月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第15話 つきまとわれている?

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 ホープはやたらとアークたちに絡んでくる。こう思うのはアークたちが事情を知らないから。ホープは二人を狙う犯人を見つけ出す為に二人の側にいようとしているだけだ。犯人から見れば襲撃は失敗。少なくとも二度、そうだと思える事件があったからには諦めているとは思えない。また襲撃の機会を狙っていると考えるべきだ。二人の側にいれば、怪しい人物を見つけられるかもしれない。ホープはこう考えているのだ。

「仕事しなくて良いのですか?」

 ホープは今日も二人がいる訓練場に現れた。まだ朝だというのに。依頼を受けていない証だ。

「それはお前らもだろ?」

「洞窟の閉鎖が解除されるまで待ちです。あ、いや、この間、洞窟に連れて行ってもらって待つ必要ないかなとは思うようになりましたけど」

 洞窟で嫌になるほどゴブリンを倒した。支援魔法がなくてもゴブリンの群れとは、異常な数でなければだが、戦える。それが分かった。であれば普通に依頼を受けることも考えて良いかもしれない。そう思うようになったのだ。

「……Bランク依頼なら問題ないと思うけどな。ただ悪い考えじゃない」

「意外。慎重すぎると笑われるかと思っていました」

 ホープは陽が暮れるまでゴブリン退治をさせるような人だ。依頼を引き受けることに慎重になっている自分たちに呆れるかと思っていた。

「ランクと強さは別。これを分かっていない奴は多いからな。そういう勘違いしている奴らよりは、遥かにマシってことだ」

「ランクと強さは別、ですか?」

 アークもそう思っていなかった。ランクを上げるには強くならなければならない。高ランクがより強い。こう思っていた。

「ランクは依頼の積み重ねに過ぎない。数をこなせば上がる。実戦経験も強くなるには大切だが、それが全てじゃない。それを分かっていない奴が近頃は多すぎる」

「なるほど……」

 長い年月、勇者候補として働いていればランクは上がる。だがCランクからBランクに上がったからといって、それで強くなるわけではない。塵が積もれば、という結果でランクをあげても、実力を超える依頼を受けることになって失敗する、下手すれば命を落とすことになってしまう。

「強くなるには地道に自分を鍛え、良い仲間を見つけ、自分たちに合った戦いを考え、それを磨いていくことが必要だ。お前らはこれをやっている。笑うことじゃない」

「ありがとうございます」

「ただ、仲間を増やさないことは認められない。この点はお前らの致命的な弱点だ」

「それは……だから連携を強化して」

 数は多いほうが良い。協調性のない勝手に行動する人はいないほうが良いが、そうでなければ数は力だ。それはアークたちも分かっている。だが、それが出来ない。常に余裕で依頼をこなせる。こんな甘い考えは二人とも持っていないのだ。使ってはならない魔法を使わなければならない状況に追い込まれるのは、この先も絶対にあるはずなのだ。

「後衛のミラが襲われたらどうする?」

「その時は俺が素早く戻ります」

「素早くって……緻密な戦い方を訓練しているくせに、どうしてそこだけ大雑把なのだ?」

 ミラの近接戦闘能力は低い。魔法士系なのだから当然だ。通常は近接戦闘能力が低い後衛を守る為に護衛役を置く。もしくは前衛と後衛の間に人を配置する。戦士系で中距離攻撃が出来る勇者候補がいる場合だ。ちなみにカテリナは本来、このタイプだ。

「俺たちの仲間になろうなんて……えっ? まさか?」

 仮に自分たちが望んでも仲間になってくれる人などいない。例外がいるとすれば。

「馬鹿か? 俺が加わるはずないだろ?」

「それはそうですよね? 自分のパーティーを解散するはずがない」

 ホープはSランク勇者候補。そこまで行くには当然、優秀な仲間がいる。その仲間を捨てて、自分たちのパーティーに入るはずがないとアークは思った。

「俺はパーティーを組んでいない。一人だ」

「えっ……あ、ああ、そうでしたか……分かります」

 ホープが一人で活動していると聞いて驚くアーク。ミラも驚いている。驚き、立ち上がってホープの肩をポンポンと叩いた。励ましているつもりだ。

「お、お前ら……今、俺を哀れんだだろ?」

「そんなことありません。気持ちは分かると思っただけです」

「違うから。俺が一人でいるのは……まだ早いかもしれないが、教えておくか」

 ホープが一人で活動しているのには理由がある。いつか、アークたちも経験するかもしれない辛い現実。話さないでおこうと一度は考えたホープだが、そうならない為に、今の内に知っておいたほうが良いかと思い直した。

