人にしてもらったのは体だけで、心は子供のままか」

「グーで殴りますよ?」

「冗談だよ。冗談。まあ、ずっと二人で上手くやってきたところに、新しい奴を加えるのを嫌がる気持ちは分かる。でも、良い出会いがあればくらいで良いから考えておけ」

 数が増えれば強くなるというものではない。戦い方だけでなく性格の面でも相性が悪い仲間が加わると、却って弱くなる。連携が上手く行かなければ、命を落とす危険性が高まる事態にもなりかねない。仲間選びは慎重であるべきとはホープも思っている。ホープはソロだが、任務では他の勇者候補と組むことのほうが多い。そういう経験をこれまで何度もしているのだ。
 初めて組む相手ともそれなりに連携して戦える。それが出来るのもSランクとしての実力だ。勇者ギルドはアークたちを、そんなSランクのような使い方をしている。今後もそうするつもりだろうとホープは思っている。より危険な現場に投入されることになるのだ。戦力増強は必要だ。

「……分かりました。まったく考えないことはしません」

 ここで拒絶の言葉を口にするほどアークは馬鹿ではない。それにホープの言う「良い出会い」が本当にあるかもしれない。アークとミラの出会いはその「良い出会い」であり、お互いにまったく予期せぬ出会いなのだ。

「さて、俺はもう行く。また現場で会おう」

「はい……あれ? 王家主催のパーティーは?」

 いつになるか分からない合同任務の前に、王家主催のパーティーがあるはず。そこで会うことになるはずだとアークは思った。

「俺が行くわけないだろ?」

「ええ? それってずるくないですか?」

 アークも出来ることなら出席したくない。アルファイド王子にそれは許されないと言われたが、それを無視してでも欠席したい理由がある。

「Sランクの特権というやつだ。じゃあな」

 そんな特権はない。あとからモードラック支店長に文句を言われても、聞き流せる立場にあるだけだ。不満そうなアークをそのままにして席を立つホープ。

「……えっと……そんなに王女様に会いたくないの?」

 アークがパーティーに行きたくない理由をミラは分かっていない。アルファイド王子との話の中に出てきた「妹」。ティファニー王女が関係しているものと勘違いしている。「アークの欠席をティファニー王女は許さない」というアルファイド王子の言葉が気になっているのだ。

「ティファニー王女のこと? 別に。口うるさいけど、会いたくない相手じゃない」

「じゃあ、どうして?」

「それは……その……」

 口ごもるアーク。自分には理由を言いづらい。ティファニー王女が理由でなければ、ミラの頭に浮かぶ可能性はひとつだ。

「もしかして……私のことを考えて?」

「い、いや、違う。俺が面倒なだけ。そうだよな。やっぱり面倒だ。よし、支店長に欠席すると言って来よう」

「えっ? ちょっと、アーク?」

 逃げるように席を立って食堂を出ていくアーク。実際に逃げたのだ。主席したくない理由をこれ以上、追及されたくなくて。

「……私の為ならそう言えば良いのに……違うか。気にしていると思わせたくないのね?」

 パーティーへの参加に抵抗があるのはミラのほう。アークは彼女のことを考えて、欠席しようとしている。それは隠さなければならないことではないと思ったミラだが、すぐに思い直した。隠すのはアークの思いやり。そう思った。

 

 

◆◆◆

 Sランク勇者候補のホープと親し気に話をしていれば、当然、注目される。普段のホープは人好きの良い性格ではない。近寄りがたい雰囲気を醸し出していることのほうが多い。そんな彼がアークたちと同じテーブルで仲良く会話しているとなれば、何を話しているのか気になってしまう。それなりに注目度が高くなったブレイブハートの二人だと、おかしな想像までされてしまうのだ。

「……まさか、あの三人でパーティーを組むなんてことに?」

 アーク絡みとなると冷静でいられないカテリナであれば尚更だ。

「考えすぎだよ。そんなことがあるわけないじゃないか」

 カテリナの考えを否定するセーヴィングだが、本心で否定しているわけではない。そんなことはあってはならないという願望からの言葉だ。アークが自分よりも上に行くことをセーヴィングは受け入れられない。アークを追い出して自分を加えたことをカテリナに後悔されたくないのだ。

