月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第33話 残された時間

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 洞窟調査の依頼を終えたアークとミラだが、すぐにまた仕事に入っている。また指名依頼だ。ただし、今度は二人だけ。ブレイブハートとして引き受けることになった。二人だけで任せても問題ない。モードラック支店長がこう判断した結果だ。
 依頼の内容は洞窟に繋がる穴や裂け目を探すこと。これまで危険と見られていなかった場所に、妖魔や魔獣が現れるのはそれがあるから。そうであれば勇者ギルドとしては放置しておけない。妖魔や魔獣が頻繁に現れるようになれば、それに比例して討伐依頼が増える。利益が増えることになるが、そんな利益を勇者ギルドは求めていない。人の犠牲を増やしてまで利益をあげるなんてことは絶対に許されていないのだ。
 善意だけが理由ではない。そんな事実が実際に存在し、それが明らかになれば勇者ギルドの信用は地に落ちる。依頼しようなんて客はいなくなる。死活問題に繋がるのだ。

「……あそこ、明るいな」

「本当だ。でも狭いね? あそこから外に出るのは無理そう」

 二人が指名されたのは洞窟を良く知っているから。洞窟の外から穴や裂け目を見つけるのは簡単なことではない。どこに洞窟が伸びているのか地上からでは把握出来ないのだ。では、どうするか。洞窟の中から探せば良い。外に繋がる場所は光が漏れている。大きな穴や裂け目であれば、確実に見つけられる。

「じゃあ、ここも目印だけ出しておくか」

 光が見えていてもアークたちでは通れない大きさである場合は少なくない。そういう場所は目印を残しておいて、外から探すことになる。一旦、外に出て周囲を確認出来ない分、後から探すのは難しくなるが、これは仕方がない。
 全てを完璧に塞ぐことが不可能であることは最初から分かっている。それに妖魔も通れない小さな裂け目であれば、放置しておいても直近は問題ない。

「まあまあ、数あるのね?」

「そうだな。やっぱり、あれかな? 自然に出来た洞窟ではないからかな?」

 人工的に作られた洞窟である可能性をアークたちは聞いている。魔人族によって作られたという説だ。無理やり、地中に穴を掘って作った結果、脆い洞窟になったという話も聞いている。それとは別に洞窟を守っていた魔人族の結界が消えたことで、綻びが生まれるようになったという説もある。

「どうだろう? もしそうなら、もう少し作り方あったと思うけど」

「確かに。ゴブリンの村は良く出来ていたけど、あそこに魔人族が住んでいたとは思えないな」

 人魔大戦時に魔王軍のアジトとして作られた洞窟。それにしては魔人族がいたと思われる場所がない。ゴブリンの村があった場所は広大な空間になっていたが、それ以外は普通の洞窟だった。オークたちが住み着いているエリアなどもそうだ。居住空間として整備された痕跡は、アークたちが見る限り、なかったのだ。

「……あとからゴブリンが来て……どうでも良いか」

 二百年前のこの場所がどんな様子だったかなんて、依頼を終わらす上では、どうでも良いことだ。元々考えることが好きなミラなのだが、今は考えなければならないことが多すぎて、これ以上、増やしたくなかった。

「話が出来れば分かるかもしれないけどな。ゴブリン語を学ぶ本とかないのかな?」

「その本を書けた人はどうやってゴブリン語を覚えたの?」

 そもそも言語になっているのか。ミラは怪しいと思っている。ゴブリンの口から出てくるのは、獣の唸り声と大差ないように聞こえてしまうのだ。

「……だよな。逆に彼らに共通語を覚えてもらって」

「どうして、そこまでこの話に拘る?」

 アークはどうしてここまでゴブリンとの会話を求めるのか。ミラには理解出来ない。洞窟を歩いている間の暇つぶしにしても、もっと話すべきことがあるのだ。

「新しい知識を得られそうだから。彼らには彼らの生きる知恵があるかもしれない。それは人族のそれと同じとは思えない」

「ゴブリンからも知恵を求めるのね? ちょっと尊敬する」

 妖魔を取るに足らない存在と見ることなく、何かを得ようと考える。ミラにはその発想はなかった。学びになるものがあると思えなかった。だがアークは違った。それは驚くべきことだとミラは思う。

