月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第37話 他人の評価は関係ない

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 カテリナたち、ポラリスは相変わらず忙しい毎日を送っている。さらに忙しくなったと言える。魔人族と戦い、それを倒したという話が広がった結果だ。魔人族と戦ったAランクパーティーなど滅多にいない。というのは魔人族が絡む事件は全て指名依頼になり、情報が公開されていないからそう思われるのだが、多くの依頼主にはそんなことは分からない。ポラリスはとんでもなく優秀なパーティーだと考え、実際に戦闘力についてはAランクパーティーの中でも優秀なほうだ、指名してくることになったのだ。勇者にもっとも近いパーティーとお近づきになっておきたいという思惑も、中にはある。
 カテリナの狙い通りの状況だ。自分の美貌と光属性魔法の使い手という希少性を最大限に活かして知名度をあげる。彼女はこれに成功した。成功したのだが、計算違いもあった。

「おめでとうございます。カテリナ様、フェザント様、ピジョン様の三人は今回の依頼達成をもって。Aランクに昇格となります」

「Aランク……ありがとう」

 ギルド職員からランクアップを伝えられても、カテリナは浮かない顔だ。彼女が想定していたよりも、かなり早いランクアップ。ポラリスはハイランド王国支店所属のAランクパーティーの中では、もっとも遅くAランクになったパーティー。Aランクの中では新米だ。そうであるのに全てが指名依頼なんてあり得ない状況になっている。高報酬、高ポイントの指名依頼ばかりであれば、それは予想を超える早さでのランクアップにもなる。

「これでBプラスランクの指名依頼は来なくなる。少し時間に余裕が出来るのではないか?」

 ランクアップすれば依頼のランクもあがる。平均ランクがAマイナスを超えるくらい。ぎりぎりAランクパーティーだったカテリナたちにはBプラスランクの指名依頼も来ていたが、今回のランクアップで来なくなるはず。それをフェザントは良いことだと思っている。

「そうね。鍛える時間を増やせるのはありがたいわ」

 カテリナも同じ考えだ。いくつも依頼をこなし、カテリナたちは自分たちの実力不足を感じ始めている。これまでは問題なかった。だがこの勢いでランクアップしてしまうと、依頼のランクも更にあがる。その時、自分たちはそれを達成できるのか。不安に思うようになっているのだ。

「金は稼いだ。装備の見直しも行うべきだね?」

 実力不足に関しては、強気な発言が多いセーヴィングもかなり敏感だ。彼は一度それで失敗し、仲間を失っている。同じ轍を踏みたくないという思いは強いのだ。

「そうね。装備の強化もやっておくべきね」

「あとは個々の鍛錬。実戦ばかりだと型に乱れが生まれる。鍛錬で修正しておかないと」

 世襲騎士の家で生まれ育ったセーヴィングには、こういう知識もある。幼い頃から剣を学ばされていた中で覚えた知識だ。ただこれは剣術を体系的に習ったセーヴィングだから必要なこと。ほぼ独学のカテリナ、そしてフェザントには、まったく意味がないとまでは言わないが、、必要性は高くない。元々、型などないので乱れようがないのだ。

「連携の確認も必要だ。この先を考えれば、もっと精度を高めておく必要がある」

 フェザントはセーヴィングの提案を否定しない。これはカテリナを除くメンバーに共通する懸念があるから。この先の為にメンバーを見直すべき、という方向に話を向かわせない為だ。
 少なくともカテリナはアークを手放したことを、今更だが、惜しんでいる。その雰囲気は割と前から感じていたが、先日、ギルドの訓練場でミラに絡んだことで彼女の思いは明らかとなった。アークを引き戻そうと思えば、誰かが追い出されることになる。それは自分かもしれないという思いが、魔法士であるミレット以外にはあるのだ。

「やることが沢山あるわね?」

「全員がAランクだからね。三人がランクアップということは、先にAランクになっていた私とミレットはいよいよ、Aプラス。Sランクは目の前だ」

 Sランク候補に届くかもしれないところまで来た。さすがに自分では無理だろうと思っていたところまでセーヴィングは行き着くことが出来そうだ。ここまで来て躓くわけにはいかない。そう思う一方で、この先の依頼達成の困難さも感じている。Sランクの一歩手前。そんな依頼を自分たちで本当に達成できるか不安に思ってしまうのだ。

