月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第47話 ガチャで当たりを引いたみたい

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 一対千の戦い。どう考えてもアークに勝ち目のない戦いが始まった。頭で考えても勝ち目のない戦い。アークは、具体的に考えているわけではないが、勝ち目がないとは思っていない。やってみなければ分からないというところだ。
 群がる敵を次々と斬り倒していくアーク。今のところ、一対一で苦戦するような相手は現れていない。敵はまだ、たった一人で戦うアークを脅威とは見ていないのだ。
 勇者候補であれば、ある程度の強さは持っていて当然。味方がある程度、討たれるのは仕方がない。だがそれは永遠に続くわけではない。やがて疲労が貯まり、怪我が増え、戦う力を失う。それを待っているつもりだ。

「……魔法士!」

 だが予想以上に味方の犠牲が多い。力押しを続けるにしても、少し工夫することを敵は考えた。詠唱の声。それが途切れると同時にアークに向かっていくつもの魔法が放たれた。
 眩い光が視界を塞ぐ。魔法の一斉攻撃。守りを固めていても、まったくの無傷という訳にはいかない。そのはずだった。

「うわぁああああっ!」
「敵だ! 敵の奇襲だ!」

 後衛から叫び声があがる。次々と倒れていく魔法士。

「奇襲だと……どこに隠れていやがった!」

 隠れてはいない。攻撃魔法とミラの魔法攻撃防御魔法の衝突により起きた光に紛れて、一気に後衛に突撃をかけただけだ。敵の指揮官らしき男がそれに気付いた時には、またアークは元いた場所に戻っている。
 長く後衛に留まっていると自分を無視して自治区に攻め寄せていく可能性がある。それを避ける為だ。

「……休ませるな!」

 勇者候補の中でも、かなり厄介な相手かもしれない。ようやく敵はそう思い始めた。まだ負けるとは思っていない。だが犠牲者を今のペースで増やすわけにはいかない。
 油断なく、確実に追い詰めていく。こう考えた。

「魔法士ども、何をやっていやがる!? 強化魔法を使わねえか!」

 それでもアークと対峙した味方の犠牲は増える一方。個の強さに差があり過ぎる。魔法士に支援魔法を指示。それを受けた者がアークに襲い掛かっていく。

「……何なんだ!?  何なんだ、あの野郎は!?」 

 それでも味方の犠牲は増えていく一方。強化魔法でも力の差が埋まらない。こんなはずではなかった。圧倒的な数で護衛の勇者候補を怯えさせ、手出しをさせないようにしてから魔人族を蹂躙する。そのはずだった。
 そもそも魔人族の為に命をかけて戦おうなんて勇者候補はいなかったのだ。

「たった一人を相手に何をやってやがる!? さっさと殺さねえか!」

 具体的な指示ではない。ただ怒鳴っているだけだ。仕方ないといえば仕方ない。この男に軍を率いる知識などない。戦術、戦略など学んだこともない。彼だけではない。他も同じだ。戦いの心得がある者たちは勇者候補くずれ。魔獣や妖魔相手に五人パーティーで戦う経験しかないのだ。

「ちきしょう……冗談じゃねえぞ」

 このまま負けてしまうのではないか。まさかの結果が頭に浮かぶ。そんなことはあってはならない。彼は絶対的な主ではない。千人の仲間は彼に心からの忠誠を向けているわけではないのだ。ここで失敗すれば、全てを失うことになる。

「手を休めるな! 攻めかかれ! 魔法を打ちまくれ!」

 それでも結局は力押し。そもそもたった一人の敵を殺すのに、戦術も何もあったものではない。あるとすれば攻撃の手を緩めることなく攻め続け、相手を疲弊させること。指示した通りの方法だ。
 実際、遠目で見ていては分からないのかもしれないが、アークに余裕があるわけではない。

(次から次へと……こういう時、まとめて倒せる攻撃魔法があればな……)

 倒しても倒しても襲い掛かってくる敵。千に近い敵をほぼ接近戦だけで倒すというのは、予想していたよりも大変だった。四方八方からの攻撃に対して、ひたすら対応し続けなければならない。体力だけでなく、精神も疲弊する戦いだ。
 しかも敵の攻撃は厳しさを増している。その理由はミラの魔法だ。ミラの支援魔法は攻撃魔法に見える。次々と放たれるその魔法から敵が逃げていた。それが隙を生んでいたのだ。
 だがミラの魔法は攻撃魔法ではない。傷つける力がないことは、良く見ていれば分かる。避ける必要がないと分かれば、アークへの攻撃に専念できる。

