レグルスがアリシアに隠していることはいくつもある。その中の、割と大きな隠し事のひとつが商売を行っていること。特にやましいことがあって隠しているわけではない。行っている商売は、レグルス自身が始めたくて始めたものではない。なんだかよく分からないが自分に絡んでくる元花街の男衆であったバンディーとその仲間たちに仕事を与える為に、仕方なく始めたものだ。
商売の内容は元花街の男衆であった彼らの経験を活かして、ということとは全く関係ないものが選ばれた。バンディーたちは花街で行われているような商売をやるものと思っていたのだが、レグルスがそれを拒否したのだ。花街の外で行って良い商売ではないという理由で。そのように言われてしまうと、バンディーたちも引き下がるしかない。未経験の商売を始めることを受け入れた。
「……なんか最近、喧嘩の依頼が少ないですね?」
「ああ……花街での揉め事がかなり減りましたので。悪いことではないです」
始めた商売は「なんでも屋」。これも結局、マラカイの後を継いだようなものだ。ただ、マラカイよりも、かなり手を広げようとしているが。
「賭け喧嘩もない」
「ザックに二連勝してしまいましたから。若旦那の天下が続くと分かってしまうと、賭けになりません」
「賭け喧嘩」は花街を盛り上げる為のもの。客は誰が勝つかを予想して、金を賭ける。要は博打だ。レグルスが初めてザックに完勝したのもその賭け喧嘩。さらに連勝したことで、若いレグルス、花街ではアオだが、の天下がしばらく続くとなると賭け喧嘩を仕切る胴元はいなくなる。皆がアオに賭けてしまっては儲けも少なく、賭けとして盛り上がらないのだ。
「なんか、俺が全部悪いみたいだ」
「別に悪いとは言っていません。若旦那に理由を説明しているだけです」
「……その若旦那って何ですか?」
バンディーはさきほどからレグルスを若旦那と呼んでいる。そんな呼ばれ方をするのは今日初めてなので、レグルスは気になった。
「親分というのは駄目だと言われましたのだ」
「当たり前です。俺が一番年下なのに、親分なんてあり得ない」
「親分子分は年齢は関係ないと説明したじゃないですか」
バンディーは花街の親分にレグルスを支えろと言われて、こうして側にいる。そうとなれば、レグルスを親として身命を捧げて仕えなければならない。親子の契りを、と考えたのだが、これもレグルスに受け入れてもらえなかったのだ。
「そうだとしても無理。仮初の俺がそんな立場になって良いはずがない」
レグルスが親分を拒否する理由は年齢だけではない。アオという存在は仮初のもの。いずれ消える仮初の自分が、バンディーたちの命を預かるわけにはいかないと考えている。ブラックバーン家に、一応は、仕えている身のエモンやジュードとは違うのだ。
「そういう考えを持てるというだけで、親分に相応しい思いますけどね……でも、まあ、嫌なものはしようがないです。だから代わりに若旦那」
「いや、だから若旦那って」
「旦那様っていうのも違いますでしょう?」
旦那様という呼び方は間違いなく、レグルスに拒否される。一応はバンディーも考えて、若旦那と呼ぶことにしたのだ。
「……なんか、商家のお坊ちゃまみたいです」
これはレグルスの偏見。王立中央学院にいる大商家の子が、まだ若く、爵位はなくても何不自由のない暮らしをしていることで、レグルスから見ると、苦労知らずのお坊ちゃまに見えるというだけ。若旦那と呼ばれている人が全て、そういう人ではない。立派に店を切り盛りしている人のほうが多いのだ。
「我々がやっているのは?」
「……商売」
「はい。若旦那でよろしいですね?」
バンディーも少しレグルスの扱いに慣れてきた。気難しい性格であるようだが、意外と人の話は、もちろん正しいと思うものだけだが、素直に聞く。少し強引でも受け入れてくれるのだ。
「店では良いか。ただ、その商売が好調とは言えませんね?」
「ああ、でも、仕事がないわけではありません」
