月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第39話 ダンジョンも色々

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 クリテリオンのダンジョンは入口だけを見ると普通の洞窟と変わらない。切り立った断崖に裂け目のような穴が開いているだけだ。裂け目の大きさはグレンオードの洞窟に比べると。かなり大きい。アークの背丈の十倍はあろうかという高さで、横幅も十人が並んで歩いても余裕な幅。これだけの大きな入口で、三年前に見つかったばかりというのがアークには不思議だったが、シムラクルムのシエロに「元々この入口は塞がっていたのだが、三年前にあった嵐の時の土砂崩れで露わになったのだ」と教えてもらって納得した。
 ダンジョンを十メートルほど進むと周囲の様子は一変する。ところどころ崩れているところはあるが、長方形の空間。壁も地面も平らに削られていて、先に伸びる通路もまっすぐ。明らかに人工的な建造物だ。

「我々が先頭に立ちますので、騎士の方たちは後ろに……アーク、君は魔法士の二人を守ってくれ」

「分かりました」

 アークは後衛で魔法士の護衛役。カテリナのパーティー。ポラリスでの役回りと同じだ。文句はない。誰かがやらなければならないことで、他の二人、シムラクルムのシエロとシャッテンは上位ランク。アークがその役目を任されるのは普通のことだ。
 先頭をシエロとシャッテン。その後ろに領主軍の騎士たちが続く。数はアークが思っていたほどではない。軍と伝えられたが、実際は騎士が五名だ。

「……ここから先は魔獣が出没します。後ろも気を付けて」

 しばらく歩いたところでシエロが警戒を促した。それを聞いて、アークは最後尾に下がる。背後からの襲撃に備える為だ。

「……クッキー」

 アークの呼びかけに応えて、ミラの足元を歩ていたクッキーも後ろに下がってきた。ダンジョンは一本道ではなくなっている。いくつも通路が分岐している状態で、どの通路から魔獣が襲ってくるか分からない。クッキーにも少し下がった位置から不意打ちに備えてもらおうとアークは考えたのだ。

「魔獣だ!」

 クッキーが下がったところで、すぐに魔獣が現れた。ただ現れたのは前方からなので、すぐに出番があるわけではない。

「シャテン!」

「おう!」

 シエロとシャテンの二人が魔獣に向かっていく。騎士たちはその場で待機。現れたのはマーダーウルフで、数は五頭。二人だけで十分な相手だ。実際に二人は、たいして時間をかけることなく、魔獣を倒した。

「第一層はマーダーウルフ以外に何がいるのですか?」

「確認出来ているのはキラーウルフとツインヘッドウルフね」

「魔狼種ですか……」

 キラーウルフはマーダーウルフの上位種とされている魔獣。外見に大きな違いはないが、大きさは倍くらいある。ツインヘッドウルフは名の通り、頭が二つある。変体した時のクッキーと似た外見だ。どちらも魔狼種、デーモンウルフ種とも言われる魔獣種だ。

「まだ三層しか分かっていないけど、階層毎に同一種で統一されているのよ」

「そうですか」

 同一種だからといって仲が良いということはない。ゴブリンのように組織された集団とは違うのだ。同一種で協力して他種を追い払ったということはなかったはずだとすれば、どうして階層ごとに統一されているのか。何かの意思が働いている可能性をアークは考えた。このダンジョンは明らかに人工物。そうであってもおかしくない。

「第二層は魔虎種。そして第三層が魔熊種。同じように同じ種で固まっているわ。ただし……第三層は他の二層とは違う」

「どう違うのですか?」

「主がいる」

「ぬし?」

 主がいると言われても、アークには何のことかさっぱり分からない。ダンジョン調査はまだ二度目。それにグレンオードの洞窟は、魔獣もいるが、妖魔の住処となっている場所。魔獣だけの、今分かっている範囲ではだが、こことは異なっている。魔獣の「主」という存在をアークは知らないのだ。

「群れのリーダーのような存在よ」

 ミラは知っていた。本で得た知識だ。

「なるほど……それで、その何が問題?」

「……さあ?」

 主がいると何が問題なのか。そこまでの知識はミラにはない。主という存在について調べようとしていて知った知識ではない。たまたま書いてあったことを記憶していただけなのだ。

「第三層の全ての魔獣がその主に従っているの。主であるキングスアーマーベアを倒すだけでも厳しいのに、その前にキラーベアやダークベアの大群と戦わなくてはならない」

「それが分かっていて、この数?」

 敵が大群であれば、こちらも数を揃えるべき。そうであるのに、今、ここにいるのは十人だ。どうしてこれで調査を継続、というより、第三層の魔獣討伐を続けようと思ったのか、アークには理解出来ない。

「……領主が焦っているの」

「でも騎士が五人だけ」

「領主軍といっても数はそれほど、いえ、はっきり言って少数なの」

 ハイランド王国の軍事は王国軍と軍閥貴族家が支えている。見方を変えると、その軍事力を保つ為の費用は、その他の貴族家が支えているということになる。自領の軍を充実させる余裕はないのだ。いざという時は王国軍と軍閥貴族家の軍事力頼み。ハイランド王国の貴族はそれで良いことになっている。