「持たざる者は努力と知恵で補うしかないから」

 自分には何もない。幼い頃からアークはこう思っていた。才能溢れる兄たちと自分を比べて、いつも落ち込んでいた。それでも彼は諦めなかった。何もないのであれば、これから得れば良い。こう考えて学び、鍛えた。

「……ほんと尊敬するよ。天才の私も見習わないと」

 本気で尊敬する。これはミラの本当の気持ちだ。だがこれだけだと照れくさくて、余計な一言を付け加えてしまうのだ。

「言ってろ……あれ、襲ってきそうだけど……何?」

 先のほうに魔獣が現れた。数は一頭のみ。ただアークは初めて見る魔獣だ。

「ケイオスベア。特殊攻撃はなし。力任せだけど、その力が異常に強いから気を付けて」

 ミラも実物を見るのは初めて。だがその情報は頭に入っている。魔獣、妖魔の勇者ギルドの資料に記されている情報は全てを暗記しようとしている。特徴を知ることで戦い方を考えられる。アークを支援するのは自分の役目。魔獣の知識もそのひとつだとミラは考えているのだ。

「洞窟に熊……分かった。クッキー、守りは任せた!」

 魔獣に向かって駆け出していくアーク。そのあとをミラの魔法が追う。小さな竜巻に包まれた瞬間、アークは加速。魔獣の懐に飛び込むと、剣を振るった。鮮血が宙を舞う。やがて、ゆっくりと魔獣は後ろに倒れていった。

「あれで、どうしてこういう依頼で満足出来るのだろうね?」

 この洞窟にはアークに抗える魔獣も妖魔もいない。全てに一斉にかかってこられるとさすがに苦しいが、ちょっとした群れであれば、危なげなく倒せる。それだけの強さをアークは身につけている。そうであるのに、指名依頼とはいえ、こういう地味な仕事に一言も文句を言わない。それがミラは不思議だった。力を得た者はその力を誇示したがるものだとミラは思っていたのだ。

「ア”ーグ ぶるる、ぐるる」

 独り言のつもりの呟きに応える存在がいた。魔獣のクッキーではない。頼んでもいないのに道案内をしてくれているゴブリンだ。このゴブリンが側にいるからアークは話を出来ないかと思ったのだ。

「ん? 今、アークって言った?」

「ぐお?」

「そんなわけないか……」

「…………」

 彼もアークと話をしたいと考えている。残念ながら、まだそれは無理だ。彼はまだゴブリンロードとして完全に覚醒していない。普通のゴブリンに比べれば、少し知性が高い程度。人族の共通語を覚える力はまだない。
 それでも彼には考える力がある。アークとミラの強さを理解する知能がある。二人のように強くなりたい。自分だけでは無理であれば、仲間と力を合わせることで強くなりたい。その為には何が必要か。彼にはこれを考える力がある。

 

 

◆◆◆

 ラードガ大将軍からの最初の指名依頼は、事前に言われていた通り、カテリナたちには物足りない内容だった。ゴブリンナイトを含む群れの討伐。数は最大二十という情報で、少ないとは言えないが、今更ゴブリン討伐に手間取るポラリスのメンバーではない。ゴブリンナイトが混ざっていようとそれは変わらない。
 問題は依頼の場所。王都から見るとグレンオードとは真逆の位置。片道だけで馬車で十日以上かかる場所だ。とはいえ、依頼を断るという選択肢はない。カテリナは迷わずそれを受け、さらに移動手段として有料の翼竜を使うことを選択した。ラードガ大将軍の印象を良くすることを目的として、依頼達成期間の短縮を図る為だ。
 その決断が功を奏したのかは分からないが、ポラリスに対する指名依頼は増えることになる。どれもグレンオードからは遠い場所だが、Aランク依頼となれば、それが普通だ。ハイランド王国のあちこちを飛び回ることになる。ポラリスもそうなった。
 移動には常に翼竜を使っている。費用はかかるが、Aランクの指名依頼となれば、それ以上の報酬を得られる。翼竜のレンタル費用をケチるくらいなら依頼の数を増やせば良い。短期間で終わらせれば、次の依頼が待っている状態だ。余裕でそれが出来るくらいの人気者にポラリスはなった。

