月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

SRPGアルデバラン王国動乱記~改~ 第33話 悔根と感謝

異世界ファンタジー SRPGアルデバラン王国動乱記~改~

 ブラックバーン家の王都屋敷内には緊迫した空気が漂っている。現当主、北方辺境伯コンラッド・ブラックバーンが領地から王都にやってきたのが、その理由だ。彼の父、ベラトリックス・ブラックバーンも家臣に舐められるような人物ではないが、王都屋敷にいる上級使用人の多くはベラトリックスとは、彼が成人する前からの付き合い。なれ合いの気持ちがあることは否定できない。
 だが現当主にはそんな気持ちは抱けない。コンラッド本人だけでなく、彼に仕えている使用人たちは皆、ベラトリックスの使用人たちにとって先輩で、厳しい目を向けてくる人たち。先輩たちの前で不手際は許されないと思う上級使用人たちの緊張が、下にも伝播しているのだ。
 そんな中、周囲の雰囲気にまったく影響されることなく、彼、レグルスは日常を過ごしている。当主である祖父にどう思われようと彼にはどうでも良いこと。そんなことよりも日課をこなすほうが大切なのだ。
 その日課も思うようには行えない。屋敷の外に出ることは、未だに禁止されている。勉強や魔法制御、エモンと一緒に盗み技を鍛えることには不自由は感じないが、体力づくりなどはそうはいかない。広大な屋敷であっても、さすがに流れの強い川などない。開墾場のように大きな岩や地面に広がる木の根もない。自家の騎士たちが訓練している場所で走り込みを行うか、短い階段を何度も何度も昇り降りするか。ただでさえ地味な体力作りがさらに退屈なものになっている。
 それでも彼がそれを怠ることはない。出来ることは行って、あとは剣術の鍛錬時間を増やすなどして、鍛えている。

「今、呼びます」

 騎士の訓練場に来た父、ベラトリックスは彼を呼びつけようとしている。

「良い。少し様子を見よう」

 それを止めたのは、今現在、屋敷の人たちを緊張させている当主、コンラッドだ。コンラッドが王都を訪れたのは、来るとなれば色々とやるべきことは沢山あるが、彼の様子を確かめる為。さすがにワ組との抗争については、領地にいるコンラッドに報告された。素行不良、で済むような問題ではないのだから当然だ。

「……どう思う?」

 しばらく彼が鍛錬している様子を眺めていたコンラッドが、すぐ後ろに控えている騎士に問いかけた。領地からコンラッドの護衛責任者として付いてきた騎士。ブラックバーン騎士団の副団長を務める男だ。

「……技量については粗削り、というより、きちんと習っていないように思われます」

 副団長はこう言いながら、さらに自分の斜め後ろに立つ騎士に視線を向ける。王都屋敷にいる騎士団の長、王都駐留部隊の部隊長だ。

「……レグルス様が望まれませんでしたので」

 まったくの嘘ではない。だが、この言い訳が通用しないことは部隊長も分かっている。本人の意向がどうであろうとブラックバーン家の公子に相応しい技量を教えるのが、王都駐留部隊の仕事のひとつなのだ。

「だが、レグルス様は今、目の前で剣術の訓練を行っている。相手をしているのは王都駐留部隊で一番の使い手か?」

 百歩譲って、過去はそうであろうと今、彼は剣術の稽古を行っている。それに対して、王都駐留部隊は全力で支援しなければならないはずだ。

「……いえ。従士です」

 ここで嘘をついて誤魔化してもすぐに真実は知れる。副団長であれば相手の技量はすぐに、そして正確に測れるはずなのだ。

「閣下。原因は今、お聞きになった通りです。ただ、幸いなことに今からでも遅くはない。そう思える力はあると判断致します」

「才能があると?」

「私程度では、遠くから見ているだけでは才能は測れません。恐らくは、実戦を経験した者の強さではないかと思います」

 剣術の技量はまだまだ拙い。それでも彼は、王都駐留部隊の騎士と互角に戦えるのではないかと副団長は判断している。彼と騎士たちとの実力を縮めたのは実戦経験。命がけの戦いをしているかしていないかだと。

「なるほど……それでも、きちんとした教えは必要だな」

「御意。滞在中は私がお相手致します。その後も、しかるべき者を選びましょう」

「それで良い。さて、少し話をしたいな」

 自分が現れたことは彼には分かっているはず。だが、彼はそれに一切、構わず鍛錬を続けている。無礼であると苛立つ気持ちはコンラッドにはない。尻尾を振って近づいてくるよりは遥かにマシだ。
 コンラッドの意向を伝える為に、家臣が駆けて行く。それに気が付いた彼は、ようやく手を止めて、視線を向けた。
 家臣と二言三言話をしてから、歩き出す彼。それを見て駐留部隊の騎士たち、使用人たちの間に緊張が広がっていく。

