月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第43話 勝手に盛り上がっている

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 王制の国がほとんどであるこの世界において、勇者ギルドの統治体制はややこしい。組織運営における指揮決定は理事会で行われることになっている。その長は理事長であるが、そのように呼ぶ者はまずおらず、ギルドマスターと呼ばれている。傭兵ギルド時代の呼称がそのまま踏襲されていて、改めることをしていないのだ。勇者ギルドの運営は、制度上は理事会による合議制ということになっているが、実体はそのようになっていない。ほぼ全ての意思決定はギルドマスターが行っている。理事会に諮ることはあるが、それはギルドマスターが決断する上での参考意見を求める為。多数決などをとることはなく、ギルドマスターが判断するのだ。理事長であるギルドマスター以外の理事は結局のところ、部下。国王が臣下に意見を求めるのと同じだ。
 ここまではまだ理事会という組織があるだけで、実際の運営は国政とそれほど変わらない。問題は理事会の上位機関と位置づけられている評議会の存在。これが何のための組織なのか外部からは、ギルドの一般職員でも良く分かっていない。
 評議会メンバーは各国の元首が選ばれている。但し、都市国家群はまとめられて席は一つ。ギルドマスターも都市国家マジェスティの元首でもあるので、常にギルドマスターが評議会のメンバーとなる。それに対して他の都市国家は、不満は持っていても、何も言わない。他の王国と意見を戦わせる力などない。どうせ決まった通りにするしかないのだ。
 では評議会では何が議論され、決められるのか。それはごく限られた事柄しかない。魔王復活の判断を行い、緊急事態宣言を発すること。そして何者を勇者として定め、その勇者を各国がどのように支えていくかだ。
 評議会が作られた本来の目的は巨大組織である勇者ギルドを監視、牽制することではなく、対立する国家同士であっても対魔王という点では一致団結、協力体制を構築する為だ。
 先の大戦では各国の足並みが揃うのが遅れ、初動で魔王軍の躍進を許すことになった。その反省から作られた組織なのだ。

「結論から申しますと、現段階では魔王復活と思われる動きは確認されておりません」

 評議会の会議は定期的に行われている。議題が何もなくても集まることになっている。これも対立している国家間でも、交流を途絶えさせない為だ。

「だからといって、まったく問題ないとは言えないのであろう?」

 評議会の一員であり、ギルドマスターでもあるバーダンの報告に対して、最初に問いを向けたのはハイランド王国の国王。現在の評議会における暗黙の序列の第一位がハイランド王なのだ。

「はい。魔王軍と思われる組織の動きがないというだけ。怪しげな兆候はいくつか確認されております」

「我が国において新たに二つのダンジョンが見つかっている。これもそのひとつと考えるべきか?」

 ハイランド王国で新たなダンジョンが見つかったのは三年前。だがその当時は危険な兆候とは見ていないかった。ハイランド王国としては喜んだくらいだ。だが続けてもう一つ。さらに他国でも見つかったとなると、それをただ喜んではいられない。

「何か見つかったわけではありませんが、そう考えるべきだと勇者ギルドでは判断しております」

 二百年間、埋もれていたダンジョンがこの数年で立て続けに見つかっている。偶然だと考えるほうがおかしい。

「……我が国のダンジョンについては状況を把握しているが、他の国々でもそうなのか?」

 勇者ギルドはダンジョンに対する集中調査を進めている。それで何も見つかっていない。これをどう捉えるべきかハイランド王は判断出来ないでいる。

「元々あったダンジョンについてはほぼ調査が終わりました。ですが、新たなダンジョンの多くはほんの一部に足を踏み入れた程度。まだまだ時間は必要となります」

「そうか……」

 ギルマスターの説明は、判断の役に立つ内容ではない。ハイランド王は悩み続けることになった。

「新たなダンジョンの調査を急ぐわけにはいかないのか?」

 次に質問を発したのはイルミネ王国の国王。イルミネ王国は国力としては最大。当然、暗黙の序列でも上位になっている。

「新たに見つかったダンジョンの多くはこれまでのものとは魔獣の強さが違っております。Aランクパーティーであっても単独での調査は厳しいと考えております」

 つまり、人材不足。新たに見つかったダンジョンは入口近くを調べただけで、既存のダンジョンとはランクが違うと分かる。ダンジョンのタンクに見合わない勇者候補を調査に投入しても犠牲を増やすだけだと勇者ギルドは考えているのだ。

