月の文庫ブログ

月野文人です。異世界物のファンタジー小説を書いています。このブログは自分がこれまで書き散らかしたまま眠らせていた作品、まったく一から始める作品など、とにかくあまり考えずに気の向くままに投稿するブログです。気に入った作品を見つけてもらえると嬉しいです。 掲載小説の一覧(第一話)はリンクの「掲載小説一覧」をクリックして下さい。よろしくお願いします。 

古龍の加護 第2話 愛される人

異世界ファンタジー 古龍の加護

 東の空が白く輝き始めた。まだ朝もかなり早い時間だが、建物の中ではすでに全員が起きて身支度を整えている。唯一まだ寝惚け眼なのはティファニー王女だ。昨日の夜はたった一つのベッドを譲ってもらって、そこで寝たティファニー王女。久しぶりにベッドの上で寝ることが出来て、逆に疲れが出てしまったようだ。目的地に辿り着いたことで緊張が少しほぐれたのも影響しているのだろう。

「もう少し休まれてはいかがですか?」

 そんなティファニー王女にクロードが、まだ寝ているように勧めてくる。

「……平気。朝寝坊の習慣がついたらいけないから」

「そんなことにはなりませんから」

 一日くらい早起きしなくても、そんな習慣はつかない。ティファニー王女は自分たちを気にして、そう言っているのだとクロードは考えた。

「外に出れば、すぐに目は覚めます」

「おい、ディーノ」

 ティファニー王女に無理をさせようとするディーノに文句を言おうとしたクロードだが。

「行くところがある。時間はあまりない。今日が無理ならまた明日にするけど、それで良いのか?」

「……どこに行くというのだ?」

 「良いのか」と聞かれても、どこに行くつもりか分からなければクロードは判断出来ない。

「移動の足を手に入れる……といっても手に入るとは限らないけど」

「馬か?」

「そんな感じだ」

「そんな感じ?」

 馬であれば馬だと言えばいい。つまり、馬ではないということだ。

「行くのか、行かないのか? 行かないのであれば俺は別のことをする」

「行きます」

「ティファニー様……」

 返事をしたのはティファニー王女だった。自分のせいで予定が狂うことを悪いと思っているのだ。そんなティファニー王女にもう一度、無理する必要はないと、クロードは伝えようとしたのだが。

「じゃあ、支度を」

 その前にディーノが、出発の準備をするようにティファニー王女に告げてしまった。それを聞いて、急いで外出の支度をするティファニー王女。城にいた時とは違って時間などかからない。寒さを凌ぐ為に服を着込むくらいだ。
 ティファニー王女の準備が整ったところで、建物の外に出る一行。ディーノが言った通り、一発で目が覚める寒さだった。

「こっちだ」

 建物の裏に回るディーノ。その先には細い道、といっても整備されたものではないが、があった。その道をディーノの後について進むティファニー王女たち。道は軽い下り坂となっていた。