「……ふむ」

 それを感じて、わずかに口元を緩めるコンラッド。

「……お話があると伺いました」

 近づいた彼は、騎士や使用人たちの雰囲気などまったく気づいていないかのように、祖父であるコンラッドに話しかけてきた。

「鍛錬の邪魔をして悪かったな。その代わりではないが、明日からしばらくはこのジャラッドが相手をする」

「……そうですか。承知しました」

 感謝の言葉は彼の口からは出てこない。意識してのことだ。余計な真似は不要。勝手にやるから放っておいてくれと本当は言いたいのだが、さすがにそれを口にしない分別が彼にはあった。

「さて、揉め事について話を聞いた。何故だ?」

「私の大切な人を殺した者を放置出来ません。同じようなことが起きることは許されませんから」

 祖父の簡潔な問いに彼は淀みなく答えを返す。この件について聞かれないはずがない。考えていた答えを返しただけだ。

「そうか……そうだな。だが、自ら動く必要はなかった」

 ブラックバーン家を侮る者は許しておけない。そんな愚かな考えを持つ者が二度と出ないように、力を見せつけるべきだ。彼の答えはコンラッドを満足させるものだ。自ら手を汚したという点は別にして。

「私の命令に従う者はおりません」

「当時はそうだったかもしれん。だが、今は違うようだ」

 彼を侮る者もいなくなった。さきほど感じた騎士と使用人たちの緊張感がコンラッドにそれを分からせた。

「……では、もし次があった場合は、考慮いたします」

「それが良いだろう。今晩の夕食は共に出来るかな?」

「お爺様がそれを望まれるのであれば、必ず」

 ここで拒否しても何も得るものはない。失うだけだ。彼は祖父の要求を受け入れた。

「では夕食でまた会おう」

「承知しました」

 その場で優雅に一礼して、彼はまたジュードがいる場所に戻っていった。

「なんとも……化けたな」

 コンラッドの知る彼ではない。外見の変化も大きく、別人だと言われても納得してしまうほどの違いだ。

「父上のお考えは?」

 父であり、当主であるコンラッドが彼についてどう考えるか。それを確かめないと彼の処遇は決められない。わざわざ王都にまで来たからには、コンラッドの意向が全てだ。

「……判断するには早い。だが、悪くはない」

 徳であろうと恐怖であろうと、家臣と領民を支配出来る力が当主には必要だ。彼は王都の使用人たちを怯えさせている。恐怖で彼らを支配する力があるという証だ。コンラッドの評価は、先送りであっても、悪いものではない。

「では、謹慎を解こうと思いますが?」

「良いだろう」

 当主であるコンラッドの許可を得て、彼の謹慎は解かれることになった。当然の結果だ。彼にはまだやることがある。ブラックバーン家の人間として、王国中央学院で、卒業後もやるべきことがあるのだ。

 

 

◆◆◆

 久しぶりに訪れた花街。喧嘩の助っ人ではない。花街の親分に呼び出されたのだ。エモンは、ワ組を壊滅させたことを咎められる、咎められるで済めばまだマシで、危害を加えられるのではないかと考えて、訪問は止めるように忠告したのだが、彼はそれを受け入れることなく、呼び出しに応じた。
 呼び出しから逃げるのは、自分の罪から逃げること。こんな風に言われてしまうとエモンも、それ以上は何も言えなくなる。せめて何かあった時の為にと同行してきた。

「……本当に付いてくる気か?」

 ただ同行してきたのはエモンだけではない。ブラックバーン騎士団の副団長、ジャラッドまで付いてきてしまったのだ。

「レグルス様はまだ謹慎が解けたばかり。完全に自由というわけには参りません。まして向かう先が花街となれば、護衛が必要でしょう」

 彼にとっては迷惑なことだ。ただ花街訪問を許可したことだけで、ブラックバーン家にとっては大幅な譲歩だ。ジャラッドが同行するのは最低限の条件といえる。

「花街には剣は持ち込めないからな」

 花街に武器の類は持ち込めない。そういう規則になっているのだ。大木戸橋の手前にある小屋で武器の類は預けなければならない。花街で遊ぶ者たちは皆、武器の持ち込み禁止を知っているので、武器が預けられることなど滅多にないが。

「剣がなくては何も出来ない私ではないつもりです」

「あっ、そう」

 それはそうだろう。剣でしか戦えないような者が、副団長にまで昇れるはずがない。団の序列は強さが全てではないが、それでも上に立つ者として、敬意を払われるくらいの実力は必要なのだ。
 実際にジャラッドは小屋に剣を預けた。そうしなければ花街に入れないのだから、そうするしかないのだが。