「……仲間はいた。でも皆、死んだ」

「「…………」」

「Sランクなんて異常なんだよ。ランクはSになっても、それに見合った強さを全員が身につけられるわけじゃない。力が足りない奴は難しい依頼の度に消えていく。そうして俺は一人になった。これは俺だけじゃない。他のSランクも同じだ」

 ホープの事情はミラとは違う。Sランクに上がれば、災害級の妖魔や魔人族との戦いに投入される。そういった敵と戦う力が実際にはなくても、それがルールなのだ。Sランクに相応しい飛びぬけた強さを持たない勇者候補は、そういった戦いの中で死んでいく。生き残れるのは極一部。Sランク勇者候補というのはそういう存在なのだ。

「ランクと強さは別、ですか……」

 結局こういうことなのだ。ランクに拘らず、とにかく自分を、パーティーを鍛えること。ランクはより効率良く報酬を稼ぐに必要なもの。より良い装備を整える為のものくらいに考えるべきなのだ。それが上位ランクに上がり、そこで生き残る可能性を高くすることに繋がる。

「ああ、そうだ。気に入る仲間が勇者候補にいないのなら、魔獣を仲間にするのはどうだ?」

「はい?」「魔獣を仲間?」

「お前ら、何も知らないのだな。従魔獣というのがいる。人に慣らした魔獣だ」

 勇者ギルドが移動手段として使っている馬車の馬、実際は魔獣、も従魔獣だ。他にもより速く走る地竜。空を飛ぶ翼竜がいる。地竜、翼竜は馬車と違って、借りるのは有償。個人で所有するとなると、とんでもない金額になる。

「従魔獣は知っています。でも……戦闘に従魔獣ですか……」

 もっと言えば、農作業に馬や牛の代わりに魔獣を使っている農家もいる。それだけ稼げる大農場主だけだが。従魔獣については勇者候補でなくても知っている。ただ戦闘に参加させるという発想がアークたちにはなかっただけだ。

「ピンキリだけどな。お前らの蓄えではキリのほうしか買えないだろうが、いないよりはマシだ」

「……それはどこで手に入れられるのですか?」

 ホープの言う通りだ。ミラの護衛役として従魔獣を使うのは良い考えだとアークも思った。強い妖魔を撃退することが出来なくても、アークが戻るまでの時間稼ぎになれば良いのだ。

「王都だな。支店にもたまに来るはずだけど、いつかは知らない」

「王都ですか……考えてみます」

 アークは、所在は知られているが、家出中の身。王都には出来ることなら近づきたくない。

「まあ、焦る必要はない。やるべきことは山ほどある。やるべきことがあるってことは、まだ強くなれるってことだ」

 ランクを上げることを急いでも意味はない。逆に害になる。強くなることも焦る必要はないとホープは考えている。強くなることにゴールはない。これ以上、強くなれないとなった時、それはゴールというより、終わりの始まりだ。あとは弱くなる一方なのだから。
 そんな状況に急いでたどり着く必要はない。急いでやるべきことを怠れば、それだけゴール、終わりは近くなる。ホープはこう思うようになった。道半ばで倒れた仲間たちを見て。たどり着いたと思った場所が思っていたものではなかったことを知って。

 

 

◆◆◆

 ホープの存在が勇者ギルド内で目立つようになった。ほぼ毎日、訓練場に現れ、悪い意味で注目されているアークたちと一緒にいるのだ。それは目立つ。そうなると当たり前だが、ホープは何者なのかという話題になる。通常、ハイランド王国支店にいることのないホープを知る者は少ない。ギルド職員は当然知っているが、勇者候補に「あれは誰ですか?」と問われても答えない。勇者候補の個人情報は厳しく管理されている、その中でもSランクとなると特別なのだ。

「アークのパーティーは仲間が増えたようね?」

「おや? カテリナはホープ殿を知らないのですか? あの方が彼らのパーティーに加わるなんてあり得ませんよ」

 セーヴィントはホープを知っている数少ない一人。いつも自慢しているAランク勇者候補なだけはある。

「あの方?」

 誰に対しても上から目線のセーヴィントが「あの方」なんて呼ぶ。これは珍しいことで、それだけ立場が上の人なのだとカテリナは思った。

「ホープ殿はこの支店唯一のSランク勇者候補ですよ。落ちこぼれパーティーの仲間にあるはずがない」

「……では、その唯一のSランク勇者候補はアークに何の用があるのでしょう?」

 確かにセーヴィントの言う通り、パーティーには加わるはずはない。だがそうであればホープは何があって毎日のようにアークたちと話をしているのか。それがカテリナは気になってしまう。