「ディーノ。どこに行くのだ?」

「ここを下ると川がある。そこだ」

「そこに何がある?」

「行けば分かる」

 ディーノのクロードに対する態度は、そっけないまま。それに文句を言おうと他の護衛騎士が口を開きかけたが、それはクロードによって制された。

「これまでのことを説明しておきたいのだが?」

「必要ない」

「必要ないことはないだろ? これからのことを考えるのに必要だ」

「俺の役目はディアーナの娘を守ること。それだけだ」

「……そう言うと思った」

 ディーノの答えはクロードには予想がついていた。ディーノはディアーナに頼まれた最低限のことしか行わないつもりだ。だが、それではクロードは困るのだ。

「王都を落とされたとはいえ、それでサルタナ王国が滅びたわけではない。この先の反攻に向けて、力を結集させなくてはならない」

 ディーノに不要と言われても、それで黙るわけにはいかない。クロードは勝手に話を始めることにした。

「それがどうした?」

「ティファニー様の役目は北部の貴族をまとめること。その為には当然、北部に向かわなければならない」

「……彼女は未成年。しかも女の子だ」

 クロードの説明を聞いたディーノの表情に険しさが増す。ティファニー王女に戦いの旗印になることなど出来はしない。そうディーノは考えている。

「王家の人間だ。ティファニー様だけではなく、王太子殿下も、他の王族の方々も反攻に向けて動いているのだ」

「……なんだ、王太子は生きているのか。てっきり帝国に殺されたと思っていたのに。残念だな」

 ディーノの発言を聞いた騎士たちが一斉に剣に手をかけた。王太子に対して許されざる暴言。即座に斬り捨てられても、おかしくない発言なのだ。

「ディーノ……それは問題発言だぞ」

 クロードもさすがに聞き流すわけにはいかず、発言を注意した。それでも口頭注意だけ。かなり甘い対応ではある。

「国の為に犠牲を強いる。また同じことをしようとしている」

「もう止めろ! ティファニー様も聞いているのだぞ!」

「…………」

 ティファニー王女の名を出したところで、ディーノは黙り込んだ。ティファニー王女にとっては少し残念なことだ。ディーノが何を言いたかったのか分からないままで終わってしまうことになる。

「我々はティファニー様を北部にお連れしなければならない」

「北に向かって歩いて行けば、いずれ着く」

「真面目に聞いてくれ! カストール帝国の追っ手がいるのだ!」

 ただ北へ向かうだけではない。カストール帝国の追っ手に捕まることなく、目的地に辿り着かなければならないのだ。

「……お前、何を隠している?」

 逃亡中の王族に追っ手が掛かるのは当たり前。それを殊更、大事のように言うクロードに、ディーノは怪しいものを感じた。

「何も隠していない。お前が聞こうとしないだけだ」

「……じゃあ、話せ」

「我が国に侵攻してきたカストール帝国軍を率いているのは第三王子であるアドリアン。そのアドリアンがティファニー様を妻にしようと狙っている」

「ロリコンか?」

「笑えない冗談だな。そうではない。ティファニー様と結婚することでサルタナ王国の王権を手に入れようとしているのだ」

「……何故そんなことを必要とする?」

 カストール帝国は隣国に次々と侵攻し、その領土を広げてきた。サルタナ王国もその中の一つだ。そうであるのに、どうしてサルタナ王国でだけ政略結婚を求めるのかがディーノには分からない。

「内部の勢力争いだろうと考えられている。もう大陸を制覇したつもりでいるのではないか?」

 カストール帝国の目的は大陸にある全ての国の制覇。それが成功すれば広大な領土となる。それを誰がどのような形で治めるのか。帝国内ではすでにその駆け引きが始まっているのだとクロードは考えている。

「よく敵の内部事情なんて知っているな?」

「これくらいの情報網はある」

「そうであるのに王都をあっさりと落とされた。情けない話だ」

 カストール帝国が攻めてくることはずっと前から分かっていた。それこそ十年以上前からだ。そうであるのに、いきなり王都を落とされたのには訳がある。その訳をクロードはディーノに話そうとは思わなかった。

「……とにかくティファニー様はカストール帝国に執拗に追われている。なんとかその追っ手に見つからずに、北部まで辿り着きたい」

「もう見つかっている」

 すでに昨日襲われている。この森にいることはカストール帝国には知られているのだ。

「だったら追っ手を振り切りたいに変える」

「そう思うなら、黙って言うとおりにしろ。振り切るには足が必要だ。その足を手に入れようとしているのだ。ただ問題は……ほら、到着だ」

 

