月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

継ぐ者たちの戦記 第11話 報われることを考えない努力

異世界ファンタジー 継ぐ者たちの戦記

 アークとミラは洞窟でのゴブリン討伐を続けている。二人で息を合わせた戦いが出来るようになる為。ミラがアークの戦い方を理解する為とも言える。アークの戦いの先を予想し、最適な支援魔法を使う。かなり難しい課題で、出来るようになるには、とにかく数をこなすしかない。こう考えているのだ。
 幸いというか、常時依頼であっても、Bマイナスランク依頼となると報酬はそれなりだ。さらに二人だけのパーティーなので一人が手にする金額も多くなる。生活に困らないどころか、少し余裕があるくらいだ。なんといっても毎日、依頼を引き受けられるというのが大きい。大きな怪我なく、自分たちを成長させながら、着実に装備充実の為のお金を貯める。目指す先はかなりの高みなのだが、だからこそ、今は我慢の時だと二人は考えられているのだ。

「……五、いや、六体か。三番目と最後尾がオークということで」

「分かった」

 現れたのは六体のゴブリン。ただゴブリンだけだと速度向上魔法だけで事足りてしまうので、何体かはオークという設定で戦うことにしている。オークはゴブリンよりも巨体で力が強い。支援魔法の中でミラが得意な風属性の速度向上魔法と火属性の力向上魔法、さらに土属性の防御魔法を使って戦うことになる。
 実際にはミラにはあまり得意不得意はなく、魔法を使わない相手と戦う時に必要だと思う魔法を選んでいるだけだ。

「……行く」

「疾く風――」

 アークが前に出ると同時にミラが風属性の身体強化魔法を唱え始める。前を進むアークの後を追う小さな竜巻。追いついたそれが体を包むと、アークの動きが加速した。

「はじける火、舞う炎、かの者の血に熱き力を。アミー」

 それと同時に次の魔法の詠唱を始めているミラ。渦巻く炎が宙に浮かび、アークに向かって飛んでく。火属性の攻撃魔法のように見えるが、そうではない。アークの体を焼くことなく消えた炎。ゴブリンの体が真っ二つに割れた。すでに三体目だ。
 その時にはまた小さな竜巻がアークに追いついていた。ゴブリンとの間合いを詰めるアーク。

「近っ!」

 だが距離を詰めすぎ。慌てて後ろに跳んで間合いを空けた。別のゴブリンが剣を振るってくる。体を沈めてそれを避けると同時に、剣を横に薙ぐアーク。膝から下を斬り払われたゴブリンが地面に転がる。
 さらに次のゴブリンに向かおうとするアーク。

「げっ……」

 漏れた声は体の変化を感じてのもの。減速した体。それでもゴブリンとの間合いを詰めて振るった剣は、またその体を真っ二つに斬り割いた。

「早いっ! ちょっと止めておけ!」

 魔法のタイミングがずれたことに文句を言うアーク。

「止まるか!? 操り人形じゃないのよ!」

 ミラも黙っていない。上手く行かなかったことの苛立ちもあって、大声で言い返してきた。

「自分の魔力だ! 繋がっているようなものだろ!?」
 
「でたらめ言うな!」

 言い合いが続く。だからといって戦いが中断しているわけではない。それは敵のほうが許さない。アークに襲い掛かってきた最後のゴブリン。その剣を躱し、自らの剣を斬り上げたアーク。
 腹部から折れるように倒れていくゴブリンの上半身。それが地面に転がると同時に下半身も倒れていった。

「……終わり……最初の連携は良かったけどな……」

 戦いは終わり。連携はまだ完璧にはほど遠い。どう修正すべきか考え始めたアーク。

「アーク!」

「えっ……なっ!?」

 ミラの声。それに続いて、風切り音が耳に届く。咄嗟に剣を構えたアーク。強い衝撃を受けて、後ろに吹き飛ばされた。

「……い、痛っ」

 洞窟の壁に激突した背中の痛みに耐えながら、アークはまた構えをとった。敵がまだいた。それもゴブリンとは思えない力が強い敵だ。

「……オーク? 本物のオークか!?」

 ゴブリンよりも遥かに大きな体。醜悪な顔。初めて見るが、オークだとすぐに分かった。勇者ギルドの資料に描かれていた身体的特徴そのままなのだ。

「ミラ! 風を!」

 ミラに身体強化魔法を、速度向上魔法を要求する。最初の一撃でかなり力が強いことは分かった。だが、まずはもっと敵の能力を測ること。敵の攻撃を受けないことを優先させた。

