月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第27話 仲間が増えました

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 予定外だった対戦を終えたアークとミラは、とっとと会場を出た。アーク自身も予想外の楽勝。さすがにちょっとやり過ぎたと思ったのだ。自分がウィザム将爵家の人間であることを、あの場で明らかにされるのを避けたいとも思った。ウィザム将爵家の人間であることを知られるのは、アークにとっては、面倒なこと。幼い頃からその生まれのせいで好奇の目で見られることが多かった。周囲の視線が煩わしかった。
 勇者ギルドは素性を詮索しない。魔法が使えないことでは辛い目に遭ったが、それ以外はずっと気が楽だった。ウィザム将爵家の生まれなのに、なんて言ってくる者はいない。自分がいないところでは陰口を叩いているくせに、目の前では卑屈になる裏表のある者もいない。カテリナはそうだったかもしれないが、アークはそれに気付いていなかった。
 面倒ごとにならない為にはさっさと会場を去って、グレンオードに帰ること。だが、その前にやるべきことがあった。買い物だ。

「この辺りのはずだけど……」

 商店が集まっている地区を訪れたアークたち、王都育ちのアークにとっては勝手知ったる、ではない。彼が生まれ育ったのは城壁の内側にある屋敷。ウィザム将爵家の屋敷は初代の勇者ウィザムへの敬意と、有事にすぐに対応出来るようにという実務的な理由で城のすぐ近く、城壁の内側にあるのだ。
 城壁内で育ったアークは王都のことを実は良く知らない。将爵という特殊な爵位とはいえ、貴族であることに違いはない。気軽に外を出歩くことは許されず、当然、自らの買い物に行くことなど、まだ若かったという理由もあるが、なかったのだ。

「あっ、あそこじゃない?」

「おお! 本当だ」

 商店街を探していたアークたち。それは突然、目の前に現れた。いきなり多くの看板が並ぶ通りが現れたのだ。王都は大抵こんな感じだ。飲み屋だらけの飲み屋街、大人が遊ぶ店が立ち並ぶ歓楽街といった風に、売り物やサービスが同じ店が一カ所に集中しているのだ。目の前の商店街も良く見れば、売っている物によって、さらにエリアが分かれている。武具を買おうと思えば武具屋が並んでいるエリアに行く。そこに全てが揃っているのだ。

「……従魔獣はどこで売っているのだろう?」

「従魔獣屋でしょう?」

「だから、それどれだよ? 聞いてみるしかないか」

 従魔獣屋の看板が見当たらない。そもそもどういう看板かも知らない。武具屋の剣と盾という分かりやすい看板とは違うだろうとも思う。

「……すみません。従魔獣ってどこで売っていますか?」

「従魔獣? まさか、小僧が買うのか?」

「……そうですけど?」

 いきなり小僧呼ばわり。ちょっとイラついたアークだが、ここは我慢した。場所を教えてもらう前に喧嘩するわけにはいかない。そもそも、こんなことで喧嘩しているほど暇ではない。勇者ギルドの馬車の出発時間までに買い物を終わらせなければならないのだ。

「若いのに稼いでいるのか……従魔獣屋は町中にはない。東門を出たところだ。東門はこの通りを真っすぐ進んだところ。門番に聞けば場所を教えてくれる。聞かなくても分かるけどな」

「ありがとうございます」

 小僧呼ばわりの男だったが、親切に場所を教えてくれた。つまり、自分は悪意のない人から見ても小僧なのか。こんな風に思って、内心では少し落ち込んでいるアーク。だがそれも短い間だ。

「はあ……」

 従魔獣屋はすぐに見つかった。東門を出てすぐにところに大きなテントが張られていて、そこが店だった。テントは外から見るよりも大きく感じられ、いくつもの檻が並んでいる。檻の外で繋がれている魔獣もいる。もっとも目立つのは中央付近にいる翼竜。翼竜まで売っているとは、特に理由はないが、アークは思っていなかった。

「凄いね?」

「まあ、こうなるよな。でも、凄いな」

 魔獣は種類にもよるが大きい。何頭も揃えれば、売り場はかなりの大きさが必要になるに決まっている。考えれば分かることだが、それでも多くの様々な魔獣が居並ぶ光景は壮観だった。

「魔獣を求めているのか?」

「あっ、そうです」

 周囲を落ち着かない様子で眺めていたアークたちに、店員らしき無愛想な男が話しかけてきた。

「用途と予算は?」

「えっと……戦闘時の役に立つ魔獣を……いくらくらいですか? 相場を知らなくて」

「戦闘時……お前ら、勇者候補なのか?」

 無愛想で無表情だった男の顔に初めて表情が現れた。二人が勇者候補であることに驚いたのだ。正確には、どう見ても若い二人が従魔獣を買えるほど稼いでいる勇者候補であることに驚いたのだ。

