月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第57話 事件はまだ終わらない

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 誘拐事件の犯人討伐依頼を終えて、勇者ギルドのハイランド王国支店では会議が行われている。犯人は全滅。生きて捕らえることは出来なかったが、それでも新たに分かったことがある。その得られた情報を共有する為の会議だ。
 参加者はハイランド王国のアルファイド王子と彼の側近。国内で起きた連続誘拐殺人事件だ。依頼主でもあるハイランド王国が情報を求めるのは当然のことだが、王子という立場にある人物が自ら参加する必要はない。彼がこの場にいるのは、勇者ギルド側の参加者が理由。わざとらしく場違い感を漂わせ、同席させられたことへの不満を主張しているアークだ。
 勇者ギルドはモードラック支店長だけでなく、現場にいたSランク勇者候補のホープ、そしてアークとミラのブレイブハートの二人も参加させたのだ。

「自死? それは間違いないのか?」

「絶対とは言いません。外傷を一切与えることなく、目の前にいた私に気付かれることもなく、人を殺せる方法が絶対にないとは言い切れませんから」

 アルファイド王子の問いに、皮肉にも聞こえる言い方で返すアーク。その態度にモードラック支店長は苦笑い。これはアークの甘えだ。アルファイド王子のほうが年は少し上だが、幼馴染と言える関係の二人なのだ。

「死因は分かっているのかな?」

 アルファイド王子も苦笑い。ただこういう態度はかつての関係と変わらないことを示すものでもある。アルファイド王子としては嬉しい態度だ。

「恐らくは毒。あらかじめ用意していたということになります」

「苦しんで死ぬよりは、ということか」

 犯人だという証拠は、現時点ではない。だが、連続誘拐殺人事件の犯人ということであれば、間違いなく死刑になる。死ぬことに変わりはない。捕らえられて拷問などの辛い目に遭わされるよりは、自ら死を選ぶ。自死の動機にはなる。

「もしくは死んでも隠さなければならない何かがあったかです」

 だがアークは、勇者ギルドは別の動機を考えている。自白を強要されることを恐れての自殺だ。

「なるほど。ギルドは後者であると考えている。根拠を教えてもらえるかな?」

 モードラック支店長に視線を向けてから問いを口にしたアルファイド王子。勇者ギルドの見解となるとアークが話すべきではない。アークはあくまでも、いち勇者候補で、現場にいたからという理由で、この場にいるのだ。

「事件に人族が関わっていたという事実を隠すためであると考えております」

「それは分かる。でも、どうしてそうしなければならないのだろう?」

「全ては魔族の仕業であり、魔族がどれほど残忍であるかを世に知らしめたいから。事実を知る者は全て死んでおりますので。何の証拠もない推測ですが」

 モードラック支店長の話を聞いたアルファイド王子の視線が、またアークに向いた。モードラック支店長のこの説明だけで犯人、黒幕であるかもしれない存在が分かったのだ。アークと因縁のある相手だ。

「……ADUの仕業だと?」

 魔族の悪評を広めたがっているのは誰か。真っ先に頭に浮かぶのはADUだ。だがここまでのことを本当に行うのかという疑問はある。全ての魔族は悪。滅ぼすべき存在だと主張するADUではあるが、今回の事件では人族が何人も殺されているのだ。

「可能性は否定出来ません」

 アルファイド王子の問いにアークは無言。モードラック支店長が答えを返した。アークのほうはADUこそ滅んでしまえば良いと思っている。感情的な答えになることが、アーク自身も分かっているのだ。

「……特別自治区を襲撃していたのもADUということかな?」

 魔族が暮らす特別自治区を襲撃していた集団。かつてはせいぜい嫌がらせ程度であったことが、ここ数年、数も増え、過激になっている。実際に何人も犠牲者を出しているのだ。
 アークたち、ブレイブハートによって多くが討たれたが、その事件によって二千という数を動員できる組織であることが分かった。それだけの数をどうやって集めたのか。どうやって維持出来たのか。活動資金はどのように得ていたのか。背後にADUがいる可能性が高まっていたところだ。

「それもまた証拠がないことですが……可能性がございます」

「反魔族感情を煽ろうという意図は分かる。だが……その先に何を考えているのか?」

 推測通りであれば、これで終わりにはならない。個々の事件は一連の計画と考えるべき。真の目的があることになる。それは何なのか。魔族との決定的な対立をADUは求めているのか。対立の先にあるのは争い。人族と魔族の戦いだ。それでは第二次人魔大戦を引き起こそうとしていることになる。

