月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第40話 ダンジョンの主に出会った

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 キングスアーマーベアは魔熊種の中でも最上位種。その大きさは熊というより象。体の大きさだけでも人族が一人で挑むような相手ではない。体の大きさ以外の身体的特徴は他の魔熊種とほぼ同じ。固い体毛は魔獣の中でも一段抜けた防御力を持たせている。攻撃は主に前足。力任せの攻撃だけでなく、鋭く伸びた人差し指の爪は人族が扱う大剣くらいの長さがあり、戦う相手にとってはかなりの脅威だ。さらに。

「魔獣が鎧って……どうやって着た?」

 キングスアーマーベアの最大の特徴は鎧。実際には鎧のように見える固い皮膚だ。硬質の体毛で守られているのに、胸や胴回り、脛や腕には皮膚が露わになっている部分があるのだ。だがこれは弱点にはならない。体毛よりも固い皮膚で守られているのだ。
 アークの知識にはないが、人工的なもの。魔術によって改造された結果とされている。

「どうでも良い。狙いは喉だ」

 後ろ足で立つキングスアーマーベア。狙う喉はかなりの高さになっている。弱点だと分かっていても、攻撃を届かせるのは容易ではない。
 足を踏み出すアーク。その体は一気に加速。キングスアーマーベアの懐に飛び込む、と見えた瞬間、真横に跳んだ。ダンジョンの壁を蹴り、さらに高く飛び上がる。キングスアーマーベアの不意を突いて頭上からの攻撃、のつもりだったが。

「ちっ!」

 アークとキングスアーマーベアの間に光の輪が広がっていく。その光の輪を蹴って、空中で方向転換を図るアーク。ほぼ同時に甲高い音が響いて光の輪は砕け散った。キングスアーマーベアの攻撃によるものだ。不意打ちのつもりのアークの攻撃は見切られていたのだ。

「一撃かよ」

 ミラの物理攻撃防御魔法が一撃で粉砕された。まともに受けていれば、今頃どうなっていたか。これまで戦ってきた魔獣とは段違いの強さであることを、アークは再認識した。
 振り下ろされてきたキングスアーマーベアの腕を避け、それを足場に飛び上がる。そのアークに別の腕が振るわれる。宙に展開されるミラの物理攻撃防御魔法。それがキングスアーマーベアの攻撃を止めた。

「さすが、天才」

 キングスアーマーベアの顎に向かって体当たり。

「ぐっ……」

 アークにもダメージはあるが、なんとかキングスアーマーベアをわずかにのけぞらせることに成功。体当たりの衝撃でバランスを崩しながらもアークはキングスアーマーベアの喉に剣を突き立てようとする。だが、それは甘い考えだった。大きく開かれたキングスアーマーベアの顎。

「ぐっ、ぐぁああああっ!」

 アークの絶叫が響く。

「アークッ!!」

 キングスアーマーベアの牙がアークの体に食い込んでいる。そのままアークは食いちぎられてしまう。誰もがそう思った瞬間。

「ギヤァアアアアアアアア!!」

 今後はキングスアーマーベアの叫び声が響き渡った。地面に落ちていくアーク。地に落ちた瞬間、アークは跳ね上がり、地面を転がった。そのままダンジョンの壁にぶつかっていくアーク。

「癒しの水、清き流れ。かの者の身を復したまえ。ヒール」

 そのアークにビビットは素早く回復魔法を唱えた。

「……本当に治った。凄いな」

 痛みがないかあちこち動かしながら立ち上がるアーク。

「さて……行きます」

「おい!? 無理をするな!」

 すぐにまたキングスアーマーベアと戦おうとするアークに驚くシエロ。回復魔法で傷は癒えたとしてもダメージは残っているはず。すぐに戦える状態とは思えないのだ。

「無理はしていません」

「しかし……」

「ここで倒しておかないとまた苦労することになります……あっ、そうか……剣」

 アークの剣はキングスアーマーベアの左目に突き刺さっている。多くの生物の弱点は喉、そして目もそうだ。最初から狙っていたわけではない。キングスアーマーベアに噛まれた状態で、最も有効な攻撃が、剣が届く位置にあった目を攻撃することだったのだ。