「そうです。彼女が後衛で俺が前衛。後衛の彼女を守ってくれる魔獣を探しています」

「……ランクは?」

 さらにアークの話では二人だけのパーティー。これにも内心で驚いているが表情には出なかった。

「Bランクです」

「……最低でも五千ギル、五キンだな」

「ご、五キン……従魔獣って、そんな高いのですか?」

 想定外の高さ。それなりに貯金してきたつもりが、完全な予算オーバーだった。

「もっと安いのもいる。だがBランクだろ? 最低でもオーク、もっと強い妖魔が相手だ。安いマーダーウルフあたりでは、守るどころか一撃でやられる。買うだけ無駄だ」

「……そうですか」

 Bランクでこの値段では、Aランクになった時はどんな値段になるのか。確かに店員の言う通り、討伐対象よりも強い従魔獣でなければ買う意味がない。従魔獣の購入は諦めるべきかもしれない。アークはこう思った。

「ねえ、この魔獣、可愛いね?」

「はっ?」

 ミラはアークの落ち込みをよそに檻の中にいる子供と思われる小さな魔獣と嬉しそうに戯れていた。

「おい!?」

「えっ!? あっ、ごめんなさい!」

 結果、店員に怒鳴られることになる。

「……怪我しなかったのか?」

「怪我ですか? あっ、私の心配をしてくれたのですね? 大丈夫です。指を舐められていただけです。可愛いですね? この魔獣」

 店員が怒鳴ったのは自分が魔獣に傷つけられないように。ぶっきらぼうだが根は優しい人なのだとミラは思った。少し緊張が緩んで、遊んでいた魔獣を褒める言葉を店員に向けてみる。

「……そうか」

 だが、店員は何とも言えない表情だ。

「……この魔獣、どれくらいで大きくなるのですか?」

 アークもミラの真似をして、檻の前でしゃがんで魔獣に向かって指を伸ばしている。近づいてきてその指を舐め始める魔獣。何の魔獣か分かっていないが、二人は猫とじゃれているような気分なのだ。

「……すぐに大きくなる。気に入ったのであれば、それにするか? それなら二千五百ギルで良い」

「半分? それって訳アリでは?」

「訳アリだ。人に懐かなくてな。売りたくても売れなかった。だが、お前らは大丈夫そうだ。だから特別安値で譲ってやる」

 誰にも懐かない魔獣だった。売り物にならない商品。つまり売れ残りだ。それを店員はアークたちに売ろうとしている。

「……本当にすぐに大きくなるのですか?」

 掘り出し物であれば良い。だがいきなり半値というのは気になる。人に懐かないだけでなく、他に何かあるのではないかとアークは疑っている。

「ああ、嘘は言わない。すぐに大きくなる。それに強い。確実にその子を守ってくれるはずだ」

「……どうする?」

 真剣な表情で掘り出し物であることを説明してくる店員。それだけで信用するのはどうかと思ったが、とりあえずミラの異見も聞いてみようとアークは思った。購入に心が傾いているということだ。

「店員さんがそこまで言うなら。それに可愛いし」

「そうか……じゃあ、これを買います」

 まだ疑いは完全には消えていない。だがミラはかなり気に入った様子。魔獣も良く懐いている。護衛役としては適任だ。本当に強いのであれば、だが。

「契約の魔道具はサービスしてやる」

「……ありがとうございます」

 従魔獣は魔道具で従わせる。その魔道具を店員はサービスしてくれると言う。アークは逆に心配になった。

「これだけ懐いていればいらないと思うが、これをつけていないと従魔獣として認められない。連れ歩けなくなるからな」

「分かりました」

 魔道具がなくても大丈夫だと店員は言ってきた。ますますアークの中で疑いが強まる。いくらなんでも魔道具で従わせないで大丈夫なはずがない。魔獣は魔獣。本能的に人を襲う生き物なのだ。

(……まあ、良いか)

 相変わらずミラは、アークの不安にまったく気づく様子もなく、魔獣と戯れている。実に楽しそうだ。そうであれば、購入で良いとアークは思った。ミラの笑顔を買ったと思えば、安いものだと。

