
カテリナたちポラリスのメンバーは交流戦が終わった後も、王都とグレンオードを何度も行き来している。交流戦での活躍によって、ある点では、カテリナが願っていた通りの効果がもたらされたのだ。注目を集め、名を売るという点だ。
輝くばかりの美貌の、稀有な光属性を持つ勇者候補。カテリナは人気を集めるのに十分な資質を持っている。外見だけでも、男性の人気だけであれば、集めることが出来るだろう。
王都に暮らす貴族、富豪たちから屋敷に招かれることになり、何度も王都までを往復することになったのだ。
「……これ、続ける意味があるのか?」
フェザントは今の状況に不満を持っている。貴族や富豪からの招待に応じるのは依頼ではない。勇者ギルドの仕事ではないので、移動は自腹。自腹はまだ許せるのだが、勇者ギルドの馬車も使えず、乗り合い馬車を使うことになるので往復するだけで十日はかかる。その間、依頼を引き受けられない。満足出来る鍛錬も出来ない。これが彼は不満なのだ。
「意味はあるわ。招待してくれる彼らが私たちのお客になる。指名依頼が増えることになるわ」
カテリナはただ人気者になりたいわけではない。その先に指名依頼の増加を期待している。指名依頼は報酬が高い。通常依頼を引き受けるよりも効率的に稼げる。さらに信頼出来る人物が顧客になってくれれば、依頼の不確定要素も減る。簡単な依頼だと思っていたのに、とんでもなく強い妖魔が現れた、なんてアークたちが何度も経験しているようなことがなくなるのだ。
「そうだと良いが……もう少し上手く日程を調整出来ないのか?」
カテリナの話を聞いても、やはり移動の時間が無駄だとフェザントは思う。一度にまとめて複数個所を訪問すれば良いと考えているのだ。
「それは私たちで決められることではないから」
カテリナも同じ思いは持っている。だが相手は貴族や富豪。訪問日程はカテリナの都合で決められるものではない。相手が何時何時に来てくれ、と言ってくれば、そに応じるしかないのだ。
さらにカテリナたちを屋敷に招待した人の話を聞いて、では自分もと思う人も多い。そうなると予定の間隔は空いてしまう。
「いっそのこと、カテリナだけで招待を受けるのはどうだ?」
相手のお目当てはカテリナ。同行してもフェザントに興味を持って、積極的に話しかけてくる人などいない。いてもいなくても良いのであれば、それこそ全てが無駄。フェザントはこう考えた。
「それは駄目よ。私たちはパーティー。私たちの力を認めてもらわないと」
自分一人で招待に応じる。カテリナはそれを望まない。それをすれば勇者候補のパーティーではなく、女性であるカテリナへの招待ということになる。彼女は自分の外見が相手の下心を刺激すること知っている。それを利用する時もあるが、彼女は女性ではなく勇者候補、将来の勇者として人々に見られたいのだ。美貌を利用するのもその目的の為だけだ。
「食事会に参加するだけで実力を認められるのか?」
「フェザント。もうよそう。不満があるのは分かるけど、カテリナだって皆のことを考えて行動している。協力するべきだ」
セーヴィングがフェザントにこれ以上、文句を言わないように注意してきた。いくつか問題があることはセーヴィングも分かっている。だが意見対立が激しくなってパーティーの雰囲気が悪くなるのは避けなければならない。また誰かが離脱するなんてことはあってはならないと思っているのだ。
「分かっている。分かっているが……どうしても焦りが消えない」
「一時のことだよ。ひと月、ふた月、我慢すれば訪問の頻度は減るだろう。あとは指名依頼を貰って、それを達成した時に挨拶に行くくらいだ」
「そうではない。俺が焦っているのは……いや、良い」
フェザントが焦る理由は、王都への往復で時間を取られていることそのものではない。それによって生まれる問題だ。だがそれを話すことを彼は躊躇った。話したからといって何か変わるわけではない。別の意味で雰囲気が悪くなるだけだと考えたのだ。
「フェザント。気になることがあるのなら、話して欲しいわ。皆で考えれば解決できるかもしれない」
カテリナはフェザントの焦りの原因を理解していない。理解していないから、こんなことが言えるのだ。
