月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第20話 デマには気を付けて

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 アークとミラは勇者候補としての活動を再開した。以前と特別変わったところはない。朝から勇者ギルドに行き、引き受けたい依頼を探して、あれば引き受ける。なければ常時依頼を選ぶか、訓練場で鍛錬だ。昼食は勇者ギルドの食堂を利用し、それが終わると鍛錬。こんな毎日だ。かなり難易度の高い依頼を引き受ける自信も出来てきた。それでも二人は焦ることなく、今よりも強くなることを優先している。依頼達成どうこうの前に、まだ出来るようになりたいのに出来ないことがある。それを身につける為の鍛錬に時間を割いているのだ。

「自分でも前より動きは良くなったと思っている」

「そうね。私もそう思う」

 昼食の間はお互いの鍛錬の状況を共有する時間。課題があれば一緒に解決法を考える。そういう時間に、自然に、なっている。

「でも、まだ魔力が……存在は感じられてはいる。でも属性の感覚がない」

 アークの目標はミラの支援魔法の効果を同時に複数得ること。自分の魔力をひとつの属性に染め切ることなく、複数の色を持たせようとしているのだ。それが中々、上手く行かない。自分にも魔力があることは分かった。その存在も徐々に感じ取れるようになっている。だが属性の感覚は未だにまったくだ。風属性と火属性、何が違っているのかが分からない。

「……もっと自分の魔力を感じられるようになることかもね?」

「どういうこと?」

「比較するため。私が魔法をかけた後は、もう一つの属性に染まっているもの。違う属性の魔法をかけても同じ」

 同時に複数属性の魔力がアークの体内にあるわけではない。それでは属性によって違いがあることは分かっても、同時に比較が出来ない。

「俺の魔力だって同じだろ?」

 同時に比較しようと思えば、体内の魔力に複数の属性を持たせなくてはならない。それはもう目標達成。それが出来ないから出来るようになる方法を考えているのだ。

「抵抗することを覚えるの」

「抵抗?」

「私の魔法に抵抗するの。属性に染められないようにすることで、逆に染められる感覚が分かるかもしれないでしょ?」

 ミラの魔法を素直に受け入れる、なんて感覚もないのだが、のではなく抵抗する。属性に染まるのを防ごうとすることで、守れている魔力、染まってしまった魔力の違いが分かるかもしれない。ミラはこう考えたのだ。

「……なんとなく分かったような、分からないような。そもそも抵抗って、どうする?」

「守るものを理解すること。つまり、自分の魔力をもっとはっきりと感じられるようになること」

「そこに戻るのか……鍛錬方法ないのかな? 少しずつ感覚は良くなっているけど、時間の経過を待つだけなのは……」

 自分にも魔力がある。それは分かった。分かった後、徐々に感覚は強くなってきた。特に何もしていない、といっても妖魔と戦い、鍛錬を行っているが、それだけで魔力は感じ取りやすくなった。この先、さらに感覚は強くなるかもしれない。だが、それを待つだけというのはアークはもどかしい。何かしなければいけない、という思いが強いのだ。

「調べてみる」

「ミラは? どうやって身につけた?」

「私は……自然にだから。何かして魔力を感じられるようになったわけじゃないもの」

 この世に生まれ落ちた時から魔力の存在は当たり前に感じていた。あることが普通だったミラには、アークに教えられる経験がないのだ。

「そうか……じゃあ、俺も調べてみる。ミラのほうは?」

「順調……かな? ひとつの魔法であれば動きを操れるようになった」

 ミラが取得しようとしている技術は、身体強化魔法をアークにかけるタイミングを操ること。まずは待たせることだ。魔法がアークに届くのを自分の意思で遅らせられるようにすることで、最高のタイミングで魔法を切り替えられるようになるのだ。

「……早い」

 アークは自分でも無茶な要求だと思っていた。だがミラはその無茶を実現しようとしている。それに驚いた。

「ふふん。天才だからね? それに私の魔法は合っている」

 ミラの身体強化魔法は攻撃魔法のように、はっきりと形作って対象に向かって飛んでいく。だから操りやすいのだ。攻撃魔法を大きく迂回させて対象に向ける、なんてことは上級の魔法士であれば出来る。それと同じだと考えられることも大きい。

