百人の敵が放つ殺気も、それに比べれば、そよ風のように感じられる。それほどの殺気だった。戦意など欠片も残さず吹き飛んでしまう。一瞬そう感じたレグルスであったが、そうはならなかった。心の奥底に潜むどす黒い感情が、それを許さなかった。
殺意が、普段は眠っているそれを刺激する。コントロール出来るはずのそれが、レグルスの意思を無視して、体の中で暴れまわる。殺意に抗うそれは、向けられた殺意を超える殺意を生み出し、レグルスの心を支配しようとする。狂気がレグルスの体を支配しようとする。抗う感情に抗わなければならない自分がいる。
この感覚をレグルスは知っている。忘れていた感覚を思い出した。自分が自分でなくなってしまう。口にすべきでない言葉が滑り出る。やるべきでないことを行ってしまう。
その結果、愛する人は処刑台に送られるのだ。
(……駄目だ……駄目だ)
自分を取り戻さなければならない。本当にやるべきことをやらなければならない。そうでなければ、また人生は後悔の中で終わってしまう。
(嫌だ……嫌だ……もう嫌だ……)
今後こそ、今度こそ、今度こそ。なんどこう思ったか。その強い願望が叶えられたことは一度もない。数えきれないくらいの人生で失敗し、レグルスは死んだ。薄れていた絶望が心に広がっていく。黒い、どこまでも黒い感情の中に、沈んでいく。また憎しみと恨み、後悔と懺悔の想いの中で死んでいくことになる。
(……嫌だ……誰か……誰か……助けて……)
助けなどいない。世界の全てが自分の敵だった。そう思って死んでいった。そして今度も……そう思った時、漆黒の中にある小さな点が見えた。夜空に浮かぶ星に例えるには、あまりに小さすぎる点。夜空に針の先で穴を空けたというほうが、まだ例えるには近い。そんな小さな点が、何故見えたのか、
(……ああ、そうか……そうだった)
闇の中に見える一点の光。レグルスはその存在を知った。世界を恨み、世界に恨まれていた自分にも、大切に思える存在がいることを知った。
それを思い出した時、小さな点は徐々に大きくなり、それと共に輝きも強くなる。闇を払うその光がレグルスの視界を真っ白に染めた。わずかに見えるのは薄ぼんやりしている人の顔らしきもの――
「……眩しい」
目を開けたレグルスの視界は、やはり真っ白だった。窓から入る陽の光が眩しくて、何も見えない。薄目にした視線の先に見えたのは、やはり人の顔だった。
「レグルス……気が付きましたか?」
「えっ……あっ……エリザベス、王女……どうして?」
ようやく戻った視力で最初に見えたのは、心配そうな顔で自分を見つめているエリザベス王女だった。どうしてエリザベス王女が目の前にいるのか。レグルスは状況を把握出来ないでいる。ここがどこであるかも、まだ分かっていないのだ。
「倒れた貴方が心配で……」
「……ああ、演習。来ていたのですか?」
ようやくレグルスは気を失う直前のことを思い出した。王国騎士団長に一対一で立ち向かい。惨敗したことを。ただエリザベス王女が会場に訪れていた記憶はない。
「兄上に手伝ってもらって……お忍びで」
お忍びというより、父である国王に内緒で。母と自分以外の全員が外出する今日は、城から抜け出す絶好の機会だったのだ。もちろん、ジュリアン王子の協力があってこそだが。
「そうでしたか……」
「体は大丈夫ですか?」
「ああ……平気です。痛いところは……えっと……」
一応は体を動かして異常はないかを確かめようとしたレグルス。唯一、動かすのが少し不自由だった左手は、エリザベス王女に握られていた。
「……ごめんなさい」
「いえ、謝られるようなことではないです。ありがとうございます」
自分の体を心配しての行動。そう思って御礼を告げ、ゆっくりとエリザベス王女の手を放すレグルス。失われた温もりが寂しく感じられた。
「……久しぶりですね?」
「はい。あっ、手紙読みました。心配させてしまって、すみません。ああ……今日もか。俺は貴女を心配させてばかりですね?」