「……!」

 だがミラの魔法が届く前にオークが先に動いた。一瞬で間合いを詰めてきたオーク。横薙ぎに払われた剣を、地面を転がって避ける。ミラの魔法が届いたところで、アークはさらに間合いを空けた。

「強くて速い。ゴブリンとオークってここまで差があるのか?」

 ゴブリンとは比べものにならない強さ。ここまで差があるとはアークは思っていなかった。ゴブリン相手の戦いを続けていたことは正解だったと思った。

「とはいえ、こいつを倒さないと」

 だがオークのほうが勝手にやってきてしまった。まだ戦う準備が出来ていない状況で。目の前の強敵とどう戦い、倒すか。オークの動きを警戒しながら、アークは考えている。

「……来る」

 オークが動いた。一足飛びで間合いを詰めてくるオーク。振り上げた剣がアークに襲い掛かる。体を躱してそれをよけたアーク、だが。

「ぐっ……」

 剣が軌道を変えて襲い掛かってきた。剣を合わせたアークだが、その体が宙に浮く。オークはそのまま力任せに剣を振り切る。宙に浮いたアークはその力に抗う術を持たず、洞窟の壁に向かって吹き飛ばされた。
 空中で回転して足から壁に着いたアーク。さらに一回転して地面に降りた。

「剣も使えるのか……なんだ、こいつ?」

 オークはただ力任せに剣を振るってくるだけではない。今の攻撃は、なんとか直撃は避けられたものの、完全に不意を突かれた。力はオークが上。速さはほぼ互角。剣術はなんとか上回っているか。アークにはかなりの強敵だ。

「……まだ上があるのか?」

 オークの攻撃は凄まじいが、それが全てだとは思えない。自分がそうしているように相手もこちらの力量を探っているのではないか。アークはこんな風に思った。ここまで一撃を加えると、それで止まっている。連続攻撃を行ってこないのだ。

「……やるしかない」

 どれほどの強敵であろうと勝つしかない。負ければそれで終わり。魔獣や妖魔との戦いは判定では決まらない。どちらかが死ぬか逃げるかするまで戦い続けることになる。ただ、この戦いで「逃げる」の選択肢はない。アークは逃げられてもミラが逃げられるとは思えない。勝つか死ぬかしかないのだ。
 自らオークとの間合いを詰めるアーク。懐に飛び込んだところで剣を一閃。だがオークの固い体に阻まれて致命傷を与えられなかった。逆に攻撃中に隙を疲れたアークは蹴りを受けて、吹き飛んだ。受け身もとれずに洞窟の壁に打ち付けられたアーク。

「アーク!?」

「……大丈夫だ」

、ダメージはあるが致命傷ではない。すぐに剣を構えて、次の攻撃に備えた。力任せに振り下ろされたオークの剣。それを自らの剣で受け流す。わずかに体勢を崩したオークに向かって蹴りを放つが。

「痛っ……」

 ダメージを受けたのはアークのほうだった。痛みに顔をしかめるアーク。その彼にまたオークが襲い掛かってくる。一撃で吹き飛ばされるアーク。地面に叩きつけられた痛みに耐えながら、すぐに立ち上がった。

「しつこい!」

 そこにさらにオークの攻撃。吹き飛ばれるのを覚悟の上で、アークはそれを受け止めようと構える。洞窟に響いた金属音は、オークの剣と地面からせりあがった土の固まりが打ち合った音。ミラが放った土属性の防壁魔法だ。
 宙を跳び、洞窟の壁に向かうアーク。そこから回転。壁を蹴ってオークに襲い掛かる。だがオークはその動きを見切っていた。振るわれる剣。宙で受け止めたアークの体は跳ね返され、洞窟の天井に叩きつけられた。