「いや、そういう問題ではないから」
「私たちは仲間じゃないの。問題を一人で抱え込む必要はないわ」
「そうだよ。問題があるなら共有して、皆で解決策を考えるべきだ」
セーヴィングも分かっていない。彼の場合は別に問題を抱えてしまったので、そのほうが気になっているのだ。問題の出所は同じだが。
「……ブレイブハートはまた指名依頼を受ける」
「ブレイブハート?」
フェザントはアークの名を口にすることを躊躇って、あえてパーティー名で話した。だが残念ながら、セーヴィングはアークたちのパーティー名を知らなかった。彼は自ら何かを調べようとしない。性格もあるが、フェザントやピジョンが情報をもたらしてくれるので、自ら動く必要性を感じないのだ。
「……アークたちだ」
「…………」
「ホープ殿の他にAランク勇者候補が二人。五人で指名依頼を受ける。まず間違いない情報だ」
指名依頼の内容、そもそも有無も公表はされない。だが、Sランク勇者候補のホープが動くとなれば、自然と情報は漏れるものだ。ホープが依頼を受ける時点で、それはもう指名依頼。あとは誰と話をしているかで他の参加者もおおよそ分かる。ソロで活動しているホープの問題点だ。もっとも、内容さえ漏れなければ勇者ギルドとしても問題ないので、特に対処することもない。
「どのような内容なのですか?」
依頼内容を尋ねるカテリナは指名依頼について詳しく知らない。受けたことがないので仕方がない。
「そこまで分かるはずがない。指名依頼の内容は極秘扱いだ」
「……そうですか」
足手まといだと考えて追い出したアークが、Sランク勇者候補と指名依頼を引き受ける。追い出すと決めたのはカテリナだ。それも事前に相談することなく。彼女としては、アークについては話題にしたくない。交流戦での結果もほぼ無視してきた。
だが、パーティーランクこそ下だが、アークたちは自分たちの先を行っている。これについては無視出来ない。
「何て言うか……今の状況は足踏みしているように俺には思えてしまう。ただ実際はそうじゃないってのは話を聞いて分かった。だからもう良い」
こんな雰囲気になるのは分かっていた。だから最初話すことを躊躇ったのだ。カテリナとセーヴィングに、見当違いな考えで、説明を求められて仕方なく話したが、結果は予想通り。そうであれば、さっさと話を切り上げるしかない。
「……アレは……彼女の魔法が優れているのですか?」
だがカテリナは話を終わらせようとしない。避けていた話題だが、始まってしまったからには聞きたかったことを聞いてしまおうと考えたのだ。
「分からない。分からないが、俺が知る限り、身体強化魔法の効果に強弱はない。誰が使おうが結果は変わらないという認識だ」
効果の強弱はかけられた側の魔力量と属性の相性による。速度強化魔法のさらに上、ハイ速度強化魔法なんてものはないとされている。少なくとも魔力があれば誰でも使えるという魔法にはない。
「つまり……アークの力が優れているとフェザントは考えているのですね?」
「元々、剣技に関しては、あいつは俺よりも上だ。それは皆、分かっていたはずだ」
他の勇者候補たちと違って同じパーティーにいたフェザントはアークの剣技が優れていることを知っていた。魔法が使えないからまったく戦力にならないという周囲とは、少しだけだが違う考えを持っていた。といっても高い評価ではなく、Bランク以上は無理だと思っていたが。
「……そうね」
フェザントの言う通りだ。アークの技術はパーティーの中で一番だった。きちんと剣術を学んでいないカテリナにはどれほどのものかは分からなかったが、自分よりも上であることだけは分かっていた。
だがそれは素の状態の場合。魔法を使える実戦となれば結果は異なると考えていた。アークに対して、誰もが思うことだ。
「でも彼は、まだBランクだ。Bランク程度の実力ということではないかな?」
セーヴィングはアークと一緒に戦ったことがない。彼の実力を知らない。交流戦は見ていたが、それだけでアークを認めたくない。アークを追い出してパーティーに加わった身だ。実はアークのほうが優れていましたなんて思われたくないのだ。