 木々が途切れて目の前に流れる川が見えてきた。そして見えたのは川だけではない。

「こ、これは……危険ではないのか?」

 川のほとりには沢山の獣がいる。クロードが見るかぎり、とても凶暴であるはずの獣の姿もあった。

「危険か危険じゃないかと聞かれれば、危険だ。でもそれくらいじゃないと長旅は出来ない」

 ディーノは集まっている獣のどれかを馬代わりにしようとしている。馬よりもずっと速く長く走れるのが理由だ。

「……あれのどれかに乗るのか?」

「それ、聞く必要あるか?」

 そうであるに決まっている。だからここまで、それも獣が集まる時間を選んで来たのだ。

「……逃げないのだな?」

 ディーノたちが川に近づいても獣たちは逃げようとしない。これはクロードには意外だった。

「川は共有の場所だ。獣にも獣のルールがあるってことだ」

「……人に慣れているわけではないのか……当たり前だな。あれは人に懐くのか?」

 人に対する警戒心がないのであれば。クロードのこの期待はわずかな時間で消え去った。普通、野生の獣が簡単に人になつくはずがないのだ。

「人による。だから手に入るかどうかは分からないと俺は言った」

「それではティファニー様が……ティファニー様?」

 野生の獣を移動の足にするというディーノの説明に驚いていて、ティファニー王女から目を離してしまったクロード。その間にティファニー王女は他の騎士とともに、少し離れたところに移動していた。移動した目的は動物の子供。子馬のような姿をしているが、子馬にしても小さい、そして毛むくじゃらな可愛い動物だ。

「そいつから離れろ!!」

 だがその動物はディーノが焦るくらいに危険な相手。子供が危険なのではない。その親が危険なのだ。
 周囲に響いたのは馬のいななき。だがそう聞こえるだけで声の主は、馬とよく似た姿をしているが馬ではない。それが明らかなのは額から伸びた一本の角。一角獣と呼ばれる獣だ。

「早く逃げて!」

 子供が人間に害されようとしている。そう思った親の一角獣はもの凄い勢いで、その黒い巨体を駆けさせて、ティファニー王女に向かっていく。それに驚きながらもティファニー王女を守ろうと剣を抜く騎士たち。

「ちっ!」

 それを見てディーノは舌打ちをしながら、ティファニー王女のいる場所に駆けていく。騎士たちの行動は相手を刺激するだけと分かっているのだ。
 案の定、騎士たちはもの凄い勢いで突進してきた一角獣を止めることなど出来ず、その角で弾き飛ばされていく。

「逃げろというのが分からないのか!?」

 ディーノが懸命に叫ぶがティファニー王女は一向に逃げようとしない。

「ナイトメア! 彼女は敵じゃない!」

 次にディーノが叫んだ相手は一角獣。ディーノは目の前で暴れている一角獣を知っているのだ。

「逃げ……はっ?」

 さらにティファニー王女に向かって叫ぼうとしたディーノだが、それは途中で止まった。叫ぶ必要がなくなったのだ。

「く、くすぐったいよ。だめ。もう、やめて」

 一角獣に顔を舐められて嫌がっているティファニー王女。襲われている、のかもしれないが、危険な雰囲気は全くない。

「……ナイトメア。その子、美味しいのか?」

「えっ……」

「冗談です。一角獣に食人の習慣は……多分ありません」

 そもそも、この辺りにはディーノくらいしか人はいない。一角獣が人を食べるとしてもそれを確かめることは出来ない。

「多分って……」

「その状況から食べられることはありませんから。でもどうして?」

 ナイトメアはかなり興奮していた。それがどうして一瞬で収まり、しかも親しみを感じさせる行動を取ったのかがディーノには分からない。

「この子、足を怪我しているの」

「もしかしてその治療をしようと?」

「そう」

「……そうだとしても、今回は運が良かっただけです。獣の子供には近づかないように。親は子供に危害が加えられると思って怒り狂いますから。そもそもそれくらいの怪我は放っておいても治ります。だから親は側を離れていられるのです」

 子供の治療をしていたのだとしても、それに親が気付き、すぐに攻撃を止めたのは奇跡に近い。ディーノの言葉に反応し、興奮が少しは収まっていたおかげもあるのだろう。とにかく野生の獣の子供に、安易に近づいては駄目なのだ。