「さらにダンジョン調査となるとそれに向いた編成のパーティーでなければならないか」

 勇者ギルドの運営に関わっていなくても、これくらいの知識は各国の王も持っている。そもそも人員不足は以前から問題視されていたことなのだ。

「各国の軍が協力しなければどうにもならないということですか?」

 次の発言はサークル王国の王女、アプリコット。彼女は病気の父に代わって参加している。国王代理という立場だ。評議会での序列は低い、というか最下位なのだが発言を我慢できなかったのだ。

「率直に申し上げて人員だけでは……活動資金を勇者ギルドで全て負担というのは無理です」

「そう。ですか……」

「少数精鋭で事に当たりたいのですが、少数過ぎて調査が進まないという状況です」

 調査能力があるパーティーでひとつひとつ順番に進めていくしかない。これが現状だ。それに問題は勇者ギルドの人材不足だけでない。

「それに大軍を投入して一斉にダンジョンを暴いてしまうと領主どもが騒ぎ出すだろうな」

 最深部まで調査が終わってしまうとダンジョンの価値が下がる。もちろん、素材の採取は継続できるだろうが、それでは実利のみを求める勇者候補しか集まらなくなる。勇者候補が街や村で落とす金も無視出来ない収入なのだ。特に武具の類の売上に、勇者候補がどれだけ集まっているかは。大きく影響する。

「ハイランド王の言う通りだ。それどころではないと言っても納得しないであろうし……」

 黙らせることは出来る。だがそれを行えば忠誠が揺らぐかもしれない。それに領主の利益は国の利益でもある。国王の立場でも、本音では、一斉調査は躊躇いを覚えるところなのだ。

「勇者ギルドからひとつご提案があります」

「聞こう」

「まず優先すべきはダンジョンの一般開放を実現すること。その障害となっているものを排除することだと考えております。その為に国をまたいだ勇者候補の活動を許可したいと考えております」

 まずは開放を実現すること。それによって勇者候補がその場所に集まるようになる。特に依頼を発しなくてもダンジョン深くに潜ろうとする勇者候補も出てくるはずだ。自然とダンジョン調査に向いたパーティーが増えていくことになる。

「すでに許可されているではないか?」

「現在はSランク勇者候補に限られております」

 所属支店に拘らない依頼の引き受けはSランク勇者候補だけに許された特権。数少ないSランク勇者候補を共有したいという各国の思惑があってのことだ。Aランクパーティーで達成可能な依頼であれば自国にある勇者ギルド所属の裕也候補で事足りているのだ。

「……先ほど、調査能力のある人員が少ないと言っていたと思うが?」

「はい。その少数を活用したいという意図です。ハイランド王はすでに私が何を考えているかお分かりだと思いますが?」

「……なるほど。そういうことか」

 ハイランド王は分かっている。自国内で新たに見つかったダンジョンはすでに二つとも開放の目途が立っている。それを実現した勇者候補が誰かも知っている。

「ハイランド王は分かっていても、朕は何のことか分からん」

「失礼いたしました。ハイランド王国内で新たに見つかったダンジョンは二つありました。その二つのうち一つはすでに一般開放されており、もうひとつもすでに準備に入っております」

「確か……ひとつは三年前に見つかった。それが開放出来るようになったのか」

 三年間、開放出来なかったダンジョン。それが開放された、それは今さっきギルドマスターが言った「開放の障害となっている何かを排除」出来たから。イルミネ王はそれが分かった。

「指名依頼に参加した勇者候補の中にBランクがおります。すぐにAランクに上がるとは思いますが、さすがにSランクは時間がかかるでしょう」

「おいおい……そのBランク勇者候補についての報告を先に行うべきではなかったのか?」

 評議会の役割のうち、重要な一つが勇者を定めること。異常ともいえる実績をあげている勇者好捕の情報は速やかに共有されるべきだとイルミネ王は考えている。彼だけではない。ここにいる全員が考えていることだ。ただこの件に関してはハイランド王としては「余計な真似を」と考えているが。

