
朝一でその日の依頼を確認。リスクが低い依頼がなければ諦め。鍛錬と勉強でその日を過ごすことにしている。ゴブリン討伐に関しては自信を持ったアークたちだが、オークに対してはまだ不安が残っている。絶対に群れにオークはいない。これが明らかな依頼しか受けていないのだ。まだ戦ったのが普通のオークではなく、上位のオークナイトであることを二人は知らないのだ。
勇者ギルド、そしてホープが教えない限り、二人がその事実を知る機会は一度きり。剣を売る時だ。「オークナイトの剣」と鑑定されるはずで、その名称を知れば、さすがに事実は分かるはずだ。だがそれはずっと先の話。「オークナイトの剣」よりも上級の剣を買う資金をアークは持たない。あっても別の装備を買う。
引き受ける依頼が限られることで稼ぎも限られることになる。次の装備購入もまたもう少し先の話だ。ただ、変わらず暮らしには困っていない。ホープに連れていかれた洞窟でゴブリンを討ちまくった。それはホープが事前に支店長のモードラックに話をして、指名依頼になっていた。アークとミラが洞窟に行くこと事態を拒んだ時の為だ。
結果、指名依頼の報酬をアークとミラは受け取っている。報酬割り増しの指名依頼なので、結構な金額だ。
「詳しいことを説明するつもりはありませんが、とにかく生活費には困っていません」
細かい事情をアークは話すつもりはない。聞いてきたのがかつての仲間、フェザントであっても。彼がカテリナから何か言われて、話しに来たのは明らか。アークとフェザントは世間話をするような間柄ではない。同じパーティーだった時からそうだ。
「……鍛錬ばかりの毎日では貯めていた金も減る一方だろ?」
「知らないと思いますが、俺は節約家なので。フェザントさんとは違います」
「俺だって贅沢はしていない。たまに飲みに行くくらいだ」
「たまに……」
毎日だ。そうであることをアークは知っている。同じパーティーにいた時の話だが、生活が変わっているとは思えない。
「……今、ランクは?」
「どうしてフェザントさんが来たのですか? さりげない演技なんて出来ないでしょ?」
フェザントはさりげなくランクを聞き出そうとしたつもり。だが唐突過ぎる。フェザントが酒を飲みに行く話から、いきなりランクを聞いてきたのだ。そもそもランクは同じパーティーの仲間以外には教えないものだ。調べようと思えば調べられるとしても。
「……仕方ないだろ? カテリナとセーヴィントでは普通に話すこともしない。ピジョンとも実は仲が悪いらしいじゅないか。もう一人はお前と話したこともない。俺しか残らなかった」
フェザントも情報を聞き出しに来たことを認めた。もうバレているのだから、これ以上、隠す意味もない。
「オーキッドさん、抜けたのですか?」
「知らなかったのか? てっきり、お前のところに行くつもりなのだと思っていた」
「まさか」
自分たちのパーティーに加わろうなんて人がいるはずがない。いるとすれば何も知らない新人で、自分と同じ誰にも相手にされない足手まとい扱いの勇者候補くらいだ。アークはこう思っている。
「彼女はお前を買っていた。ずっと自分が守ってくれていたと感謝していたぞ。そのお前がいなくなって、自分が危険になったのが抜けた理由だ」
「四人もいて?」
「役割分担を無視する奴がいるからな。まあ、今はピジョンがお前の代わりをやっている。それでなんとか落ち着いた」
セーヴィントは結局引かなかった。カテリナも当然、下がらない。彼女は自分が主役でなければ駄目なのだ。フェザントは、向かない。適任者はピジョンしかいなかったのだ。不満は持っている。だが勇者候補としての出世だけが彼の人生ではない。他の人に比べれば執着心が薄かった。
「オーキッドさんの代わりなんて、よくすぐに見つかりましたね? もしかして新人ですか?」
勇者候補ランクが上がれば上がるほど魔法士は重要な存在になる。魔法を使う魔人も、当たり前だが、いる。妖魔の中にも弓などを使う者がいて、遠距離攻撃が出来る味方がいないと一方的に攻撃されてしまう。敵の数が多い時も必要だ。近接戦闘になる前に敵の数をどれだけ減らせるか。それで前衛の戦いの様相は全然違ってくるのだ。