「アーク!」

「まだだ! 行くぞ!」

 地面に落ちていくアークの体。下で待ち構えていたオークは落ちてくるアークに向かって、剣を振り上げた。その剣を止めたのはミラの魔法。さらに炎が落下するアークの体を包む。

「うぉおおおおおおっ!!」

 雄たけびを上げながらオークに向かって剣を振り下ろすアーク。土煙が宙に舞い、やがてそれは血しぶきで赤く染まった。ゆっくりと倒れていくオークの体。

「アーク! 大丈夫!?」

 決着を見極めることなく、ミラはアークがいるであろう場所に駆け寄っていく。オークが倒れた場所だ。

「アーク!?」

 アークはそこにいた。地面に倒れていた。地面に跪き、恐る恐る土で汚れたアークの顔に手を伸ばすミラ。頬を伝う涙が手よりも先にアークの顔に落ちる。ゆっくりと目を開けたアーク。ミラが目の前にいることが分かって笑みを浮かべた。

「……泣くほど心配するか? あの魔法、使わせなかったはずだけど?」

「……馬鹿」

「馬鹿とは何だ? 結構、頑張ったと思うけど?」

「そうだね。君は頑張ったよ」

 厳しい戦いだった。その戦いの中で自分は何も出来なかった。アークを助けることが出来なかった。ただアークが必死で戦っているのを見ていることしか出来なかった。自分の無力さをミラは思い知らされた。

「お前もな。最後の二つの魔法は抜群のタイミングだった」

「……そうでしょう? まっ、つまりは私のおかげで勝てたってことね?」

 それなのにアークはこんな言葉をかけてくれる。冷えた自分の心を一瞬で温めてくれる。

「これで回復系も使えれば完璧だけどな。仲間を増やしたいと思ったことなかったけど、可愛いヒーラー(回復魔法の使い手)は欲しいな」

「……可愛い、はいらなくない?」

「可愛いと怪我だけでなく心も癒されるだろ?」

「…………」

 逆に一瞬で心を冷ますことも出来てしまう。無言のまま立ち上がったミラ。地面に倒れたままのアークを踏みつけた。

「痛いっ! 馬鹿か!? 俺、怪我人だぞ!?」

「あら、ごめんなさい。もう死んでいるのかと思ったわ」

 そんなわけがない。今まで普通に話をしていたのだ。

「お前は人の死体を踏みつけて歩くのか?」

「人の死体は踏みつけるなんて真似はしないわ。踏むのはゴブリンの死体くらいよ。間違えて、ごめんね。顔がそっくりだったから」

「て、てめえ……」

 さらに二人の怒鳴り合いは続く。その怒声を聞いた詰所のギルド職人が駆けつけるのに、そう時間はかからなかった。妖魔との戦いを止める必要はないが、喧嘩は止めなければならないと思ったのだ。

 

 

◆◆◆

 オークとの戦いを終えた結果、アークたちは、また勇者ギルドに休養を命じられることになった。それがなくても依頼を引き受けることはしなかった。現れるはずのない場所にオークが現れたことで、洞窟は一時閉鎖となってしまったのだ。
 では別の依頼を、とはアークたちは考えない。ゴブリン相手に戦えても、オークには通用しなかった。普通の依頼を引き受けるには、まだ自分たちは実力不足だと考えているのだ。
 もっと強くならなければならない。鍛錬を続けるしかない。ということで休養を命じられていながら、アークはギルドの訓練場に来ている。体にダメージを受ける立ち合い稽古などでなければ鍛錬は禁止されない。前回で学んでいる。

「…………よし」

 地面に仰向けで倒れたままだったアーク。息が整ったところで、小さな声で気合を入れて、立ち上がった。構えをとり、鍛錬用の刃を潰した剣を振り下ろす。そこから足を前に踏み出して。今度は斬り上げ。目の前で剣を構えて突き。ひとつひとつ丁寧ではあるが、全力で剣を振るう。足運びも、ゆっくりのようでいて、力強く地面に踏み込んでいく。
 幼い頃から続けている型の鍛錬だ。

