月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

黒き狼たちの戦記 第73話 いくつかの謎を残したまま、事は終わろうとしている

異世界ファンタジー 黒き狼たちの戦記

 十人、二十人と増えていく教会騎士。その数にローデリカは一瞬、罠であることを疑った。だがそんなはずはない。聖神心教会がローデリカの存在など知っているはずがない。罠に嵌める理由がない。ではシュバルツに対する罠かとも思ったが、それもすぐに否定することになる。シュバルツがいることを知っているのであれば、ベルクムント王国軍への奇襲など許さなかったはず。聖神心教会がベルクムント王国の弱体化を望むはずがないことは、ローデリカにも分かる。

「……考え事している場合?」

「あっ……ごめんなさい」

 ブランドの声でローデリカは我に返った。彼の言う通り、今は考え事にふけっている場合ではない。そうであるのに思考に囚われてしまったのは、今の状況を受け入れたくなかったからか。

「教会騎士って強いのかな?」

「私も知りません。でも……勝つしかないのです」

 ローデリカの祖国であるベルクムント王国にある教会はどれも小さなものばかりで、教会騎士がいるどころか、神父一人しかいないところばかり。中央諸国連合加盟国内の教会はどこも同じようなものだ。聖神心教会にとって許されざる存在であるアルカナ傭兵団との協力関係にある国々。教会を置くことさえ反対する人々がいるくらいの場所に送られるのは左遷も左遷。気持ちとしては島流しにされるのと同じようなものなのだ。

「始めようか?」

「そうですね」

 時間の経過はどうやら敵の数を増やすだけ。シュバルツが戻ってくる前にローデリカとブランドは戦いを始めることに決めた。こちらがその気にならなくても、相手のほうから攻撃してくる。ならば先手を奪ったほうが良いと考えたのだ。
 二人を囲む教会騎士たちに向かって、水の刃が襲い掛かる。首筋に受けた騎士が血を吹き出しながら、床に倒れていった。

「異能者か!?」

「油断するな!」

 相手が特殊能力保有者だと知って、やや焦りを見せる教会騎士たち。それを見て、罠である可能性は消えた。だからといって事態が著しく好転するわけではない。どちらかというと逆だ。
 間合いを空けていては不利と考えた教会騎士たちが二人に斬りかかってくる。一人を躱しても、また別の騎士の剣が襲い掛かってくる。それを払ってもまた次が。さらに教会騎士が持ち出してきた槍が対応を困難にする。突き出されてくる幾本もの槍。それを躱し、水刃を放つローデリカ。一方でブランドのほうは躱すので精一杯。時折、投げナイフで反撃しているが、数が限られたその攻撃はむやみやたらに繰り出せるものではない。

「これ! ちょっと厳しいね!」

 乱戦は経験したことがある。だが味方二人だけで大勢に囲まれているという状況は、これまでとは訳が違っていた。敵は二人の動きだけを注視していれば良いのだ。乱れているのはブランドたちだけで、敵の攻撃に乱れは起こらない。

「少し間を作れれば!」

「了解! やってみよう!」

「えっ!?」

 躊躇うことなく敵の包囲の輪に突っ込んでいくブランド。その動きはかなりの速さではあるが、接近してしまうと敵の数の多さのせいで、思うように動けない。教会騎士の刃がブランドに襲い掛かる。
 だがブランドの攻撃は止まらない。背中から斬りつけらても構わずに、剣を振り続けている。

