月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第41話 噂というのは無責任なものだ

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 近くの洞窟が閉鎖されたことで勇者ギルド、ハイランド王国支店は少し活気を失っている。特に駆け出しのCランク勇者候補への影響が大きい。Cランクの常時依頼を引き受けられないとなると、リスクのある通常依頼を引き受けるしかなくなる。もちろん問題なく達成できる内容の依頼はある。きちんとランク付けされた依頼なのだ。極端に無理のある依頼など、異常事態が起きない限り、そもそもない。
 だが駆け出しの駆け出しのCランク勇者候補としては、まずは腕試しをしたいのだ。それには近くにギルド職員が駐在している洞窟内での常時依頼が最適。実際に洞窟内での常時依頼はそういう位置づけだった。
 そこで自信をつけて、実力が足りなければ実戦経験を積んで。通常依頼に移る。ハイランド王国支店では、この流れが成立しなくなってしまった。それが知れ渡るとハイランド王国支店で登録しようと思う新人は減る。新しく加わる者がいなければ、去る一方になってしまう。活気を失うのは当然だ。

「おい、聞いたか? 久しぶりにヤバいのが現れたらしいぞ?」

「なんだよ、ヤバいのって?」

 それでも元からいた勇者候補たちは毎日働いている。稼がなくては生活が出来なくなるのだから、当然だ。

「二つ名持ちだ」

「新しいSランクか?」

「いや、Sランクではないらしい。それで二つ名持ちだ。かえってヤバいだろ?」

 二つ名、通り名とも言う。勇者候補の場合、その能力や戦い方から付けられることが多い。二つ名を与えられるに相応しい強さと特徴的な戦い方を持つ者に与えられる呼び名だ。誰が呼び始めたか分からない自然に生まれた二つ名も多い。
 二つ名を持つということは、多くの人にその強さを認められた証。結果、Sランク勇者候補がほとんどだ。ちなみにホープの二つ名は豪火剣乱。火属性で攻撃特化型の彼の戦いぶりからつけられた二つ名だ。同じ読みの豪華絢爛にはほど遠い実利一辺倒の装いのホープには嫌味にしか思えないようで、本人は嫌がっている。

「Sランクではないのに……確かにそれはヤバいな。それでなんていう奴だ?」

「千刃嵐舞。千の刃が嵐のごとく乱れ舞うって意味らしい」

「千の刃。それに乱舞ではなく嵐舞か……どっちにしろ物騒な二つ名だ。たしかにヤバいな。それで? どこの所属だ?」

 大抵の二つ名は物騒だ。魔獣であれ妖魔であれ、人族であれ、とにかく殺している場面から付けられることが多いのだから、物騒になるのは当然だ。

「それが、この支店だって噂だ」

「はあ? そんな奴いたか?」

「知らねえけど、噂ではそうなっている。まだSランクじゃなくて目立つ奴だから……アレじゃないか?」

 彼には心当たりが一人だけいる。今もっともハイランド王国支店で注目されているパーティー。そのパーティーの主だ。

「……あれが千刃嵐舞……もっと可愛い二つ名にならなかったのか?」

「可愛い二つ名なんてないだろ?」

 二人の頭の中にある勇者候補は女性。そして美人だ。カテリナのことを考えているのだ。ハイランド王国支店でもっとも注目され、活躍しているパーティーといえばポラリス。その勢いは周囲から見て異常なほどで、二つ名を与えられても納得だ。

「あいつらも、とうとうそこまで来たか……ただ美人なだけ、あ、いや……ああ、そろそろ訓練に行くか?」

「はあ? 何だ……そうだな」

 いきなり何を言い出すのかと思ったが、相手の視線が理由を教えてくれた。すぐ近くのテーブルに噂の人物がいることを。別に悪口と思われるような話をしていたわけではないのだが、なんとなく気まずく感じた二人は席を立って、そそくさと食堂を出ていった。