「……えっ?」

 と思った自分にアークは驚いた。

「どうしたの?」

「べ、別に……可愛い魔獣が手に入って良かったな?」

「可愛くて強い魔獣ね。どれくらい大きくなるのかな? このままのほうが可愛いのに」

「それじゃあ、ただの……別に良いけど。次、行くぞ。武器も防具も良いのがあったら買いたいから」

 購入した従魔獣は二千五百ギル。二キンと五百ギルという高額だ。だがまだ蓄えは残っている。ホープに同行した指名依頼の報酬は、二人にとっては、莫大だったのだ。武器と防具は必須ではないが、良いのがあれば買いたいと思っている。次はいつ王都に来るか分からない。少なくともアークには来る気はない。買える物は買っておかなければならない。

「あこぎな商売するな?」

 アークとミラが去った後、従魔獣屋の店員に話しかけてくる男がいた。客だ。ちなみに従魔獣屋の店員は、アークとミラが勝手に店員だと思っていただけで、実際は店主だ。

「冷やかし客が言いがかりをつけるな」

「言いがかりって。あの子たちが買っていた魔獣、もう何年も売れ残っていたじゃないか。小さいままで。それを二千五百ギル? ぼったくりだろ?」

 ずっと小さいままの魔獣。それで戦闘の役に立つはずがない。しかも何年もそのままなのだ。店主がいつもすぐ側に置いているので、常連のこの客は成長しないまま売れ残っていることに気付いていた。常連といっても店主の言う通り、一度も買ったことがない冷やかしだが。

「売れ残ってはいた。だがそれは売れなかっただけだ」

「いや、だから、それがぼったくりだろ?」

「買いたい者がいても売れなかったという意味だ。あれは魔道具なんかでは従わせることが出来ない魔獣なのだ」

 魔獣が自ら主人を選ぶ。主人ではなく友達を選んでいるのかもしれない。そういう高い知性と魔力を有する魔獣なのだ。魔獣が気に入らなくては売れない。買った客が殺されることになる。だから売れ残っていた。

「……そうだとしても」

「すぐに大きくなるも嘘ではない。危険が迫れば、あれは一瞬で大人以上の大きさになる」

「はあ? そんな魔獣……どんな魔獣?」

 自称魔獣マニアのこの客が聞いたこともない魔獣。稀有な魔獣ということだ。つまり高位魔獣。魔獣の中でも特別な魔獣で、その最高位は龍。翼竜とは同じ竜でもまったく別物。人族を超える英知と魔力を有する伝説の存在だ。さすがに龍には遠く及ばないがアークたちが買った魔獣は高位魔獣の一種なのだ。

「どうして俺なんかのところに、あんな魔獣が流れ着いたのかと思っていたが……もしかすると今日の日を待っていたのかもしれないな」

 従魔獣屋の店主は特別な存在ではない。これだけ多くの従魔獣を扱う店主なので、見た目では想像できない富豪ではあるが、それはたんに運が良いのと魔獣を従わせる技が優れているから。従魔獣屋は珍しいが、従魔獣屋の中では特別な存在ではないと本人は思っている。
 そんな自分のところに、どうして高位魔獣がやってきたのか。売れ残りが流れ着いたにすぎない。そうなのだが、何故か魔獣との縁を店主は感じていた。だから何年も売れなくても手元に置いておいたのだ。

「どういうこと?」

「いずれ分かる。俺が思っている通りであればだが」

 魔獣が自分の店にいたのは、あの二人に出会える日を待っていたから。まだ若いがBランク。しかも二人だけのパーティーでBランクだ。それだけで普通ではない。それだけではなくく、二千五百ギルという大金を稼いでいる。それを支払った上で、さらに買い物をする余力がある。
 そんな勇者候補を店主は知らない。従魔獣屋という仕事をしていると高ランク勇者候補がたまに購入しにやってくる。Aランク以上の勇者候補だ。その彼らでも購入するのは移動用の魔獣が限界。それも翼竜レベルは手が出ない。買い手が滅多にいない翼竜を店主が扱っているのは、まず翼竜の値段を知らせることで、それ以下の移動用魔獣を安く思わせる為。商人としての知恵なのだ。

「もったいつけずに教えろよ」

「教えても信じない。それに俺が思う通りになんてならないほうが本当は良いのだ」

 特別な勇者候補が現れた。それが示すのは戦乱の兆し。従魔獣屋の店主はこう思っている。こんな考えは当たらないほうが良い。戦乱は稼ぎ時ではあるが、それも自分には関係のない、ごく一部の地域だけで起きていればの話。大陸全土に戦乱が広がるような事態になれば、商売どころではなくなってしまう。戦乱なんて起きないほうが良いのだ。
 それでも店主は戦乱が巻き起こる可能性を否定出来ない。アークとミラ、そして二人が高位魔獣に出会ったということだけが理由ではない。近頃、魔獣が狂暴化している。従魔獣屋である店主はそれを知っている。二百年前の人魔大戦の時もそうであったということも。

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