月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

霊魔血戦 第10話 お友達にはなれそうにありません

異世界ファンタジー 霊魔血戦

 自由行動の時間が終わり、夕食の時間。食事の時間もチームでの行動だ。これがサーベラスには理解出来ない。養成所にいる間にどれだけチーム内の関係性を深め、それが戦闘訓練での連携強化に繋がっても、何の意味もない。卒業すればチームはバラバラになるのだ。敵味方に別れて戦うことになるのは、これまではなかったことだとしても、やはり無意味だと思う。それであれば、その時々でチーム編成を変えて、誰が相手でもきちんと連携出来る力を身につけさせたほうが良いと思うのだ。議論するのが面倒なので、一切、口にしないが。

「臭い。汗臭いぞ。食事の時間なのだから、少しは気を使ったらどうだ?」

「…………」

「聞こえないのか、サーベラス? 俺は気を使えと言っているのだ」

 最初の問いを無視されたので、クリフォードははっきりと名を呼んで、サーベラスに文句を言ってきた。

「……あっ、僕のこと?」

「お前以外に誰がいる?」

「……いますけど? 僕よりも匂いがきつい人」

 サーベラスは匂いには気を使っているつもりだ。少なくとも他人が気にするような匂いを発していることはない。

「そんな奴はいない」

「います。君がそう」

「何だと!?」

「それ、香水ですか? 悪い匂いではないですけど、ちょっと香りがきつすぎると思います」

 一方で他人の匂いには敏感だ。これについてはルーの体となっても変わらない。変わっていないことを良かったと思っている。

「……きつくはないだろ?」

 香水をつけていることを認めたクリフォード。だが、「香りがきつい」と言われたことには納得していない。

「僕が敏感過ぎるのかな? 嫌な香りではないので、別に良いです」

「別に良いって……俺がお前の匂いに文句を言っているのだ」

「汗はきちんと洗い流してから来ました。もし本当にこれが気になるようなら屋内訓練場になんて行けないと思います」

 屋内訓練場ではサーベラスが考えていた以上に大勢が、数というより訓練スペースが思っていたほど確保出来なかったという点で、鍛錬を行っていた。皆、かなり熱心に鍛錬を行っており、熱気が、言い方を変えると汗の匂いが、訓練場を満たしていたのだ。あくまもでサーベラスの感覚であるが、クリフォードが洗い流した汗の匂いが気になるというのであれば、その感覚はサーベラス以上ということだ。

「……匂いにも種類がある」

「それってただの相性ですね? 僕と貴方は相性が悪いということです」

「……当たり前だ。相性が良いはずがない」

 出会ってからまだ丸一日も経ってない。それでどうしてここまで嫌悪されるのかサーベラスは不思議だった。仲良くしたいと思っているわけではないが、喧嘩を売ってくる意図が分からなかった。

「クリフォード。いい加減にしたらどうですか? さきほどから聞いていると貴方の態度はあまりに失礼です」

 意図が分からないのは周りも同じ。どう考えても非はクリフォードにある。クラリスは黙っていられなくなった。

「それはリーダーとしての言葉か?」

 早速、リーダー面か。こう文句を言おうと考えたクリフォードであったが。

「人としての言葉です。人が人を不快にさせているのを黙って見ていられるほど、私は他人に無関心ではありません」

「なるほど。自分が不快に思ったから、文句を言ってきたわけか。だが、お前のその言葉で、俺は不快になった。これについてはどうしてくれる?」

「貴方がサーベラスに謝れば良いだけです。誤って、もっと色々と話をすれば良いと思います。お互いに分かり合えれば、二人も仲良くなれるはずです」

 それを誰が望んでいるのだろう。この言葉を口にすることをサーベラスはしない。「そうだよ。きっと分かり合えるよ」と、何の根拠もない彼女の言葉に同調するルーの声が煩くて、これ以上、話をしたくないのだ。