「実際、私たちはどれくらいの位置にいるのかしら?」

 自分たち以外にもAランクパーティーはいる。その彼らもSランク目前かもしれない。先にAランクに上がっていただろうパーティーだ。先を越される可能性を否定することは出来ない。
 Sランクはゴールではない。先にSランク勇者候補になれたとしても、まだ先がある。分かっているはずなのに、こういう意識は消せないのだ。

「あえて順番をつけるとすれば、恐らく……二番手くらいだ」

「えっ?」

 問いの答えはまさかの高順位。フェザントの答えが事実であればだが、それを疑う気持ちはカテリナには生まれない。ただ驚いただけだ。

「この数か月、立て続けにAランクパーティーが依頼に失敗した。何人も命を落としたらしく、どれもメンバー不足になった。解散したパーティーもいるという話だ」

「……それで私たちが二番」

「珍しいことじゃないらしい。Aランクは生き残り競争だって話だ」

 何故、Sランク勇者候補はホープだけなのか。Aランクで皆、脱落するからだ。命を落とす者、仲間の死に耐えきれず、ギルドから抜ける者。金を稼ぐことだけを目的として、わざとパーティーの平均ランクを落とし、死なない程度の依頼だけを引き受けている者もいる。もっと極端な例だと、報酬は得るが、達成ポイントは全て他のメンバーに渡してしまうというのもある。

「生き残った者たちのパーティー再編によって順位は変わるかもしれない。だが、失敗した奴らはペナルティを受けたはずだからな」

 依頼の重要度や失敗の原因によってペナルティの重さは変わるが、ランクダウンにまでなった勇者候補もいるかもしれない。そうなった勇者候補が多ければ、順位は変わらない。あくまでも平均ランクの順位であって、強さの順位ではないが。

「……どういう依頼だったのかしら?」

「詳しいことは分からない。Aランクともなれば口が固いらしく、情報が漏れて来ないようだ」

 勇者ギルドから何か言われなくても仕事については他言しない。Aランク勇者候補ともなれば、それが徹底されている。同じAランク勇者候補であるフェザントがこんな言い方をするのは。ほとんどが指名依頼でそんなことを考える必要がなかったというのもあるが、まだAランク勇者候補として必要なものを身につけていないからだ。

「私は指名依頼のほうが難易度が高いと思っていたのだけど」

「カテリナ。それは間違いだよ。指名依頼は確実に達成しなければならない。達成出来ない可能性があるパーティーに指名依頼は届かない」

 カテリナの誤解はセーヴィングが指摘した。一度、Aランク勇者候補として挫折している彼はカテリナやフェザント、ピジョンのように初めてAランク勇者候補になったメンバーよりも、実態について良く知っているのだ。
 ただ、この説明には間違っている点もある。失敗する可能性が高くても勇者ギルドとして引き受けなければならない依頼はある。その場合、成功可否に関係なく、最善と思うメンバーを選んで指名することになるのだ。依頼。優秀な勇者候補をまとめて失う結果になるかもしれない、勇者ギルドとしては望まない依頼だ。

「……もっと強くならなくてはいけない」

「そうだよ。だから皆で頑張っていこう」

 知名度を高め、指名依頼を増やして、稼ぎを増やすことは出来た。これはカテリナの計算通りの結果。上手く自分をアピールすることに成功したのだ。だがそれと強くなることは別だ。ランクと強さは同じではない。カテリナは、彼女たちはそれに気が付いたのだ。

 

 

◆◆◆

 ピジョンはウィザム将爵家に呼び出された。王都の屋敷ではない。彼の報告窓口となっている男に、勇者ギルドの外で会っているだけだ。これまでは勇者候補を装って会いに来ていた男が、わざわざ外で会おうとする。その理由はピジョンには分からない。ピジョンから情報を得ても、ウィザム将爵家の情報は与えない。こういう相手なのだ。

