月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第24話 俺の親友は何者だ?

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 王立騎士養成学校には入学出来たものの、こんな日が来るとは思っていなかった。コルレオーネ子爵家は他家から毛嫌いされている。話には聞いていたが、王立騎士養成学校に入学して、それを思い知らされた。どうやって知るのか、俺がコルレオーネ子爵家の人間であることはすぐに広まった。貴族の学生は誰も近づいてこなくなった。では平民の学生は、といっても、元から貴族の学生と平民の学生の間には溝がある。話しかけてくる者は誰もいない。
 唯一の例外がカイトだった。辺境領主の息子ということだが、貴族であることには変わりはない。そうであるのに、最初は俺からだったが、普通に応えてくれて、仲良く話をしてくれた。まあ、俺の実家がどういう家か知らなかっただけだったみたいだけど。
 それでも、知った後もカイトの態度は変わらない。それだけでなく、俺をアッシュビー公爵家の騎士候補に推薦してくれた。公爵家は拒否するだろうと思ったが、呆気なく受け入れてもらえた。
 さらに剣術対抗戦で勝利を称えてもらえる栄誉まで与えてもらえた。陽の当たる場所に立たせてもらえた。

 

「……しっかし……化物だな」

 

 鍛錬にはウィリアム第二王子まで参加している。第二王子と一緒に鍛錬。何の冗談かと思ったが、本当に現れた。これも名誉なのだろう。家族は喜ぶだろうか。
 今はカイトと立ち合い稽古。カイトも、ランクには関係ない強さを持っていると思っていたけど、第二王子は化物だ。ランクAともなると桁外れの強さを持っているのか、第二王子が特別なのか。きっと後者だと思う。

 

「移動の速さではカイト殿も負けていないと思うのですけど……」

 

「そうですね……」

 

 クリスティーナ様の言う通り、動きの速さではカイトも負けていない。わずかに優っているかもしれない。だが、反応速度で大きく差が空けられている。いくらカイトが素早い動きで隙を突こうとしても、隙にならない。一瞬で反応して、剣をはじいてしまう。
 カイトが攻め、第二王子が受ける。この形がずっと続いているけど、攻守交替すれば、すぐに決着がついてしまうに違いない。

 

「加護の二つ持ち。それも<勇者の器>と<戦神の加護>だ。戦闘能力でウィリアム殿下に優る者などいないのではないか?」

 

 パトリオット様の言葉には、悔しさが滲んでいる。自分も優れた加護を与えられていたら。こんな思いがあるのだろう。時折、自分を卑下するような発言をするパトリオット様。公爵家の出で、どうしてそうなのか、疑問に思ってカイトに聞いたら、「加護にコンプレックスを持っているみたいだ」と教えてくれた。

 

「でも、カイト殿はそんな殿下を相手に、ここまで戦えていますわ」

 

「……そうだな。私も近づけるように頑張る」

 

 クリスティーナ様はカイトをパトリオット様のお手本にしようとしている。これはカイトに聞いたのではなく、クリスティーナ様の側にいるうちに気が付いた。学校の評価ランクだけでなく、爵位も低いカイトが、上位者と真向勝負している。俺もそういう場面は何度か見ている。命知らずだとは思っても、真似しようとは絶対に思わない。

 

「……それにお互いに全力ではありませんから」

 

「えっ?」

 

「えっ、いや、そうですよね? 剣術の鍛錬なのですから」

 

 剣以外、魔法を使って戦ったらどうなのか。制約を全て外して、全力で戦ったら。そうであっても第二王子は強いのだろう。でも第二王子からは、カイトのような底知れなさは感じない。第二王子は強いと感じたそのまま強い。でもカイトは、分からない。
 理由は分からない。カイトが本当にもっと強いのかも分からない。ただの勘違いかもしれない。でも勘は、カイトのほうをより危険な存在だと訴える。この感覚は無視できない。

 

「そういえば、カイト殿は優れた術式魔法士だとリーコ殿が話していましたわ」

 

「魔法ではなく?」

 

「ええ。魔道具に使われるものですわ。結果として魔法ということになりますけど、リーコ殿はあえて術式魔法士と表現したのだと私は思いますわ」

 

「何が違うのでしょうか?」

 

 魔道具師という言葉は知っている。同じ魔道具を作る為のスキル。でも異なる呼び方をする。この違いが分からない。

 

「私も少し調べただけですけど、術式魔法は魔法の本体と言えます。私たちが使う魔法の詠唱と術式魔法は同じ意味を持つということですわ」

 