「でも……この子が……」

「もしかして、こいつから近づいてきた?」

 ティファニー王女が近づいたのではなく、一角獣の子供のほうから近づいてきた。そんなことがあり得るのかとディーノは思う。

「そう」

「……そうだとしても気をつけてください。親にはどちらから近づいたかなんて関係ありません」

「……ごめんなさい」

「しかし……」

 謝罪を口にしたティファニー王女。そのティファニー王女を慰めているかのように、今度はナイトメアの子供がティファニー王女の足元を舐めている。ここまで野生の一角獣に懐かれる理由が、ディーノには見当もつかない。

「まあ、いい。でも乗るには小さいか。そこまで懐かれているのに勿体ないな」

 一角獣を騎獣に出来るかは運。相性ともいえる。ディーノも一角獣のナイトメアには懐かれている。ただそれは戦いに勝利した結果だ。そうではなく、出会っていきなり懐かれるなど普通の関係ではない。

「この子に乗るの?」

「ええ、それを考えています。一角獣は馬よりも遙かに速く、長く走れます。それに戦闘力もある。ただ、そいつはまだ子供ですから」

「無理?」

「乗りたいのですか?」

「……うん」

 我が儘かと思い、少し躊躇いを見せたティファニー王女だが、結局は肯定を返した。一角獣がティファニー王女を気に入ったように、ティファニー王女も相手を気に入っていた。いきなり好かれたのだ。嬉しくもなる。

「……すぐに大きくなるか。それまでは俺と一緒にナイトメアに乗ることにしましょう。ナイトメアも許してくれるでしょう」

 今はまだ小さくても、すぐに成長して小柄なティファニー王女くらいであれば乗せられるようになる。ディーノはそう考えて、ナイトメアの子供をティファニー王女の騎獣に選ぶことにした。選ぶのはディーノではなく、一角獣のほうだが。

「名前はどうしますか?」

「名前……」

「父親はナイトメア。子供もきっと成長して体毛が落ちれば、黒くなると思います」

「じゃあ……ムーン」

 月は黒いわけではないが、父親の名から連想して頭に浮かんだのがこれだった。

「そうですか……良いと思います。では、こいつはムーン。仲良くして下さい」

「うん!」

 無事にティファニー王女の移動の足も、実際に乗れるには少し先になるが、手に入った。これで用事は終わり、とはいかない。

「ディーノ。我々はどうするのだ?」

 クロードたちの騎獣はまだ手に入っていないのだ。

「……懐かれるのを待て」

「懐かれるのか?」

「無理だろうな。お前らはナイトメアに剣を向けた。それは他の一角獣にも見られている」

 騎士たちは敵。新参者であった彼等は、この一件で明確に排除すべき敵だと認識されたはず。彼らが今、何事もなくいられるのはディーノと、恐らくはティファニー王女が側にいるからだ。