(……間合いが欲しいな。強引に行くか)

 少しずつ、浅くはあっても、傷が増えている。わずかな痛みであっても動きは、これもわずかだが、鈍る。その「わずか」も積み重なれば大きな影響を与えてしまう。
 そろそろ限界に近い。そう思ったところでアークは、強行に転じた。強引に包囲を破り、敵との間合いを作る。

(……本当に便利だ)

 空間魔法の魔道具を使い、ポーションを取り出して飲む。それで傷は塞がっていく。数が多いだけで、全て軽傷だ。ほぼ完璧な治癒となった。傷が治ったところで、また敵に向かう。
 アークはこれを繰り返すことにした。戦いを終わらせるだけであれば、偉そうに指示している男を殺せば、それで済むかもしれない。だがアークはその選択をしていない。一人でも多く殺そうとしている。再襲撃を行う力を奪おうとしているのだ。

(……しまった。ここで動くか)

 だが、当然、敵は反対のことを考える。ここで全滅、そこまで行かなくても襲撃する力を完全に失うわけにはいかない。わずかでも戦果を得て、それでこの戦いを終わらせようと考えた。
 そのわずかな戦果は、とにかく一人でも多くの魔人族を殺すこと。矛先を自治区内に向けたのだ。翼竜が空を飛んでいる。その翼竜に向かってアークは、剣を投げた。

(……失敗した。魔法士ではなく、翼竜を狙うべきだった)

 敵の魔法攻撃力を弱める為に、一度、後衛に奇襲をかけた。だがそれは間違いだった。魔法士を倒すのではなく、討ち漏らした翼竜を倒すべきだった。だが、今更だ。
 怪我を負うことをいとわず、敵の包囲を強引に突破。地面にほうったおいた弓矢を拾って、翼竜に向かって放つ、当然それを敵は傍観していない。初めてアークが見せた大きな隙。それを見逃さなかった。
 魔法の一斉攻撃。それだけでなく味方の魔法を恐れることなく、接近戦も挑んでくる。ここでアークを殺す。敵の意識はひとつにまとまったのだ。

(やば……)

 ミラの防御魔法が展開される。だが魔法攻撃と物理攻撃、その全てを完全に防ぎきることは出来なかった。致命傷は免れたものの、それなりの怪我を負ったアーク。舞い上がる土煙に紛れ、地面を転がり、敵との間合いを作り。ポーションを口にする時間を作ろうとする。

(……剣を取り戻さないと)

 翼竜に投げてしまった剣を取り戻さなけれならない。場所は分かっている。地面に落ちて、足掻いている翼竜の体に刺さっているはずだ。だが、そこまで無傷でたどり着けるはずがない。さらなる怪我を覚悟しての強行突破が必要だ。

(ポーション出しておくか)

 すぐに飲めるようにあらかじめポーションを出しておく。そう考えてアークは空間魔法を発動した。手の平に確かな感触。戻した腕のその先には。

「えっ……剣?」

 何故か剣が握られていた。

(……とりあえず、助かった)

 声が出るほど驚いたアークだが、ここで剣が手に入ったのは幸運だ。大怪我を覚悟で剣を取り行く必要がなくなった。

(問題は……これ、まともな剣なのか?)

 空間魔法の中に放り込まれていた剣。使いものになる剣かは分からない。とはいえ、とにかく使ってみるしかないのだ。少なくとも自分の剣がある場所にたどり着くまで役に立てば良いのだ。
 鞘から剣を抜くアーク。黒光りする刃が現れた。

「えっ……何だ、この剣!?」

 また驚きの声が漏れる。魔法が使えない、魔力操作がまだ未熟な、自己評価だが、アークでも分かる魔力の流れ。剣に魔力が吸い取られているのが分かった。
 それだけではない。黒光りしていた刃が白く輝き始めた。

(……軽くなった?)