「先に行かれているな」

「それで良いでしょ? アークが複数属性を操れるようになれば、そんなに必要なくなる方法だもの」

 二人が鍛錬していることの目的は共通で、身体強化部の切り替えを最高のタイミングで行えるようになること。アークの側でそれが出来るようになれば、ミラは対応する必要がなくなる。あくまでも身体強化魔法に関しては、であって使い道は他にもある。

「それもそうか。ミラが頑張ってくれている分、俺に時間の余裕が生まれるわけだ」

「そういうこと。感謝しなさい」

「感謝している」

 お互いにお互いの足りないところを補えあえる関係。パーティーを組んですぐに二人はこう思った。時間が経過してもその思いは変わらない。

「そういえばホープさんは?」

 ここ数日、ホープの姿を見ていない。以前は陽もないのに毎日顔を出していたというのに。ミラはふと、それを不思議に思った。

「えっ? 聞いていないの? 仕事でまたこの町を離れたらしい」

「酷い。私、聞いていない」

「ああ……俺にも通りすがりに話してきただけだ。それもすぐにまた会えるような感じで」

 アークも改まって話を聞いたわけではない。勇者ギルドでたまたますれ違った時に「ああ、俺、少し出かけるから」と言われただけ。その「少し」がいつになるか分からないことは指導員のドレイクに教えられて知ったのだ。

「大人のくせに照れているの?」

「さあ? 常にこれが永遠の別れかもしれないから、逆にあっさりと別れるようにしているのかもな」

 ホープはパーティーの仲間を全員失っている。それ以外にも亡くなった勇者候補の知り合いはいるだろう。依頼をこなすのは日常。勇者候補はその日常の中で死んでいくのだ。

「あれだね? 苦労するのはランクが低い時だと思っていたけど、実際は逆だね」

 高ランク勇者候補になれば暮らしには苦労しない。だが常にリスクの高い依頼に臨むことになる。常に死と隣り合わせの仕事。だから報酬が高い。リスクと報酬が比例しているという当たり前のことだ。
 だが駆け出し勇者候補の時はそうは思わない。ランクが上がれば楽になるのにと多くの人が考える。

「ランクに見合った強さを持っていなければならない……彼女たちはどうなのだろう?」

「どうだろうね?」

 離れた場所から歓声が聞こえてきた。受付カウンターのところだ。何が起きたのかは歓声だけで分かった。ランクが上がったことを喜ぶ声だ。依頼を終えて受付で手続きをしたことで、加算された達成ポイントによりランクが上がったのだろう。
 いよいよAランクパーティーに。歓声はカテリナたちのものだ。彼女のパーティー、ポラリスはAランクに届いたのだ。

 

 

◆◆◆

 カテリナのパーティー、ポラリスは平均ランクが上がり、Aランクパーティーになった。正確にはAマイナスランク。ただパーティーランクを細かく言う人はいない。ぴったり三段階のどれかになることなど、そう多くないからだ。カテリナたちもそう。今回、達成ポイントの蓄積でカテリナ、フェザント、ピジョンの三人がAマイナスランク勇者候補になった。元々、Aランク勇者候補であった残りの二人との平均でパーティー平均はAマイナスランクの少し上。そんな段階はないので公式には下のAマイナスランクパーティーとなるのだ。
 もっとも、ここから先はマイナス、プラスはあまり意味をなさない。Bクラスから更に危険度の高い依頼になると、危険度を三段階で厳密に分けることは困難になる。信用度が低いと言い換えても良い。Aマイナス依頼のつもりで臨んだものがAプラス級であったなど、Bランク依頼までは事故扱いだったことが、当たり前になるのだ。
 それは討伐対象の強さが個によって異なってくるから。人族がそうであるように妖魔や亜人、は人族が使う差別語だが、にも個体差がある。とんでもなく強い鬼人族もいれば、そうでもない鬼人族、それでも普通の人族とは比べものにならない強さだが、もいるということだ。

「ようやくAランクまで上がったわ」

 念願のAランク、最終目標は勇者だが、に昇格出来て、カテリナも感慨深げだ。ここに来るまで、彼女なりに、苦労してきたつもり。勇者になるなんて思い上がりだったのではないかと考えたこともあるのだ。

「大変なのは、これからです。敵はこれまでとは段違いの強さになります。そうであるのにランクが上がるのは遅い」

 セーヴィングはAランク勇者候補。Aランクに上がった後の苦労を知っている。彼も一人でAランクに昇れたわけではない。仲間がいた。だが一人が依頼で命を落とし、さらにその結果で自信を失った仲間も抜けた。パーティーが崩壊し。途方に暮れていたところにカテリナから誘いを受けたのだ。

