月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

SRPGアルデバラン王国動乱記~改~ 第150話 まさかの関係

異世界ファンタジー SRPGアルデバラン王国動乱記~改~

 後方支援組織が入っている騎士団官舎は敷地の中央部にある。どの組織からも一定の距離にあるという条件で、そこが選ばれているのだ。そうはいっても王国騎士団の中枢、騎士団長を始めとした将たちの部屋はすぐ隣の建物の中にある。全てが平等というわけではない。当たり前の話だ。
 エリザベス王女の騎士団の武官となったレノックスは、その隣の建物にいる。執務室がそこにあるというわけではなく、呼び出されたのだ。

「……失礼します。兵站部、レノックス、参りました」

 扉の前で到着を告げるレノックス。それに応えて、扉はすぐに開けられた。扉のところに控えている従士がいたのだ。

「お入りください」

「はい」

 緊張した面持ちで部屋の中に入るレノックス。彼がこのように緊張するのは珍しいこと。普段緊張することのない彼が、こうなってしまうほどの相手ということだ。
 それはそうだ。訪れた部屋は王国騎士団長の執務室なのだから。

「レノックス……」

 呼び出した王国騎士団長のほうは浮かない顔をしていた。

「……間違いでしたか?」

「いや、私が用のあるのはお前。兵站部のレノックスだ。ただ、階級はないのか?」

 王国騎士団には階級がある。平騎士から、大きくは尉官、左官、将官という順で階級が上がっていく。王国騎士団長も、階級でいうと将官の中でも最上位である上将になる。三神将は全員、中将、十旗将は少将だ。その他、千人将や百人将という地位があるが、これは昔の呼び方で、実際は将官ではなく左官、大佐、中佐、少佐といった階級の人間が努めている。
 今、騎士団長が疑問に思ったのはレノックスが階級を名乗らなかったから。

「ございません」

「そうか……分かった」

 エリザベス王女の騎士団の担当武官に任命された人間が無階級。それはどうなのかと思った王国騎士団長だが、これを本人に言っても仕方がない。

「王女殿下の騎士団で会議が開かれたと聞いた。担当武官として参加したのか?」

「はい。参加致しました」

 王国騎士団長がレノックスを呼び出したのは、会議について聞きたかったから。国王が、王国騎士団を統帥する立場である国王、軍の階級でいう元帥が創設を許したのであるから、王国騎士団長はそれに従うしかないのだが、エリザベス王女が何をしようとしているのかは気になっている。まして、その騎士団にはレグルスがいるのだ。

「会議の様子はどうだった?」

「王国の現状を一通り、私から説明いたしました。各地の問題視されている勢力についての説明です」

「それで? どのような反応だった?」

「いくつか、より詳細な説明を求められました。資料を用意しておりませんでしたので、次回、説明を行う予定でおります」

 かなり詳細にレノックスは話をしたつもりだった。だが、それでは足りなかった。エリザベス王女、ではなくレグルスは、より深い情報を求めてきた。レノックスが想定していない質問も行ってきた。

「例えばどのようなことだ?」

「少数民族についての質問が多かったのですが、宿題となったのは、それぞれの少数民族の財力。取引している商家などの情報です」

「少数民族の財力、取引商人……どうしてそのようなことを気にしたのだ?」

 レノックスが話す点に注目して調べさせようとしたことは、騎士団長にはない。求めたのは動員兵力や戦い方など、戦争になった時に役立つ情報だ。

「恐らくですが、支援勢力を洗い出そうとしているのだと思います」

「……それは少数民族を支援している者がいるということか?」

 当たり前の質問をしてしまっている。途中でこう思った騎士団長だが、引っ込めるわけにもいかない。

「その可能性を考えているものと私は判断いたしました」

「何故、その可能性を思いついたのだと思う?」

「戦争にはお金が必要です。王国と、王国と直接ではなくても王国貴族と戦争を行うとなれば、しかも勝つつもりであれば、長く戦い続けられるだけのお金が必要となります」

 レノックスが担当する兵站の領域。武器も兵糧も必要になる。戦争が長引けば長引くほど、必要となる量は増える。反乱を起こそうとしている少数民族に、そんな継戦能力があるのか。それを確認する為に財力を、そして仕入れ先を調べようとしているのだ。

「ふむ……」

 では、それを調べて、エリザベス王女は何をするつもりなのか。騎士団長は問いを発することなく、自分で考えてみた。支援を絶つ。だがその為には支援している組織、勢力を突き止めなければならない。突き止めて、その組織、勢力を討伐しなければならない。これを行うつもりなのか。出来るのか。