「分かりません。組織の実態は王国でも掴めていないのですか?」

「まったくだ。怪しい者であれば、何百、何千といるだろう。だが。そこから組織に繋がるとは思えない」

「繋がる者は、今回のように自分の命と引き換えに秘密を守るということですか……」

 初めて掴みかけた糸の端だったのかもしれない。だが話を聞く限り、自死を止めることが出来たとは思えない。アークを責めるわけにはいかない。

「殺された人の身元は分かったのですか?」

 ここでアークが口を開いた。アークは後悔している。千載一遇の機会を逃したことを。自死を止めることは不可能だった。彼はこれでは納得出来ないのだ。家を出ることまでして、ずっと追い求めていたADUの情報を手に入れる機会を逃したのだから。

「いや、まだ調べているところだ」

「誘拐された状況が分かれば、手がかりが掴めるかもしれません」

「目撃者を探すのか」

「目撃者がいなくても、魔族が近寄れるはずがない場所で誘拐されたのであれば、手掛かりは掴めます。もしかすると、まだ犯人はそこにいるかもしれない」

 もしADUが関わっているのであれば、誘拐の実行犯は魔族とは限らない。少なくともアジトにいた、一目で魔族と分かる犯人たちが実行犯である可能性は低いとアークは考えている。犠牲者の身近にいる人族が実行犯である可能性も。

「……そこから組織に綱がる?」

 ADUの実体解明を困難にしているのは自称ADUが山ほどいるからだ。今回の事件もその自称ADUが暴走した結果である可能性をアルファイド王子は考えた。

「魔族を嫌いな人を見つけるのは簡単ですが、それを動機に人族に危害を加える人はそういないと思います」

「確かに可能性は高い。しかし……死なせずに捕えなければならないのか」

 実際に炙り出される容疑者がいるかは犠牲者の身元が明らかになった上で、さらに誘拐された時の状況を調べてみないと分からない。だが仮にいたとして、はたして生きて捕らえることが出来るのか。自分が怪しまれていることに気付けば、すぐに逃げるか、自死してしまうのではないか。

「……これはあくまでも可能性ですが、計画の全てを知らないで協力した者もいるのではないですか?」

「それはありうる。でも、それがどうだと言うのかな?」

 末端が何も知らされていないなんてことは、この事件でなくても、あり得る。今回の実行犯が皆そうであれば、捕まえても組織本体には繋がらないだろう。実行犯の逮捕は必要だが、それでは本当の意味での解決にはならない。アークはそんな結果を求めていないはずだ。これまでの話には何か意味があるはずなのだ。

「誘拐された人たちが魔族に売られたこと。情報提供を行えば罪は問わないということにすれば、接触してくる者が現れるかもしれません」

「……そうだ。魔族が関わっていた。そうであればADUは関係ないのでは?」

「魔族もまた何も知知らずに協力したのかもしれません。誘拐してきた人族を見張っているだけで金が貰える楽な仕事だと思っていたのかも?」

「そんなことが……」

 そうであれば殺された魔族にも同情する点はある。誘拐に協力したのであるから罪は罪だが、死刑になるほどではない。実際に見張っていただけで殺していないのであればだが。
 アークにとっては魔族よりもADUがより悪党。感情がこういう発想にさせるのだ。

「ホープさんが殺してしまった魔族は、雑魚と評価できる程度の相手だったのですよね?」

「殺してしまった、という言い方はするな。魔族相手に最初から手加減なんて出来るはずないだろ?」

「そう思って戦ったら呆気なく死んだ。つまり雑魚。見張り程度が適任ということです」

「魔族を雑魚呼ばわりか……なんとも、あれだね?」

 その魔族との戦いに各国は怯えている。それに対抗できる力。勇者を求めている。雑魚呼ばわりするアークは、そう出来るくらい強くなったということだとアルファイド王子は受け取った。Sランク勇者候補であるホープと同じくらいの力があるのだと。