 剣を持つ感触が変わった。ほとんど重さを感じなくなった剣。軽く振ってみただけで風を斬る音が聞こえた。空気が震えるのを感じ取れた。

(……なんでも良い。これなら……戦える)

 何が起きているのか分からない。どんな剣かも分からない。だがアークは感じた。この剣であれば戦える。千人の敵が相手でも、勝てると。

 

 

◆◆◆

 一対千の戦い。結果が見えている戦いだ。アークとミラ以外の全員が、襲撃側は勝利を、守られる魔人族側は敗北を確信していた。だがここまでの戦況は戦前の予想を覆すもの。たった一人のアークが敵を圧倒している。それに戦いを見守るソニード自治区長は驚いた。
 脅威の戦いを見せているのはアークだけではない。彼を支援しているミラも普通ではない。次々と繰り出される魔法。それだけであれば魔人族であるソニード自治区長は驚かない。魔人族であれば複数属性の魔法を同時に展開することは、誰にでも出来るわけではないが、特別珍しいことでもないのだ。
 ソニード自治区長が驚いたのはミラの魔法制御力。発動した順番に関係なく、アークに魔法を届かせていく。その時、必要な支援魔法をアークにかけていくのだ。最初は何をしているのか分からなかったソニード自治区長だが、戦いの様子を見ているうちにそれが分かった。

「……自治区長。撤退の準備が整いました」

 自治区の魔人族たちは逃げる準備を進めていた。本来はそれも許されることではない。自治区を王国の許可なく離れることは許されない。だが、襲撃してきたのは千人に近い数。常に一定の犠牲を覚悟し、実際に受け入れてきたが、全滅なんて事態までは許容できないのだ。

「子供と母親を先に逃がすように」

「承知しました」

 今回も犠牲者を出さなければならない。一人の犠牲もないなんて結果は襲撃してきた側が許さない。逃がした者たちが追われるような状況にするわけにはいかない。

「急げ。翼竜が来る」

 翼竜が飛んでくるのが見えた。アークに苦戦している襲撃側は自治区への同時攻撃を決断した。完全に周囲を敵に囲まれているアークには、それを防ぐ手段がないはず。子供たちをすぐに逃がすべきだとソニード自治区長は判断した、のだが。

「そんな!? どうして……?」

「どうされました?」

「剣を……投げた……」

 アークが持っていた剣を投げて、翼竜を落とす様子が見えた。武器を手放してまで自分たちを守ろうとしたアーク。それはソニード自治区長には信じられない。
 前のめりになり、防壁の縁を掴んでいた手に力が入る。このままで良いのか。彼をこのまま死なせてしまって良いのか。こんな問いがソニード自治区長の頭に浮かんだ。

「あれは……もう駄目ですか……」

 ソニード自治区長の指示を受けていた魔人族の男も事態を把握した。武器を失ったアークに、もう戦う力はない。善戦はしたが結果は予想通り。負けだと彼は思った。

「下がれ! 建物の中に隠れるんだ!」

 防壁の上には彼ら以外にも大勢の人たちがいる。戦いの様子を、無謀な戦いを複雑な思いを胸に抱いて、見守っていた人たちだ。その人たちに逃げるように指示を出す。見ていた人たちも状況は分かっている。指示に従い逃げようと動き出した。

「……待て!」

「えっ……自治区長? 待てとは!? 敵が襲ってきます!」

 まさかの制止に驚く男。待つ理由など彼には分からない。一刻一秒を争う事態のはずなのだ。

「子供たちは逃がせ! だが戦う力を持つ者は逃げることは許さん!」

「……どういうことですか?」

「我らは、戦士たる者は、この戦いから目を逸らすことは許されない。最後まで見届けるのだ。近い将来、共に戦う仲間の戦いを」

「…………」

 ソニード自治区長の言葉の意味。分かる者には分かる。彼は分かる一人だ。自分たちが理不尽な待遇に、仲間の命を犠牲にしてまでも耐え続けてきた理由。それは魔王復活の時に、人族と共に戦う為。自分たちは魔王ではなく人族、人族だけでなく、この世界の平和を願う全ての種族の味方であることを示す為。勇者の仲間と認めてもらう為だ。
 共に戦う仲間。勇者が現れた。ソニード自治区長の言葉はそれを示している。それが誰かは、誰にでも分かる。眼下で光り輝く剣を振るって戦っている男。アークだ。

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