「……これを使え」

 シエロは自分が持っていた剣を差し出してきた。アークは勝つ気でいる。おごりでも敵を軽視しているわけでもない。勝てる手応えがあるのだとシエロは感じている。そうであれば止める理由はない。

「良いのですか?」

「悪い剣ではないはずだ。剣のことしか頭にない剣術馬鹿の仲間が使っていた剣だからな」

 アークに渡した剣はキングスアーマーベアに殺された仲間が使っていた剣だ。仲間の無念を晴らす為に、自らがその剣でキングスアーマーベアを倒したかったシエロだが、それは諦めた。諦めてアークに託すことにしたのだ。

「……そうですか。では使わせてもらいます」

 シエロから剣を受け取って、前に進み出ていくアーク。キングスアーマーベアはまるでアークを待っているかのように動かないでいた。

「さて、お前の爪と俺の剣。どちらが上かはっきりさせようか」

 キングスアーマーベアと正面から向かい合い、構えを取るアーク。

「……あれは?」

 アークがきちんと構えたのは今が初めて。付け焼刃の構えではないことはシエロには分かる。アークから漂う雰囲気がそれを分からせている。

「……行く」

 踏み込む足に地面が歪む。衝撃音を響かせて、一瞬でキングスアーマーベアとの間合いを詰めるアーク。間合いを詰めさすまいと振るわれるキングスアーマーベアの両腕。アークはそれに自らの剣で対抗する。

「なんて奴だ……」

 力の強さと頑丈さではキングスアーマーベアが明らかに上。だがアークはその攻撃に負けていない。圧倒的な手数でキングスアーマーベアの攻撃をはねのけている。振るう剣は閃光、光の筋にしか見えない。
 だがアークが驚愕の動きを見せても、キングスアーマーベアは倒れない。アークの攻撃がダメージを与えているように見えない。

「…………」

 これでもまだ勝てないのか。この思いがシムラクルムのメンバーと騎士たちの心に浮かぶ。その瞬間、アークの体が消えた。消えたように見えた。ミラの物理攻撃防御魔法の盾を踏み台にして高く飛び上がったアーク。そのアークの体を炎が包む。そのまま空中で剣を一閃。キングスアーマーベアの体が揺らいだ。
 さらに死角となっている左目の側から攻撃を続けるアーク。その動きを追おうとキングスアーマーベアも体勢を変えて、死角から外そうとするがアークの動きはそれをさせない。四方八方からキングスアーマーベアを責め立てている。

「……行け……行けぇええええ! アーク!」

 湧き上がる想いが叫びになる。それは他の人たちにも伝わった。誰もが勝利を確信した。この戦いで初めて、勝利を信じられた。
 大きくのけぞったキングスアーマーベア。その喉元から鮮血が噴き出す。ふらつく足取り。やがて、ゆっくりと地面に倒れていった。地面を揺らす衝撃音は戦いの終わりを告げる合図となった。

 

 

◆◆◆

 主の勝利する瞬間を待っていたキラーベアやダークベアは、まさかの結果を迎えて、散り散りになって逃げ出して行った。それで第三層での戦いは、一旦、終結。魔獣の殲滅が目的ではない。殲滅してしまってはダンジョンの価値を下げてしまう。魔獣の側から襲ってこなければ、アークたちに戦う理由はないのだ。
 第四層に降りて、そこで少し様子見。第三層に続く通路から大きく離れない程度の場所で、現れる魔獣を待った。だが現れたのは魔獣ではなく、オーク。アークにとっては戦い慣れた相手だ。さして脅威を感じない、もちろんオークジェネラルやオークキングがいる可能性もあるが、と分かったところでその日の調査は終了となった。まだ第三層の調査も完全に終わったわけではない。キングスアーマーベアが他にいないとも限らない。第四層の調査を進める段階ではないのだ。

「お主がアークか?」

「……そうですけど?」

 翌朝、アークたちが勇者ギルドの出張所に行くと、人が大勢いた。その大勢の中で一番偉そうな男が声を掛けてきた。貴族であることは一目見て分かった。であれば、恐らくは依頼主の領主。調査が終わらないことに焦れていると聞いている領主だ。