「じゃあ、どうして三人で話をしているの?」

 カテリナは簡単には納得しない。カテリナもセーヴィングと同じで「そんなことはあってはならない」と思っている。アークを追い出したことは間違いだったと認めたくない。
 ただセーヴィングと違うのは、本当にアークが成長したのであれば、また仲間に加えたいとも思っていること。それが出来ると思い込んでいることだ。

「それは……分からないけど、大した話じゃないさ」

「Sランク勇者候補とただの雑談をしていると言うの?」

 実際に雑談をしていた。ブレイブハートをより強くする為にはどうすれば良いかという真面目な話ではあるが、当事者ではないホープにとっては思うことを口にするだけの雑談だ。

「……任務の話だろ?」

 呆れ顔を見せながら、フェザントが口を開いた。本当は会話に加わりたくないのだが、結論の出ない不毛な会話を聞かされ続けるのも嫌なのだ。

「それはパーティーを組むという話と何が違うのかしら?」

「我々も参加した誘拐事件の依頼。別動隊として参加していたらしい」

「……どうして、アークたちが別動隊なの?」

「それはギルドに聞いてくれ。俺も参加していたことを聞いただけで、何をしていたのかまでは知らない」

 何をしていたか、何が起きたか。これは公表されていない。事件の背後には人族が、ADUがいるかもしれないなんて情報は、軽々しく公開出来ない。いずれは、少なくとも参加した勇者候補には伝えることがあるとしても、それは今ではない。

「……良いわ。彼女に聞くから」

「なっ? おい? 馬鹿な真似は止めろ」

 フェザントの制止を無視してカテリナは歩いていく。ミラがいるテーブルのほうへ。
 アークはまた仲間に引き込めるとカテリナは、何の根拠もないのに、思っている。それを邪魔する者がいるとすれば、それがミラだと。カテリナは向け先のない苛立ち、正確には自分に向けるべき苛立ちをミラに向けているのだ。アークとの関係が悪化したのはミラのせいだと。

「アークはどこに行ったの?」

「えっ……あっ、えっと……支店長室だと……」

「支店長室? 何の為に? まさか、ホープさんとのパーティーの話ではないわよね?」

「……違います。パーティーはパーティーでも王都で開催されるというパーティーの不参加を伝えに……多分……」

 どうしてこんなことを話さなければならないのかと内心では不満に思っているミラだが、カテリナの険しい形相に少しビビッてしまって、文句で返せなかった。

「パーティーって……ああ、王家主催の? そう、欠席するの」

「……その予定です」

「アークは可哀そうね。貴女なんかがパーティーの仲間だから」

「えっ……?」

 どうして、「貴方なんか」なんて言われ方をしなければならないのか。これも文句を言うべきところだが、あまりの唐突さにミラは言葉を発することが出来なかった。

「だって、そうでしょう? 貴女……それでパーティーに参加するつもり? 王家主催のパーティーにそんなみずぼらしい姿で。恥をかかされるアークが可哀そうだわ」

「おい!? いい加減にしろ! セーヴィング、さっさと連れて行け!」

 あまりに酷い言葉。こんな言われ方をされるいわれはミラにはない。フェザントにとってはそんな行いをしているカテリナこそ恥だ。食堂には他の勇者候補もいるのだ。
 こう思ったのはフェザントだけではない。セーヴィングも同じ気持ちだ。いくらなんでもカテリナの行いは酷い、自分たちの評判を落とすだけだと考えて、フェザントに言われた通りに、カテリナを自分たちの席に連れ戻していく。

「その……すまなかった。悪気は……いや、悪気があるからあんな真似が出来るのだが……その……」

「結構です。貴方に謝られる理由はありませんから。謝られても意味はありません」

 フェザントが割り込んできたことで、逆にミラの心に怒りが湧いてきた。カテリナの問答無用の一方的な圧力から解放されたせいだ。

「ああ、すま……いや、では、これで」

 その怒りはフェザントも感じ取れた。だからといって謝罪しても、ミラの言う通り、意味はない。謝罪すべきはカテリナで、その彼女は絶対に謝罪しない。そうなれば、ここから離れる以外、フェザントにはやることがない。

「…………」

 一人になってもミラの怒りはすぐには収まらない。収まるはずがない。ミラはオドオドした様子の気の弱い女の子に見られるが、実際はそうではない。だからこそ、アークとの初めての出会いで引き下がることなく、結果、パーティーを組むことになったのだ。
 その負けん気の強さがミラにひとつの決断をさせることになった。

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