月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

SRPGアルデバラン王国動乱記~改~ 第34話 プロローグの始まりはもう間もなく

異世界ファンタジー SRPGアルデバラン王国動乱記~改~

 次の次の北方辺境伯を継ぐかもしれない人物。彼はそれに相応しい人物であるのか。こんなことを考える資格など自分にないことは、ジャラッドには分かっている。騎士は当主がどのような人物であろうと、全身全霊を尽くして仕えるだけ。そうでなければならないとジャラッドは思っており、部下にもそう教育をしている。
 だが今、ジャラッドの頭の中には、考えるべきではないことが浮かんでしまっている。領地にいる時とは違い自由な時間があり過ぎるから。こんな言い訳を頭に浮かべてみても意味はない。結局、彼のことが頭から離れないのだから。
 出来が悪いと評判の彼だった。将来の北方辺境伯には相応しくない。他家の者まで彼をそう評価した。領地に聞こえてくる噂は、そんな風に評されるのも当然だと思うようなものばかりだった。
 そして極めつけが今回の出来事。歓楽街の悪党どもと揉め事を起こし、百人以上を殺してしまったという、とんでもない報告が領地に届いたのだ。
 次々代は弟のラサラスで決まり。家臣の間で、この情報が決定事項であるかのように流れた。弟のラサラスは彼とは腹違い。母親は領地にいる正妻ではないという点で、彼を支持していた者たちも、さすがに諦めた。
 だが大勢がそうである中、異なる考えを持っていたのは現当主コンラッド、そしてどうやら、その息子であり次の当主となるベラトリックスもそうであることをジャラッドは王都に来てから知った。
 ただ知った時もそれほど意外には思わなった。弟のライラスは、これもジャラッドが考えて良いことではないのだが、当主として物足りない。アルデバラン王国貴族の頂点にいる辺境伯の一人として君臨するには、まだ成人前の今の段階では、足りないものが多過ぎる。結論を今出せないのは仕方がないことだとジャラッドは思った。

(自分は所詮は騎士か……)

 騎士であることに誇りを持っている。だが、武以外のことにおいては、自分は無力だとジャラッドは思う。現当主と次代の当主、二人の考えを推し量る力などないことを思い知らされた。
 彼は比較対象である弟がまだ未熟であるから、将来の当主候補として残されたのではない。彼自身の資質を評価されて、これほどの不祥事を起こしても、当主候補として置き続けるべきだと考えさせているのだ。

(影響力。一言にしてしまうと、あれだな)

 彼の力のひとつは影響力。言葉にしてしまうと軽く感じてしまうくらいの影響力。場の空気を変えてしまう力が彼にはある。それは屋敷にある訓練場でも、花街でも証明された。ジャラッドはそれを目の当たりにしている。だからこそ、今彼のことを考えてしまうのだ。

(問題は……本人がブラックバーン家に価値を感じていないことか)

 彼は自分がブラックバーン家の人間であることを毛嫌いしている。付き人に少し聞いてみた感じでは、以前からのことであるようだが、今回の一件でそれは決定的なものになったのだとジャラッドは考えている。彼は花街で「本当の意味で仇討ちを行うなら自分を殺すべきだ」と言った。それはブラックバーン家の自分を殺すべきと言っているのだとジャラッドは理解している。

(自分自身の命にも、か……)

 彼は死を恐れていないのではなく、死にたがっている。明確な意思は感じないが、そう思わせる雰囲気がある。そうでなければ、成人前の子供が「死に様」なんて言葉は使わない。ジャラッドはそう思う。

(死なすわけにはいかない。ブラックバーン家に仕える者として、それを許すわけにはいかない。では、どうする?)

 死に急ぐ彼を止めなければならない。その為にはどうすれば良いのか。騎士である自分に出来ることはあるのか。ジャラッドの思考はこのことに移った。仕える者を守る為には何を為すべきかという、騎士であるジャラッドが考えるべきことに帰ったのだ。

 

◆◆◆

 彼のことを考えているのはジャラッドだけではない。当主であるコンラッドも、その息子であり、次期当主であるベラトリックスも彼について考え、話し合っていた。二人の話し合いは副騎士団長であるジャラッドに比べると、遥かに政治寄りの要素が強くなる。ブラックバーン家の、北方辺境伯家の将来に繋がることだ。そうなるのは当然だ。

「成人前から花街で人気者か」

「申し訳ございません。好き勝手をさせ過ぎました」

 このやり取りは政治にはほど遠い、祖父と父としての会話だが。

「謝るようなことではない。遊び呆けていたわけではないのだろう?」

「はい。調べたところ、殺された家族は花街との関係が深かったようで、その繋がりで花街に足を運んだことが何度もあるようです」

「百合太夫か……噂は儂も聞いていた。引退前に会いたかったものだな」

 百合太夫の噂は北方辺境伯の耳にも届いていた。王都歓楽街、花街はアルデバラン王国における最高の社交場とされている。力ある、金のあると言い換えてもいいが、貴族家には情報が届くのだ。

