月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

SRPGアルデバラン王国動乱記~改~ 第72話 三角、四角、五画……何画関係?

異世界ファンタジー SRPGアルデバラン王国動乱記~改~

 王国中央学院の授業は、実力者に対しては自由鍛錬を許しているが、全体としては段階を踏んで進められる。元々の教育方針はそういうものであり、自由鍛錬のほうが例外なのだ。
 一学年の間、武系コースは基礎体力作りと剣術基礎が実技授業の中心。二学年になると剣術の実技授業はより実戦的な内容に変わり、さらに槍術や弓術など剣術以外の戦闘術、関連授業として馬術などの授業も加わることになる。それにさらに魔法の授業も始まるので、教室での講義は必然的に減り、実技授業の時間が増えることになる。

「……詰め込み過ぎだよな?」

 その授業内容に対して、少しレグルスは不満そうだ。何事も突き詰めようと考えてしまうレグルスには、学ぶ科目が多すぎるというのは、中途半端に感じてしまうのだ。

「必要な授業ではありますので」

 北方辺境伯家の騎士団で、騎士になる為の鍛錬を行ってきたオーウェンにとっては当たり前のこと。騎士になる為には、多くのことを身に付けなければいけないという考えがある。

「剣もそこそこ、槍もそこそこ、弓もそこそこ出来る奴が三人よりも、剣の腕は一級品だけど他は出来ない。同じように槍と弓でそうである奴が三人のほうが強くないか?」

「……戦い方次第かと」

「それを言ったら全ての戦いがそうだ。強いとされていた側が、指揮官が馬鹿なせいで負けたなんて話はいくらでもある」

 戦い方によっては弱い側が勝つこともある。レグルスの言う「いくらでも」は、長い歴史の中でのことであって、実際には奇跡の勝利なんてものは全体としてはわずかではあるが。

「……剣が得意か、槍が得意かは、実際に学んでみないと分からないのではありませんか?」

「確かに、それはあるか……問題は向き不向きが分かるのにどれだけの期間が必要か……」

 向いていない戦闘方法を学ぶのに時間を使うのは勿体ない。ひとつ納得しても、まだレグルスには不満に感じる点が残っている。

「それを今考えても答えは出ません。そもそも学院の三年間だけで一流の騎士になるのは無理というものではありませんか?」

「それはそうだな。三年かけて最低限の技量を身につけると考えるべきか……」

 時間がないという想いがレグルスにはある。だからといって、焦ってどうにかなるものでもないということは、頭では理解している。最大限のやれることをやるしかないと。

「そうはならないと思いますけど……」

 レグルスに聞こえないように小さく呟くオーウェン。
 不満を口にしているレグルスだが、彼が学院での三年間で会得するものが最低限で終わるはずがないとオーウェンは思っている。目標レベルが、普通の人よりも高すぎるのだ。

「それで……タイラー殿はこのようなところで何をしているのかな?」

 別グループで実技授業を行っているはずのでタイラーが近づいてきていた。それに気が付いたレグルスは、口調を改める。

「少し手合わせをしないか?」

 タイラーがレグルスのいる場所まで来たのは、立ち合いを行う為。人の話を聞いたり、離れた場所で眺めているだけではレグルスの本当の実力は分からないと考え、直接確かめようと考えたのだ。

「今は授業中。人の授業を邪魔するのはいかがなものだろう?」

「授業中であるのは事実だが、雑談をしていたではないか」

「雑談とは失礼な。作戦会議だ。タイラー殿は作戦会議を疎かにするのか? それもまたどうかと私は思うな」

 いい加減なことを言って、立ち合いを断ろうとするレグルス。拒絶の意思を示せれば、中身などどうでも良いのだ。タイラーの自分に対する評価など今更、気にする必要はない。ずっと前から最悪なものだとレグルスは思っている。

「競い合うことで、より成長出来る。お前はこうは思わないのか?」

「その言葉がタイラー殿の口から出るとは驚きだ。我々に良き競争関係など成り立つと本気で思っているのか?」

「思っている。アリシアがそれを教えてくれた」

「では、そう思える相手と競い合えば良い。私は関係ない」

 アリシアの名が出てもレグルスの態度は変わらない。タイラーに言われなくても分かっていた事実だ。そうでなくても、感情を押し隠すことは、タイラー相手であれば容易に出来る。タイラーや他の守護家関係者は、レグルスにとってそういう相手なのだ。

「レグルス……何があった?」

「質問の意味が分からないな。誰であっても、生きていて何もないはずがない。ああ、君も知っての通り、私の場合は少し特殊な出来事はあったか。でも、それを語ることにも意味があるとは思えないな」