「……あれでしょうか?」

「どうだろう?」

 橋の向こう側から近づいてくる男たち。羽織を着ていることから、花街で働く男衆であることは分かる。

「アオ殿。お迎えにあがりました」

 やってきたのは、やはり迎えだった。

「……確か?」

 しかも彼の見覚えがある人物。リーリエと話をしていた男だった。

「百合太夫、いえ、リーリエさんの家で一度会っています。名乗りはまだでしたね? バンディーと言います」

「やっぱり……」

「親分のところまで案内します。後ろは、お連れ様ですか?」

 彼の斜め後ろに立っているジャラッドに、視線を向けるバンディー。バンディーにとっては想定外の同行者なのだ。

「迷惑ならここに置いていく」

「いえ、アオ殿の連れであれば問題ありません」

「そう、残念」

 連れではないと言っても、それでジャラッドが引き下がるはずがない。彼は無駄な抵抗を諦めた。バンディーの先導で橋を渡る一行。応対は丁寧。危険はないものと思われるが、それで油断する彼らではない。それぞれ、微妙に思いは違っても、警戒を解くことなく後に続いて歩いていく。
 周囲の空気が一変したのは、橋を渡り、花街に入って少し進んだところからだ。事情を知る人たちが、バンディーに案内されている子供が誰かを知って、それぞれの立場で反応を見せている。
 マラカイ家族の死に同情的な気持ちを持つ人たちは、彼に好意的な視線を向ける。逆にワ組に近い立場にいた人たちは、彼に怯え、逃げ出していく。どちらにしても、周囲の喧噪は一気に大きくなった。

「…………」

 その反応に悩んでいるのはジャラッドだ。怯えて逃げ出すのは分かる。彼は花街の組織をひとつ壊滅させた。花街から見れば、かなりの危険人物のはずだ。
 では好意の目は、それもどうやら多数派であるその感情は、何故向けられるのか。ここまでのことはジャラッドが知る情報では分からなかった。

「仇討ちは、花街の人間にとっては正しいことなので」

 理由をジャラッドに教えたのはエモン。彼は花街の人間、というより異国の人間の考え方を少し知っている。彼も先祖を遡れば、その異国の人なのだ。

「……花街以外でも完全な悪ではないな」

 組一つを壊滅、三桁に届く人を殺したのでなければ、アルデバラン王国でも同情は寄せられる。アルデバラン王国人であるジャラッドはそれを知っている。

「こちらです」

 辿り着いたのは、花街では珍しくない建物。親分もまた花街に店を持つ身。そこに案内されたのだ。入口の扉を抜けて、奥に進む。店の中でも、周囲の人たちの視線は好意的なものが圧倒的に多かった。

「花街の仕切り役を務めているシチベニと申します。今日はお呼びだてしてすみません」

 親分は建物の一番奥の部屋で待っていた。

「……もし、その態度が外での俺の立場を意識してのものであれば、無用です。花街の中では花街の習わしに従わなければならない。そう教わっていますし、それが当たり前だと俺は思っています」

 丁寧な親分の態度はどうしてか。ブラックバーン家を意識してのことであれば、それは止めて欲しいと彼は思った。花街の親分がそんなことをしてはいけないと考えた。

「いえ、これは客人として迎えた相手に対しての礼儀。外の世界は関係ありません」

「分かりました。そうだとしても、俺は親分にそんな態度を向けられる身ではありません。まだ成人もしていないガキですから」

「……そう望むなら。だが、頭は下げさせてもらう。すまなかった!」

 彼に向かって、深々と頭を下げる親分。これが親分が彼を呼び出した理由だ。本当は自ら足を運んで謝罪を告げたいと思っていたのだが、ブラックバーン家がそれを許すはずがない。仕方なく呼び出す形になってしまったのだ。

「マラカイとリーリエを儂は守れなかった。大切な二人を殺されたのに、何も出来なかった。これについて、どうしてもお前に謝らなければならないと思って、来てもらった。許してくれとは言わない。本当に申し訳ない」

 何も出来なかった自分を親分は恥じている。花街の親分としての立場を守らなければならなかったからだとしても、何もしなかった自分が許せないでいる。彼に全てを押し付けたことを情けなく感じているのだ。

「……謝罪もまた無用です。家族を殺したのは、外の世界での俺の家です。守れなかったどころか、殺してしまったのは俺なのです。親分に恨まれることはあっても、謝られる理由はありません」

「……アオ……そんなものを背負う必要はない。お前は何も悪くない」

 彼の言葉は親分には想定外のことだった。仇討ちの成功を彼は誇っていると思っていたのだ。だがそうではなかった。彼は家族の死の責任を背負おうとしている。そんな辛い想いをさせるべきではない。親分はそう思い、その思いを口にした。

「何も悪くないなんて嘘です。本当の意味で仇討ちをするなら、俺は自分を殺すべきなのです。でも俺はそれを行うことなく、自分とは違う大勢を殺した。自分の為に多くの人を殺したのです。俺と同じように、家族を殺した俺を憎んでいる人もいるはずです」