「父上は花街に行ったことがあるのですか?」

「行けるわけなかろう。儂の立場で、花街で遊んでいるなどと世間に噂されるわけにはいかん」

「そうですね」

 父親も同じ考え。花街に遊びに行こうと思ったことはない。それが許される身ではないと、父親も考えていたのだ。

「だがあれはそれが出来る。平民に好かれるというのは、どういう資質なのだろうな?」

「私に分かるはずがないではありませんか。私は父上の歩んだ道をなぞってきた人間です」

 領民を喜ばせる政策を行うこともある。だが、それはただの人気取り。意識してのことであり、しかもそれで領民が本当に喜ぶかといえばそうではない。領民は他のことで多くの不満を持っている。それを少しだけでも和らげられないか、程度の施策なのだ。

「悪いことではない。ただ甘いだけでなければ」

 領民に好かれている領主は理想だ。だがそれはあくまでも、十分な税が徴収出来、領地運営が回るという前提があってのこと。無理に税率を低くして領民から人気を得ても、領地が貧しくなれば、結果、領民は苦しむことになる。そんな人気は意味がない。

「敵には容赦しない強さもあります。ただ、少し苛烈過ぎます。しかも家臣にも平気でそれを向ける。平民に優しく、家臣に冷酷。これでは上手くいかないでしょう」

「確かにな」

「なので、婚約はこのまま進めようと思います」

「話が飛ぶな」

 ここで婚約の話になるのは唐突。コンラッドはそう感じた。当然それを言い出したベラトリックスにとっては理由のあることだ。

「本当にレグルスの暴走を止められる女性であれば、という前提です」

「尖ったガラスを丸める役目か……丸めすぎるのも問題だな」

 尖ったところが彼の良いところでもあるとコンラッドは考えている。人の好さだけであれば、弟のライラスとそれほど変わりがなくなってしまうと。

「問題があれば当然、解消ということになります」

「……段取りを整えたのはミルズだったな。奴は何を企んでいた?」

 彼に殺された執事のミルズは、善意で婚約を整えたわけではない。コンラッドは、ベラトリックスもそう考えている。

「はっきりしたことは分かっておりませんが、レグルスに弱点を作ろうとしたのではないかと考えております」

「平民を妻にしていることか……ライラスの婚約に対しても動いている可能性があるな」

 妻が平民だというだけで責められることはない。婚約が成立している時点で、ブラックバーン家はそれを認めているということだ。では平民を娶らせることに何の意味があるのか。兄弟で比較した時に、彼の評価が低くなるように仕向けた可能性をコンラッドは考えた。比較対象であるライラスが、北方辺境伯家に相応しい妻を迎えることで、彼の評価を貶めようとした可能性を。

「そうだとしても小さな企みです。その程度しか考え付かない家臣を育ててしまったことを、お詫びいたします」

 跡継ぎ争いで謀を弄すくらいのことは、咎めることではない。他家との間ではもっと複雑な駆け引きや謀が行われる。次代の北方辺境伯家を支える王都の上級使用人たちは、他家に勝る能力を育てなければならないのだ。

「それだけ王都は平和だということだ。悪いことではない。この先も平和であり続けるのであればな」

「平和は続きませんか?」

 コンラッドの言葉にはそう感じるニュアンスが含まれている。

「対外戦争はなんとかなっている。だがそういう状況が長く続くと、内でつまらないことを考える者が出てくるものだ。今具体的に何かあるというわけではなく、歴史がそれを示している」

 アルデバラン王国の侵攻戦はこれまで全て勝利で終わっている。領土は拡張し、正面から敵対出来る国の数は減り、周辺国にはいない。その一翼を担っている北方辺境伯家としては大きな戦争がないことは良いことだ。
 だが、他国から攻められる心配がなくなり、国が落ち着くと、その平和の時を穏やかに過ごすことなく、良からぬことを企む者が出てくる。過去の歴史で何度も繰り返されたこと。亡国の憂き目にあった国も多くある。

「今、怪しいのはミッテシュテンゲル侯爵家です」

「つまらない遠慮はするな。ミッテシュテンゲル侯爵家と、それと手を組もうとしている王家だ」

 対外戦争による消耗がないミッテシュテンゲル侯爵家は財力では、他の守護五家に優る。軍事費が他家と比べると無に等しいことも大きい。その財力と王家、王国の軍事力が結びつくとどうなるか。東西南北の辺境伯家にとっては警戒すべき状況だ。

「陛下は愚かではないと思います」

「だが覇気もない。これは批判ではない。平和な時代の王としては悪くないと儂も思う。だが、臣下を抑え込めないのは問題だ」

 現国王は愚かなことを考え、国を乱すような人物ではない。穏やかな性格で、平和を好む人だ。だが穏やかと弱気が紙一重のところがあり、臣下に対して強く出ることがないのだ。それをコンラッドは不安視している。愚臣などいくらでも生まれるものだと考えている。