「その出来事がお前が変わるきっかけだったのか?」

 多くの人を殺した。それ事態は悪だが、それがもたらした変化は良いものだとタイラーは思っている。タイラーがそう思っているだけで、間違いだ。

「分からないな。私がどうであろうとタイラー殿には関係のないことだ。無意味なことを気にしている時間がもったいない。授業に戻ったらどうかな?」

「……どうしても本音で話す気にはなれないか?」

「タイラー殿と私はそのような関係だったのか? 私にはそういった記憶がないので分からない」

 今、自分に向けている態度も偽り。一部の打ち解けている人たちとの様子を見ていれば、それは明らかだ。拒絶されてもおかしくない、それが当然な関係であったことはタイラーも分かっている。分かっているが、レグルスの変化が、その実力が気になってしまうのだ。

「……分かった。今日のところは引き上げる」

「今日のところ、というのはいらないな」

「再来週の週末に誕生パーティーを行う。招待するから来てくれ」

「欠席で」

 というレグルスの言葉は聞こえなかった振りをしてタイラーは離れて行く。

「……なんだ、あれ?」

 質問の意味が分からない、というのはまったくの出鱈目を口にしたのではない。タイラーの意図をレグルスは分かっていないのだ。

「単純に考えれば、レグルス様の実力を確かめたかったということだと思います」

「それはさすがに分かる。分からないのは、どうしてそう思ったか」

「アリシア様が何か言ったのではないですか? 南方辺境伯家の人間であれば、強いと思われる相手を気にするのは当然のことと思います」

 オーウェンも南方辺境伯家の強さへの拘りは知っている。騎士や騎士を志す従士であれば、誰でも知っていることなのだ。

「あいつ、余計なことを……」

「レグルス様はご自身の実力を確かめたいと思わないのですか?」

 同世代の実力者であるタイラーとの立ち合いは、力試しに丁度良いとオーウェンは思う。それをレグルスが、少しも考えた様子なく、すぐに拒絶したのが不思議だった。

「自分の実力はおおよそ分かっている。タイラー相手に勝った負けたは意味がない」

「それは……まあ、そうですか」

 レグルスとタイラーでは測る物差しが違う。レグルスが比べているのは師匠たち、そしてこれまで実戦で戦った相手だ。比べる相手が違うというだけではない。今の自分を今の誰かと比べることに意義を感じていないのだ。
 これから一年後、二年後の自分はどうであるべきか、その時になった自分はそれと比べてどうなのか。そういうことを測っているいるのだ。
 それをオーウェンは知っている。そして、レグルスが決して今の自分に満足しようとしないことも。それを考えれば、タイラーとの立ち合いは、確かに意味がないとオーウェンも思った。

 

 

◆◆◆

 辺境伯家の屋敷は、領地と同じように、王城の四方に配置されている。万が一、王都に攻め込まれるようなことがあれば、国土を守ると同じように辺境伯家の王都駐留騎士団が城を守ることになっているのだ。南方辺境伯家、ディクソン家の屋敷は当然、城の南。広大な敷地を有している。
 すでにアリシアは、鍛錬を行う為に、何度も訪れている。ただ今日はいつもとは様子が違っている。鍛錬ではなくタイラーの誕生日を祝う為に訪れているのだ。

「……レグルスは一緒ではないのか?」

 一人で訪れたアリシアに、タイラーはレグルスについて尋ねてきた。

「招待していたのですか?」

 だがアリシアは招待されていたことも知らない。それを不満に思う気持ちはない。出席するつもりのないパーティーについて、レグルスがいちいち伝えてくるはずがないと思っているのだ。

「ああ……フランセス殿と一緒に来るのかもしれないな」

「はい?」

 ただ、続くタイラーの言葉はアリシアを動揺させるものだった。

「フランセス殿も招待していて……出席してもらえる予定なのだ」

「えっと……フランセスさんとは仲良くさせてもらっているので、別に良いですけど……まさか、レグルス様も出席すると連絡を?」

「一応」

「…………」

 いつもであれば絶対に出席するはずのない誕生パーティーにレグルスは出席するという。それも、恐らくはフランスが出席するから。それを知ったアリシアは、言葉を失ってしまった。