「……では俺たちの移動はどうするのだ?」

「もう一つ方法がある。俺はそれでナイトメアに認めてもらった」

「だったら早く言え」

「騎獣にしたい一角獣と戦えばいい。当たり前だけど傷つけるなよ。それでは相手を怒らせるだけだ。正々堂々と力と力の勝負を行って、勝てばいい」

「……ちなみに勝つとは?」

 戦いにおいて相手に傷をつけないで勝つ。人と人との立ち合いであれば、まだ分かるが、野生の獣相手の場合、それがどのような形になるのかクロードには分からなかった。

「こいつは倒せないと相手に諦めさせること。力を認めさせると言ったほうが分かりやすいか」

「……どうなれば認めてもらえる?」

「それは俺には分からない。疲れたら? 多分、そうだろうな」

「……ちなみに一角獣はどれくらい戦えば疲れる?」

 望む答えがなかなか返ってこなくて、何度も質問する自分のほうが疲れる。そんな思いを胸に秘めたまま、クロードはディーノへの質問を続けた。 

「……二日?」

「他の方法を教えろ」

「どうして? お前らは戦うのが仕事だろ?」

「お前……普通の人間が一角獣相手に二日も! それも相手を傷つけずに戦えるはずがないだろ!?」

「えっ? 弱っ。お前、それでも近衛騎士か?」

「悪かったな! これでも近衛騎士だ!」

 完全に我慢の限界を通り越して、ディーノの言葉にいちいち大声をあげるクロード。そんなクロードの耳に笑い声が届いた。

「ティファニー様……」

 ティファニー王女が楽しそうに笑っているのだ。

「クロードのそういうの初めて見た。二人は仲良いのね? とても楽しそう」

「楽しいわけが……!」

 ティファニー王女の勘違いを正そうとしたクロードだったが、最後まで言い切ることなく、ハッとした表情で止まってしまった。

「……どうしたの?」

 それにティファニー王女は戸惑っている。どうしてクロードがそんな反応を見せるか分からないのだ。

「……昔のことを思い出しました。ティファニー様のお母上にも同じことを言われたなと」

「母上に?」

「ええ。ディーノの挑発に乗って声を荒らげる私を楽しそうに見て……」

 昔話を話そうとしたクロード。そしてまた何かに気付いて口を閉じた。

「……あの、ディーノさんとクロードはどういう関係なのですか?」

 クロードとディーノの年の差はかなりあるように見える。だが二人の会話はそれを感じさせないものだ。まして、そこに自分の母親が絡むとなると最低でも十年以上前のこととなる。その頃のディーノとクロードの関係はティファニー王女には全く想像出来ない。

「ディーノと私は昔なじみです。まだディアーナ様が生きていらした時からの古い付き合いでして」

「そう……」

 クロードの答えでは、二人の年の差を超えた関係の説明にはならない。だがそういう答えを返すというのは、クロードにとって話せないことなのだとティファニー王女は理解した。

「話はそこまでだ。思ったよりも早く次の客が到着した」

 さらにディーノが割って入ってきたことでその話題は終わり。

「次の客?」

「そちらの仲間ならいいけど……きっと違うだろうな」

 ディーノの視線は空を向いている。新たな客は空から現れたのだ。

「……竜飛士……しまった。もう次が来たのか?」

 現れたのは昨日襲ってきたのと同じ竜飛士。しかも昨日よりも一匹多い三匹だ。思いの外、早い襲撃にクロードは焦っている。

「あれも敵と……じゃあ、怪我させても問題ないな」

 動揺しているクロードとは異なり、ディーノは余裕の表情。全く恐れている様子はない。

「どうするつもりだ?」

「どうするって……どうするのだろうな?」

 答えにならない返事をして、ディーノは前に進んでいく。その時にはカストール帝国の龍飛士はディーノたちのいる場所に向かって、翼竜を滑空させていた。

「弓は!?」

 空を飛ぶ相手であれば飛び道具を使うしかない。この場合は弓矢での攻撃なのだが。

「も、申し訳ございません! 置いてきました!」

 騎士たちは弓矢をディーノの家に置いてきてしまっていた。クロードも文句は言えない。自分の弓矢も手元にはないのだ。そうであれば翼竜の爪に襲われるのを覚悟で、剣で立ち向かうしかない、はずだったのだが。

『うっ、うわぁああああっ!!』

 空から聞こえてきた叫び声。大きくバランスを崩した翼竜から龍飛士が落ちようとしていた。それも一人ではない。全ての翼竜が暴れているような変則的な動きで、その動きに付いていけない龍飛士たちが振り落とされている。

「……まただ」

 幸運が二度続いた。そんなことがあり得るはずがない。何か理由があるのだ。間違いなくディーノに。それは何なのか。

「トドメを刺さなくていいのか?」

「あ、ああ」

 その思考はディーノによって止められた。翼竜から振り落とされただけであれば、確実に死ぬとは限らない。かなり低い位置まで降りてきていたので、怪我で終わる敵がほとんどだ。そうであればディーノの言うとおり、トドメを刺さなければならない。
 クロードと騎士たちは、敵が落下した場所に向かって駆け出した。