「……もし万一、国が乱れるようなことになった時、レグルスはかえって危険ではないですか?」

「乱世で輝く男だと? 確かに輝き過ぎるのは問題だな」

 彼の存在は乱世をさらに乱すことになるかもしれない。その中心にブラックバーン家がいるという状況など、コンラッドも望むものではない。

「兄弟二人で上手くバランスが取れると良いのですが」

「それは父であるお前の問題だ。言い訳を許すとすれば、国の制度だな」

 辺境伯本人以外の男子は王都で暮らすという制度。意図は分かるが、馬鹿げた制度だとコンラッドは思う。百歩譲って、正妻は領地に残る必要はない。それによって、常に側にいる側妻が思い上がり、内紛が起きたりする。それも王家の意図したものだとすれば、大した制度となるが。

「もう一つ言い訳を許していただけるのであれば、レグルスが急成長し過ぎました」

 かつては、仲の良い兄弟とは言えないが、深い溝があるという風ではなかった。暴れん坊のレグルスと大人しいライラス。喧嘩しながらもそれなりに接点はあった。それがほぼ途切れたのは、レグルスの変化が原因。レグルスの側がライラス、だけでなくブラックバーン家と急速に距離を取り始めたからだ。

「……あれはどうしてだろうな?」

「分かりません。怠け者だったレグルスが、気が付けば毎日、騎士たちよりも熱心に自分を鍛えるようになっておりました。婚約者となる女の子のおかげだと聞いておりましたが、それを伝えたのがミルズとなると、はたして真実かどうか」

 真実は分からない。分かるはずがない。同じ人生を何度も繰り返しているからだなんてことは、同じ経験をしている者にしか分からない。つまり、今のコンラッドとベラトリックスにとっては、これが初めての人生ということだ。

「……その子にも会いたかったな。次に王都に来る機会……下手すると結婚が先か。本当に忌まわしい制度だ」

 孫の結婚相手にも事前に会えないかもしれない。これを思うと王都駐在の制度が忌まわしくコンラッドには感じられる。

「必ず一度、領地に行かせますので」

 会えないのは母親も同じ。絶対に、早いうちに彼と彼女を領地に行かせないといけないとベラトリックスは思った。なんだかんだで最後は、祖父と父が子供の話をしているだけになってしまった。それも仕方がない。この親子がこうして会って、二人きりで話すのも何年振りという状況なのだ。

 

 

◆◆◆

 ブラックバーン騎士団副騎士団長のジャラッド、そして当主コンラッドとその息子であり、彼の父であるベラトリックスの共通の思いは、とにかく彼は危なっかしいというもの。危なっかしいは身内だからこその、かなり緩い表現だ。危険人物というのが普通の評価だろう。周囲にとってだけでなく、本人にとっても。

「なんか、お守役が増えた」

「お守役ではありません。護衛騎士を務めさせていただくオーウェンです」

 ジャラッドが採った策は、護衛騎士を付けるというもの。オーウェンには命がけで彼を守れと命令しており、それを忠実に実行する人物だと見込んでの選定だ。

「護衛騎士ならすでにいる」

「従士では力不足です」

 オーウェンの言葉を聞いて、肩をすくめるジュード。文句は言えない。公式にはオーウェンはジュードの上司。歯向かって良い相手ではないのだ。

「お前は力があるような言い方だ。年齢はそれほど変わらないみたいだけど?」

 オーウェンも若い。彼はともかく、ジュードと比べるとそう変わらない年齢に見える。実際にそうだ。そうであるのにジュードは従士で、オーウェンはすでに騎士。それが二人の実力差を、騎士団の評価においてだが、示している。

「試されますか? 副団長からは剣の鍛錬のお相手もするようにと命じられております」

「……ジャラッドよりは弱いよな?」

 ジャラッドにも彼とジュードは剣を教えられている。とんでもない強さだった。自信のあった体力でも全然敵わなかった。それは、ジャラッドはほとんど動くことなく二人の剣を捌いていたから。剣の実力差があり過ぎたからだが。

「当たり前です。ですが、いつか必ず副団長を超えてみせます!」

「あっ、熱血な感じ苦手」

「はい?」

「何でもない。ちょっと言ってみたかっただけだ」

 熱血度であれば鍛錬を行っている時の彼も負けていない。口にしたのは、それを彼女に揶揄われた時の言葉だ。それが自然と口に出た。内心で彼はそれに驚いている。

「一応、申しあげておきますが、ジュードのことを見下しているつもりはありません。副団長からは良い競争相手になるだろうと言われました」

「それなのに力不足?」

「今は負けているとは思いません。この先も負けません。常に一歩先を自分が進むつもりです」

「やっぱり、苦手かも」

 自分とは異なる性質の熱意。本当に苦手のタイプかもしれないと彼は思った。この勘はある意味、正しい。オーウェンは後に、唯一の良心と評されることになる部下。彼やジュードとは異なる性質の人物なのだ。そんな人物が彼の周りに一人加わることになった。
 ゲームの始まりは、もう間もなくというところで。

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