「伏せて!」

 ローデリカの声。それに反応して床に伏せたブランドの上を、これまでとは比較にならない巨大な水の刃が通り過ぎていく。次々と床に倒れていく教会騎士たち。

「……耐えた?」

 だが水刃を受けた全員が倒れたわけではない。何事もなかったかのような顔で、立っている教会騎士がいた。

「異能者ごときが。調子に乗るな」

「別に調子に乗っていないよね? どちらかというと調子に乗っているのはあいつのほうじゃない?」

 騎士の言葉を受けて、ブランドがとぼけた問いをローデリカに向けてきた。ブランドの余裕に羨ましさを感じたローデリカ。だが、その思いはすぐに消えることになる。

「……大丈夫なのですか?」

 ブランドの体は血まみれ。返り血ではないことは、斬り裂かれた服が示している。

「まあ、これくらいならなんとか」

「……後ろに下がっていてください」

 ローデリカには「これくらい」などと言える状態には思えない。ブランドには、これ以上の戦いは無理だと考えた。

「平気。もう塞がるから」

「塞がる?」

「……ほら。止まった。ただちょっと血を流し過ぎたかな?」

 腕の傷口をローデリカに向けて突き出すブランド。確かにその傷口はほぼ塞がっていた。

「貴方は……?」

 傷口がこんなに速く、自然に塞がるはずがない。ブランドには常人とは異なる能力がある。ローデリカはこう考えた。

「長々と話している場合じゃないね?」

「……そうですね」

 ローデリカの攻撃を耐えた教会騎士は四人。ほぼ無傷のその四人が前に出て、二人との間合いを詰めてきていた。かなり減ったとはいえ、動ける教会騎士は他にもいる。しかも前に出てきた四人は、どうやら特殊能力が通用しない相手だ。剣の技量はどちらが上か。考えても仕方のないことをローデリカは考えてしまう。

「また考え事?」

「ごめんなさい。特殊能力が通用しなかったので」

「絶対の攻撃なんてないよ。それに……多分、あれは僕も出来るかな?」

「えっ?」

 ブランドも自分の攻撃を受け止めることが出来ると言ってきた。それはつまり、教会騎士がどのように攻撃を止めたか分かっているということだ。

「内気功。多分、内気功を使っている。少なくとも前に出てきた四人は間違いない。けど、他にいないとは言い切れないね」

 ブランドも身につけている内気功。そうであるから使っている気配が分かる。ただ、全員を把握出来ているかは分からない。ブランドを遥かに超える練度を有している相手だと気づけない可能性もあるのだ。

「内気功というのは?」

「簡単に言うと体内の気を高めて、普通以上の力を出す技。シュバルツも身につけているし、君との戦いでも使った」

「……そういうことですか」

 最後の戦いの時、シュバルツの動きはそれまでとは違っていた。それは内気功という特別な技によるもの。それを今ようやくローデリカは知った。

「……慎重に行くなら時間稼ぎしたいところだね?」

「やってみます」

 ローデリカの体から、また水刃が放たれる。だが、やはりそれは内気功を使っている教会騎士には通用しなかった。命中した、と思った瞬間に霧散してしまったのだ。

「ふはははは! どうした!? その程度か!?」

 高笑いする教会騎士。ローデリカを挑発しているのではない。実際に嬉しくて笑っているのだ。特殊能力保有者、教会で言う異能者の攻撃が自分に通用しないという事実を確認出来て喜んでいるのだ。

「……いや、まだこれからだよ」

「何?」

 ブランドの言葉が意味するところ。一瞬それが分からなかった教会騎士たちだが、すぐに理解することになる。床を転がってきた物がそれを教えてくれた。それに続いて一筋に伸びる赤い火。その火に追いつかれた途端に、それは爆発した。
 爆風と共に破片が周囲に飛び散る。建物の中での火薬兵器の爆発。教会騎士たちはそれをまとも受けることになった。

「……これも耐えるか」

 扉の裏に隠れていたシュバルツが姿を見せた。
 爆発をまともに受けて、多くが床に倒れた中、内気功の使い手であろう四人は立ったままだ。さすがに無傷とはいかなかったようだが、戦闘能力を失うほどではないのは、一目見ただけで分かる。