そんな魔法士は、ランクが高くなればなるほど味方にしづらくなる。手放そうとするパーティーなどいないのだ。
「いや、セーヴィントの知り合いでAランクだ」
「Aランクの魔法士を引き抜いたのですか? あの人、何なのですか? もしかして王族か何かですか?」
「いや、王国の軍閥貴族の流れだと聞いている。ウィザム家だ。武家の名門だからその伝手だろう」
「そうですか……」
セーヴィントは、ピジョンがウィザム家に仕える世襲騎士家の人間であることを知っているのかとアークは思った。ピジョンは偽名で本名はエラキス=ハルブレア。世襲騎士家としてはハルブレア家も名門だ。本当にセーヴィントがウィザム家の関係者であれば知っているはず。嘘だが。
ウィザム家の人間は親戚も含めてアークは把握している。相手もアークを知っている。セーヴィントはウィザム家の人間ではない。
「それにセーヴィントのコネがなくても我々のパーティーは注目されている」
「Aランクが二人。Bプラスランクが三人のパーティーですからね? もうすぐパーティー平均でもAランク入り。それは注目もされます」
「……お前には悪いが、俺たちはここまで来た。Aランクパーティーは支店全体でも数は少ない。支店のトップパーティーも夢ではなくなった」
アークの当てずっぽうをフェザントは否定しなかった。わざと間違いを無視するなんて真似はフェザントには出来ないので、カテリナのパーティー、ポラリスのメンバーのランクは全て分かった。聞き出したアークとしても、だから何、なのだが。
「支店のトップパーティーですか……何か変わるのですか?」
「ギルド本部に名が知れる。勇者ギルド全体で有名になるということだ。そうなれば支店に関係なく依頼が舞い込むことになる。ハイランド王国だけでなく世界的に有名になれる」
その先に勇者の称号がある。称号はカテリナのものだとしても、その仲間でも価値がある。求めていた夢が実現することになる。
ただし、生き抜くにはさらに厳しい依頼を乗り越えなければならない。その中で何人か命を落とすことになるかもしれない。栄光は生き残った人だけが手にするのだ。ホープがそうであったように。そのホープも勇者の称号を与えられたわけではない。
「……夢が広がりますね。頑張ってください。俺は地道に稼ぐしか出来ませんので、俺の分も夢を叶えてください」
「ああ、任せろ」
話は一区切り。アークがそう持って行った結果、フェザントは席を立って、離れていった。
「……意外と性格悪いのね?」
フェザントがいる間、一言も口を利かなかったミラが口を開いた。
「どこが? 話したくないことは話さないで、聞きたいことは聞いただけだ。そもそも、あの人たち相手に良い人でいる必要あるか?」
「ないわね」
どんな事情があろうと、大切な夢の為であろうと、アークを切り捨てたという事実は変わらない。切り捨てられた側のアークが彼らの為に何かしてあげる義務などない。仕返しをされないだけ感謝しろというところだ。
「ようやくここまで来た、みたいに言っていたけど、これからなのにな?」
「あの人たち、実力はどうなの?」
「ああ、強いと思う。才能は十分。隠しているのか、あまり知られていないけどカテリナは光属性だ。何が凄いか分からないけど、滅多にいないのは間違いない」
カテリナがパーティー主に拘っているのには理由がある。彼女の魔力は光属性。滅多にいない、どころか現代で名が知れた光属性の勇者候補は一人もいない。特別な存在なのだ。彼女自身もそう思っていて、自分こそ勇者だと考えている。
「光属性……どんな魔法が使えるの?」
「回復魔法。ただとんでもなく凄いというほどではないのかな? でも攻撃型だから、使えるだけで貴重だな。剣から魔力を飛ばすのが一番得意なのだと思う。中距離攻撃でもあり近接攻撃でもある。ああ、改めて考えると便利か」