「……とうとうそこまで来た。そういう実感はないね?」

「……そうね」

 周囲に見える姿と実際とのギャップ。本人たちはそれを感じている。Aランクに上がった時は「ついにここまで来た」と素直に喜べた。だが今は、出口が見えない迷路にはまっている気分だ。数多くの指名依頼をこなして、大金を手に入れた。だがそれだけだ。こんなことを言えば、他の勇者候補は怒ると分かっているが、そう思ってしまうのだ。

「焦っても仕方がない。そんな簡単に上がれるランクではないことは分かっていたはずだ」

 フェザントは、彼にも停滞感があるのだが、周りのそういう感情をたしなめる役。仲間に言うことで、自分自信を納得させようとしている面もある。

「焦りとは違うの。なんというか……達成感に乏しいというか……贅沢なことを言っているのは分かっているのだけど……」

 次から次へと舞い込む指名依頼。移動して仕事、終わるとすぐまた次へ移動。この繰り返しだ。達成ポイントは貯まっているが、Aランクまで来ると、そう簡単にはランクアップとはいかない。個々の依頼の達成ポイントはCランクやBランク依頼よりも遥かに多いが、ランクアップに必要なポイントもまたそれ以上に差がある。
 Sランクは特別で名誉が伴う。実力が伴わない勇者候補に与えるわけにはいかないのだ。

「……思い切って、少し休みますか?」

 セーヴィングも焦りはない。カテリナと同じで物足りなさを感じているのだ。

「休むって……それはどうかしら?」

「何もしないわけではなく、一カ所に留まって、落ち着いて働きませんかという意味ですよ」

 自分たちには変化が必要。セーヴィングはそう考えた。王国の各地を回るのは変化のようで変化ではない。少なくともセーヴィングはそう感じられない。依頼に追われる日々で心に余裕を失っている。そうであれば、まず移動を止めてみる。こう考えたのだ。

「……良い依頼はないと思うわ」

 ハイランド王国支店では討伐依頼が激減している。洞窟に住み着く妖魔の数が減っただけでなく、出口も塞いでしまった。洞窟の外に出て、危害を及ぼす魔獣、妖魔が減っている。今ある討伐依頼の対象はどこからか流れてきた魔獣や妖魔の類だけなのだ。
 もっとも逆にこれまでが多すぎたのだ。王都に近いこの地で、魔獣や妖魔の脅威が大きいというのは普通ではない。

「新しいダンジョンが開放されたそうです」

「新しいダンジョン? そんなものがあったの?」

「ええ。近くの洞窟よりも遥かに強力な魔獣が住み着いているそうで、最低ランクはBランク。常時依頼でもAランクがあるそうです」

「そんなダンジョンが……」

 カテリナは近くの洞窟以外のダンジョンを知らない。これまでの指名依頼は貴族からの、領地で暴れる魔獣や妖魔の討伐依頼がほとんど。ダンジョンに潜るような依頼はなかったのだ。

「手応えはありそうだな?」

 フェザントも新しいダンジョンに興味を持った。ポラリスはダンジョンの奥深くまで潜れるパーティー編成ではない。だが一度も入ったことのないダンジョンでの依頼であれば、マンネリ感は生まれないかもしれない。こう思ったのだ。

「そうね。行ってみましょうか? でも指名依頼をなんとかしないと」

「長期依頼に入るということにして受付を停止しましょう。すでに受けているのは終わらせなければなりませんが、頑張れば数か月で終わるはずです」

「そうしましょう。じゃあ……」

 新しいことを始めようとした途端に、珍しいものを見ることになった。珍しいというか、久しぶりだ。

「……久しぶりに見るね?」

 アークとミラだ。彼らはずっと二人を見掛けていなかった。各地を移動していたから、だけでなく、二人が別の場所で働いていたからだ。だがその事実をポラリスのメンバーは当然知らない。指名依頼の中身を知るはずがない。

「彼らは彼ら。俺たちは俺たちだ。次の準備を急ごう。早く新しいダンジョンとやらを見たいからな」

 カテリナがアークを気にしていることは分かっている。アーク、だけでなくミラにも絡ませては面倒なことになるだけ。フェザントは彼女の気持ちを逸らそうとした。

「……そうね。私も楽しみだわ」

 今回は成功。カテリナも前を向いてくれた。新しいことを始める。これを決めたことで、少し心が晴れたおかげもある。そして何より何も知らないこと。これが一番の理由だ。アークが、アークとミラのブレイブハートが今どのような状況か。それを知っていれば、きっとこんな風に収まらなかった。ポラリスのメンバーにとっては幸いだ。