レグルスの顔に苦笑いが浮かぶ。結局、今日もエリザベス王女を心配させてしまっている。そんな自分が、少し情けなかった。
「そうですね。でも心配させられるようなことだとしても、貴方のことを考えている時間は幸せ……です」
さりげなく自分はとんでもないことを口にしてしまっている。エリザベス王女はそれに気が付いた。すでに言葉にしてしまった後に。
「そ、そうですか。それは、良かった、です」
自分は何を言っているのか、とレグルスは思う。もっと気の利いた台詞があるのではないか。こんな風にも思うが、頭には何も浮かんでこない。
「…………」
「…………」
今の気持ちをどう言葉にして良いか、二人とも分からない。言葉にして良いものかも分からない。二人の間に沈黙が流れる。
言葉に出来ないまま、視線を交差させる二人。エリザベス王女の潤んだ瞳がレグルスを真っすぐに見つめている。その瞳に魅入られたレグルスは、ゆっくりと手を伸ばし、エリザベス王女の体を――
「うわぁあああっ! 駄目だ! これは駄目ですよね?」
抱き寄せてしまう寸前に、なんとか正気に戻った。
「……もう、貴方って人は」
レグルスの反応は正しい。自国の王女であるエリザベス王女を、ベッドの上にいる臣下のレグルスが抱き寄せている。そんな様子を誰かに見られたら、これまで以上に大変なことになる。社交界は大盛り上がりで、国王は怒り心頭に達するに違いない。
だがエリザベス王女としては流れに身を任せて欲しかった。レグルスの手を握った時の温もりを、もっと感じたかった。
だが、せっかくの雰囲気もこれで台無しだ。緊張から開放された時間も、楽しくはあるが――
(……やっぱり、そういう関係なのか)
誰にも見られないで良かった、とはなっていない。廊下の陰で二人の様子を見ていた人物がいる。レグルスを心配して駆けつけてきたアリシアだ。
(……でも、まあ……相手がサマンサアンよりはマシね。よし。良かった、良かった)
強引に自分を納得させて、その場から離れて行くアリシア。そんなことで気持ちの整理が出来るはずはないが、そうしなければならないという気持ちにはなった。演習でレグルスと肩を並べて戦えたことは楽しかった。だが、それ以外の場所で、レグルスの隣に立つのは自分ではない。その事実を受け入れなければならないとアリシアは思った。
「そこで何をしている?」
「えっ? あっ、ええっ!?」
不意に駆けられた声に驚き視線を向けたアリシアは、さらに驚くことになった。自国の王子、ジュリアンが立っていたからだ。
「君は確か、レグルスの」
「し、失礼します!」
話の途中で勝手に立ち去る。かなり無礼な行動だが、そんなことをアリシアは思いつきもしない。とにかくこの場を去らなければならないという衝動に、素直にしたがって行動した。
「……ああ……なるほど。こういうのを青春というのかな?」
部屋の中ではレグルスとエリザベス王女が話をしている。そのことはジュリアン王子は知っている。本当は人が近づかないように見張っていなければならなかったのに、トイレが我慢できずにこの場を離れてしまったのだ。
「……良いな。私には青春はないのかな?」
「殿下? どうされたのですか?」
そこに更に別の人物が現れた。
「おお、キャリナローズか……そうだ。どうかな、キャリナローズ? 私と恋愛してみないか?」
「お断りします」
「即答……」
一切、考えることなく拒否。さらにキャリナローズは自分が発した問いへの答えも聞くことなく、ジュリアン王子の前を通り過ぎて、部屋の中に入って行ってしまう。
「レグルス。大丈……ちょっと!? 貴方、何をしているの!? 心配してきてあげたのに!?」
「えっ? 何って……あっ、いや、これは別に」
キャリナローズの乱入で、せっかく雰囲気が台無しだ。良い雰囲気が続いても、何があるという状況ではなかったが。
「へえ、そういうこと」
「変な納得しないでもらえるか? あれ? それとも……やきもち?」
「どうして、私が妬くのよ!?」
