月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

奪うだけの世界など壊れてしまえば良い 第19話 生まれて初めての親友

異世界ファンタジー 奪うだけの世界など壊れてしまえば良い

 剣術対抗戦に向けて、人数を揃えなければならない。王子様がスポットで加わるという話はあるけど、それは自分がどうにかすることではない。仮にそうなっても、まだ一人足りない。その一人を確保するのが自分の役目だ。いや、出来ることなら一人とは言わず、二人でも三人でも、とにかく数は多いほうが良い。今のままでは、またこういう役回りを与えられる。他に仕事を振られる、自分よりも優秀な人を引き込みたい。
 それが出来れば苦労はしない。とはいえ、活動開始。まずは身近なところから。

 

「……それは本気で言っているのか?」

 

「あっ、やっぱり、もう他に決まっていた?」

 

 コルテス君を誘ってみた。ただ反応は思っていたのとは違っている。何だか、少し怒っているように見える。

 

「そうじゃなくて……カイトは俺が何者か知らないのか?」

 

「……コルテス? えっ、他に何? もしかして、コルテスは偽名で実はこの国の王子とか?」

 

 意味深な問い。つまり、コルテス君には何かあるのだ。誘うことが異常と思われるような何か。その何かは、どうやら常識のよう。コルテス君の問いがそれを示している。

 

「……やっぱり、知らなかったか……そうだよな。そうじゃないと俺と仲良くなんてしない」

 

「……えっ? 意味分からない。それってどういうこと?」

 

 この世界での唯一の友人。元の世界から数えれば、二十年ぶりくらいの友人。その友人をここで失ってしまうかもしれない。そんな大失敗を自分はしたかもしれない。

 

「俺の実家はコルレオーネ子爵家……といっても分からないのか」

 

 コルレオーネ。どこかで聞いたことがある。遠い記憶。あっ、コルレオーネファミリー。自分が生まれる前の映画の登場人物たちの姓だ。マフィアの一族。えっ、そういうことなの。

 

「闇貴族、暗殺貴族なんて呼ばれることもある」

 

「おお……やっぱり、そっちか」

 

 やはり、マフィア系。「暗殺」なんて物騒な言葉を使われるような家ということは、そういうことだ。以前、ふざけて考えていた≪忍者神の加護≫や≪スパイ神の加護≫持ちというのも、満更、外れではないかもしれない。

 

「……そっち?」

 

「何でもない。えっと……それの何が問題?」

 

「えっ……?」

 

「えっ? 俺、変なこと言った?」

 

 戸惑いの表情を見せるコルテス君。この反応が自分には分からない。コルテス君の実家はどうやら王国の裏の仕事をしている。だから何のだと自分は思う。ただ、これは自分が異常なのだろう。彼の反応はそういうことだ。

 

「……汚い仕事で俺の家は貴族の称号を得た。だから他の貴族は、コルレオーネ家を毛嫌いしている」

 

「ああ、そういうことか。俺の実家は、そういうのを気にすることもない、貴族とは名ばかりの家だから」

 

 汚い仕事なら自分も、嫌になるほど、行っている。悪魔討伐が自分たちの仕事。だから悪魔なら全てを殺しても良い。こんな理屈で、子供を殺した。悪魔と呼ぶのはどうなのかと思う、歯向かう力のない弱者を大勢殺した。
 そんな自分がコルテス君の家を毛嫌い出来るはずがない。

 

「カイト……」

 

「あっ……そうか。ごめん。パトリオット様には確認する必要があるかも……大丈夫だと思うけど」

 

「大丈夫なはずがない。アッシュビー公爵家は俺なんか受けれいるはずがない」

 

「アッシュビー公爵家はそうかもしれない。でもパトリオット様とクリスティーナ様はどうかな? 王国の為に汚れ仕事を引き受けてくれていると、感謝してくれるかも」

 

 実際のところは分からない。ただ、お人好しと評しても良さそうなパトリオットは気にしないように思える。クリスティーナも、彼女こそ、自らの手を汚して、王国に尽くしていると評価しそうだ。彼女は貴族としての責任を重んじている。王国の為、家臣の為、領民の為であれば、彼女も自らの手を汚すことを躊躇わないのではないかと思える。

 

「…………」

 

 まあ、コルテス君は、言葉だけでは信じられないだろうけど。

 

「とりあえず、聞いてみよう。大丈夫だったら、誘いに乗ってくれるのか?」

 

「……俺はアッシュビー公爵家の騎士にはなれない」

 

「それは俺も同じ。俺の立場は騎士候補見習い。騎士になることを約束していない」

 

 今回、人を集めているのは、目先の剣術対抗戦の為。卒業後に騎士になる約束をする必要はない。自分も未だに約束していない。約束を強いられても、破るだけだけど。

 

「……それなら」

 

 コルテス君は了承してくれた。持つべきものは友達。困った時に頼れる相手がいるというのは、ありがたいことだ。ただ、友達なのだろうか。

 

「あの……今更なのだけど……」

 

「何だ?」

 

「俺たちって……友達?」

 

 ついにこれを確かめる時が来た。コルテス君は友達なのか。彼もこう思ってくれているのか。

 

「……本当に今更だな? 俺たちはとっくに親友だろ?」

 

「親友……おお……」

 

 親友と言われたのは、生まれて初めてだ。親友というのは、こんな短い期間で出来るものなのか。もっと何か、大きなイベントを乗り越えて、それで親友になるのではないか。こんな思いもよぎるが、呼ばれたことはとにかく嬉しい。本当の意味での親友になれた実感出来る日が来れば良いなと思う。その為には。
 いつか自分の素性を話せる機会が来れば良いなと思う。お互いに汚れ仕事を行っている身とはいえ、自分が何者かを知ったあとも。コルテス君は親友だと言ってくれるだろうか。
 心の中に期待と不安が渦巻く。なんだかんだあっても、期待を持てるこの世界での人生は、元の世界よりは良い人生なのだろう。親友と呼んでもらえた嬉しさもあって、こう思えた。

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