 

 

◆◆◆

 アークとミラはクリテリオンでの指名依頼を終えて戻ってきていた。戻ってすぐに支店長のモードラックから呼び出し。カテリナたちが見たのは、モードラックの執務室に向かう途中の二人だ。
 指名依頼の結果報告を求められるのだと思っていた二人。だがモードラックの話は考えていたのとは少し違っていた。

「クリテリオンのダンジョンは典型的な人工ダンジョンのようだ」

「……分かっていますけど?」

 ダンジョンの中に入ればそれは明らか。アークたちはとっくに分かっていることだ。

「典型的というのは魔獣の配置のことだ」

「魔獣の配置……階層ごとに綺麗に分かれていましたけど」

 これもすでに知っている情報。モードラックが何を話したいのか、二人は分からなくなった。

「それだけではない。第三層にいたという主のことだ。第四層より、恐らく第五層よりも、第三層のほうが手強かっただろ? その配置を典型的と言ったのだ」

「あれ、わざとなのですか?」

 モードラックの言う通り、第四層と第五層は第三層よりも突破は楽だった。第三層にいたキングスアーマーベアのような、とてつもなく強い魔獣がいなかったのだ。それでいてキングスアーマーベアを除けば、下の階層に行くほど魔獣が強くなった。アークも少し奇妙に思っていたのだ。

「魔人族によって作られた複数階層のダンジョンは同じようにになっている。何層かにひとつ、とんでもなく強い魔獣か妖魔がいる」

「……侵入を防ぐ為ですか?」

「それもあるが、そうすることで魔獣が階層を移動することを制限しているのだ。クリテリオンの例だと第二層の魔獣は下に降りられない。第四層は上に上がれない」

 階層を移動しようとすれば、キングスアーマーベアに殺される。自らに従順な魔熊朱であるからキングスアーマーベアは自分が支配する階層にいることを許していたのだ。、歯向かう、多種の魔獣の侵入は敵対行為。殺すという選択になり、第二層、第四層の魔獣、妖魔にキングスアーマーベアに抗う力はない。

「どうして移動させないようにしているのですか?」

「同系の種であれば、仲良くするわけではないが、争いも少しは減る。争いが少なければ、数が増える」

 魔獣の増加を妨げない為。同系種であっても争いはある。だが上下関係がはっきりしているので、下位の魔獣は争いを避けて逃げるのだ。逃げれば、必要以上に殺されることはない。

「はあ……そこまで考えて……でも、そうなると第六層にもとんでもないのがいる可能性があります」

 第三層にキングスアーマーベアというとんでもない魔獣がいた。そうなると単純計算では第六層にも、とてつもなく強い魔獣がいる可能性が考えられる。ダンジョン調査は第五層、正確には第六層に降りたところで終了となった。第六層にいる魔獣か妖魔とは戦っていないのだ。

「ああ、その通りだ。だがそれは問題ない」

「問題多有りだと思います」

 キングスアーマーベアよりも強い魔獣がいる。それは大きな問題だ。

「ダンジョンは危険が伴うが産業を生み出す。人を集め、商業を活性化させる」

「それは聞きました」

「お前たちが全て調査してしまったら価値が落ちるだろ? ここから先は他の勇者候補に任せる。ダンジョン探査で稼いでいるパーティーもいるのだ」

 アークたちの仕事はあくまでも開放前の調査。どの階層にはどのような敵がいて、どのランクの勇者候補であれば対応出来るか。それを確認する仕事だ。第五層まではそれは終わった。それで常時依頼のランクは決められる。
 キングスアーマーベアがいなければ第三層で調査は終わっていたのだ。常時依頼としては三層もあれば充分という考えだ。だがキングスアーマーベアがいたことで、さらに下の階層の調査も行うことになった、。すぐ下の第四層にキングスアーマーベアのような魔獣がいたら、第三層も常時依頼に出来ない。第三層の危険度を確かめる為の追加調査なのだ。