レグルスもすぐに普段の調子に戻って、キャリナローズを揶揄い始める。医務室は一気に賑やかになった。そこに廊下にいるだけではつまらないとジュリアン王子も参加し、さらにタイラーとクレイグも現れてしまえば、もうエリザベス王女のお忍びでの観戦はお忍びではなくなってしまう。
エリザベス王女、だけでなくジュリアン王子も、父である国王にこっぴどく叱られることになった。
◆◆◆
王立中央学院と王国騎士団の合同演習は、王国にとって大失敗という結果で終わることになった。最後に王国騎士団長は、レグルスを圧倒した。だが、その事実には何の効果もない。王国の目的を知る者以外の観戦者たちは、何度跳ね返されても立ち向かい続けたレグルスを見て、心を熱くさせていた。王国騎士団の強さを思い知って気持ちを萎縮させるなんてことにはならなかった。
学院生たちも、彼らはもっと分かり易かった。王国騎士団長の殺気に気圧されて動けなくなっていた学院生の何人かが、途中から前のめりになって戦いを見ていた。心の中でレグルスを応援し、許されるのであれば自分も戦いに参加したいと思っているのが明らかな様子だった。
「結局のところ、レグルス・ブラックバーン一人に全てをひっくり返されたと申し上げても過言ではないと思います」
そのような事態になったのはレグルスのせい。これも疑う余地もないほど明白な事実だ。
「最初の戦いでは十旗将が圧倒していた。いきなり状況が変わったのは何故だ?」
国王には、どうしてあの様な事態になったのかの理由が分からない。レグルスが何を行ったのか、詳しいところまで理解出来ていないのだ。
「最初の戦いは完全な乱戦。学院生たちは数を頼りに遮二無二攻撃してきたという状況でした。そうなるように仕向けた騎士団側の作戦勝ち。数は多くても協力し合うことのない学院生たちは、実際には一対一で戦っているも同じ。背後を取られることだけを気を付けていれば良かったのです」
乱戦は王国騎士団側が望んで、そうなるように仕向けていた。個々の実力では負けることはないが、数で来られると万一がある。三神将と十旗将全員が参加すれば、まず間違いは起こらないが、出来るだけ少ない人数で学院側を圧倒するという条件があった。初戦で五人の十旗将が戦ったが、それも実は予定を超えた数だったのだ。
「……二戦目はそうはならなかったな」
「はい。レグルスとアリシアの二人だけが、最初は相手でした。意図したものではないと思われますが、そうなるとこちらは一人で相手をするしかなくなります」
学院生二人を相手に、十旗将も同数で戦うわけにはいかない。二人ではなく三人でも同じだ。十旗将は一人で相手することになった。
「一対二であっても余裕で勝たなければならなかったのですが、それが出来ませんでした」
「……負けそうになったから更に一人が参戦というわけにもいかないか」
「お考えの通りです。三人、四人と増えてもこちらは一人で相手をせざるをえない。分かっていてのことであるとすれば……いえ、二人で勝ったのですから関係ありません」
どこまでレグルスが読んでいたかなど、本人に聞かなければ分からない。聞く意味もない。結果は戦力を増やすことなく、二人のままでレグルスは押し切ってみせたのだ。
「問題はここからです。十旗将の一人を倒した。学院生たちに勝てる相手という思いが、わずかに湧いたその瞬間を捉えて、レグルス・ブラックバーンが一気に戦力を回復させました」
「……あれか……あれはタイミングを測ったものだと?」
「計算とは思えません。本能的に反応したものと私は考えております。計算は戦力を回復したあとからです」
頭で考えている時間はなかったはず。あらかじめ考えていた可能性も少ないと王国騎士団長は考えている。レグルスは他の学院生たちの心の動きを確かめることなく、激を発した。一瞬の対応だったのだ。
「あの魔法の柱か……あのような魔法を使える学院生もいたのだな?」
「ラクランという学院生のようです。彼については騎士団も興味を持っておりますが、詳しいお話をさせていただくのは、少し調査をしてからだと考えます」