「……お考えになっても無駄ではないでしょうか?」

「何だと?」

「レグルス殿は、『王国騎士団と同じ。やれることをやるだけ』と言いましたが、私にはこう聞こえました。王国騎士団が出来ないことをやる、と」

「……そうか」

 レノックスの言う通りなのだろうと王国騎士団長は思う。そうでなければ王女の騎士団を創設した意味がない。特別な理由があって、新しい騎士団を必要としたはずなのだ。ただ、この騎士団長の考えは間違っている。必要とする理由はあるが、それはレグルスの場所を作る為。王国騎士団との違いを生む為ではない。

「戦力はどうだ?」

「分かりません。騎士団にある情報は王立中央学院からのもの。授業を受けていない人たちの情報は皆無です。また存在する情報も、ラクラン殿以外の情報は信頼度が薄いと私は考えます」

「レグルスだけでなく、従士のジュードの情報も怪しいと?」

 レグルスに関しては、合同演習の時にすでに、まだ先があると感じていた。全力で戦っているようで、まだ隠している何かがあると騎士団長の勘が告げていた。だが、従士のジュードについては王国騎士団長は記憶がない。眼中になかったというところだ。

「王国騎士団と中央学院の合同合宿において、ジュード殿の戦闘記録はわずか。それもレグルス殿がその気になった後しか、記録がありません」

「……あの時も本気になっていなかった可能性があるか……どういう人物だ?」

 ようやく王国騎士団長はジュードに対する興味を持った。レグルスと同じ部類の人間だと分かったのだ。

「ブラックバーン家の王都騎士団に所属しておりました。レグルス殿が中央学院に入学する前から側に置かれていて。そうなってからはまったくブラックバーン家の騎士団としての活動はしていないようです」

「そういう存在か。騎士団にいるのは全員、ブラックバーン家に関係なく、レグルス殿と繋がりを持っていた者たちということだな」

「それを裏付ける情報はありませんが、まず間違いなく」

 様子を見ていれば、すぐに分かる。エリザベス王女との距離を感じるのは当たり前のことだが、レグルスに対して遠慮がなさ過ぎる。本家を離れたとはいえ、レグルスはブラックバーン家の公子。貴族家の出身とは思えない仲間たちが、すぐに馴れ馴れしくなれる相手ではないのだ。

「やはりレグルスの騎士団ということか」

 エリザベス王女が騎士団を創設したのはレグルスがそれを望んだから。騎士団長はこう思った。レグルスが参加したと聞いた時から思っていた。

「その表現は少し違うと私は考えます」

 だがレノックスはそれを否定する。

「何が違う?」

「これも勝手な想像ですが、王女殿下が創設したからレグルス殿は騎士団に参加したのだと思います」

 レグルスに自分の騎士団を持ちたいなんて気持ちはない。そういう力に対する欲求が薄い人物であることは、考えれば分かる。ブラックバーン家の跡継ぎ、将来の北方辺境伯の地位をなんとも思わないレグルスなのだ。

「そうなると、王女殿下がレグルスを誘ったことになる。死んだはずの……いや、生きていることを知っていたのか……」

「これも資料を読んだだけの情報からの推測ですが、団長は現地でレグルス殿にお会いになっていなかったのですか?」

「……現地とは?」

 王国騎士団長はレノックスの問いの意味をすぐに理解出来なかった。どうしてこの話の流れでレグルスと会ったことを聞かれるのか分からなかった。

「王女殿下が監禁されていたテイラー伯爵の屋敷です。私はてっきり、レグルス殿も救出作戦に参加していたものと思っておりました」

「……そう思う根拠は?」

 レノックスの推測通りだと王国騎士団長は考えている。レグルスの名前は出なかったが、会議の場での国王の言葉は、その可能性を明確に示していた。
 だが、会議に参加していないレノックスが何故、その可能性を考えたのか。それが王国騎士団長には分からない。

「諜報部だけで成功出来る作戦とは思えなかったからです。ですが王国騎士団が作戦初期の段階で動いた記録もありません。そうなると第三者が作戦に参加していたということが推測出来ます」

「その第三者がレグルスであると考えた理由は?」

「事件のせいで、王女殿下はレグルス殿の生死を確かめられていなかったはず。そうであるのに騎士団創設を決めたのは、お戻りになられてすぐです」

 レグルスが参加する前提で騎士団創設を決めたのであれば、エリザベス王女は生きている確信を持っていた。ではどこでその確信を持てたのか。
 未来視の能力をレノックスは知らない。知っていても彼はそういう未知なものを、物事を考える時の材料にはしない。