「当たり前です。仕事がまったくなければ、商売として成立していないことになる。続ける意味がありません」
レグルスは、マラカイのように知り合いの伝手だけに頼るような真似はしていない。自分たちで積極的に仕事を取りに言っている。一般庶民との人脈などないレグルスだ。そうしないと本当に、花街での喧嘩以外は、仕事はないのだ。
「言われた通り、酒場、食堂などはかなり回っています。ただ、仕事をくれる奴らは少ないです」
「ああ、それは気にしなくて良いです。仕事があろうがなかろうが、定期的に回ってください」
「仕事がなくてもですか?」
バンディーがまだ慣れないのはレグルスの言葉足らずのところ。詳しい説明がないので、意図が分からない時があるのだ。
「最初に言いましたよね? 酒場や食堂ではとにかく店の人と話をすること。色々な話を聞くことだって」
「それは聞いています」
「そうやって集めた情報に、商売に繋がるものがあるかもしれない。誰誰が困っている、なんて最高の情報です」
「ああ、確かに」
レグルスは酒場や食堂から直接仕事を貰おうと考えているのではない。仕事があれば良いとは思っているが、それよりも相談したい人を見つけるのに利用しようと考えているのだ。
「上手く回れば、店の人が俺たちの商売を客に伝えてくれるようになるかもしれません。『何でも屋』なんて商売、あまり馴染みがないでしょうから、まずは認知してもらうことが大事です」
「……そういうことは、どうやって知るのですか?」
「えっ? ああ、こう見えて勉強は好きなので。頭の中で考えたことだから上手く行くかは分かりません。でも、やってみないと出来るはずがありませんから」
レグルスは商売の勉強をしたわけではない。歴史や戦略、戦術を学んで得た知識を応用出来ないか考え、思いついたことを実践しているだけだ。本人も必ず上手く行くとは考えていない。
「それで良いから、考えて欲しいことがある」
「あれ? リキ。どうした?」
割り込んできたのはリキ。彼がこの店に顔を見せたのはこれが初めて。用などないはずのリキが来たことに、レグルスは驚いている。
「相談があってきた」
「おお? 客としてか?」
「……金は払えない」
「ええ…………まあ良い。聞くだけ聞いてやる」
わざわざここまで足を運んできたのだ。よほど困ったことがあるのだと思われる。解決出来るか分からないような面倒ごとが。こう考えて、まずは話を聞いてみることにした。
「うちに雇って欲しいと言ってきた人たちがいた」
「そいつらに問題がある?」
「悪い人たちではない。かなり悪い条件で働かされているみたいで、どうにもならなくなって、うちを頼ってきた」
「これまでもそういうのあっただろ?」
リキは、他とは比べものにならない好条件で人を雇っている。そういう農場を作り上げることがリキの夢。レグルスに教えられて、それが彼の夢となったのだ。その噂を聞いて、雇って欲しいと申し入れてくる人はこれまでもいた。それだけであれば、相談されるような事柄ではないのだ。
「数が多すぎて雇えない。その人たちはかなり追いつめられているみたいで、このままでは死ぬしかないとまで言っている」
「……それを信じた?」
「言葉だけで信じるほど、お人好しじゃない。状況は調べた。実際に待遇はかなり酷い」
「それでも死ぬしかないという状況か? 死ぬ気になれば、まだやれることはあると思うけどな」
本当に死ぬしかないという状況まで追い詰められているのであれば、何かやれることはあるはずだとレグルスは思う。薄情な考え方かもしれないが、その人たちの、責任をリキに押し付けるような言動が気に入らないのだ。
「そのやれることを教えて欲しい」
「……雇い主と交渉すれば良い」
「聞き入れるはずがない」
「普通にやればそうだ。聞き入れるしかない状況に相手を追い込む。それが出来て初めて交渉の席につくことが出来る」
