月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第31話 妖魔にも暮らしがあった

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 地中とは思えない明るさ、広大な空間。妖魔の気配を察知して、ここまで追いかけてきたアークだったが、目の前に広がる光景に驚き、足を止めてしまった。追っていた妖魔の姿も光に照らされて、はっきりと見える。
 ゴブリンだ、ただ、そのゴブリンは馬ではない何かに乗っていた。それがまたアークを驚かせる。ゴブリンとは何度も戦ったことがあるが、自分の足以外で移動する様子は初めて目にしたのだ。

「……あれって?」

 近づいてきたホープに疑問を向けてみる。聞きたいことはいくつもあるが、まずは生き物に乗って駆け去っていくゴブリンからだ。

「多分、土竜(もぐら)だな」

「土竜? 土竜ってあんなに大きくなるのですか?」

 ゴブリンは人族に比べれば小柄だ。ただ小柄といっても背が低いだけ。横幅は広く、がっしりした体格だ。アークの知る土竜に乗れる体格ではない。乗られた土竜が潰れてしまう。

「土竜といってもあれは魔獣。通称としてそう呼ばれているだけだ」

「ああ……ですよね?」

「正式にはなんだったかな? 地中に潜っているだけ。洞窟ではたまに見かけるが人を襲う魔獣ではないので、討伐依頼もない」

 見かけても「ああ、土竜だ」で終わる。依頼書にも乗らないので、正式名称は記憶に残っていなかった。一度も聞いたことも目にしたことないのかもしれないが、それもホープは分からない。そういう魔獣は他にもいる。大きさが異常に大きいだけで、性質は普通の姿形が似た獣と変わらない魔獣は大抵そうだ。

「この光は何ですか? 上に穴でも開いているのでしょうか?」

「魔光石を知らないのか? ああ、そうか。お前のランクではまだ見ることはないかもしれないな」

「まこうせき?」

「魔法の魔に光る石。そのまま魔力を宿していて光る石だ。洞窟では良く見かける珍しくもない石だ。ただ、この一カ所に集めたのはゴブリンの仕業だろうな」

 地中深くに普通に埋まっている石。かつては人族も灯りとして使っていた。だが魔光石は、魔力が枯れない限り、ずっと光っている。灯りを点けたり消したり出来る魔道具のほうが便利なので置き換わったのだ。

「……そして、あれがゴブリンの村ですか」

「不用意に近づくな。敵と認識されて攻撃される」

「……ゴブリンって見逃すこともあるのですか?」

 魔獣や妖魔は本能で人を襲う。そうアークは教わっていた。敵と認識されなければ襲われないというホープの説明は意外だった。

「お前、本当に無知だな? 妖魔だって考える頭がある。基本、人を襲う妖魔だが、絶対に勝てない相手に挑むほど愚かじゃない。それはただの自殺だろ?」

「確かに……」

 妖魔の実態を知らない。これはアークの経験不足、勉強不足のせいだ。だがアークのランクではあまり必要のない知識であり、得られない経験。知らなくてもおかしくはない。今のランクでこんな洞窟奥深く、ゴブリンの住処まで来ていることがおかしいのだ。

「……かなり荒れているな。さてはオークに襲われたか」

「ええっ!? あっ……えっと……妖魔同士で争いを?」

 ゴブリンの村をオークが襲う。これもアークが知らなかった事実。さすがに知らないことばかりで、アークも恥ずかしくなった。

「弱肉強食の世界だ。俺の知る限りだが、よほど広大なダンジョンでない限り、ひとつの妖魔に占拠されている。勢力争いに勝ったのが、そこを自分たちの物にしたのだろうな」

「この洞窟にはゴブリンもオークもいます。ここは大きなほうなのですか?」

 そうであれば調査に何か月かかることか。アークは不安になった。

「大きさはまだ分からない。だが……これまでは上手くバランスが取れていたのじゃないか? だがゴブリンの側は統率者を失って力を失った。その結果、オークのほうが優位になったと考えられる」

 オークにゴブリンの村が襲われた。この推測が事実であれば、完全に住み分けが出来ない広さということになる。接触しないではいられない程度の広さだ。それでオークもゴブリンもいる。その理由をホープは考えた。