「……入団して何年になる?」

「私ですか? 八年目です」

「王女殿下の武官になったのはどういう経緯でだ?」

 入団して八年目で、未だに平のまま。無能とは思えない。逆に、短い時間で、有能と思わせるところを見せた。自分の組織で優秀な人材が埋もれているという事実に、王国騎士団長は内心で少しショックを受けている。

「……自分で希望しました」

「希望した理由は?」

「レグルス殿に興味を持ったからです」

「そうか……分かった」

 どういう形であれ、レグルスが王国騎士団の一員となったことを喜ぶべきか。手放しでは喜べないところが、レグルスという存在の面倒なところ。そしてそういう面倒なところが、レノックスのような人材を惹きつけてしまう。
 王国騎士団長は思わずため息をつきそうになったのを、咄嗟に我慢した。そんなところを部下に見せるわけにはいかないのだ。

 

 

◆◆◆

 王都にある普通の商人たちや庶民の旅人が利用する中では、一番豪華な宿。その宿の中で一番高い部屋のベッドの上でレグルスは、キャリナローズと向かい合っている。この期に及んでも、どうしてこんなことを受け入れてしまったのかと思いながら。

「……本気の本気で?」

「何、その聞き方? ここまで来ているのよ? 覚悟を決めなさい……って、どうして私がこんなことを言わなければならないの? ここは喜ぶところでしょ?」

 男女がひとつのベッドの上でやることは一つ、とは限らないが、二人はやるべきことをやる為に、こうしている。キャリナローズから求めたのだ。

「喜んでいないわけではない。でも、本気で子供を作るつもり?」

「何度も説明したでしょ? 私には子供が必要なの」

 キャリナローズはレグルスと子供を作ろうとしている。普通に考えれば、とんでもないことだ。だが彼女には、とても大事なことなのだ。結婚はしたくない。妻としての結婚生活をおくれる自信がない。だが東方辺境伯の座を叔父に渡すわけにはいかない。後継者を、それも結婚しないで得る方法として考えたのがこれだ。

「いや、だって……結婚出来ないですよ?」

「真面目か。私が欲しいのは子供。貴方との結婚じゃない」

「あっ、なんか傷ついた」

 自分はただの子種。こう言われている気分にレグルスはなった。実際にそうだ。キャリナローズはとにかく子供を生みたい。それが目的なのだ。

「……私は貴方じゃないと駄目なの…………どう?」

「どうって……その最後の一言で雰囲気が台無し」

「もう。君じゃないと駄目は本音だから。君以外は無理だと思う」

 男に抱かれる。それを想像できる相手がいるとすれば、それはレグルスただ一人だった。男としてではなく、人として好意を抱いている相手で、そういう関係になれるかもしれないと思えるのはレグルスだけなのだ。

「素直に喜ぶべきか……でもな」

「でたらめなお願いだとは分かっている。このでたらめなことをお願い出来るのが君だけなの」

 子供が欲しいから協力して。こんなことを頼める相手もレグルスだけだ。自分が男性を好きになれないことを知っているのは、レグルスだけなのだ。
 しかも、除名されたとはいえ、レグルスはブラックバーン家の人間。その血を引く子供であれば、実家も蔑ろには出来ない。後継者とする上でも、父親の血筋は大切だ。

「……じゃあ、最初の接近から」

 その無茶なお願いをレグルスは受け入れてしまった。一度約束してしまったことをなかったことにするのも、強い抵抗を感じる。まずは最初の一歩。それを試みることにしてみた。
 キャリナローズの頬に手を添え、顔を近づけていく。ここまではどちらにも抵抗感はない。唇が触れ合う寸前までは、なんどか経験しているのだ。
 だが今日は寸前では止まらない。二人の唇は、しっかりと重なった。

「どう?」

「……嫌な感じはないわ」

 キャリナローズに拒絶感はない。ただレグルスとキスをしたという事実は、とても恥ずかしい。その気持ちはレグルスも同じだ。

「そっか。じゃあ……行くから」

「え、ええ」

 ベッドの上に仰向けに倒れていくキャリナローズ。レグルスもその彼女の体に、重さを感じさせないように気を付けて、覆いかぶさっていく。
 再び重なる二人の唇。少しずつずれていくレグルスの唇が、キャリナローズの首筋に、胸元に移動していく。

「……平気?」

「大丈夫」

「じゃあ、続ける」

 いよいよ核心、何が核心なのか分からないが、に迫っていくレグルス。胸元からさらに下がったレグルスの顔は、キャリナローズの露わになった胸の上。小さな突起に舌を這わせている。
 その舌の感触によって、レグルスに胸を見られているという事実によって、キャリナローズの体は朱に染まっていく。