「分かった」
ラクランの魔法は防御力に優れているだけでなく、持続力もある。さらにあれだけの数を、しかも変則的に展開する防御魔法の使い手は、王国騎士団にもいない。レグルスと違う意味で、ラクランは注目されている。
「レグルスが見せた戦術は防御魔法を利用した敵の孤立。魔法の集団運用については定石ですが、彼はそれを目隠しに使っております。接近戦に繋げる上で、隙を作る為です」
「あそこで止めた理由は?」
もう一人が倒されたところで、王国騎士団長は自らが動く決断を行った。間違った判断だとは思わないが、早過ぎるのではないかという思いは、国王にはあったのだ。
「……柱状の防御魔法の中で行われる戦いが、どのようなものになるか分からなかったからです」
「さらに負けていた可能性もあったと?」
「実際のところは分かりません。ですが、二人目が倒された時点で、レグルス・ブラックバーンは指揮だけを行っており、戦闘には参加しておりません。あの柱状の防御魔法が乱立する環境は、彼がもっとも得意とする戦場であった可能性を考えました」
ラクランの防御魔法は、ただ十旗将を孤立させる為のものではないと王国騎士団長は考えた。それだけの為にしては、効率が悪すぎる。柱ではなく、もっと広い面の形で十旗将たちを分離させても良いはずなのだ。
「最悪の事態を想定したということか」
「レグルスだけでなく、他の守護家の公子たちも、初戦からは動きが変わっておりました。初戦は我らの作戦勝ちでしたが、二戦目は相手の作戦が上を行っておりました。本来の力を発揮できる環境を許してしまったということだと考えております」
今回の演習は、正々堂々力を出しきって、などということは考えていない。とにかく圧倒的な勝利を手にすること。その為には相手に力を出させないことも大事だった。初戦はそれに成功した。だが、二戦目は同じ作戦を使えなくさせられたのだ。
「状況はかなり分かってきた。最後は?」
「あれは完全にこちらの意図を読まれました。私一人で全員を相手に圧勝することで、初戦の再現を図ろうとしたのですが、あっさりと躱されました」
「一対一で勝ってもか……あれは強かったのか?」
今回の会議はレグルスについての話が中心。そうでなくても国王は、レグルスのことが気になってしまう。こちらの計画を台無しにした相手ということではなく、レグルス個人がどういう人間かが気になってしまうのだ。
「強くはありましたが、脅威を覚えるほどではありません。十戦行って十戦勝てる。こう言いきれる実力です。三神将のほうが、そうであって当たり前ですが、上です」
「そうか……」
王国騎士団長を驚かせるほどの実力ではない。それを聞いて、国王は少しがっかりした様子だ。本人は決してそうであるとは認めないだろうが。
「あれが全てであれば」
「……その意味は?」
王国騎士団長は前提を付け足してきた。当然、それには意味がある。無駄に惑わすようなことを言う人物ではないことを、国王は良く知っている。
「動きが鈍る瞬間がありました。理由は分かりません。最初は疲れかと思いましたが、続く動きがそれを否定しました」
「では怪我か?」
「その可能性はあります。ただ、動きが鈍った時のほうが危険に感じました。根拠はありません。ただの勘というべきものです」
動きが鈍った瞬間を狙って一気に決着を。何度かこう思った王国騎士団長だったが、それを行うことには躊躇いがあった。そうしてはいけないというアラートが心に鳴り響くのだ。
この手の感覚を王国騎士団長は信じることにしている。それが自分の命を救うことになることを、経験で知っているのだ。
「勘か……騎士団長の勘であれば信じるべきだと思うが……私には分からんな」
国王には武の方面の才能はない。それでどうして国王になれたのかと言えば、他にいなかったからだ。国王に兄弟はいないのだ。
「レグルス殿につきまして、私から少し情報の補足を」
「何か分かったのか?」
「少しですが、新たな情報が」
