月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第46話 ちょっと労働条件が過酷過ぎませんか?

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 改めて自己紹介をした後、アークとミラは自治区長のソニードから話を聞くことになった。依頼内容だけでなく、カテリナたちと何があったのかも合わせて聞いた。
 二人は他国でダンジョン調査の依頼を行っていた。それを放り出してでも引き受けなければならない指名依頼。只事ではないことは勇者ギルドの職員から話を聞いた時に、すでに分かっていた。だが、どうしてポラリスが先にいたのか。何故、彼女たちでは駄目だったのか。それがまったく分からなかった。
 自治区長のソニードはその理由も、判断したのは勇者ギルドなので彼の推測だが、説明してくれた。

「偏見ですか……彼らはまったく知らない相手ではありませんが、そういうのを持っているとは知りませんでした」

 カテリナと他のメンバーは魔人族に対して強い嫌悪感があるようだ。ソニードからこの話を聞いて、アークは意外に思った。ポラリスにいた時、そういう話をした覚えがまったくないのだ。

「珍しいことではありませんが、依頼を放り出すような勇者候補は初めて出会いました」

 魔人族に対する偏見、差別意識、嫌悪感を持っている人族は、まったく珍しくない。そういう感覚がまったくない人族のほうが珍しいくらいだ。だが依頼を放り出す勇者候補は滅多にいるものではない。しかもカテリナたちは依頼達成が不可能だと考えたわけではないのだ。

「減点を気にしないくらいに稼いでいるのでしょうか? 俺にも分かりません」

「貴方がたには彼らが本来いるはずだった日まで、代わりにここに駐在していただくことになるのだと思います。まだ詳細について連絡が届いていませんので、私にも分からなくて……」

 アークたちが来ること自体をソニードは知らなかった。勇者ギルドへの連絡は特別な魔法を使って、ほぼ即時に可能となっている。勇者ギルドの情報網を構築している魔法と同じものだ。そうであるのに、まだ勇者ギルドからの返信が届いていないのだ。
 これは勇者ギルドがまだ事態の詳細を把握していないから。カテリナたちが自治区を去るなんてことはギルドも思っていなかった。アークたちにはとりあえず、ポラリスがいない間、自治区を守らせようと考えていたのだ。

「……それで、実際、襲ってくる奴らはいるのですか?」

「それも分かりません。ですが襲撃者のアジトが一カ所とは限りません。何カ所もあり、何倍もの人数がいる可能性も完全には否定出来ません」

「しまった。せめて何人討ち取ったのかくらいは聞けば良かったか……意味ないか。奴らは全てのアジトを見つけたわけじゃないはずだ」

 カテリナたちが襲撃者のアジトを壊滅させたとしても安心は出来ない。襲撃者の仲間が、まったく関係ない者たちが襲ってくる可能性はある。その襲撃を退けることがアークとミラの仕事だ。

「翼竜などを使ってくるのですか?」

 可能性があるのであれば、対策を考えなければならない。まずは敵の戦力分析。数は無理でも、他に知っておかなければならないことがある。ミラは翼竜についてソニードに尋ねた。

「保有しております。これまでも何度も翼竜を使って、攻めてきました」

「……そうですか。あの、本当に戦わないのですか?」

 遠距離攻撃能力はブレイブハートの弱点。ミラは攻撃魔法を使わない。翼竜など飛行してくる敵を攻撃する手段がないのだ。

「申し訳ございません。我らは戦うことを禁じられております。それを破れば、この自治区の存続が危ぶまれます」

 魔人族が人族を殺した。それが正当防衛であっても批判してくる人族がいる。魔人族は危険な存在であると訴えて、自治区の存在を否定する人族が。それが分かっているから魔人族は戦いを禁じられている。だから、危険な存在ではないという言い訳としても、そうすることが必要なのだ。