「……なんか……嫌」

「えっ? あっ、止める?」

「違うの。私、女なんだなって……体の反応がそれを思い知らせてくる」

 自分の体がレグルスの愛撫に反応している。自分が女性であることを、女性であるのに男性を好きになれない異常さを、キャリナローズは突き付けられたような気がしている。

「……男の体も反応するけど?」

「そうなの?」

「そう」

「そうなのか……さすが経験豊富な男は違うわね?」

 実際にどうなのかはキャリナローズには分からない。だが、経験豊富なレグルスが言うのだからそうなのだろうと思った。たとえ嘘でも、それはレグルスの優しさ。そう思える。

「経験豊富ではない」

「えっ? だって、その……」

「もしかしてフランセスさんのことをそう思っているなら間違い。唇以上は触れたことはないから」

「……そうだったの……えっ? じゃあ、もしかしてレグルスも初めて?」

 フランセスと関係を持っていないなら、レグルスも初めてということ。キャリナローズはこう思ったのだが、これは間違いだ。

「いや、失敗したら困るから教わって来た」

「教わって……誰に?」

「幼馴染に。花街で働いているから詳しいかと思って、聞きにいったのだけど……言葉だけで終わらなくて……そこまでしなくて良いって言ったのに……」

 レグルスの初体験の相手は百合太夫。別の女性を抱くことになったから、なんて話を聞いて、百合太夫が言葉だけで終わらせるはずがない。この機会を逃すわけにはいかないと考えて、関係を持ったのだ。
 ちなみに二人目は朝顔太夫。大人しい彼女も、これが最後の機会と考えて、教えてあげるという口実を利用した。

「……花街で働く幼馴染。ふうん」

「別に普段から花街で遊んでいるわけじゃない。彼女たちは同い年で、九歳くらいから知り合いで」

「遊びではないのは分かっている。君って男は……」

 花街の女性としてではなく、幼馴染の女の子として初恋の男の子に抱かれたのだとキャリナローズは思った。遊びではなく本気の恋なのだろうと。
 それに気付いていない様子のレグルスには呆れるしかない。

「……どうする?」

「止めるという選択はないから」

「分かった」

 幼い頃にもっとレグルスと親しくしていたら、自分も花街の女性のような想いを抱くことになったのか。こんなことを想いながらレグルスに身を委ねるキャリナローズ、だったのだが。

「ち、ちょっと、そこは……」

「大丈夫。きちんと教わったから」

 レグルスは、せっかく二人が教えてくれたことは全て活かさなくてはならないと考えている。花街の女性が知る技術を、キャリナローズの体に対して使おうと頑張っているのだ。

「な、何を教わったのよ? ちょっと、そこは、恥ずかしい……あっ……だ、駄目……」

「あっ、良い反応。もっと頑張らないとだな」

 キャリナローズは自分の体が女性であることを、さらに思い知らされることになった――そして事が終わった後は。

「……痛い……痛いって! どういうつもりだ!?」

「なんか悔しいから」

「恥ずかしいからって、人の体を思いっきり、つねるか?」

 恥ずかしい姿を見られた腹いせに、自分の暴力性を発揮してみたキャリナローズ。それで何かが変わるわけではない。逆にレグルスに甘えているように思えて、さらに恥ずかしくなるだけだった。

「あと五日、これが続くのか……でも、最初に思っていたよりは全然良い」

「はい? 今なんて?」

「事前に想像していたよりは全然良い。嫌な感じはなかった。あとは気持ちを吹っ切れれば、きっとあれだし」

 体が反応してしまうことを素直に受け入れられれば、そんなに悪いことではない。レグルス相手だと、とても恥ずかしいが、幼馴染とじゃれあっているような感覚もあって、楽しく思える部分もある。

「そこじゃなくて、あと五日?」

「一回だけだと可能性低いでしょ? 調べたら子供が出来やすい時期というのがあって、それは一週間くらい続くらしいの。当然、今がその時」

「だから、あと五日……」

 キャリナローズの押しに負けて、このようなことになったが、さらに五日続くことなど想定外。最初で最後という言い訳は失われ、これから毎日、彼女を抱くことになる。それで良いのかという思いが、今更だが、レグルスの頭に浮かんだ。

「そこは喜ぶところだから。こんな魅力的な体をあと五日も好きに出来るのよ?」

「……好きに……俺の好きにして良いのか……」

「変態か!?」

 キャリナローズの口から「変態」の言葉が飛び出してきた。アリシアに何度も言われた言葉だ。それはつまり、本当に自分は「変態」ということなのか。こんなおかしなことまで、レグルスは考えてしまう。
 結局、普通の心理状態ではないのだ。そしてその状態が、この先、五日間続くことになる。

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