「……彼らに同情して、指導してあげているのではないかな?」

 カテリナの問いに対する答えをセーヴィントは持っていない。だからといって「知らない」と言えないのがセーヴィント。思いついたことを答えた。

「Sランク勇者候補の指導なら私も受けたいわ。あの人を知っているのなら頼んでもらえないかしら?」

 これをカテリナの我が儘とは言わない。ほとんどの勇者候補が望むことだ。望んでいるが恐れ多くて頼めないのだ。

「ああ、そうだね……でも、どうかな? カテリナとホープ殿ではタイプが違う。指導してもらっても役に立つとは思えないね」

 セーヴィントはホープを知っている。だが知っているといっても名前と顔が一致し、Sランク勇者候補であることを知っているだけ。親しくないどころか、話をしたこともない。他の勇者候補と同じで頼みごとが出来る間柄ではないのだ。

「ではアークは同じタイプなの?」

「それは分からないな。私は彼の戦いを見たことがない」

「魔法を使えないアークは近接戦闘系。剣士よ。ホープ殿はどうなのかしら?」

 そしてカテリナも近接戦闘系。アークとは違い魔法が使える剣士系で中距離攻撃も出来る。魔法が使える使えないの差は大きいが、基本はアークと同じ近接戦闘、剣士系なのだから、ホープの指導がアークの役には立って、カテリナの役に立たないなんてことはないはずだ。

「どうだったかな? Sランク勇者候補となると手の内を明かすことはないからね」

「……直接聞いてみるわ」

 セーヴィントに頼んでも無駄。それが分かったカテリナはホープに直接頼むことにした。こういうことに彼女は躊躇いがない。躊躇っていられなかった事情があってのことだが、ほとんどの場合、彼女の望む通りの結果になる。相手が男性の場合は限りなく百パーセントに近い確率で。彼女が本当に苦労したのは、自分がパーティー主になることくらいだ。

「あの、すみません。ホープ殿で間違いありませんか?」

 しかめ面のアークを無視してホープに話しかけるカテリナ。アークとは正反対の。これ以上ない魅力的な笑みを浮かべて。

「間違いない」

「……少しお話よろしいでしょうか?」

 ただホープの反応はカテリナが期待していたものではなかった。彼女の問いに簡潔に答えると、そっぽを向いてしまった。

「良くない」

 続いて、明確な拒絶。ホープにカテリナの相手をする気はない。彼にとって今は仕事中。アークとミラと話しながらも周囲に注意を配っている。近づいてきたカテリナは、それを邪魔する存在なのだ。

「……アーク。ホープ殿の指導を受けているのね?」

「いや、受けていない。この人は指導員じゃない」

 ホープが駄目ならアークを切り口にして。アークであれば拒めないとこの選択を行ったカテリナだが、期待は裏切られた。今更、カテリナに対して未練はない。見た目だけの酷い女性であることはもう分かった。それを冷静に受け止めるようになれる時間もあった。

「……では、ここで何をしているの?」

 ここは訓練場だ。指導を受けていないというなら何をしていたのか。これを聞くカテリナは、アークは嘘をついていると思っているのだ。

「午前中の鍛錬が終わって、食堂に行くところ。そうしたらホープさんが来たので、少し話をしていた。何の話かは教える義務はない」

 嘘はついていない。本当のことだ。アークが今、指導してもらっているのはドレイク。今日も彼に相手をしてもらっていた。ホープは相手がドレイクと知って、邪魔をしないように終わるのを待って近づいてきたのだ。

「……午後はどうするつもり? 良ければ久しぶりに私とやらない?」

 アークと一緒に鍛錬を行えば自動的にホープの指導を受けられる。カテリナはこう考えた。まだアークは嘘をついていると思っているのだ。

「…………今は良い。またいつか相手をしてくれる?」

 カテリナとの立ち合い。これについては検討の余地があるとアークは思って、少し考えた。だが訓練場での立ち合いとなると魔法は使わない。魔法なしであれば、よほどカテリナが成長していなければ、相手にならない。以前はカテリナに剣術を教えるつもりで手加減していたのだ。

「鍛錬を怠っていたら強くなれないわ」

「怠るつもりはない。今は他にやるべきことがあるからそれをやる。その前に飯。ミラ、行こう」

 これ以上、カテリナと話をしても時間の無駄。彼女がしつこいことをアークは知っている。自分の思い通りになるまで諦めようとしないのだ。ホープに指導してもらいたければ彼と話せば良い。それに巻き込まれるのは迷惑。アークは強引に振り切ることにした。
 あえてミラに声をかけたのも、カテリナを振り切る為。自分とは別の女の子とどこかに行こうとする自分をカテリナは引き留めないはず。それは彼女のプライドが許さない。そう考えてのことだ。
 予想通り、カテリナは引き留めなかった。ただこれで解決ではない。カテリナの執念深さを本当の意味でアークは知らない。彼女の本質から目を逸らしていたせいだ。

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