 だが彼はそれを受け入れない。受け入れられるものではない。

「アオ……それは違う。そんな考えは間違っているぞ」

 彼が背負ったものは親分が考えている以上のもの。家族の死を、自分が殺した人々とその関係者の恨みを、彼は背負おうとしている。そんなものを子供が背負うべきではない。背負いきれるはずがない。
 親分は何もしなかった自分の罪の重さを思い知ることになった。

「……とにかく、謝罪を受ける資格は俺にはありません。失礼します」

 親分に背を向けて、出口に向かって歩き出す彼。少し躊躇いを見せたがエモンも、ジャラッドも彼に続く。

「……儂は……愚かだ」

 大切な人たちを守り切れなかっただけでなく、生き残った一人に重い罪を背負わせてしまった。人生を狂わせてしまった。親分の心に、悔やんでも悔やみきれない想いが広がっている。

「……バンディー、若いのを何人か連れて、彼を支えてやってくれ」

「それは何の……い、いえ、承知しました」

 彼をどう支えろというのか。バンディーには分からない。だが親分が命じるのであれば、それに従うしかない。意味なくそんな命令を発するはずがないのだ。

「すまないな。花街の未来は、お前に任せたいと儂は本気で思っていた。だが、それは叶わなくなってしまう。これもまた儂の愚かさのせいだ」

「……いえ」

 バンディーに、将来の親分の座を失ったことを残念に思う気持ちはない。自分はそんな器ではないと思っている。今、バンディーの心に浮かんでいる想いは、親分が彼に何を見ているのかということ。それが花街の未来であるとするならば、自分はとても重い責任を背負ったのかもしれない。そんな風に感じていた。

 

 

◆◆◆

 親分の店を出た彼を待っていた人がいた。外から聞こえてくる騒めきが彼にそれを教えてくれた。その人物が誰であるかと同時に。
 通りに立っていたのは桜太夫。太夫道中以外では姿を現すことのない太夫が、通りにいることに客や花街で働く人たちは驚き、騒いでいたのだ。
 だが彼らの驚きはそれでは終わらない。

「アオ殿。この度のこと、この桜太夫、心から感謝しております。ありがとう」

 こう言って、桜太夫が彼に向かって、深く頭を下げたのだ。

「だ、太夫!」

 これにはお付きの男衆も驚きだ。こうして彼に会うために店の外に出てきたことが、すでに異例も異例のこと。さらにまだ成人前の子供に太夫が頭を下げたとなれば、花街トップとしての評判が、かつてのように、地に落ちてしまうかもしれない。

「自分では叶えられない願いを叶えてもらったのです。頭を下げて、何を恥じることがありますか?」

 だが桜太夫はお付きの人々のそんな動揺を、逆にたしなめる。感謝の気持ちを伝えるのに、何を恥じることがあろうかと考えているのだ。
 だが桜太夫の内心の想いは、簡単には他人には伝わらない。多くの人々がまさかの光景を見て、騒めいている。

「お見事!」

「えっ?」「なっ?」

 そんな場の空気を一変させたのは彼の一言だった。何が見事なのか、この時点では、人々には分からない。それを言われた桜太夫も分かっていない。

「さすがは桜太夫ですね? 頭を下げる所作まで美しい。天に向かって伸びる枝も、地に向かって垂れる枝も、そこに咲く桜の花の美しさになんら変わりはない。どちらも人の目を楽しませてくれるものです」

「アオ殿……」

 頭を下げたという事実を讃えてくれる彼。この行いは、桜太夫にある人を思い出させてくれた。

「さて本来であれば、桜太夫に頭を下げさせた男として、それに相応しい大きな男にならなければならないのでしょうが、残念ながら俺には無理です。ですので、せめて死に様は恥じることのないものにしようと思います」

「…………」

 彼が口にしたのは「生き様」ではなく「死に様」。それに桜太夫は影を感じた。彼が背負ったものの重さを感じた。

「では、さらばです」

 感じさせた暗さとは正反対の、明るい笑顔を見せる彼。心に広がった暗い影が、この笑顔に照らされて、消えていく気がした。この笑顔まで失わさせてはいけないと桜太夫は思った。

「……良い背中になりました……ただやはり、少し寂しいですね」

 肩で風切って歩く彼の背中は、以前見た時に比べると大きくなった。憧れの背中に良く似てきた。

「贈り物をしましょう」

「贈り物ですか?」

「ええ。アオ殿の背中を温める光が必要です」

 光と影。彼は相反する二つの性質を持っている。そうではなく強い光があるからこそ、その影はより濃くなるのかもしれない。いずれであっても、彼には光の中を歩いて欲しいと桜太夫は思う。憧れの人が歩むはずだった道を進んで欲しいと。

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