前衛も中盤も、後衛に置くにはもったいないが軽傷であれば回復が出来る。パーティーにいれば、かなり便利な存在だ。カテリナの能力をミラに説明して、アークは改めてそう思った。ただカテリナ本人は便利な存在ではなく、中心になりたいのだ。
「どうして属性を隠しているのかしら?」
「これは勝手な想像だけど演出じゃないかな?」
「演出? どういう意味?」
「一番効果的なタイミングで人々に知られたいのではないかな? 彼女は自分が周りからどう見られるかを常に考えていた。見た目が良い。能力も高い。でも、それだけでは勇者になれない。人気も必要、あとは特別感……なんか、離れたあとのほうが良く分かるな」
悪く言えば、計算高いということだ。近くにいた時は、こういう捉え方をアークは出来なかった。彼女が望む通りに見る側で、それを評価することをしなかった。
「まあ、それだけ本気で勇者になろうとしているってことだね?」
「それは間違いない。さっきのフェザントさんも強い。ピジョンも。他の二人は知らないけどAランクだからな。あまり他の人たちを気にしてこなかったけど、この支店だとかなり上位パーティーなのかもしれない」
個人としてはまだまだ上がいる。だがパーティーとしては意外にすでにかなり上位なのかもしれないとアークは思った。Aランク勇者候補がどれだけ生き残れるのか。命を落とすまでいかなくても大怪我で戦闘不能になる人もいるだろう。それが嫌で引退する人も少なくないかもしれない。Aランクまで行けば、贅沢しなければ、もしかしたら贅沢しても、一生暮らせる金を手にしているはずなのだ。
メンバーが減ればパーティー再編なんてことになり、それを繰り返すとAランクパーティーは数を減らしていく。そんなことになっている可能性もある。
「……酷いこと言うけど、全員が生き残れればね」
まだこれからのはずなのだ。これからさらに厳しい戦いが待っている。その戦いで生き残らなければならない。
「勇者か……どうして勇者になんてなりたいのだろう?」
「アークは興味ないものね」
「何を得られるか分からない。人々に持てはやされても嬉しくない。金はそれ以前に充分に貯まっているはず。強ければ勇者になれるわけではないみたいだけど、俺は強くなれればそれで良い」
勇者になりたくて勇者ギルドで働いているわけではない。最初から興味がない。求めていないものを与えられるのは、余計なものを背負わされるだけに、アークには思えるのだ。
「じゃあ、アークは何を手に入れたいの?」
「……強さ……それと情報」
これまで話していなかったこと。アークはここでミラに話した。これ以上、隠しているのは不誠実。この先も一緒に頑張っていきたいが、どこかでアークはミラと別行動をとることになる。それを隠しておくのは卑怯だと思ったのだ。
「情報?」
「姉が行方不明になっている。その姉を探したい。捕らわれているのであれば助けなければならない、だから俺は強くならなければならない」
勇者ギルドの情報網を使っても見つけられる保証はない。それでもこの方法しかアークは思いつけなかった。ウィザム家の力を使わずに姉を探す方法はこれしかないと思ったのだ。
「それで強さと情報か……依頼料は貰えるのよね?」
「えっ? 依頼料?」
「君一人で戦って、お姉さまを助けられるわけないでしょ? 私がいないと君は弱いのだから」
「でも……敵は強大で」
居場所が分かっても助けられるかは分からない。ADUがどれほどの組織かアークは分かっていない。強大であるということは間違い。ウィザム家が動かない理由はそれだとアークは考えているのだ。認める気はないが、仮に殺されているとしても、報復に動かないのはおかしいのだ。
「だから報酬はかなり高額になるから。一生遊んで暮らせるくらい。その報酬を貯める為にも頑張らないとね?」
「……ああ、そうだな……ありがとう」
自分一人の問題を、ミラは二人の問題にしてくれた。実際に協力を頼むつもりはない。あまりに危険であれば、ミラを巻き込みたくないのだ。それでもアークは御礼を言いたかった。ミラの気持ちが嬉しかった。