「同じ意味、ですか……」

 

「もっと分かりやすく言うと、話すと書くの違いですわ。いちから書くよりも話すほうが速い。でも、あらかじめ魔道具に書いておけば、もっと速い」

 

「分かりました。魔法の杖などに特定の魔法を組み込む、アレですね?」

 

 術式魔法について理解出来た。杖や剣には決められた魔法を詠唱なしで発動出来るものがある。あらかじめ術式魔法を記してあるということだ。でも、それだと魔道具師なのではないか。リーコ先輩が、カイトがこう呼ぶから俺も倣った、あえて術式魔法士を選んだ理由が分からないままだ。

 

「術式そのものを新しく考え、もしくは改良するってこと。リーコ先輩も術式魔法士だ」

 

「えっ、カイト?」

 

「話に夢中になって立ち合いを見ていなかっただろ? 俺は良い、俺は良いけど……」

 

 後の言葉を俺に向けたものではない。クリスティーナ様に文句を言いたいのだ。それも自分ではなく、第二王子の為に。クリスティーナ様に自分が頑張っているところを第二王子は見せたかった。恋愛経験はほぼなしの俺でも分かるくらいに、第二王子はあからさまなのだ。

 

「リーコ殿も術式魔法士なのですか?」

 

 肝心のクリスティーナ様はカイトの意図に気付かない。第二王子の想いにも気付いていないなんてことはないだろうけど、割とスルーする。

 

「新しい術式を考える、なんてことはまず無理ですけど、改良したり、組み合わせたりして新たな効果を生み出す研究をするのが術式魔法士です」

 

「では魔道具師……分かりました。出来上がっている術式を魔道具に組み込むのが魔道具師なのですね?」

 

「正確には、両方出来て魔道具師です。術式をいじれない人は……魔道具職人といったところでしょうか?」

 

 さすが、リーコ先輩としょっちゅう図書館にこもって、学んでいるだけのことはある。説明が分かりやすい。ただまだ疑問は残っている。

 

「結局、魔道具を作らないといけないのか?」

 

「ん? ああ、術式魔法のことか? それは、えっと……どうするかな?」

 

 どうやら失敗した。俺の質問は、カイトに手の内を曝け出させる内容だったかもしれない。自分のスキルがどういうものかなど、他人に教えることじゃない。敵意はなくても、どこでどう情報が広がるかなど分からないものだ。

 

「……じゃあ、これにしよう」

 

 なんとか見せても良いスキルが見つかったのか、そうであれば良かった。どうであっても、あとでカイトには謝っておこう。
 カイトは地面に術式であろうものを書き始めた。円の中はかなり複雑で、俺には何のことか、さっぱり分からない、文字か図形かも分からないものを次々と書いていく。

 

「じゃあ、始めます。少しだけ熱くなります」

 

 こう言って地面に描いた術式に、恐らくは魔力を流したカイト。土の上に書いただけの術式が輝き始めたことで、それが分かった。結果、この術式魔法の効果は、火が立ち上がっただけ。それも人に脅威を与えるような勢いではない。

 

「えっと……これは?」

 

「焚火。野宿とかで、燃やすものが見つからない時に便利だ。肉を焼くくらいの火力はある。必要以上に火力が強くならないようにもなっている」

 

「使い道あるな」

 

 確かにこれであれば他人に知られても困らない。説明を聞くと、かなり便利そうなので、出来ることなら、俺も覚えたい。

 

「カイト殿。これはどこに魔力をためているのですか?」

 

 クリスティーナ様はまた新たな疑問が浮かんだようだ。聞いてみれば確かにと思う。魔道具は魔石と呼ばれる魔力が込められた石を使う。魔石の魔力が原動力になる。では、土の上に描いただけの術式魔法はどこに魔力を貯めているのか。

 

「魔道具と同じで魔石を使うことも出来ますけど、今は表面です。術式が光って見えるのはそこに魔力があるからです」

 

「……それは……誰にでも出来るものなのですか?」

 

 これを聞くクリスティーナ様は出来ないのだろう。もしくは出来るイメージが湧かないか。術式魔法を使ったことがなさそうなので、きっと後者だ。クリスティーナ様だけではない。第二王子とパトリオット様も、どうすれば良いのか分からないという顔をしている。

 

「だから術式魔法士なのです」

 

「……分かりました」

 

 カイトははっきりと答えなかった。でも意味は分かる。特別な技量が必要だということだ。だから術式魔法士という言葉があるのだ。やっぱり、カイトは奥が深い。まだまだ何かあるはずだ。

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