「パーティー名はブレイブハート。二人だけのパーティーです。ダンジョン調査においては他の勇者候補と協力して対応しておりますが、その活躍は無視できないものです」

「二人だけ……分からん。どういうことだ?」

「では具体的な成果をひとつ。ハイランド王国のクリテリオンにあるダンジョン調査においては、実質、その二人だけでキングスアーマーベアを倒しております。ちなみにその前にそのキングスアーマーベアに挑んだAランクパーティーが二組、壊滅しております」

 ギルドマスターは評議会の場でアークたちの話を持ち出した。アークについてはハイランド王国とその帰属を争うことが予想されていた。お互いに動けない状況であったのを、評議会を利用して打開しようと考えたのだ。ダンジョン調査での活躍を知り、決断したことだ。

「…………」

 Aランクパーティーを超える力をたった二人のBランクパーティーが持っている。これは異常なことだ。ただこの場合の異常は脅威にはならない。脅威を払う側だ。

「もう隠しても意味はあるまい。二人のうち、一人はアーク。本名はアークトゥルス=ウィザムでウィザム家の三男だ。そしてもう一人は……勇者ウィザムの仲間であったミーユ殿の孫娘。本名は知らない。ミラと呼ばれている」

 ハイランド王はカミーユの本名も隠した。本人の許しなく他人に伝えて良いものではないのだ。

「……試しは終わったのか?」

 ただ強いだけではない。二人とも勇者ウィザムと関りがある人物。それを知って、ただの偶然と思うはずがない。運命、宿命、とにかくそういうものを頭に浮かべてしまう。

「未だBランクですので」

 有望な勇者候補は「試し」と言われていることを経験させることになっている。言葉通り、勇者に相応しい資質を持っているか試すことだ。だがそれはAランク以上の勇者候補、それもSランクに上がる可能性が出たAランク勇者候補のみを対象としている。規則ではない。Bランクの勇者候補が本当の勇者候補になるはずがないのだ。普通は。

「……まずはその力をダンジョン開放に役立ててもらうことか」

 はやる気持ちをイルミネ王は抑え込んだ。勇者の選定は慎重にも慎重を重ねて行わなければならないこと。魔王の脅威が明らかになっていない今、焦って行うべきではないと考えたのだ。

「ウィザム家の人間となるとハイランド王のお許しが必要だと思います」

 ウィザム将爵家はハイランド王の臣下。三男であってもアークもやはり、臣下という立場だ。他国で活動するにはハイランド王の許可を得る必要がある。ハイランド王が拒否出来ないことを分かっていて、ギルドマスターは確認しているのだ。

「……問題ない。今の彼は勇者候補として活動している」

 本人の意思で勇者ギルドに登録し、活動している以上、いくら国王でもそれを妨げることは許されない。勇者ギルドは対魔王の為の組織。自国の利を優先させてはならないのだ。ハイランド王としては、内心では不快に思っていても、こう答えるしかない。
 
「他に異論がなければギルドマスターからの提案を承認することになるが?」

「反対ではなく確認があります」

 イルミネ王の問いかけに スカーランド王が声をあげた。スカーランド王国はハイランド王国に次ぐ軍事強国。スカーランド王はまだ若いが、評議会の序列では第三位だ。

「何だろう?」

「ハイランド王国支店所属のその勇者候補たちですが、どのダンジョンを担当させるおつもりですか?」

 二つのダンジョンを開放させた。実績としては十分だ。そうなると次はどこに向かわせるつもりなのかが気になる。どの国も一日でも早く新しいダンジョンを開放したい。出来れば次は自国に来て欲しいと考えるのが普通だ。

「それについては勇者ギルドにお任せいただけないでしょうか? ダンジョンと勇者候補の現状に基づき、もっとも手が足りていないダンジョンを優先したいと考えております」

「そうか……まあ、それが公平だな。分かった」

 派遣先は勇者ギルドに一任。これが一番公平なやり方だ。というか他に方法がない。ここで取り合いをしても話がまとまるはずがない。各国の間に、小なりとはいえ、遺恨を生むだけだ。
 この評議会での議論の結果、ブレイブハートは活動の場を一気に広げることになった。

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