「別に良いじゃない。貴女の婚約者の座はとっくに風前の灯だったでしょ?」

「キャリナローズさん、それは酷くないですか?」

 キャリナローズが楽しそうにアリシアを揶揄ってくる。レグルスのことになると、アリシアは被っている仮面が外れてしまう。その様子を見るのが面白いのだ。

「この場合、一番酷いのはタイラーでしょ? 婚約者と愛人をパーティーに呼んだのだから」

「い、いや、俺はそんなつもりは」

「そうだよ。タイラーは純粋にフランセスさんを呼びたかっただけだよね?」

「クレイグ!」

 クレイグの暴露に大声をあげるタイラー。その反応は、クレイグの言葉が真実であることを証明したようなものだ。

「それは……ちょっと意外。タイラーは美人というより可愛らしい、庇護欲をそそるような女の子が好きなのだと勝手に思っていたわ」

「私も」

 フランセスは実年齢よりも遥かに大人に見える、色香漂う女性。タイラーの好みとは違うとキャリナローズとアリシアは、自分で言うように勝手に、思っていた。

「いや、だから俺は、別に……」

「動揺している場合ではなさそうだよ? 噂の女性の、邪魔者も一緒だけど、登場だ」

 笑みを浮かべて、フランセスの登場を告げるジークフリート。彼の言う邪魔者は、説明するまでもなく、レグルスのことだ。ジークフリートにとっても。

「あ、ああ」

 ホストとして客を迎える為に動揺を抑えて、実際はさらに胸は高鳴っていたりするのだが、動き出すタイラー。フランセスと、邪魔者のレグルスは、入口のところで立ち止まったままだ。タイラーを待っているのではない。ディクソン家の使用人と話をしているのだ。
 すぐにレグルスだけが、使用人と共にその場を離れて行く。

「……フランセス殿。良く来てくれた」

「お招きありがとうございます。タイラー様」

「その……とても素敵なドレスだ」

 フランセスが着ているのは、体のラインがはっきりと分かる黒のドレス。ドレスそのものは派手なものではないのだが、フランセスのスタイルの良さがドレスを美しく、タイラーには、見せている。

「ありがとうございます。タイラー様に褒めてもらえて嬉しいわ」

「それで、レグルスは?」

 フランセスとの会話をもっと楽しみたいという思いはあるが、レグルスのこともタイラーは気になる。レグルスともっと話したいというだけでなく、どこに連れていかれたのかタイラーも分かっていないのだ。

「タイラー様の御父上に呼ばれたようですけど?」

 タイラーの問いに、フランセスは少し戸惑っている。当然、タイラーは事情を知っているものと思っていたのだ。

「父からは何も聞いていなくて……戻るまであれだ。私がお相手しよう」

「ホストを独占しては他の方たちに申し訳ありませんわ」

「アリシアもいる。アリシアと……アリシアからは仲が良いと聞いているが……?」

 アリシアは婚約者で、認めたくはないがフランセスは第二夫人候補。それをタイラーは思い出した。つい先ほど、キャリナローズに指摘されたばかりだ。気を使わないほうがおかしい。

「ええ、平気ですわ。今気にするべきなのは王女殿下ですから」

 タイラーの気遣いに冗談で応えるフランセス。

「フランセス殿は二番ではなく、一番であるべき女性だ」

「えっ?」

 だがタイラーは冗談としては受け取ってくれなかった。タイラーにとっては、フランセスは誰かの次という立場に甘んじるような女性ではないのだ。

「いや、あの、フランセス殿を、誰よりも一番に愛してくれる男性は必ずいると俺は思う」

「……褒められているのかしら?」

 それほど親しい間柄ではないが、タイラーらしくないというのはフランセスにも分かる。ただそれが客に対する礼儀としてか、もしくは同情からか、フランセスには分からない。

「もちろん褒めている。貴女は……素敵な女性だ。誰かと比べられるような人ではない」

 完全に勢いで、普段は決して口にしないようなことを、フランセスに告げるタイラー。

「……タイラー様は、意外ですけどレグルスに似たところがあるのですね?」

「はっ? 俺のどこが?」

「無意識に女性が喜ぶような言葉を口にするところですわ。気を付けてくださいね? 相手がそれを真に受けて、その気になってしまわないように」

 フランスはその気になってしまった。レグルスが発した言葉が原因ではないが、本当は踏み込むべきではないところに、足を踏み入れてしまった。

「……俺はレグルスとは違う」

「はい。そのほうが良いと思います。そろそろご案内をお願いできますか? 私のせいで他のお客様を退屈させてしまっては、この場に居づらくなりますわ」

「……そうだな。こちらへどうぞ」

 最後にまたタイラーはらしくないことをする。会場の奥に戻る為に振り向いたタイラー。だがその足は、腕を曲げた姿勢で止まったままだ。彼の意図を察したフランセスは、少し躊躇う様子を見せたものの、その腕に自分のそれを絡める。
 普通に女性をエスコートするだけのことだが、タイラーにとっては勇気のいる行動だ。そのまま会場の奥に進む二人。「意外とお似合いだ」はそれを見たクレイグやキャリナローズの感想だ。

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