「私はミルファク=マッキンレー。この地の領主を務めている」

 思った通り、男は領主のマッキンレー伯爵だった。領主である彼が何の用でここに来て、真っ先に自分に声をかけてきたのか。子供の頃の経験で貴族、だけでなく騎士もだが、に良い印象を持っていないアークには嫌な予感しかしない。

「アーク……良くやってくれた」

「はい?」

 だがその予感は完全に外れることになる。

「第三層のキングスアーマーベアを倒したというではないか。大手柄だ。お主の働きに私は心から感謝している。ありがとう」

 マッキンレー伯爵の用件はアークに御礼を伝えること。調査を阻害していたキングスアーマーベアをアークが倒したと家臣から聞いて、御礼を伝える為に、わざわざやってきたのだ。

「えっと……仕事ですから。それに俺だけで倒したわけではありません」

「その言葉や良し。だが家臣からはお主の働きがあってこそだと聞いている。謙遜は美徳だが、ここは素直に感謝を受け入れてくれ」

「……はい」

 抵抗しても無駄。それに褒められているのだ。それを拒絶し続けるのはおかしい。

「お主はミラか?」

「はい。そうです」

「なにやら特別な魔法を使うと聞いている。アークの働きを支える力だと。お前にも御礼を言わねばならない。ありがとう」

「……そのようなお言葉をいただけて、こちらこそ感謝いたします」

 アークに対する様子を見ていて、抵抗は無駄だと分かっている。ミラは素直に感謝を受け入れた。

「この度の働きに報いる為に褒美を用意した受け取って欲しい」

「えっ。いや、さすがに褒美は。我々は依頼料を受け取っています。その上、さらに何かを頂くことは、なんといいますか……貰い過ぎ?」

「そう言わず受け取ってくれ。アーク、お前には剣を与える。この剣がお前の助けになれば、それだけ早く調査が終わる。結果として我が家の利になるのだ」

「……分かりました。ありがたく頂戴いたします」

 内心では上手い理由を考えたものだとアークは思っている。結果として贈り主の為になる贈り物という言い方をされると断る理由が難しい。実際、アークは思いつけなかった。

「ミラには……本当は何らかの魔道具を送るべきなのだが、手元になくてな。職人に靴を作らせようと思う。もちろん素材は最高級なものだ」

「ありがとうございます。とても嬉しいです」

 マッキンレー伯爵家の台所事情が厳しいことが想像出来た。それでも褒美を与えたいと思う伯爵の気持ちがミラは嬉しかった。伯爵の善良さを感じた。

「皆も良く頑張ってくれている。ささやかではあるが今晩、パーティーを開きたいと思う。畏まる必要のない、まあ、ただの飲み会だ。楽しみにして今日も頑張ってくれ」

「「「はい!!」」」

 他のメンバーへの気遣いも忘れない。それを知ってアークはミラとは異なる感想を持った。マッキンレー伯爵は人使いが上手いのかもしれないと。これは育ちの差だ。ウィザム将爵家で生きていくには善人であるだけでは上手く行かない。政治的な駆け引き、自分の見せ方も覚えなければならない。アークは本格的に学んだわけではないが、兄たちがそうであることを知っている。
 兄たちは善人だ。だがただのお人よしではない。それを近くで見て、接して、良く分かっているのだ。

「……まんまと乗せられているのだとしても、頑張らないと、とは思うな」

「ひねくれた見方。常にそれが出来たら違ったかもね?」

「ミラ……それを言うか?」

 カテリナに対してはそれが出来ていなかった。彼女を疑うことをしなかった。今となってはアークにとっては恥ずかしさを感じる過去。ミラはそこを、そうであると分かっていて、抉ってきたのだ。

「でも出来なかったから今がある。こうしてミラと一緒に戦えている。だから……あれで間違いではなかったと俺は思う」

「……そうだね」

 カテリナは二人が出会うきっかけを作った。そのことに感謝する気持ちはミラにはない。アークを傷つけたことに怒りを覚えている。だが、きっかけであることは事実。もしアークと出会うことがなかったら。今頃どうしていたのか。
 想像がつかない。だが今ほど充実した毎日を送っていないのは間違いない。ミラはそう思った。

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