「領主様にしてみれば、なけなしの騎士たちを投入したつもりですか……今思ったのですけど、こういうダンジョンって領主の物に……そうか。領地なのだから当たり前か」

 なんとなくダンジョンは国が管理しているものとアークは思っていた。だから、このダンジョンの調査に王国軍が協力しないのが不思議だった。

「私たち勇者候補が採取してきた素材はギルドを通じて、領主に渡る。さらにそれが商人や職人たちに卸される。そうして得られる利益は大きいのでしょうね?」

 実際の商流では領主が関わるのは書類だけ。市場が開かれる時もあるが、規模が小さい間はギルドから直接、商人や職人に卸される。領主としては人手を必要とせず、手数料としての収入が得られる美味しい商売なのだ。
 だがここの領主は三年間、待たされ続けている。焦りも生まれるというものだ。

「……ギルドへの依頼料も馬鹿にならない?」

「それもあるかもしれないわね?」

 支出が先行していて利益があがってこない。このままでは支出ばかりが膨れ上がることになる。無理を強いる領主の気持ちが、少しだけ、アークにも分かった。あくまでも「少しだけ」だ。
 今のところ調査は順調。といってもひたすら前に進んでいるだけ。目的地は第三層。そこに真っすぐに向かっているのだ。第二層に降りると現れる魔獣が変わる。魔虎種は全体的に魔狼種よりも大型の魔獣。強くもあるが、それは個の比較。群れで襲ってくる魔狼種と総合的な強さはそれほど変わらない。一頭と集中的に戦えるので、戦いやすいくらいだ。もちろん、まったく歯が立たない上位種が現れてしまうと状況は一変する。

「……ここからよ」

 第二層は無事突破。だが、ビビットの顔は一安心というものではない。緊張で強張っている。彼女にとって第三層は仲間を失った場所。平静でいられるはずがない。

「魔熊系の特徴は?」

 魔熊系は、魔虎系もだが、アークがこれまで出会ったことのない魔獣。戦った経験がない敵だ。

「言うまでもないけど熊に似た姿。ただ体毛はかなり固いわ。魔狼族とは比べものにならない」

 魔獣についての情報をミラは片っ端から頭に入れている。特徴を知らなければ最適な戦い方を考えられない。敵を知ることを怠るわけにはいかない。

「そうだよな。体毛が固いって厄介だな……しかも熊」

 アークも魔熊系について知識がないわけではない。自分の頭に入っている情報を、改めてミラの知識と突き合わせることで確認してみただけだ。

「弱点は大抵の生き物がそうであるように喉」

「でも四つ足だとその喉が隠れてしまう……起こして突く、が出来るか……」

 出来るかどうかは実際にやってみて確かめるしかない。出来ることなら、その時は来ないほうが良い。後衛のアークが戦いに参加するというのは、よほど情勢が厳しくなった時だ。ほぼ負けの状況と言っても言い過ぎではない。

「もう来た……」

 ビビッドの呟き。その声はわずかに震えていた。前回の敗戦の衝撃から、今も立ち直れていない。恐怖が心に広がってしまうのだ。

「迎撃態勢!」

 シエロが号令は発した。自分とシャッテンの二人だけでは倒せない敵。そう考えていることを騎士たちに伝えているのだ。伯爵家の騎士たちはすぐにそれを悟り、戦闘態勢に入る。指示されなくても、そうしていた。現れた魔獣はキラーベア。その数は見る見るうちに増えていっているのだ。

「うぉおおおおっ!!」

 続けてシエロの声がダンジョンに響き渡る。雄たけびを上げながら盾を掲げて前に出たシエロ。盾を叩きつけるかのように地面に置いた瞬間、光が周囲に広がった。

「……防御魔法?」

「土属性のアースシールドよ。シエロは盾役。彼が敵を引き付けて、足止めしている間にアタッカーが敵を倒すの」

「止めるって……」

 キラーベアは魔熊種の中では小柄なほう。それでも平均的な人族の大人よりも大柄だ。がっしりとした体格のシエロであればほぼ互角、だとしても、突進してくるキラーベアは何十頭といる。それを全て止められるとは思えない。

「嘘? 止まった?」

 だがシエロはキラーベアの群れの突進を止めてみせた。通路の幅いっぱいに広がって、突進してきた群れを。

「シエロの盾は魔道具なの。その盾を介して魔法を発動することで普通のアークシールドとは比べものにならない広範囲で強固な魔法壁を作れる」

「……魔道具って、そういう使い方があるのですか」

「当たり前のことで感心しないでよ。私の杖と同じだから」

 アークは感心している様子だが、ミラにとっては常識。魔法士であるミラが持つ杖は魔法の効果を増強させる魔道具。シエロの盾と同じだ。形状がいかにもそれな杖と、盾の違いだけなのだ。