「……えっ? 俺のせい?」

 アークが倒したゴブリンロードが村の支配者だったと考えるのが普通だ。倒したのはゴブリンロードだけではない。この村で上位の戦闘力を持っていたであろうゴブリンも多数討った。その結果、オークの襲撃に抗う力をゴブリンの村は失った。つまり、オークに襲われるようになったのはアークのせいだ。

「そうなのだろうな。ゴブリンにとっては試練だな。繁殖力の強いゴブリンはすぐに数は増える。それとオークの襲撃で失われる命のどちらが多いか」

「……なんだか、凄く悪いことをしたような気になります」

「それは違う。お前が殺したゴブリンは俺たちを殺そうとしていたゴブリンだ。つまり悪いゴブリン。罪を犯そうとしている者を討つのは人族相手でも間違いではない」

「でも、そうではないゴブリン、妖魔は殺してはいけない?」

 ホープの言い方だとこういうことになる。妖魔は討伐対象。だが、全ての妖魔が討伐対象なわけではない。この考え方もアークは初めて聞いた。

「人を襲った熊がいるからといって、絶滅させるか? 常時依頼での討伐も素材を得る為。我々が生きるに必要なものを、必要な数だけ貰っているのだ」

 常時討伐依頼では討伐数に制限がかけられている。それは妖魔を絶滅に追いやらないため、繁殖数を超えるような乱獲を行って、絶滅させない為だ。ダンジョンなどでの討伐が勇者ギルドによって独占されているのも、討伐数をきちんと管理する為なのだ。

「……なんか……依頼を受けるのを躊躇いそう」

 妖魔は問答無用に殺して良い相手ではない。ある意味、守らなければならない相手だ。それを知ってしまうと討伐依頼を躊躇う気持ちが湧いてくる。アークがミラに視線を向けると、彼女も難しそうな顔をしていたので同じ気持ちなのだと思った。

「俺も初めてゴブリンの住処を見た時は同じように感じた。ここからでは良く見えないが、あの中には子供もいるはずだ。まあ、ゴブリンなので可愛いとは言いづらいが、子供は子供だ」

「ですよね……」

「だがなアーク。さっきも言ったように悪い妖魔は討たなければならない。討伐依頼が来るということは、その討伐対象は人に何らかの危害を加えたということだ。殺すことを躊躇う必要はない」

 勇者候補が魔獣や妖魔を殺すのは勇者ギルドの仕事の中でのみ。依頼を引き受けてもいないのに討伐を行うことは禁じられている。大切な資源を守る為と多くは思っている。ギルドもそれを否定しない。だが、本当の理由は意味なく生き物を殺してはならない。この常識を守ることなのだ。

「それは分かります。ですが、この村のゴブリンはADUの策略に利用されて、それで襲ってきたのですよね?」

「……そうか。そうだったな」

 ゴブリンの意思で洞窟を出て、襲ってきたのではない。そんなゴブリンたちを殺すことに正当性はあるのか。

「降りかかる火の粉は払わなければなりません。だがら殺したことを間違いだとは思いません。でも……彼らは被害者です」

「そうだな」

 妖魔を殺すことを躊躇う。この気持ちはアークにはないようだ。ホープとしては一安心。これが原因で勇者候補の仕事が嫌になって辞められては大問題になる。

「お取込み中、申し訳ありません。右後方から敵です」

 シェイドが敵の存在を教えてきた。右後方。アークたちが進んできたのとは異なる方向だ。この村に繋がる洞窟はいくつかあるようだ。

「……あれは討っても良いですよね?」

「もちろんだ」

「では、行きます!」

 アークが「行きます」の声を言い終えた時には、ミラの魔法が彼の体を包んでいた。一気に加速。アークたちの存在に気が付いて、向き先を変えたオークとの間合いを一気に詰めていく。
 数は三体。後続の姿は見えない。装備だけで判断すれば、ノーマルなオークだ。

「……ずいぶんと過保護ですね?」

 アーク一人で問題はない。後続が現れない限り、危険はない。シェイドはこう考えている。

「一人で戦わせている俺のどこが?」

「妖魔についての説明です。俺は自分で乗り越えましたけど?」

 探知探査魔法を得意とするシェイドは速い段階でダンジョン調査依頼を行うことになった。アークと同じで、妖魔の暮らしの真実を知り、それなりに動揺した。自分なりに勇者候補を続けるに足る、納得の理由を考え、今があるのだ。人に教わった理由ではなく、自分で考えた理由だ。