「……何故?」

 だがクリフォードは黙っていなかった。クラリスの説明で、どうして仲良くなるのか分からない。反発しての問いではなく、疑問を素直に声にしただけだ。

「人は分かり合える。そう考えないと人生が辛くなります。私はクリフォード、貴方にそんな人生を歩んで欲しくありません」

「……お前に俺の何が分かる?」

「正直、分かりません。分からないから、分かり合えるように歩み寄りましょうと言っているのです」

 クラリスの言葉に同調する小さな声。うなづきで意思を示している人もいる。マイク、ローランド、サムエルの三人だ。彼らはクラリスの言葉が正しいと考えている。間違っているのはクリフォードだと。

「……クラリスさんは傲慢ですね?」

「えっ?」

 まさかの問いはサーベラスが発したもの。それにクラリスは戸惑っている。クラリスはサーベラスの為に、クリフォードを注意しているつもりなのだ。

「人が本当に分かり合えるなら、僕たちはここにいません。世の中には戦争なんてなく、兵士は必要とされないはずですから」

「……それは……そうかもしれないけど、理想を追わなければ、この世の中は良くならないわ」

「理想を追ったからといって実現するとは限りません。そうすることで傷つく人もいる。それを無視して、自分の考えを押し通そうとするのは傲慢だと僕は思います」

「…………」

 理想を追うのは勝手だ。だがそれを他人にも押し付けるのは間違っている。サーベラスはこう言いたいわけではない。理想を追うことで傷つくのは本人であることもある。そういう人をサーベラスは知っている。理想を捨て、生きていて欲しかったと思う人をサーベラスは知っているのだ。
 ルーの初恋相手であるクラリスに同じようになって欲しくない。だから黙っていられなくなった。だが、サーベラスの意図は周りには、クラリスにも伝わらない。

 

 

「……話を変えよう。というか本題に入ろう」

 サムエルが場の雰囲気を変えようと動いた。

「本題って、何かありましたか?」

 クラリスにとってもありがたいことだ。クラリスはただチームの和を大事にしたいだけだ。クリフォードと喧嘩したいわけでも、サーベラスと意見を戦わせたいわけでも、それが関係を深めるものになるのであれば別だが、ない。

「チーム名と部屋割りを決めなくてはならない」

「ああ、そうでしたね。まずは……チーム名かしら? 何か良い名前はある?」

 チーム名を決めるのであれば、楽しい議論になるに違いない。そう考えたクラリスは、部屋割りよりも先にすることにした。またクジ引きで決めれば、部屋割りなどすぐ終わるが、今の雰囲気のままでは、不満が膨らむだけだと考えた結果だ。

「クリフォードと六人の勇士たち」

「…………」

「何だ?」

 自分を見つめるチームメイトの視線。その意味をクリフォードは読み取ることが出来なかった。

「クリフォード。貴方、冗談も言えるのね?」

「冗談ではない! これは英雄王にちなんだものだ!」

 英雄王と彼と共に戦った四人の勇士は今の五家の始まり。子供向けのおとぎ話にもなっていて、その一つが「英雄王と四人の勇士たち」なのだ。これが分かっていても、冗談にしか聞こえないが。

「冗談にしておくわ。でも、どういう名が良いのかしら?」

「それだったらリストを貰ってきている。過去にあったチーム名と今あるチームのリスト。今あるチーム名は避けて、過去のものを使うという手もある。この方法を選ぶチームは割と多いらしい」

「サムエル。貴方、いつの間に?」

 そのようなリストをいつの間に用意していたのか。ありがたいことだが、その用意周到さにクラリスは驚いている。

「リーダーには副官的な存在が必要だからね。何もかも一人で出来るわけじゃない」

「そうね」

 サムエルの言う通り、何もかも自分で背負っていては、物事は上手く行かない。クラリスもそう思う。初日ですでに苦労しているのだ。訓練が始まったあとの苦労はこんなものではないはずだという思いもある。