「き、貴様……何者だ!?」

 火薬兵器を使ってきたことに驚いている教会騎士。火薬は教会の秘術。それを利用した武器を持っているのは味方のはず。教会騎士はこう考えているのだ。

「話す必要はない」

「では力づくで聞こう!」

 一瞬でシュバルツとの間合いを詰めてきた騎士。

「……なっ?」

 だが床に崩れ落ちるのは教会騎士のほうだった。待ち構えていたシュバルツの剣をまともに受けることになったのだ。

「今のは俺も出来る。どうせなら別の使い方を見せてくれ」

 内気功で特殊能力の攻撃を防ぐ。そんなことが出来るとシュバルツは思っていなかった。そうなると内気功を使った他の戦い方も知りたくなる。

「貴様……やはり、教会関係者か?」

「……そうだと言ったら?」

 教会騎士の問いは、彼が充分な情報を得ていないことを示している。先のベルクムント王国との戦い、つい先ごろ起きた襲撃事件について詳しく知っていれば、シュバルツがアルカナ傭兵団であることは容易に想像できるはずだ。
 原因は何であろうと、相手の勘違いはシュバルツにとって好都合。話を合わせることにした。

「こんな真似をして、ただで済むと思っているのか?」

「済むからやっている」

「……なるほど」

 シュバルツの答えに納得した様子の教会騎士。この反応はシュバルツにとっては望ましくない。「なるほど」で終わられては、何故、シュバルツを教会関係者だと思ったのか分からない。

「もう良い。何者であろうと逃がすわけにはいかない」

 さらに別の教会騎士が話を打ち切ろうとしてきた。教会関係者であっても殺すことを躊躇わない。そういう事情があることだけは、これで分かった。何の役に立つか、そもそも役立つ情報なのかも分からないが。

「死んでもらおう!」

 残った三人が一斉にシュバルツに襲い掛かってきた。三対一の状況、ではない。シュバルツの側も三人、どころか四人いる。爆発を避ける為に扉の裏に隠れていたブランドとローデリカがこのタイミングで飛び出してきた。
 二人の存在を忘れていた教会騎士にとっては、完全に不意を突かれた形だ。

「ぐあっ……」

 二人に気を取られた隙をシュバルツに突かれた騎士が床に崩れ落ちていく。さらにもう一人がブランドとローデリカに同時に襲い掛かられ、攻撃を避けることが出来ずに倒れていく。

「ひ、卑怯な……」

「これ卑怯なのか? それは悪かった。俺たちはこんな戦い方しか知らなくて」

 弱者であった、本人たちは弱者だと思っていたシュバルツたちは、勝つためには手段を選ばなかった。争いの場で相手の不意を突くことなど当たり前。だまし討ちであっても罪悪感を覚えることなどない。

「……貴様……何者だ?」

 自分と同じ教会騎士の戦い方ではない。ようやくそれに気が付いたが、だからといって何も変わらない。

「話すつもりはないと、さっき言ったけど?」

「ふざけるな!」

 力いっぱい振り下ろされた剣。それをシュバルツは自分の剣で受け止める。金属がぶつかり合う音が響く。

「……なるほど。ナイフの刃を当てただけでも防ぐことは無理か。まあ、この程度でないと倒すの面倒だから良かったのか」

 ゆっくりと床に崩れ落ちていく教会騎士に視線を向けながら呟くシュバルツ。倒れていく教会騎士の背後にはスヴェンが立っていた。

「同じものなのか?」

 教会騎士は内気功らしきものを使っていた。それにスヴェンも疑問を持っている。

「さあ? 同じかもしれないし、違うかもしれない。剣術の流派がいくつもあるように、内気功に別の教えがあってもおかしくない」

「……そうだな」

 答えを持っているとすれば、自分たちに内気功を教えてくれた爺、シュバルツの育ての親であるギルベアト。だが死んでしまった人と話す術は誰も持っていない。

「とりあえず撤収しよう。もっと強いのが大勢いたら面倒だ」

 教会に忍び込んだ目的は捕らわれている孤児を助けること。教会と戦うことではない。監禁されていた孤児たちが次々と扉の奥から出てくる。その彼らと一緒に、シュバルツたちは教会を脱出した。
 だが、誰にも知られることなく、というわけにはいかなかった。