普通に交渉するなんてことはレグルスは考えていない。何もせずに死ぬよりはマシ。発想の基準はここにあるのだ。
「……どうやって追い込む?」
「働かないで。まさにこれから収穫って時が良いだろうな。収穫出来なければ雇い主は大損だ。それよりはマシな程度の待遇改善は受け入れる可能性がある」
雇い主は、待遇面で強気に出ていても、労働力を必要としている。無用な労働力であれば、そもそも雇わない。無駄なコストなど払うはずがない。雇い主はもっとも労働力を必要とする時に、労働を放棄する。要はストライキだ。
「そんな上手く行くのか? そのまま解雇なんてことになるかもしれない」
「そうなっても結果は同じ。死ぬだけだ」
「アオ、お前って……」
レグルスらしい考え方だとリキは思う。このような考え方は捨てて欲しいと心から思っているが、リキにはどうにも出来ないのだ。
「問題は全員が協力すること……無策では無理か。最悪の場合は北方辺境伯家が保護するとでも言えば良い」
「良いのか?」
「全員は無理。影響力のありそうな奴、数人だな。全員の意見を雇い主との戦いに向けられ、それを維持できる奴らにだけ伝えれば良い」
周囲に流される人々に保証は必要ない。裏切る決断も出来ないはず。仮に好条件を出されて、雇い主側に寝返ったとしても、大勢に影響はない。他の人たちにも好条件を約束しなければならなくなるだけで、それはそれで目的は達成だ。
「……他の人に話す可能性がある」
「後ろめたさを感じていれば話せない。保証などいらないと突っぱねる善人も、話すことはしない。人々の和を乱すだけだからな」
「それをさせる俺たちは善人ではない」
「悪と戦うのは正義でなければならないなんてルールはない。それに、正義は必ず勝つなんてリキだって思っていないだろ?」
目的を達成する為であれば手段は選ばない。これもレグルスのやり方だ。今回は、自分が何か得るわけでも、当事者になるわけでもないので、さらにリスクを考える必要がない。成功すれば好待遇が得られ、失敗する全てを失う。これをどう考えるかは、レグルスではなく、当人たちが考えることだ。
「……分かった。この方法を伝える」
「中心となる奴に伝えたら、リキは手を引けよ。関わりを持っていると、成功失敗どちらであっても面倒なことになる」
「そうだな。そうする」
同じ雇い主の側にいるリキが、裏で糸を引いているなんてことが知られれば、かなり恨まれることになる。リキは善意からではなく、私欲でその人たちを動かしたのだと思われる。関係のない人たちもそう思うかもしれない。それは、この先のリキに悪影響を与えるだけ。深入りするべきではないとレグルスは考え、リキもそれに納得した。
この結果がどうなるかは、当事者たちの問題になる。
◆◆◆
何故こんなことになってしまったのだろう。この疑問が頭に浮かんだが、すぐにこんなことを考えるのは馬鹿過ぎると彼女は自分で自分を否定した。彼女は現在、この王立中央学院で女子学生を、正確には一学年の女子学生の頂点に立つサマンサアンに逆らった。怒りを買い、自分が虐められる側に追い込まれる可能性があることは分かっていたはずだ。
それでも彼女は賭けに出たのだ。このまま卒業して、どこかの貴族家に嫁ぐ。その時にはサマンサアンもジークフリート第二王子と結婚しているかもしれない。そうなると彼女とサマンサアンに直接の接点はなくなる。社交界の場で会う可能性はある。だがそれだけだ。今、サマンサアンに従っていても、彼女にメリットは何もない。
では逆らうデメリットは何か。王子の妃であるサマンサアンのほうが当然、格上になる。だが、王家に嫁ぐ彼女はほぼ常にホストの側。客を、彼女をもてなす側だ。恐れる必要はない。嫁ぎ先そのものがデメリットを被る可能性はあるか。王子の妃であるサマンサアンに政治に口出しをする権限などない。城の奥で静かに暮らしているしかないのだ。