「考えたのだが、あいつがBランクなのはAランクになる準備が出来ていないからではないか?」
フェザントはアークについて考えていた。それほど交流戦の結果は衝撃的だった。考える時間も充分以上にあった。馬車で移動中は仲間と会話するか寝るか、考えるくらいしか出来ない。王都に行くことが何度も続けば話す話題もなくなる。そうなると寝るか考えるしかないのだ。
「準備って……?」
「仲間を増やそうとしているのかもしれない。装備も整えておいたほうが良いことも俺たちは知った。他にもAランクになって初めて気づいたことはあったはずだ」
「それは……」
セーヴィングはそれを怠った。怠った結果、仲間を失った。ポラリスに加わってから、その自分の経験を仲間に伝えてきたつもりだった。それでもAランクになって、依頼を引き受けて、まだ足りなかったと思う点があった。特別何っていうものは少ない。もっと体力を鍛えておくべきだった。パーティーの連携を強めておくべきだったなのだ。
「別に俺と同じようにお前たちを焦らせたいわけではないが……もし俺が思う通りだとすれば、Aランクになってからのあいつ等は速いかもしれない」
Aランクパーティーとして働くのに必要ものを整えてから上がってくれば。足踏みすることは少なくなるはずだ。そうなれば後は依頼の数をこなすだけ。依頼達成のポイントを貯めていくだけになる。アークたちは自分たちを追い抜いて行くかもしれない。これがフェザントが焦る理由だ。
「Aランクはそんな簡単ではないよ。私たちはそれを知っている。彼らにとってもそうだ」
あくまでもセーヴィングはアークの実力を認めようとしない。ただこの言葉は、その感情だけで出たものではない。実際にAランクは厳しい。Aランクで消えていく勇者候補は、Cマイナスランクの駆け出し勇者候補の次に多いのだ。依頼に失敗して命を落とす勇者候補や実力のなさを思い知って諦めてしまう勇者候補。レベルは段違いなのだが理由は駆け出しと同じだ。
「……そうだな。そうだと思う」
Aランクの上はもうSランク。本当にAランク依頼を次々とこなしていける準備が出来ているのであれば、Sランク勇者候補になるということだ。それはさすがにあり得ない。ハイランド王国支店ではホープただ一人。他の支店でも同じようなもののはず。Sランク勇者候補というのは特別な存在で、簡単になれるものではないのだ。
「……仲間になる人はいるのかしら?」
「それは……簡単ではないだろうな」
同じBランクではパーティーから抜ける勇者候補は比較的少ない。という理由だけではない。ミラの悪評がある。アークについても元々の評価はかなり低い。自ら加わろうと思う勇者候補がいるとは思えない。
「そうね。彼女がいるものね?」
「ま、まあ……」
アークを話題にしたのは、やはり間違いだった。適当に誤魔化して話を終わらせるべきだった。そもそも文句を言わなければ良かった。フェザントはこう思った。カテリナはなにやら良からぬことを考えているのではないか。彼女の様子はそう思わせるものなのだ。
勇者になる。この目標に対してカテリナは貪欲だ。パーティーを一緒に立ち上げたアークをあっさりと切り捨てたのも、彼女の「絶対に勇者になる」という強い想いからの行動なのだ。そして恐らく、さらにパーティーを強くする為であれば彼女は今いるメンバーも切り捨てるだろう。フェザントはこう思っている。
まだまだ足りない点は多くあると思っているが、それでもポラリスは強い。Sランク勇者候補も夢ではないと思うくらいに強い。だからフェザントは不満を抱きながらもこのパーティーに居続けている。このメンバーで頂点を目指そうと考えている。懸念があるとすれば、このカテリナの性格。普段の会話では「仲間」という言葉を頻繁に使い、共に成し遂げようという姿勢を見せるカテリナだが、それは建前だとフェザントは思っている。彼女の本音は自分が頂点に立つこと。他のメンバーはそれを実現する為に必要な道具だ。誰でも良いのだ。
このカテリナの独善的な考えがこの先、問題にならないか。フェザントは改めて、不安を感じた。