「ちょっと待った。副官が必要なのは分かるけど、それがサムエル、君でなくてはならないとは決まっていない」

 割り込んできたのはローランド。

「そうだね。副官の選定も皆で話し合って決める必要があるね」

 さらにマイクもローランドに同調してきた。二人とも自分がクラリスの副官になりたいのだ。サムエルの副官就任を認めないという点では味方だが、副官の座を争うライバルでもある。

「話し会いでどう決める? 立候補者は……」

「俺はしない」

 クリフォードは副官に立候補しない。彼が求めるのはリーダーの座であって、人をサポートする役ではない。

「あっ、そう。えっと」

「僕ですか? 同じく」

 サーベラスもクリフォードと理由は違うが立候補などしない。副官役など時間を取られるだけ。後ろでルーが不満そうな声をあげているが、ここは譲るつもりはない。

「そうなると……」

「私がやるわけないでしょ?」

 ブリジットも候補者にはならない。副官に立候補したのは三人だ。

「……多数決かな?」

 これはサムエルにとって誤算。少なくともクリフォードは立候補すると考えていたのだ。過半数が立候補者となれば多数決ではなく、話し会いで決めるべきと誘導し、結果としてクラリスの希望で決まることになる。幼馴染のどちらか一方だけを選ぶのはクラリスの性格から、可能性は少ない。クリフォードはあり得ない。一番仕事ぶりをアピール出来ている自分になると考えていた。
 多数決となると票の行方は見当もつかない。サーベラスとブリジットの二人が何を考えているか、サムエルにはまったく分からないのだ。

「もし良ければ私に候補者を決めさせてもらえませんか?」

「それはもち……候補者ですか? 副官ではなく?」

 クラリスの意向で決めるのであれば当初計画通りと思ったサムエルだが、彼女は副官ではなく、候補者を決めると言った。言い間違いであって欲しいと思うサムエルであったが。

「はい。候補者です。私はクリフォードか、サーベラスのどちらかに副官をお願いしたいと思います」

「えっ……?」

 決めるのは候補者で、しかもその候補者にサムエルの名はなかった。クラリスが選んだのは、もっともあり得ない二人だった。

「俺は断る。サーベラス、お前がやれ」

「どうして君に決められなくてはいけないのかな?」

 これに関しては、サーベラスは強い態度に出ようとしている。気の優しいルークとしてではなく、口調は変えないが、自分自身として主張を通すつもりだ。

「それが彼女の希望だ」

「彼女の希望は君と僕のいずれか。君は候補者であって、決定者ではない。君に拒否する権利があるのだとすれば、僕にも同じ権利があるはずだ」

 お互いに副官を押し付け合おうとする二人。それを聞いたブリジットが「あらら、嫌われてる」と呟いた。呟いたといってもその声はクラリスにも聞こえるほどのもの。わざと聞こえるように呟いたのだ。

「嫌がられるのは分かっていてのお願いです。それでも私は貴方たちに副官をお願いしたいのです。どうか、私を助けてもらえませんか?」

 その二人にクラリスは深々と頭を下げて、副官を引き受けてくれるように頼んできた。

「……サーベラス」

 そこまでされるとクリフォードもはっきりと断りの言葉を口にするのは躊躇われた。周りの目というものもある。今、この場にいるのは彼らのチームだけではないのだ。ただクリフォードの口からは「引き受ける」という言葉も出てこない。

「副官が一人である必要はないと思いますけど?」

 サーベラスも拒絶は出来ない。ルーがそれを許しそうにない。この先、ずっと文句を言われるのは、考えるだけで、うんざりなのだ。

「……俺が第一副官で、お前が第二副官」

「まったく問題ありません。第一が主で、第二はおまけですね?」

 サーベラスに序列のこだわりなどまったくない。下位であるほうが好都合だ。

「第一が……分かった。順番はなしだ。二人とも副官。これで良いな?」

「良くないですけど、そうするしかないみたいなので」

 結局、副官を引き受けることになった二人。間違いなくやる気などない。ただクラリスに頭を下げさせている状況が気まずいだけだ。サーベラスは、そのせいで、ルーが煩いからという理由のほうが強いが。