「依頼の選別が重要になってきます。ポイントと依頼の危険度は必ずしも一致しません。上手く見極めていかないと」

 もう一人のAランク、オークッドが抜けた後に加わったミレットもまたAランクの厳しさを知っている。セーヴィングと似た経験を持っている。珍しいことではない。二人が珍しいのは、格下のBランクパーティーに加わったという点だ。

「依頼の見極め……これまでとは違うのですか?」

 これまでも依頼は選んできたつもり。だがミレットは改めてそれを言ってきた。何が違うのかAランクになったばかりのカテリナには分からない。

「戦う対象が何か。それによって依頼ランクと実際の危険度の差が違ってくるの。妖魔だと……そうね、リザードマンはゴブリンなどと同じで集団で襲ってくる。でも個々の強さはほとんど変わらないわ。群れの中に一体か二体、リーダーの強い個体がいるくらいね」

 集団で襲ってくる妖魔はほぼ同じような感じ、といっても実際にはかなり差がある。そのリーダーが、ゴブリンであれば、ナイトかジェネラルかロードかで全然違う。ロードの下にはジェネラルもナイトもいる時があるのだ。
 ミレットもこれを知らないわけではない。カテリナたちに説明するのに分かり易くしているだけだ。

「一方でダンジョンにいるミネタウロスは個体によって強さが大きく変わってくるわ。どの妖魔か、数は、群れのリーダーのクラスは。確認出来ることは全て確認して依頼を受けるべきなの」、

 いつの間にか引き継がれるようになったベテラン勇者候補の生き残る為の知恵というものだ。だが、それが本当に生き残る役に立つかは微妙なところ。Aクラスで足踏みすることを良しとし、生きて、出来るだけ多くの金を稼ぐには役立つかもしれない知恵だ。

「……当たり前ですけど、これまで出会ったことのない強敵と戦うのですね?」

「大丈夫だよ、カテリナ。私たちは強い。元々、Aランクパーティーにいた私が言うのだから間違いない」

 以前のパーティーより、今のパーティーは強い。セーヴィングは本気でこう思っている。Aランク依頼の中で生き残る自信を失くし、カテリナの女性としての魅力に負けただけでなく、あえて格下のパーティーをセーヴィングは選んだ。今それは正解だったと思っている。より強い仲間を手に入れることが出来たのだ。

「そうね…・・」

「どうした?」

 カテリナの反応はセーヴィングの思っていたものではなかった。褒められて、もっと喜ぶと思っていたのだ。さらには「セーヴィングのおかげ」という言葉も期待していた。

「……アークが」

 カテリナが上の空に見えたのは、アークを見つけたから。アークとミラに気を取られていたのだ。

「彼のこと、まだ気にしているのかい?」

 セーヴィングとしては気に入らない。自分との会話よりも、無能な元仲間を気にすることなど受け入れられない。

「気にしているわけではなく、久しぶりに見たから」

「……噂では謹慎処分を受けていたらしいよ」

 噂にはなっていない。セーヴィングが今考えた作り話だ。

「謹慎処分なんて、どうして?」

「あれじゃないかな……この間、本部から監察官が来ていた。何か不正を働いて、それがバレたのだね」

「アークがそんな真似を? 信じられないわ」

 アークは悪事を行えるような人間ではない。心優しい、ちょっと気の弱いとろこがある大人しい性格だ。というのはカテリナの知るアーク。祖を隠していたアークだ。

「焦りがあったのではないかな? 間違ってBクラスに上がってしまって、苦しい思いをしていたのかもしれない。いや、もしかするとBランクになったことが不正を行った結果なのかな?」

 それらしい話を続けて作り上げるセーヴィング。カテリナだけでなく、他の仲間も納得してしまうような話だ。Cランク勇者候補だtったアークがBランクに昇格した。それも二人だけのパーティーで。これは異常なことなのだ。
 結果、この場のセーヴィングの作り話は他の勇者候補にも広がることになる。誰もが思っていたのだ。「どうして、あの二人が?」と。Cランクで足踏みしている勇者候補は特に。つまりは嫉妬だ。二人はいつの間にか嫉妬を向けられる存在になっていたのだ。

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