「死ぬよりはマシだと思いますけど?」

 自治区が失われる危険があるから、大人しく死んでいく。それはおかしいとアークは思った。とにかく生きていること。それが最優先のはずだと。

「個々の命よりも大切な使命が我らにはございます。その使命が何かはお話出来ないのですが……」

 魔人族が理不尽な制約に耐えているのには訳がある。仲間の命よりも優先すべきことがあるのだ。

「……では、ここには武器もないのですか?」

「……武器はないわけではありません」

「では、弓を貸してもらえませんか? 俺は持ち歩いていなくて。普通では引けないくらい、とにかく強い弓があればそれを」

 攻撃魔法がないのであれば、他の遠距離攻撃手段を手に入れなくてはならない。それが何かとなると弓矢だ。だが普段、弓やを使わないアークは自分の弓を持っていなかった。

「あると思います」

「練習が必要だな。初撃で確実に何頭か落とす。それで敵が翼竜で近づくのを躊躇うようにしないと」

 安易に近づけば撃ち落される。そう敵に思わせることが必要。翼竜を使われると自治区の入口側の防壁を超えられてしまう。侵入されてしまうとアーク一人では、犠牲者を出さずに、敵を討つのは難しくなる。最優先で対処しなければならない点だ。

「そもそもどういう奴らなのですか? 翼竜を保有しているとなると……金を払って買ったわけではないか」

「野盗の類だと思いますが、戦闘力はその辺の野盗よりはあります。魔法を使う者もおりますので」

「魔法まで……防衛行動も禁止されているのですか?」

 魔法攻撃を防ぐのはミラの役目。ただ数によってはミラ一人では防ぎきれない可能性がある。魔人族の協力が欲しいところだ。

「……防壁内への魔法攻撃に対しては結界が張られております。そう簡単には破られないはずのものですが……」

 つまり、防御だけであっても戦いには参加しないという意思表示だ。たとえ守るだけであろうと戦闘に参加した事実が残る。それは自治区の存在を疎ましく思う人族に攻撃のネタを与えることになるのだ。
 権力者にも人族至上主義者は大勢いる。国王が擁護しきれなくなるような事実を、たとえ嘘が混じっているとしても、与えてはならないのだ。

「やれることをやるしかない、か……分かりました」

 魔人族の協力は武器の提供以外は得られそうにない。納得できないが、彼らが悪いわけではない。国がそうさせているのだ。そもそも、制約がなければ自分がここにいる必要もないはず。子供もいるが、この自治区にいる魔人族がその気になれば、かなりの戦力になるはず。少しくらい力がある程度の野盗など、本来はなんら脅威にならないはずなのだ。
 依頼がそういうものであるのなら、それを受け入れ、出来るだけのことを行うしなかい。アークはそう思い、それを実行することにした。

 

 

◆◆◆

 来るか来ないか分からない襲撃者に備えて、アークとミラは戦いの準備を進めていた。最初に手を付けたのは弓矢の準備。自治区にあった弓の中からもっとも強い弓を選び、さらに弦を張り直して、簡単には引けない強弓を作る。それが出来たら次は試射だ。ミラの支援魔法を使って身体強化を行った上で射程を確かめる。何度も射る余裕はないはず。一撃で翼竜を、殺せないまでも、飛べなくするダメージを与えられる距離を測った。
 それを確認して、ようやく的を狙っての訓練。ただこれにはあまり時間をかけなかった。翼竜は大きい。一撃必殺を狙うわけではないので、精密さはそれほど必要ない。大きな的である翼竜相手であれば、アークには元々、十分な技量があった。それを確認しただけだ。

「……ポーション、二、三本では足りないかもな?」

「じゃあ、動きを邪魔しないように全部を背負っていく?」

 魔法の治癒薬も用意した、といっても元々持っていたものだ。稼ぎに余裕が出て、アークたちも高価な魔法治癒薬、ポーションを買えるようになったのだ。ダンジョン探索を行う上で必要性が生まれたという理由もある。

「……本当に戦うのですか?」

 だが手持ちのポーションだけでは足りないかもしれない。襲撃者は千に届くかという数なのだ。まさかの数に、自治区長のソニードはアークたちは逃げ出すのではないかと、内心では、思っている。

「それが仕事ですから」

 圧倒的な数。それが突然現れた。そう見えるように敵が行動したのだとアークは考えている。こちらの戦意を喪失させる為に。

「翼竜がそれほど多くないのが救いか……ただ……もう少し近づいてこないかな?」

 翼竜の数は十頭程度。アーク一人でも対応出来そうな数だ。それでも混戦になる前に倒しておきたい。それにはもう少し距離を詰めたいところだ。

「……俺が前に出るか」

「えっ? 大丈夫なの?」

「多分、平気。向こうは余裕をかましている。俺が一人で前に出れば、命乞いに来たくらいに思うのではないかな?」

 過去の襲撃についても話を聞いている。襲撃者は勇者候補と直接戦うことは避けていたようだ。勇者候補に犠牲者が出れば、さすがに勇者ギルドの対応も変わる。襲撃者の殲滅に動く可能性もある。それを相手も分かっているのだろうとアークは思っている。