「……逃がして良いのか?」

 去っていくシュバルツたちの背中を見つめながら、一人が問いを発した。

「司教様から今はまだ動くなと言われている。存在を知られると支障が出るからな」

「全員殺してしまえば良いだけだ」

「司教様の命令に逆らうのか?」

 鋭い視線を相手に向ける男。殺気を感じさせる冷たい視線だ。

「逆らうつもりはない。じゃあ……もう寝るか?」

「ああ。もう就寝時間を過ぎている」

「真面目……」

 嫌味のつもりで発した言葉に、まともに答えられて呆れた様子のもう一人。いつものことだ。相手が教会の規則に、異常なくらいに忠実なのは知っている。冗談が通じないことも。二人は幼い頃からの付き合いなのだから。

 

 

◆◆◆

 シュバルツたちが教会襲撃を実行する少し前。ベルクムント王国軍襲撃の少し後。カーロはズィークフリート王子と共にグローセンハング王国の王都にある宿屋にいた。黒狼団の案内、ズィークフリート王子は拉致されたと思っているが、によって、この場に辿り着いたのだ。

「……身の危険はありません」

「私の立場でそれを信じられると? 君の言葉だからと思いたいが、今はそんな気持ちにはなれない」

 カーロは自分を拉致した者たちの仲間。何も知らなかった時のような信頼は向けられない。

「……彼らは私の幼馴染です」

 信頼を取り戻すにはシュバルツとの関係を話すしかない。実際に信頼が戻るか分からないが、話をすると約束していたのだ。

「幼馴染? つまり、彼らは王国の民なのか?」

「王国で、王都で暮らしていました。ただ、王国の民としての忠誠心には期待しないでください。彼らにはベルクムント王国民という自覚はありません。私もそうでした」

「君は……ただの平民ではなかった?」

 一般庶民であってもベルクムント王国民だという自覚くらいはある。それがなかったということはカーロは普通の平民ではなかったということだ。

「王都貧民街の出身です。親は顔も知りません」

「……なるほど。そういうことか」

 元は貧民街の孤児。内心ではかなり驚いているのだが、ズィークフリート王子はそれを表に出さない。貧民街の孤児であっても自国の民であることに変わりはない。孤児であったことを蔑むような気持ちをを抑え込む自制心もある。

「同じような境遇の子供たちが集まって、集団を作りました。その中心にいたのがシュバルツです」

 ズィークフリート王子に向かって「犯罪集団を作りました」とは、さすがに言いにくい。

「その彼がどうしてアルカナ傭兵団に?」

 「犯罪」という言葉を省かれていてもどういう集団であるかくらいはズィークフリート王子にも分かる。だが気になるのは、そんなことよりも何故、ベルクムント王国の王都にいたシュバルツがアルカナ傭兵団の一員になっているのかということだ。

「攫われました」

「えっ?」

「とんでもなく強い奴らが来て、シュバルツの親代わりだった老人を殺し、彼を連れ去っていきました。その奴らがアルカナ傭兵団だったようです」

「攫われて……ああ、彼は異能者か」

 アルカナ傭兵団は特殊能力者の集団。特殊能力を保有しているシュバルツであれば傭兵団に入れられるのは当然のことだ。

「強制的に傭兵団の一員にされました。ただ、本人もすぐに逃げるつもりはなく、今に至っています」

 実際にはシュバルツが攫われたのは特殊能力保有者だったからではなく、ノートメアシュトラーセ王国の前国王の息子であったから。ただ、全てを話すと約束したとはいえ、必要以上の情報を与えるつもりはカーロにはない。