「ありがとうございます! 一緒にチームを強くしていきましょう!」

 クラリスは大喜び。二人との関係が良くなれば、ブリジットは微妙なのだが、チーム全体の雰囲気は良くなる。きっと良い関係が作れる。彼女はこう考えているのだ。

「じゃあ、チーム名はクラリスと六人の勇士たちで良いですか?」

 副官になったから、ではなく、食事の時間がかなり長くなっているので、早く終わらせる為にサーベラスは進行を引き継いだ。
 
「それは嫌です」

「じゃあ、目をつむって、この紙に指を置いてください」

「……リストから決めるにしても、ちゃんと見て決めませんか?」

「そうですか……では、気になる名前をあげてください」

 指させば一発で決まるのに。サーベラスはそう考えているが、クラリスに拒否されたのであれば仕方がない。決め方で揉めるくらいなら、好きにさせて、さっさと先に進めたほうが良いと判断した。

「動物の名前が多いですね?」

「考えやすそうですから。好きな動物は何ですか?」

「おい? それでウサギとか言われたら、ウサギにするのか? 弱そうな名は俺は嫌だぞ」

 サーベラスの考えた方法に、今度はクリフォードが文句を言ってきた。ただこれはクリフォードだけの意見ではない。同調する声が続いた。これから強くなろうとしているのだ。弱そうなチーム名など皆、嫌なのだ。

「強い動物だと……狼でしょうか? 熊はちょっと印象が、いえ、私のイメージがどうというのではなくて」

「狼か、悪くない。だが、ただの狼では物足りない」

「そうですね……金狼、銀狼、黒狼……天狼に狼牙なんていうのもありますね? 皆、思いつくことは同じみたいです」

 狼を使ったチーム名は過去にも多く使われている。凝った名を考えても、長い名称は実際に使う時には不便。指導教官にそう言われて、単純なものに改めることになる。自然とこのような名が増えていくのだ。

「人が使った名はなんとなく嫌だな」

「私もそうですけど……造語にします? 狼だとどういう言葉が良いでしょう?」

「狼なら月じゃない? 月に向かって吠える狼」

 サムエルが月を提案してきた。単純な発想だ。

「狼と月……月狼ですか。良いですね。ただ、すでにありそうですけど…………」

 月と狼の組み合わせは他の人も思いつきそうなもの。すでに使われているか、クラリスは調べ始めた。

「……マーナガルムね」

「えっ? なんですか、それは?」

 サーベラスの呟きにニコラスは食いついた。マーナガルムの意味は知らない。ただ、なんとなく響きが気になったのだ。

「……姿は狼だけど、月の犬と呼ばれている。子供の時に読んだ本を思い出した」

「月の犬。犬ですか……でも、強そうですね?」

「そうかな? 僕には分からない」

 思わず呟いてしまった言葉。それが周りが知らない言葉となると、サーベラスとしてはチーム名にして欲しくない。ある場所では通じるはずの言葉なのだ。そのある場所と自分を結び付けられたくなかった。だが、今更、そう思っても手遅れだ。

「私はこれが気に入りました? 皆さんはどうですか?」

「……他に使われていないのであれば、俺は良い」

「いいんじゃない。僕も響きが恰好良いと思う」

 クリフォードが賛成した時点ですでに決まり。ブリジットを除いて、クラリスの意見に反対する者はいないのだ。

「では、私たちのチーム名はマーナガルム=月の犬にします」

 チーム名が決まり、皆、一丸となって強くなる為に頑張っていく。とは簡単にはならない。まだ彼らが出会ってから一日も経っていない。クラリスたち三人を除いて、まだ相手が何者かも知らない。守護兵士養成所がどのような場所かも彼らは分かっていないのだ。

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