「事件に関わった魔族が、です。魔族とひとくくりに呼んでいても、いくつもの種族があり、個々でも強さは違います」

「そうだね。その程度でなければ、人族の犯罪の手伝いなんて受けないか」

 全てが推測。だが辻褄は合っているような気がする。調べてみる価値はある。ただ問題は。

「支店長。ギルドはどれくらい動かせるだろうか?」

 調査にはかなりの人手が必要だ。

「正直申し上げて、それほど多くはありません。近頃は開放されたばかりのダンジョン探索を選ぶ勇者候補が多く、この支店に常にいるパーティーはかなり減っております」

「ああ、出張所のほうに」

 ハイランド王国支店は近くのダンジョンが閉鎖されたことで常時依頼がなくなった。洞窟を出て害を為す魔物の数が減ったことで通常依頼も減っている。仕事を求めて出張所に移るパーティーが増えるのは仕方がないことだ。
 今の状態が続けば支店を移し、ここは出張所にすることも勇者ギルドは考えている。

「それも含めて動員をかけることになりますが、はたしてどれほどの数が集まるか。指名依頼とすると、かなりの額になると思われますし」

 はたして誘拐事件の調査は効率の良い依頼か。そうならないだろうとモードラック支店長は考えている。それではパーティーは集まらない。集めるには、それを強制すること。指名依頼にすることだが、数を集め、さらに各地での調査となると、試算しなくてもかなりの高額になるのは明らかだ。

「その予算が通るか……全てが推測だからね?」

 アルファイド王子が言えば、何でも通るわけではない。調査は多くのコストをかけて実施する価値があるのか。それを証明しなければならない。だが証明しようにも、ここまでの話は全て推測。確たる証拠はない。調査をしても何も得られない可能性を否定する材料がないのだ。

「貴族に命じることは?」

「それは出来るけど、どれだけの貴族が真面目に取り組むか」

「ADUと関りがないことを証明してみせろと言えば、きちんと調べるのではないですか?」

「過激。アークの思いは分かるけど、それは出来ない。理由は察してくれ」

 貴族の中にも反魔族思想。人族至上主義者はいる。アークの言うことを実行すれば、そういう者たちを刺激することになる。どういう反応が来るか予想出来ない。そんなリスクを王国が犯すはずがない。

「……何の証拠も示さず何を言うかと思われるかもしれませんが、この事件はこれで終わらせないほうが良いと思います。ADUが事を起こそうとしている。それは間違いないのですから」

「分かっている。私も分かっているのだけど……」

 アルファイド王子個人としてはアークの不安は理解出来るが、ハイランド王国として動くかとなるとかなり難しい。魔王との戦いを考えるとADUとの決定的な対立は避けたい。敵の敵は味方ということだ。

「王国の方針が決まりましたら、ご連絡ください」

 ここでアルファイド王子を問い詰めても意味はない。決断は国王が行うこと。その国王も独断で何もかも決めるわけではないことはモードラック支店長も知っているのだ。

「そうですね。その前に……こういう話の後だと切り出しづらいのだけど……」

「……何ですか?」

 アルファイド王子の視線はアークを向いている。アークを気にして、話すことを躊躇っていることはすぐ分かる。

「王家主催のパーティーがある」

「はあ?}

「そういう反応になるのは分かっていた。でも、これも大切なイベントだ。この先、王国とギルドはより関係を強めなければならない。共同任務を行う機会も増えるだろう」

「……他の人たちも参加するということですか? そうであれば我々は不参加で」

 ウィザム将爵家ではなく。勇者ギルドの勇者候補としての参加。そうであってもアークは参加したくない。面倒くさいという理由だけではない。

「それは無理。ティファニーが許さない」

「…………」

 ティファニーの名を出されて、アークは絶句。こういう反応になることをアルファイド王子は知っていた。拒否させない為にティファニー。妹のティファニー王女の名を使ったのだ。

「無理だろ? これで不参加なんて真似をすれば、ここに怒鳴り込んでくるかもしれない」

「い、いや、それは王子殿下が止めてくれないと」

「無理。私に妹を止められると思う?」

「……無理です」

「だよね?」

 そういう女性なのだ。ただアークとアルファイド王子では理由が違う。アルファイド王子は怖いのではなく可愛いから。我が儘であっても全て許してしまうのだ。一方でアークは、幼い頃からの関係性。ティファニー王女には頭があがらない。全ての我が儘を許すという点ではアルファイド王子と同じだが、そういう風に躾けられたのだ。ティファニー王女に。