「ということでお前たちには別のダンジョンに行ってもらう」

「ええ?」

 近年、魔獣と妖魔が狂暴化している。それと同時に新たなダンジョンも見つかることが増えた。一年に一カ所という数だが、それでもそれ以前が数十年に一カ所という数だったことを考えれば、異常なことなのだ。

「ホープの手伝いだ。先に依頼を受けていたのだが少し時間がかかっているようだ」

「ホープさんがいて? 俺たちが役に立ちますか?」

 Sランク勇者候補のホープが苦戦するような依頼。自分たちが加わったからといって、どうにかなるものなのかアークは疑問に思った。

「厄介なのが二体いるらしい。分かりやすく言うと、キングスアーマーベアよりも強いのを同時に二体相手にするということだ。一体だけであればホープ一人でもなんとかなるのだろうが、二対一ではな」

「……そうだとしても俺たちですか?」

 モードラックの説明ではホープと同じくらいの働きをしろという意味に聞こえてしまう。やはり人選を間違えているとアークは思った。

「貴族の噂話はギルドの情報網よりも早く伝わるなんて言葉があるくらいだ。お前たちの活躍はすでに広まっている。それに恐らく予算の問題もある」

「予算というのは?」

「もう一人、Sランク勇者候補を指名する金がないのではないか? お前らのように安くて、実績があるパーティーに白羽の矢が立つのは当然だ」

 クリテリオンと同じ、一般開放前で収益を得られていない状態のダンジョン。領主の財政状況も似たようなものである可能性は高い。Bランクパーティーであるブレイブハートは予算の少ない領主の救いなのだ。もちろん、キングスアーマーベアを倒した実績があってこそだ。

「……話は分かりましたが……ドレイクさんに鍛錬をお願いしたいのですけど?」

 クリテリオンの領主、マッキンレー伯爵の喜びようを見ているアークとしては、同じように困っている領主の頼みは断りづらい。だが支店に戻ったらドレイクの指導を、時間を割いて、受けようと思っていたのだ。

「ドレイク殿? どうしてまた?」

 アークはドレイクにずっと指導を受けていたのは知っている。だがドレイクの指導が指名依頼を拒む理由になるのは、モードラックには理解出来ない。

「流水と嵐舞までは結構行けるようになったと思って。それをドレイクさんに確かめてもらうことと、破岩のコツがどうしてもつかめないので」

「それは……もしかして、ドレイク殿の剣術奥義のことか?」

「はい。そうです。型は全て教わったのですが、実際に使いこなすのはまだまだで」

「お前という奴は……」

 ドレイクは魔法を使えないが剣術では達人。それも並みの達人ではない。現役時代であればSランクになってもおかしくない実力者だ。そのドレイクが自ら編み出した奥義をアークは受け継ごうとしている。ドレイクに受け継がせても良いと思わせている。剣の才能はあると聞いてはいたが、これには、また驚き、呆れることになった。

「今回の依頼よりもさらに強い敵だと困ります。もっと強くなっておかないと」

「……分かった。ただし、一週間だ。一週間後には何があっても出発してもらうからな?」

「……分かりました」

 アークにとっては、たった一週間。それで強くなれるはずがない。それでも指名依頼となれば従わなければならない。渋々、了承を返した。モードラックとの話が終わるとすぐ急ぎ足で執務室を出ていくアーク。ドレイクの指導を受けに行くことは聞かなくても分かる。

「……あいつはどこまで遠くを見ているのだ? キングスアーマーベアを、いくらミラの支援魔法があるとはいえ、一人で倒せる奴が世の中に何人いると思っているのだ?」

 キングスアーマーベアは魔獣全体の中でも特級クラスの凶悪な魔獣。アークはそれを倒したのだ、実質、ミラと二人だけで。その異常さを周囲は分かっているから、大騒ぎになり、噂が広がったのだ。だが当人はそれを分かっていない。またモードラックは驚き、呆れることになった。

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