「そうだった……それでもあれを止めるのは凄いな」

 シエロの魔法盾によって前身を阻まれているキラーベアをシャッテンと騎士たちが打ち倒していく。盾役が止めて、攻撃役が討つ。この点では、定石通りの戦い方だ。

「……ミラ」

 キラーベアの突進は止めた。だが倒すことには苦労している。固い体毛が味方の攻撃を阻んでいるのだ。そうであれば、ミラの出番だ。

「分かった。強化魔法、行きます!」

 魔法を放つことを宣言するミラ。アーク相手では無用なことだが、初めて一緒に戦う相手となれば、これは必要。攻撃魔法と誤解されないようにする為だ。

「えっ……?」

 同じ魔法士であるビビットが驚くくらい異質な魔法なのだから。火属性の攻撃魔法にしか見えない炎が前衛の味方に届く。攻撃力の強化。キラーベアの固い体毛への対策だ。

「…………」

 状況は改善した。少しだけ。良くなったのではなく、悪い状況がこれ以上、悪くなるのをわずかに遅らせた程度。一頭のキラーベアを倒す時間は少し短縮されたが、それ以上の数が新たに現れている。このまま戦っていて、はたして勝てるのか。アークは疑問に思ってしまった。

「……前に出ます」

 ビビットは前衛との間を詰めることを決断した。戦闘に参加する為ではない。傷つく騎士が出てきた。彼らの治療の為だ。回復魔法は一定の距離にいなければ効果がない。距離があればあるだけ魔力を消費してしまう。この状況ではリスクを犯しても魔力を節約するべきと彼女は考えたのだ。それだけ自分の回復魔法が必要になる、味方がピンチだと考えているということだ。

「大丈夫ですか? 今、治療します」

 倒れた騎士に駆け寄り、治癒魔法を唱えるビビット。それほど重症というわけではかった騎士は、すぐに立ち上がった。

「……凄」

「……何度も使えば効果は落ちます。私の魔力だけでなく、治療される人の魔力も影響するのです」

 治癒魔法があれば、術者の魔力がきれなければ、永遠に戦い続けられるわけではない。時間を空けずに治癒魔法を使い続けると効果は薄れていく。ビビットは相手の魔力と言ったが、生命力という言葉のほうが正しい。傷つけば、その度に生命力が削られる。それが尽きれば治癒魔法の効果はなくなる。

「……シエロさんも限界に近そうです」

 魔獣の突進を止めていたシエロにも限界が近づいている。彼の場合は魔力切れだ。何度も何度も、破られる度に、魔法をかけなおした。

「シエロ! 決断して!」

「そうしたいのだが……抑えきれない! ビビット、先に下がれ!」

 撤退を決断するべき。それはシエロも分かっていた。だが、撤退する隙がないのだ。シエロが下がれば魔獣が一気に味方に襲い掛かることになる。そうなれば全滅の危機だ。

「……下がりましょう」

 ビビットはシエロの言葉に従うことを決めた。彼女一人であれば別の決断もあったかもしれない。だがアークとミラを巻き込む気にはなれなかったのだ。

「……その前に……前に出てみて良いですか?」

「えっ?」

「クッキー、後を頼む」

 このまま撤退は出来ない。一時的とはいえ仲間になった人たちを死なせるわけにはいかない。ミラに二度と仲間を死なす悲しみを味わせるわけにはいかないとアークは思った。

「……ええっ!?」

 アークの声に応えて変体したクッキー。その姿は今襲ってきているキラーベアよりも凶悪。それにビビットは驚いた。その時には、アークは前に飛び出していた。

「えっ?」「何?」

 一陣の風。騎士たちにはそれしか感じられなかった。それだけ彼らの間をすり抜けていったアークの動きは速かった。

「……何だ?」

 宙に噴きあがる血しぶき。それはシエロの視界を遮るほどの勢い。何かが起きている。それは分かったが、何が起きたのか、この時点ではシエロには分からない。

「……彼は……何者だ?」

「彼?」

「アークだ。私でもギリギリ目で追えるかどうかの速さ。彼はあれで本当にBランクなのか?」

 シエロに見えないものがシャッテンには見えていた。まさに風のように魔獣の間をすり抜けていくアーク。彼が通り過ぎた後には血しぶきが噴きあがっていく。アークと同じことはシャッテンには出来ない。出来るのであればとっくにやっている。

「アーク! 大物が来た!」

 新たな強敵の登場。ミラはそれに気が付いた。まず間違いなく、主と呼ばれた魔獣。キングスアーマーベアの気配だ。それほどの魔獣だから気配に気付けたとも言える。

「分かっている! その前に雑魚を出来るだけ倒す!」

「雑魚って……まあ、君の手ごたえがそうなら良いけど」

 初めて戦うキラーベア。アークにはそれほどの強敵ではなかったようだ。実際に手強いのは体毛の固さだけ。その固さを苦にしない攻撃力があれば、脅威にはならないということだ。

「問題は……主ね」

 だがキングスアーマーベアは別だ。すでに百を超えるキラーベアが現れている。さらにビビットの話ではダークベアもいるはず。それだけ大きな群れの主。ましてAクラスパーティーが戦って、仲間を失うという惨敗を喫した相手だ。今戦っているキラーベアとは別格の強さ、おそらくはこれまでアークが戦った中で最強の魔獣に違いない。
 その強敵との戦いが始まる。ミラの心にも緊張が広がっていった。

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