「盗賊討伐? それは王国軍の仕事ではないかな?」

 盗賊討伐。人族の犯罪者の逮捕や捕獲、殺害は軍の仕事。勇者ギルドが受ける仕事ではないはずなのだ。セーヴィングはそれを知っている。

「通常はそうなのだけど、今は手が回らないらしいの」

「王国の治安はそこまで悪化しているのか。そうだとしても……いや、ギルドが受けた依頼なのだから問題ないか」

 勇者ギルドが受けるべきではない依頼であれば、そもそも受付の段階ではねられる。指名依頼として自分たちのところに届いたということは、ギルドとして受けても問題ない依頼と判断したということだ。

「人々が苦しんでいるのをギルドとしても見逃せなかったのではないかしら? だって勇者は人を救う存在ですもの」

「盗賊退治が勇者の仕事かは微妙だけど……人を助けるという点ではそうだね?」

「不安があるとすれば、初めて……その……」

「人族を殺すことになる? 気持ちはは分かるよ。でも大丈夫。私たちがいるから」

 騎士の家で生まれ育ったセーヴィングは人を殺すことも学んでいる。初陣で人殺しを躊躇って戦死、なんてことは避けなければならない。全ての騎士家というわけではないが、ある程度の年齢になったところで人殺しを経験させるのだ。死罪が決まっている罪人であったり、今回の依頼のように盗賊退治の中で。戦闘には参加せず、とどめを指すことだけをさせられるのだ。

「そうね。それに相手は罪のない人たちを苦しめている悪人。殺すことを躊躇う相手ではないわ」

「まあ、最初だからあまり気持ちを入れずに。気負い過ぎるのは良くないからね」

 最初の人殺しがトラウマとなって戦えなくなる人もいる。騎士家となると滅多にいるものではないが、心に傷を負ったまま戦うことになる人はそれほど珍しくない。セーヴィングはこういうことも学んでいるのだ。

「ありがとう。そうね。少し気負ってしまっているのかもしれないわ」

「どうだろう。この仕事が終わったら、少し休みを取らないか? たまには息抜きも必要だと思う」

「そうしたいわ……でも、指名依頼が貯まっているから。いくつか終わらせてからでないと無理ね?」

 これが終われば、またすぐに次の依頼が待っている。これほどの依頼を、これまで誰が引き受けていたのかと疑問に思うくらいの数だ。

「少し耳に挟んだくらいだが、あちこち騒がしいようだ」

「騒がしいって、何が?」

 勇者候補の間で流れている噂を聞き集めるのはフェザントの役目。それなりの経験があり、顔が広い彼はポラリスの中で、自然とこの役割を果たすようになっていた。

「魔獣や妖魔の動きが活発化しているそうだ。魔人族が活動を始めたなんて話もある」

「それって……魔王が復活するってこと?」

「そう決まったわけじゃない。ただ、その可能性が高まったとされているのは間違いないだろうな」

 魔王がどのような形で復活するのか。それは誰も分かっていない。二百年前の魔王が復活するのか、新たな魔王が立つのかも明らかになっていない。そもそも魔王の復活はあるのかも、誰もが知る証拠があるわけではないのだ。
 二百年前の人魔大戦について、伝わっている情報は極一部。それも嘘も混じった情報だ。魔王について分かっている者がいるとすれば、その嘘を知っている人物なのだ。

「……もしかしたら残された時間は少ないのかもしれないのね?」

「お前が勇者に拘っているのは知っている。だが、焦るな。俺たちはまだSランクにもなっていない。まだ、あまたいる勇者候補の一人でしかないのだ」

「そうね……分かっているわ」

 フェザントの思いとは真逆に、カテリナの心に沸いた焦りは強くなってしまう。まだSランクにもなっていない。それで勇者に選ばれるはずがない。魔法の復活が近いのであれば、急いでSランクに昇格しなければならない。こう考えてしまうのだ。
 魔王について、勇者についても知られている情報が少なすぎる。それがこういう思いを生み出してしまう。これは人魔大戦終結後に人族至上主義的な考えが施政者の中で広がった結果。本気で勇者を目指している人たちにとっては残酷なことだ。

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