そうであれば、三年間の学院生活においてリスクを背負うことなったとしても、北方辺境伯家に嫁ぐことを試みるべき。それが第二夫人であろうと第三夫人であろうと、何も試みることなく流された結果、嫁ぐ先よりもずっと良い待遇を得られるはず。彼女はこう考えたのだ。
実際は咄嗟に考えたことではなく、レグルスとの関わりを持つようになってから熟慮を重ね、得た結論だ。関係を続ける、もっと深める。その覚悟を決める為に考えて出した結論なのだ。
だが、甘い考えだった。このような屈辱に二年半以上も耐えられるのか。とても無理だと彼女は、もう思っている。自分は賭けに負けたのだと思っている。
涙が零れてくる。絶対に泣くものかと耐えていたのに、とうとう涙が瞳から零れ落ちてしまった。誰もいない部屋で、一人で泣いても誰も助けてくれないというのに。
「えっ?」
その誰もいない部屋の扉が開いた。内からは開かないように細工されていた扉が。それを彼女は喜ぶ気にはなれない。この状況を仕組んだ、仕組んだのはサマンサアンだが、実行に移した手下たちが、自分を蔑む為に現れたのだと思った、のだが。
「あの、フランセスさん……大丈夫ですか?」
「貴女……」
現れたのは予想していた顔ではなく、アリシア。セリシールだった。
「大丈夫なはずないですね? 今、貴女が置かれている状況は、その、私も経験していますから、気持ちは分かります」
「…………」
そうさせた一人はフランセス。着替えている途中のアリシアの隙をついて、脱がれていた全てを持って部屋を出た。下着姿のアリシアを残して。今のフランセスも同じことをされたのだ。違うのは部屋から出られないように閉じ込められたこと。誰かが入ってきて下着姿の自分を見つけるまで、逃げられなくされたこと。
「あの、これ、フランセスさんの制服だと思います」
「……どうやって見つけたの?」
「偶然、捨てているのを見つけて。捨てられる前に気付けば良かったのですけど、最初は何だか分からなくて」
アリシアがここに来たのは、偶然、フランセスの制服をゴミ捨て場に捨てている同級生を見かけたから。誰かが自分と同じことをされたのだと分かったからだ。
「そう……とりあえず、渡してもらえるかしら?」
「はい」
「…………」
制服を取り戻せた。だが、フランセスはすぐにそれを着る気にはなれなかった。異臭を放つそれを着ることなど出来なかった。
「無理ですよね? 汚れを払ったくらいでは匂いは消えなくて……そうですよね」
こう言いながらアリシアは自分の制服を脱ぎ始める。
「……何をしているの?」
その行動の意味はフランセスには分からない。分かるはずがない。
「とりあえず私の制服を着てください。明日、いえ、匂いを取るのにもっとかかるかしら。とにかく綺麗になったら交換しましょう。予備の制服は持っていますよね?」
アリシアは自分の制服と異臭を放つフランセスの制服を取り換えようとしている。そんな行動が分かるはずがない。アリシアが自分にそんなことをしてくれる理由などあるはずがない。恨まれているいるはずなのだ。
「……どうして?」
アリシアの気持ちが理解出来ない。分からな過ぎて、フランセスの頭は混乱している。
「さっき言った通りです。私にはフランセスさんの気持ちが分かります。でも、私には助けてくれる人がいました。その人に出会えた時は嬉しく嬉しくて……私だけが救われたのでは、不公平です」
「…………」
だからといって自分をそんな目に遭わせた人間を助ける気になれるのか。自分はどうかとフランセスは自分自身に問いかけた。無理だと、すぐに答えが出た。
「……ち、ちょっと、あれですね? 胸周りに余裕が……誰にも見られないから平気か」
交換はしたもののサイズが合わなかった。といっても胸の大きさが少し、ではなく、かなり違うくらい。それ以外も合わないと言えば合わないが気になるほどではない。アリシアは。
「…………ごめんなさい」