「翼竜に矢が届く位置まで行けたら、そのまま全面戦争だ。そのつもりで頼む」

「……分かった。任せて」

 魔法を使う敵もいると聞いている。その攻撃を防ぐのはミラの役割。何十、もしかすると百の単位の魔法が降り注ぐことになるかもしれない。これまでとは規模は異なる戦いだ。

「ま、待ってください」

「……何か?」

「……これをお持ちください」

「……はい?」

 自治区長が差し出してきたのは指輪。このタイミングで指輪を渡そうとする意図が、アークにはまったく分からない。プロポーズではないことだけは間違いないとしても。

「空間魔法の魔道具です。すでにそれなりの数のポーションが格納されておりますので、お使いください」

「ああ……俺は魔法を使えないので」

「魔道具ですから。指にはめて、はめた指を、こう、かぎ型に曲げて腕を真横に伸ばせばそれで発動します」

「……動作だけで……おおっ?」

 言われた通りの動作を行うと空中に黒い影が現れた。アークは自治区長に促されて、恐る恐る、その影の中に手を入れる。確かな手ごたえ。腕を引くとポーションが握られていた。

「凄い便利……では、お借りします」

 同じ動作で空間魔道を発動させて、取り出したポーションを戻す。さらにマントの裏ポケットにしまっていた自分のポーションもアークはその中にしまった。

「じゃあ、行ってきます」

 この言葉を残して、躊躇うことなく、防壁から飛び降りるアーク。そのまま前に進んでいった。

「……勝ち目はあるのですか?」

 アークは敵に向かっていった。それを見てもまだソニード自治区長は疑いを完全には消せていない。勝ち目のない戦いに挑む理由がアークたちにあるとは思えないのだ。

「敵の戦力が分かりませんので、何とも言えません。でも、アークを勝たせることが私の役目です」

「彼を信頼しているのですね? ですが、彼は貴女を信頼してくれているのですか? 貴女は魔人族、ヴァンパイオ族ですよね?」

 ミラは魔人族、その中でもヴァンパイオ族という種族だ。ソニード自治区長には、ミラの魔力を感じるだけで分かる。人族には魔人族とひとくくりに呼ばれているが、いくつもの種族があり、その種族によって魔力にも違いがあるのだ。

「……アークは私を信頼してくれています。私という存在を。そう思っています」

 アークには自分が魔人族であることは伝えていない。だが、たとえ事実を知ってもアークは変わらないでいてくれる。ミラはそう思っている。アークを信頼している。

「そうですか……失礼しました」

 ミラの言葉を聞いて、アークを信用する気になった。そうであることにソニード自治区長は自嘲の笑みを浮かべた。人族であるアークの言動だけでは信用しきれず、魔人族であるミラの言葉を聞いて、気持ちが変わった。これも偏見。自分には人族に対する偏見がある。それを改めて気付かされたソニード自治区長は、自分を恥じたのだ。

「……交渉に応じる気はあるのか?」

 アークが前に出てきたのを見て、襲撃側からも人が出てきた。アークは自分の身を守る為に魔人族を切り捨てようとしている。こう受け取ったのだ。

「交渉というのは?」

「いつもであれば金目の物を差し出してくれれば引き揚げたが、今回はそうはいかない。仲間を殺されたからな。それに見合う魔人族の死が必要だ」

「そういう交渉か……なるほどな」

 考えるそぶりを見せながら更に前に出るアーク。ここが近づける限界かと思う場所に届いたところで、いきなり矢を放った。

「なっ!? てめえ!」

 それに驚いた相手が怒声をあげるが、それは無視。次々と翼竜に向かって矢を放っていく。狙われていると分かった翼竜に乗っている者たちが空に飛び立とうとするが、それはかえって狙いやすくなっただけ。放たれる矢は止まらない。

「貴様! ぶっ殺してやる!」

「それはこちらの台詞だ! ここから生きて帰れると思うなよ!」

 魔法士による物理攻撃防御魔法が展開されたところで矢での攻撃は終わり。アークは剣を抜いて、敵を挑発する。敵の意識を自分に集中させる為だ。
 雄たけびをあげて攻め寄せてくる敵。一対千の戦いが始まる。

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