「乗り越えられない者もいる。最悪の形で」

「……確かに……彼が殺しに快感を覚えるようになったら最悪ですね?」

 勇者候補からの離脱理由にはもう一つある。力に奢り、力に溺れ、道を逸れる者たちだ。勇者ギルドに関係なく、魔獣や妖魔を狩り、素材を売って儲ける闇採取人になる程度はまだ良いほうだ。金の為であれば人でも殺す。裏依頼で金を稼ぐ道に堕ちる者もいる。

「あいつ等には真っすぐに前に進んでもらいたい。壁にぶち当たっても正面から突破して欲しい」

「やっぱり、過保護ですね?」

 ホープはアークとミラに期待している。彼がここまで目を掛ける勇者候補をシェイドは知らない。二人を少し羨ましく思う。だが、仕方ないとも思う。シェイドから見ても二人は特別だ。ホープと同じように真っすぐに昇って行って欲しいと思う。
 そう思わせる二人だ。この後すぐ、そうであることを再認識することになる――

「……えっと……これはどうすれば良いのでしょう?」

 オークを倒した後、ゴブリンが現れた。土竜に乗ったゴブリンだ。すぐに戦闘体勢に戻ったアークだが、どう見てもゴブリンの側に戦意はない。アークの近くまで来ると土竜から飛び降り、地面に這いつくばった。這いつくばった姿勢で箱を差し出してきた。

「オークを倒した御礼ではないかな? 俺が参加した依頼でも一度だけ同じことがあった」

「御礼ですか……でも、これを受け取ったら、すっと守ってやらなくてはならないのでは?」

「いや、それはアークの自由だと思うけど……そう思うのか」

 ゴブリンに対してアークは公平な取引をしようとしている。こうシェイドは思った。貰うだけ貰ってあとは知らない、なんて真似も余裕で可能なのだ。だがアークはそれをまったく考えていないようだ。

「じゃあ、私たちもお返しをするのは?」

 そしてそれはミラも同じ。ゴブリンが差し出した御礼を過剰だと考え、お返しをすることで釣り合わせようと考えた。

「お返し?」

「食料をあげるの。あの様子だと食べるものにも困ってそうでしょ? どんなお宝でも釣り合わないかな?」

「ああ、そうかも。でも、食料……あとで買い取るからということで?」

 渡そうとしている食料は勇者ギルドが用意したもの。アーク個人のものではない。ミラの提案には賛成のアークだが、二人で決めて良いことではない。

「お前ら……なんてことを思いつくんだ?」

「駄目ですか?」

「任務は始まったばかりだからな……」

 この先、どれくらいの期間、洞窟に潜り続けるのか、まだまったく見積れていない。この状況で用意してもらった食料を減らすことは。ホープとしては躊躇われる。二人の発想は面白いとは思っているのだ、だがホープには今回のパーティーのリーダーとして依頼を成功させる責任がある。

「何回かに分けて、少しずつ渡すのはどうですか?」

「ルミナス、お前は賛成なのか?」

 生真面目な性格なはずのルミナスが、ここでアークたちの後押しをするとは思わなかった。

「きちんと確かめたわけではありませんが、あの御礼の品。食料と交換なら、かなりお得ではないですか?」

 ゴブリンがアークに渡そうとしている御礼。それにはかなりの価値があるとルミナスは見ていた。

「……そういうことか……分かった。アーク、受け取れ。食料は運んでくる……大丈夫だな。ここで待っていろ」

 ルミナスの提案には一理ある。食料は勇者ギルドに追加を頼めば良い。ルミナスが何回かに分けてと言ってきたのはそれを考えてのことだとホープは理解した。

「分かりました……じゃあ、これはありがたく。どうもありがとう」

「ぶるるるるる♪」

「言葉が分からない。言葉かも分からないけど……まあ、良いか」

 ゴブリンは体を起こして、嬉しそうかは分からないが、アークを見ている。敵意はまったく感じない。体を起こしたのは御礼を受け取ったことで安心したのだとアークは考えた。
 アークも、さらに警戒を解く為に地面に座る。ミラは、少し後ろで、同じように地面に座った。何かあってもクッキーがいる。素早いクッキーであれば、すぐに反応出来ると信じているのだ。
 こんな感じで洞窟調査は始まり、そして終わった。

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