「ふっ」

 短く息を吐き、体の動きをひとつひとつを確かめながら。それでいて力を込めて剣を振るう。一歩一歩、剣を振りながら前に進み、訓練場の壁に突き当たったところで振り返って、また前に進む。
 すでに全身から汗が滴り落ちている。目に入る汗が目に染みて、視界が歪む。

「とっ……」

 わずかに崩れたバランス。それに耐える体力はすでになかった。地面に転がるアーク。そのまま、また息を整えていく。体はもう限界。そう思ったところから、さらにどこまで続けられるか。これは習ったものではない。アークが自分で課した鍛錬だ。
 才能のない自分は人の十倍、百倍、努力しなければならない。限界で満足してはいられない。限界を超えられないと、一生弱いまま。まだ幼かったアークはこう考えていた。

「…………」

 その努力が、少なくともアークが知る限り、周囲に認められることはなかった。剣の立ち合いでは勝利することが多かった。だが所詮は訓練での勝利。魔法が使えないアークは訓練場で強いだけで、実戦では役に立たないと思われていた。
 それでも鍛錬を続けた。続ける以外に何も出来なかった。報われない努力に支えがあったとすればそれは、「強くなったら私の背中を守らせてやっても良いわよ」という厳しい姉の言葉だった。
 自分とは違い魔法の才能に溢れた姉。憧れの姉と共に戦う為には強くならなければならなかった。

「……よし」

 また立ち上がろうとするアーク。

「あれ?」

 だが今度は立ち上がる力も失われていた。地面を転がって、仰向けからうつぶせに姿勢を変える。肘と膝を曲げて体を支え、四つん這いになれたら今度は、気合を入れ直して上体を起こそうとする。起きられなかったが。

「お前、馬鹿だろ?」

「はっ? 何ですか、いきなり?」

 いつの間にか目の前に立っていたアークと同じ黒髪の男。いきなり馬鹿呼ばわりされて、アークは不機嫌そうだ。

「他人に強いられたわけでもないのに、本当に動けなくなるまで鍛錬を続けられるなんて馬鹿しか出来ないだろ?」

 普通は余力がある。誰かに無理やりやらされたとしても、体力を失う前に心が折れて動けなくなる。心が折れただけなら、鍛錬が終わったと聞けば、自分で動いて帰っていく。そういうものだ。
 だがアークは心が折れるよりも先に体力が尽きた。その異常さを男は「馬鹿」と表現しているのだ。

「馬鹿にならないとこんなの続けられないという意味であれば、受け入れます」

 どれだけ頑張っても魔法が使えるようになるわけではない。どれだけ鍛えても、魔法はアークの努力を軽く凌駕してしまう。何度も思い知らされた。努力はいつか必ず報われる、なんて考えていては逆に続けられなかった。考えることを放棄するのが一番だった。

「何故だ?」

「馬鹿にならないといけない理由ですか? それなら魔法を使えないからです。魔法は俺の十年分の努力を軽々と超えてしまうので」

「なるほど……だがそれは、努力の仕方を間違えているせいかもしれない」

「えっ……?」

 男の言葉はアークの十数年の努力を否定するもの。それに対して怒りは湧いてこなかった。明確な感情が生まれるほどアークは冷静ではいられなかった。男の言葉の意味。それを考えようとするが、それさえも出来ないくらいに頭が混乱していた。

「立てるか?」

「……あっ、はい」

 いつの間にか上体を起こしていた。ゆっくりと片膝立ちになり、腕の力も使って、体を持ち上げる。少しふらついたが、なんとか立ち上がることが出来た。

「腹に力を込めろ。力だけでなく、意識も集中させろ。全てを腹に込めろ。上手く出来ないと死ぬぞ?」

「……はい?」

「良いから、やれ!」

 男が何をしようとしているのかは明らかだ。腹を殴るか、蹴ろうとしている。それもかなりの力で。「死ぬぞ」がただの脅しでなければ、そういうことだ。何故、このような状況になったのか。まったく分からないが、拒絶はしなかった。頭の中が混乱したままで、拒絶するのを忘れていたのかもしれない。
 立っているアークに近づく男。予想と違ったのは男はただ腹に手を当てるだけだったこと。そう思った瞬間、衝撃がアークを襲った。そのまま意識を失うことになった。

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