「逃げるつもりはあるということかな?」

 シュバルツは嫌々、アルカナ傭兵団にいる。そういう傭兵もいるという事実は、ズィークフリート王子の興味を引くものだった。

「復讐の為に残っていると聞きました。ただ、すぐには果たせそうにないとも聞いております」

「復讐……育ての親を殺されたことに対する復讐だね?」

 復讐を企てる動機はある。育ての親が殺されたという話が事実であればだが。

「はい。ただ相手はかなり強いようで、シュバルツも今は歯が立たない。傭兵団で鍛えて、機会を伺うことに決めたのです」

「復讐の為に残ったにしては、かなりの活躍だね?」

 ズィークフリート王子が怪しんでいるのはこの点。アルカナ傭兵団の愚者はベルクムント王国軍大敗の最大の要因。復讐相手であるアルカナ傭兵団の為に、そんな働きを見せるはずがないと考えている。

「私の想像ですが、本人はただ自分を鍛えているだけのつもりなのでしょう。国同士の争いごとなど彼らにとってはどうでも良いことですから」

「どうでも……」

 その、彼らがどうでも良いと考えている戦いで、多くの騎士や兵士が亡くなった。ズィークフリート王子としては、納得できない思いだ。

「自分たちの集団以外は、何かに所属しているという意識がないのです。どこであろうと自分たちの居場所があれば良い。とにかく安心して暮らせる場所を作ることが、我々の目的でしたから」

 戦争でどちらが勝とうがどうでも良い。黒狼団の仲間が無事であれば。シュバルツたちの考えの根本は、カーロが説明している通りだ。

「……孤児が安心して暮らせる場所か……王国はそれを用意してあげていないのだね?」

「それは……はい」

「君はどうして養子に?」

 孤児たちの集団には目的がある。仲間であるカーロもその目的の為に動いているはずだとズィークフリート王子は考えた。

「……仲間の多くが王都を離れました。シュバルツのいる場所こそが集団の活動拠点。そんな考えからです。ですが私は……同行することを許してもらえなかった」

「何故?」

「力不足だからです。敵地にいるシュバルツと共に行動するとなると、王都以上に危険な目に遭う可能性が高い。その危険から身を守る術を持たない私たちは、王都に残って本拠地を守ることになりました。でも……その託された仕事も私たちは出来ませんでした」

 シュバルツたちがいなくなった途端に、裏切り者が出て、貧民街は焼かれた。それは自分たちの力のなさが招いたこと。カーロたちはそう受け取ったのだ。

「それで?」

「それぞれ、もっと力をつけようと誓いました。私が選んだのは表の世界での権力を手に入れること。貴族に仕えることにしたのはそれが理由です」

「……ああ、そうか。養子は君の意思ではなかったね?」

 カーロが養子になったのは、国の英雄として祭り上げられ、カロリーネ王女との距離が近い彼を利用しようと考えたヴァルツァー伯爵の意思。カーロ自身が動いた結果ではない。

「養子になったのは想定外です。私たちの目的は、いつか彼らが戻ってきた時に、以前よりもずっと強い集団でいられるような力を手に入れる為。貴族そのものになってしまっては、貧民街で暮らせません」

「さすがに貧民街を領地としては与えられないね」

 貴族家の養子になったというのに、カーロはまた貧民街に戻ろうと考えている。それを聞いたズィークフリート王子の心が少しほぐれた。冗談を言えるくらいに。

「シュバルツは今も私を仲間と認めてくれていました。彼は仲間を裏切りません。命を賭けてでも、これは断言できます」

「……どうして、彼」

 どうしてそこまでシュバルツのことを信じられるのか。カーロの言葉は信じたい。ただカーロも騙されている可能性がある。だが、この問いを発することがズィークフリート王子は出来なかった。扉を叩く音がその邪魔をした。

「……夜営地に戻りましょう」

 扉を叩く音は、もう軍に戻って良いという合図。カーロはそれを知らされていた。

「なるほど。君の言葉は真実だったということだね?」

 どうやら本当に解放される。カーロの言葉は真実だった。それがズィークフリート王子は嬉しかった。まだまだ聞きたいことはあるが、またカーロを信頼することが出来そうだと分かったのだ。
 じっくりと時間をかけて話を聞き、カーロを、その仲間たちを知れば良い。少なくとも、こう思えるようになった。