「いくつか指名依頼を受けたことは分かっています」

「そういう話を聞きに来たのではない。アークトゥルス様は王都に来ないのか?」

 今日、相手がピジョンを呼び出したのはアークについて、より詳しい情報を得たいから。ただ勇者候補としてどういう仕事をしているかなどは、どうでも良いことなのだ。

「それは本人にお聞きになったらいかがですか? 私が分かることではありません」

 普通に考えればアークが王都に行くことなどない。家出した立場であり、ウィザム将爵家の人間を嫌っているアークに、自ら王都に行く理由はないとピジョンは考えている。実際にその通りだ。

「……陛下がお怒りの様子だ」

「どういうことですか?」

 何故、ここで国王が出てくるのか。しかも怒っているという話だ。ピジョンもハイランド王国の臣民。勇者候補として生きる道を考えているが、それを選んでも王国の臣民であることは変わらない。国王を怒らせて良いことなど一つもないのだ。

「交流戦での戦いを見てから、陛下はアークトゥルス様を気にするようになった」

「……なるほど。そういうことですか」

 ウィザム将爵家の落ちこぼれのことなど、まったく気にしていなかったはず。だが交流戦でアークは、多くの人が驚く結果を残した。国王もその一人で、逃した魚が大きかったことを後悔しているのだとピジョンは考えた。しかも国王となれば後悔してそれで終わりにはならない。逃がした魚を取り戻そうとしているのだと。

「アークトゥルス様はハイランド王国の臣だということで、陛下は王国軍の惨敗をお許しになられたのだが、交流戦以降、アークトゥルス様は拝謁する機会を得ようとしない」

「それはそうでしょう? アーク様は家出しているのですから」

「それではウィザム将爵家の人間ではないことになってしまう。陛下は王国軍の将として生きることをアークトゥルス様に求めておられるのだ」

 家出した身だから国王に拝謁を願うことはない。その資格がない、なんて言い訳は通用しない。国王はアークが勇者ギルドに奪われてしまうことを警戒している。ウィザム将爵家と縁もゆかりもない立場になることなど許さないはずだ。

「……それを私に言われても」

「ご実家に戻られるように説得しろとは言っていない。とにかく一度、王都を訪れ、国王に拝謁を願うようにしろ」

「しろ、って……」

 自分の言うことなどアークは聞かない。そういう関係ではない。どうしてもアークを動かしたいのであれば、国王に命令してもらえば良い。いくら彼でも国王の命令は無視出来ないはず。ウィザム将爵家を離れようと、やはりハイランド王国の臣民であることに変わりはないのだ。

「実際はどうなのだ?」

「どう、というのは?」

「アークトゥルス様の実力はどの程度なのかを聞いている。Bランクというのは、それほど高位ではないと教わった」

 この男もアークを落ちこぼれと蔑んでいた一人なのだ。しかも交流戦を観ていない。国王が騒ぐほどアークが強くなったということを信じられないでいる。

「……ようやく、勇者候補の一員と認められる程度のランクです」

「そうか……その程度か」

 男はピジョンの説明を聞いて一安心。実際にあり得ないほど強くなっていて、ウィザム将爵家内で高い地位を与えられることになっては、それどころか跡を継ぐようなことになっては困るのだ。アークを蔑んでいたことを知られていれば、家中で肩身が狭くなる。閑職に回される可能性もある。

「アーク様は自ら王都を訪れようなんて考えません。どうしても向かわせたいのであれば、他の方策を考えるべきだと思います」

 このまま話が終わっては、また催促されることになる。絶対に実現出来ないことを何度も催促されては堪らない。こう思ったピジョンは、はっきりと自分に命じても無駄であることを告げることにした。これを言うことで相手の機嫌を損ねても構わない。ウィザム将爵家で出世しようなんて、もうピジョンは考えていないのだ。
 すでにパーティーも自分自身もAランク。勇者候補としての頂点に近づいている。ピジョンはウィザム将爵家の直臣ではなくく、将爵家に従う世襲貴族家の人間。ウィザム将爵家の中で出世していく可能性はかなり低い。勇者候補として名誉ある立場を手に入れることを目指す選択に誤りがあるとは思えないのだ。

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