自分がアリシアの服を着るのを待つことなく、彼女は異臭を放つ制服に着替えてしまった。本当にそれで帰るつもりなのだと、フランセスは思い知った。自分の為に、そんなことが出来るのだと知った。
「謝らないでください。自分が惨めになります。胸は、少しだけですけど、コンプレックスなので。それもアオの……いえ、大丈夫です」
胸の小ささがコンプレックスになったのはレグルスのせい。これは今言うことではないと思って、アリシアは途中で飲み込んだ。
「……ごめんなさい。それと……ありがとう」
そんなアリシアがフランセスは眩しかった。自分に引け目を感じさせることなく、当たり前のように制服を交換してくれるアリシアの優しさが胸に染みた。涙が、さきほどまでとは違う涙が、両の目から零れた。
「えっ? 泣かないでください。あっ、いえ、泣きたくもなりますよね? 私もそうでした。じゃあ……泣いてください。気持ちが落ち着くまで」
こんなことを言われてしまっては、ますます涙が止まらなくなってしまう。アリシアに甘えて、というわけではないが、フランセスはしばらく泣き続けた。
「ええ!? 先生! ここで苛めが行われています!」
そんな状況で、いきなり部屋に響いた声。
「なっ……? じゃない。ふざけないでよ」
嵌められた、と一瞬思ったアリシアだが、すぐに違うと分かった。声がレグルスのものであることに気が付いたのだ。
「泣かせているじゃ……あっ……ああ……」
部屋に現れたレグルスは、相手がフランセスであることを分かっていなかった。またアリシアが面倒ごとに巻き込まれたようだと知って、様子を見に来ただけなのだ。
「何、知り合い? あっ……レグルス様のお知り合いですか?」
フランセスのいることを思い出して、口調を改めるアリシア。
「……ちょっと」
「…………」
だが精神状態は普段、レグルスと一緒にいる時に完全に戻っている。ジト目でレグルスを睨んでいる。
「とりあえず! どうする? この場合は……どういう状況?」
「ちょっと!? 何を見ているの!?」
またアリシアの口調が元に戻ってしまう。フランセスは下着姿のまま。その彼女をレグルスが無遠慮に見てしまっていることで、取り繕う気持ちが消えてしまったのだ。
「ああ、ごめん。どういう状況? 教えてくれ」
慌てて背中を向けて、状況を尋ねるレグルス。
「……フランセスさんが前の私みたいにされて。制服は私が見つけて持ってきたのだけど、ちょっと匂いが」
「その匂いがある制服をお前が着て、代わりにフランセスさんに自分のを貸そうとしたと……まったく」
どうしてそんなお人好しな真似が出来るのか。呆れているレグルスだが、その顔には笑みが浮かんでいる。レグルスはフランセスがアリシアへの虐めの当事者であることを知っている。その彼女を普通に助けられるアリシアの良心が、嬉しくてたまらないのだ。
「とりあえず、その臭い制服を脱げ」
「……変態」
「俺の服を貸してやるって言っているんだ。靴は?」
「……ある」
靴は奪われていなかった。たんに虐めを行った女子学生たちが持っていけなかっただけだが、そんなことはこの場では分からない。
「じゃあ、背負う必要はないな。さっさと着替えろ」
「分かった」
レグルスが放り投げた服を受け取り、フラセンスの制服を脱いで、上からそれを羽織る。アリシアのそれを見て、フランセスも動き始めた。
二人の着替えが終わり、校門に向かおうとしたレグルス、だが。
「……ん? どうしてフランセスさんがお前の制服を着ている? お前は自分の制服を着て、フランセスさんが俺のを着たほうが良いだろ?」
これではお互いの制服を交換する手間が生まれる。何をおかしなことを、とレグルスは思ったのだが。
「良いの、これで。さあ、帰ろう」
「……変なの?」
アリシアはわざとそうしたのだ。その理由は、フランセスにはすぐに分かった。「なんだ、ちゃんと愛されているのね」というフランセスの呟きは、レグルスには聞こえなかった。