発言したのは諜報部長。諜報部はレグルスについての調査を行っている。国王の指示だ。父としての興味なので、それほど力を入れさせたわけではないが、それでも分かったことはある。
「ここで話せる内容か?」
娘のエリザベス王女との関係を話されても困る。こんなことを国王は考えてしまう。そんなことを諜報部長が行うはずないのに。
「そうでなければ発言は致しません」
「それもそうか。では話せ」
「レグルス殿は社交界で「黒衣の貴公子」と呼ばれて、大層な人気のようです」
「おい?」
諜報部長が話し始めたのはレグルスの女性関係について。国王はこう思った。そう思うのも当然だが、話はまだこれからだ。
「ただ社交界とはまったく関係のない、ある筋でこんな通り名が広がっております。「黒炎の鬼公子」という通り名です。鬼公子は鬼の公子です」
「……それは何を意味する?」
「その筋で公子と呼ばれるような人物は、レグルス殿しか思いつきません。では黒い炎を何でしょう?」
諜報部長は「黒炎の鬼公子」はレグルスであると確信している。レグルス本人もそんな呼ばれ方をしているとは知らないのに。
「ブラックバーンではないのか? バーンを爆発と解釈し、爆発の炎で黒い炎」
「その可能性は多いにあります。ただ、こういう言葉もございます。『黒い炎を纏った鬼には近づくな。命を吸われるぞ」という言葉です」
「……それがレグルスのことであるとするなら、あやつは裏でどんな悪事を為しているのだ?」
諜報部長が語った言葉は、明らかに人の生死に関係している。レグルスに殺されるという意味にしか思えない。それをある筋、と諜報部長は曖昧に言っているが、裏社会であることは明らか。そのような者たちに恐れられるレグルスは何なのだと国王は思ってしまう。
「悪事とは限りません。それを語る者たちこそが悪ですから」
「……つまり、何が言いたい?」
レグルスの実力がそれほどでもないと騎士団長から聞いた時はがっかりしたくせに、諜報部長が持ち上げようとすると、それに苛立つ。国王の気持ちは複雑だ。
「ここでお伝えしたいのは、騎士団長の勘を補足する情報です。レグルス殿にはこの演習では見せていない力がある。この可能性をお示ししました」
「……ブラックバーンの技は確か」
それが何かとなると、真っ先に頭に浮かぶのブラックバーン家に伝わる技。それらしき技は確かに見ていないと国王は思った。
「シャドウ。影を操る技としか分かっておりません。影が炎のように見えたのだとしても」
ブラックバーン家の技は、他家と異なり、良く知られていない。使われている場面を見られることが少ない技であることが推測される。そうであれば見て分かる黒い炎は違うと諜報部長は思っているが、ここで完全に否定することはしない。確証がないからだ。
「レグルスにはブラックバーンの力があるということか……もしそうなら……ブラックバーンは何を考えて、跡継ぎから外した?」
自家に伝わる、それもブラックバーン家の技は王家のそれと同じで、血を引いていれば誰でも使えるようになるというものではない。滅多に使い手が現れない技を持つ血筋を跡継ぎから外すなど、国王には信じられない。王位継承権のないエリザベス王女とは違うのだ。普通はそれだけ血が濃いと受け取られ、家中の期待を集めるはずなのだ。
「賢明なのかもしれません。力のあり過ぎる当主を持つことを恐れた可能性もあります」
力は野心を生む。ブラックバーン家がレグルスの野心に巻き込まれることを恐れた可能性はあると、諜報部長は考えた。
「……亡くなったコンラッドは、レグルスはブラックバーン家に嵌らないというようなことを言っていた」
「どういう意味で前北方辺境伯が申されたのかは分かりませんが、そういうことなのでしょう」
ブラックバーン家はレグルスを自家に置いておけないと考えた。理由は分からないが、そういうことだと諜報部長は、それを聞いた国王も思った。
そして王国騎士団長も、この日を境にレグルスへの意識を変えることになる。最大級の危険人物と考えるようになったのだ。